【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
上 下
66 / 247
第2章《修行》編

第64話 初めてのメンバー

しおりを挟む
 笑いながらレインさんは私に色々服や小物を合わせていく。

「分からないことは誰にでも何でも聞けば良いのよ。知らないということは別に恥ずかしいことじゃない。そうやって知ろうと努力している子のほうが応援したくなるってもんよ。そういう子たちは皆から好かれるし助けてもらえるわよー」

 ウインクしながらレインさんは言う。

「あの子たちはそれを分かってるのか元々の性格なのか、周りの大人に可愛がられていると思うわ。まあ大人が上手く使われてるだけかもしれないけどねー。アハハ」

 釣られて一緒に笑ってしまった。

「だからルーサちゃんも色々周りの人たちを上手く使いなさい? あら、これは言い方が悪いかしら。フフ。頼ることも知らないことを聞くことも、貴女の損になることはないから! 困ったことや不安なことも口に出しちゃいなさい! 若い間にガンガン周りに頼っちゃうのよ! 大人になれば嫌でも今度は頼られる側になっちゃうんだから!」

 そう言って思い切り背中を『バシーンッ!』と叩かれ前のめりになった。い、痛い。

「フフ、そうですね。ありがとうございます。レインさんも相談に乗ってくださいね」

「当ったり前よー!」

 むぎゅうとまたしても抱き締められた……も、もう少し力を……。


 不安に思っていることを見透かされたのかと思った。さすがレインさんというかなんというか、人のことをよく見てるんだなぁ、と感心した。修行が終わることへの不安を少しでも軽くしてもらえたような温かい気持ちになる。

 うん、私は独りじゃない。周りにはたくさんの頼れる人たちがいるんだしね。これから独り立ちしたにしても、全てを自分一人の責任で考えるのは私にはまだ重い。それを正直に話して一緒に考えてもらえば良いのか。
 うん、大丈夫。私はきっと大丈夫。少し心が軽くなった。


 レインさんが色々と見立ててくれたものを、説明を受けながら購入していく。今回用意されたものは、服や鞄は暑さや砂風に対する耐久性が高いものを。靴はロングブーツで砂が入り込まないよう、密着度が高いものを。暑さや蒸れ対策に魔石を付与されている。リラーナと二人で開発したような不完全なものじゃなく、ちゃんと商品化されているものね。
 さらに陽射しや砂から身を守るためのマント。耐久性に優れていて、さらには通気性も良く涼しいという優れものだ。

 結構なお値段になったが、今後も使うことになるだろうから必要経費だ。

「気を付けていってらっしゃい!」
「ありがとうございます!」

 レインさんにお礼を言いつつ店を後にする。



 そして翌朝、全ての準備を整えダラスさんとリラーナに挨拶をする。

「ルーサ、気を付けてね……」
「うん、ありがとう、行ってくるね」

 リラーナは終始心配そうだ。ダラスさんは少し心配そうな顔はしているが、もう見守ると決めたような顔だった。

「気を付けて行け」
「はい!」

 そして二人に手を振り出発した。


 ディノとイーザンさんとは王都から出る乗合馬車の乗り場で待ち合わせをしている。店を出ると大通りを横断し反対側へと渡る。そのまま少し大通りを歩いて行くと、乗合馬車の乗り場がある。すでに乗合馬車は停車していて、その前に二人の姿が見えた。

「おーい、ルーサ!」

 一人が手を振り私の名を呼んだ。ディノだ。同様に手を振り返し駆け寄る。

「おはよう!」
「おう、おはよ。準備万端か?」

 朝から元気なディノと笑いながら挨拶を交わす。そしてその横にはスラリと背が高く綺麗な顔をした男性がいた。明るい青色の瞳に、深緑色の長髪を一つ括りで肩に垂らし、魔導師とはあまり思えないような服装の男性だった。どちらかと言えばディノの服装に近いような? 剣士と言っても違和感はないかもしれない。ローブではなくマントを羽織り、杖ではなく剣を腰から下げている。

「おはよう、私はイーザン。三日間よろしく」
「あ、はい、イーザンさん、こちらこそよろしくお願いします! ルーサです!」
「イーザンで良い。言葉も普通に話せ。私もルーサと呼ばせてもらう」
「は、はい」

「アハハ、そんな緊張すんな。イーザンはまあちょっと癖はあるが良い奴だ」
「おい、どういう意味だ」
「えー、そのままの意味だ。アハハ」

 ディノが笑いながら言った言葉にイーザンは眉間に皺を寄せて睨むと「チッ」と舌打ちをした。えぇ、な、なんか怖い人なのかしら……ど、どうしよう、大丈夫かしら……。

「えーっと今日はランバナスまで行くんだよな?」
「うん」

 ランバナス、砂漠が広がる土地に出来た街だ。

しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...