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第2章《修行》編
第63話 近付く修行の終わり
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「大丈夫か?」
ダラスさんは若干心配そう。うん、分かる。私がダラスさんの立場でも絶対心配する。
「なんとかなります、きっと!」
なんの根拠に、と思うけど、でもいつまでもダラスさんやリラーナに護られてばかりでもいられないし。国家魔石精製師になるためにも、私はもっと世界を色々と見てみたい!
「……分かった。独り立ちを決めたからにはもう認めるしかないしな。お前も自分の行動に責任を持て。お前の判断が他者にも影響してくることを常に頭に置いておけ」
「はい!」
「それから今日は行先を護衛の奴に伝えるようにモルドへ伝言を頼みに行け。お前自身もレインに相談して服装や荷を準備しろ」
「はい!」
ダラスさんは溜め息を吐きながら私の頭にポンと手を置いた。いつも私を宥めるときや落ち着かせるためや、たまには褒めてくれたりするときに、頭に手を置くダラスさん。もう慣れた仕草。でも私はこの頭を撫でられるのが好きだった。なんだか安心した。師匠なんだけど、お父様のような温かさ。家族のような温かさ。それがとても嬉しかったし好きだった。
ダラスさんは頭に手を置いたまま、ほんの少し笑った。
「そろそろ修行も終わりだな……」
小さく呟いたダラスさんは少し寂し気な表情のようにも見えた。いや、でもダラスさんがそんな顔をするかしら、と改めて見たときにはもういつもの表情でくるりと踵を返すと、手をひらひらと振り、「早く行け」と言われたのだった。
『そろそろ修行も終わり』
その言葉が嬉しいような、切ないような、複雑な気分だった。
修行だっていつかは終わりが来る。私だって国家魔石精製師の資格を取れば一人前なのよ。ダラスさんから試験を受ける許可が出れば、私はもう受かろうが受かるまいが独り立ちを認めてもらったということ。一人前だと認めてもらえたということ。
それを待ち望んでいたのは確かなんだけれど、いざそのときが近付いて来ると、どうにも複雑な気分になるのはなんでだろう。
嬉しさの反面、寂しさや不安のほうが勝って来るような気がする。
独り立ちすれば、嫌でも全て自分の判断となる。誰かに助けを求めるよりも、私自身が自力で判断していかないといけなくなる。当たり前のこと……当たり前のことなんだけど、そんなことはすっかり頭から消えていた気がする。
自分自身で判断するということは自分の行動に責任を持つということ。他人の人生をも巻き込む可能性があるということ。
そう考えると怖くなる。他人の人生を背負うことになるかもしれないなんて。今回の採取だって私の判断次第では、もしかしたらディノや魔導師さんの命を危険に晒すかもしれない。
そんな判断を私が出来るんだろうか……。
そんな負のスパイラルに飲み込まれていると、ルギニアスが姿を現した。
「お前はごちゃごちゃ考え過ぎだ」
そう言いながら私の頭の上に乗ったルギニアスは私の頭をビシッと叩いた。
「ちょ、ちょっと! 痛い!」
「考えすぎるとハゲるぞ」
「ひっ……へ、変なこと言わないでよ!」
「頭でっかちで考えたところで何も成せない。お前は国家魔石精製師になって両親を探すんだろ?」
「……うん、そうだね」
ルギニアスに励まされてしまった。それが意外で少し笑った。
仲介屋へ向かい、ディノと魔導師さんに行先の伝言を頼んだ。モルドさんは「大丈夫か?」と少し心配そうに言ってくれたが、一人前になるには必要なことだと笑顔で話すと、豪快に笑って伝言を頼まれてくれた。
そしてそのまま防具屋へ行き、レインさんに服装や荷物の相談をすると案の定心配をされた。
「いやん、本当に大丈夫なの? 独り立ちで砂漠地帯だなんて」
レインさんは私の肩を掴み思い切り前後に揺らしながら聞いた。よ、酔う……。
「分からないですけど、いつまでもダラスさんと一緒って訳にもいかないですしね」
「それはそうだけどぉ……でも心配だわぁ!」
「だからレインさんにしっかりと荷物を見立ててもらおうとかと思って」
そうお願いすると、レインさんは心配そうな顔から一気に目を輝かせ、「パァァン!」と手を鳴り響かせた。
「もちろんよ! 私を頼ってくれて嬉しいわぁ!」
そう言いながらレインさんは砂漠地帯と言えば……と、考えながら次々に商品を引っ張り出して来る。
「そういえば護衛はもう決まっているの?」
レインさんは服を見立ててくれながら聞いた。
「はい、ディノとイーザンという人なんですが知ってますか?」
「あぁ、あの子たちね!」
「ご存じなんですね」
「もちろんよ! あの子たちも良い子たちよー! 私の助言もちゃんと聞いてくれてるし、まだ若いのにとんでもなく強いから頼りになるんじゃないかしらー」
そう言いながらもレインさんは手を止めずに次々と服や小物を引っ張り出して来る。いつものことながらこの止まらず、ひたすら動いているのが凄いわね。
「私、自慢じゃないけど、人を見る目はあるから安心して良いわよー! あの子たちは信頼出来るわよ! なにを根拠に、って思うかもしれないけど、こうやって助言とかしているとねー、色々相手の性格とか見えたりするのよね」
そう言ってフフッと笑うレインさん。
「あの子たちは最初から真面目に私の助言を聞いてくれていたわ。質問もたくさんしてくれていたし。真面目で向上心のある子は好きよー。ルーサちゃんもそうよねー」
ダラスさんは若干心配そう。うん、分かる。私がダラスさんの立場でも絶対心配する。
「なんとかなります、きっと!」
なんの根拠に、と思うけど、でもいつまでもダラスさんやリラーナに護られてばかりでもいられないし。国家魔石精製師になるためにも、私はもっと世界を色々と見てみたい!
「……分かった。独り立ちを決めたからにはもう認めるしかないしな。お前も自分の行動に責任を持て。お前の判断が他者にも影響してくることを常に頭に置いておけ」
「はい!」
「それから今日は行先を護衛の奴に伝えるようにモルドへ伝言を頼みに行け。お前自身もレインに相談して服装や荷を準備しろ」
「はい!」
ダラスさんは溜め息を吐きながら私の頭にポンと手を置いた。いつも私を宥めるときや落ち着かせるためや、たまには褒めてくれたりするときに、頭に手を置くダラスさん。もう慣れた仕草。でも私はこの頭を撫でられるのが好きだった。なんだか安心した。師匠なんだけど、お父様のような温かさ。家族のような温かさ。それがとても嬉しかったし好きだった。
ダラスさんは頭に手を置いたまま、ほんの少し笑った。
「そろそろ修行も終わりだな……」
小さく呟いたダラスさんは少し寂し気な表情のようにも見えた。いや、でもダラスさんがそんな顔をするかしら、と改めて見たときにはもういつもの表情でくるりと踵を返すと、手をひらひらと振り、「早く行け」と言われたのだった。
『そろそろ修行も終わり』
その言葉が嬉しいような、切ないような、複雑な気分だった。
修行だっていつかは終わりが来る。私だって国家魔石精製師の資格を取れば一人前なのよ。ダラスさんから試験を受ける許可が出れば、私はもう受かろうが受かるまいが独り立ちを認めてもらったということ。一人前だと認めてもらえたということ。
それを待ち望んでいたのは確かなんだけれど、いざそのときが近付いて来ると、どうにも複雑な気分になるのはなんでだろう。
嬉しさの反面、寂しさや不安のほうが勝って来るような気がする。
独り立ちすれば、嫌でも全て自分の判断となる。誰かに助けを求めるよりも、私自身が自力で判断していかないといけなくなる。当たり前のこと……当たり前のことなんだけど、そんなことはすっかり頭から消えていた気がする。
自分自身で判断するということは自分の行動に責任を持つということ。他人の人生をも巻き込む可能性があるということ。
そう考えると怖くなる。他人の人生を背負うことになるかもしれないなんて。今回の採取だって私の判断次第では、もしかしたらディノや魔導師さんの命を危険に晒すかもしれない。
そんな判断を私が出来るんだろうか……。
そんな負のスパイラルに飲み込まれていると、ルギニアスが姿を現した。
「お前はごちゃごちゃ考え過ぎだ」
そう言いながら私の頭の上に乗ったルギニアスは私の頭をビシッと叩いた。
「ちょ、ちょっと! 痛い!」
「考えすぎるとハゲるぞ」
「ひっ……へ、変なこと言わないでよ!」
「頭でっかちで考えたところで何も成せない。お前は国家魔石精製師になって両親を探すんだろ?」
「……うん、そうだね」
ルギニアスに励まされてしまった。それが意外で少し笑った。
仲介屋へ向かい、ディノと魔導師さんに行先の伝言を頼んだ。モルドさんは「大丈夫か?」と少し心配そうに言ってくれたが、一人前になるには必要なことだと笑顔で話すと、豪快に笑って伝言を頼まれてくれた。
そしてそのまま防具屋へ行き、レインさんに服装や荷物の相談をすると案の定心配をされた。
「いやん、本当に大丈夫なの? 独り立ちで砂漠地帯だなんて」
レインさんは私の肩を掴み思い切り前後に揺らしながら聞いた。よ、酔う……。
「分からないですけど、いつまでもダラスさんと一緒って訳にもいかないですしね」
「それはそうだけどぉ……でも心配だわぁ!」
「だからレインさんにしっかりと荷物を見立ててもらおうとかと思って」
そうお願いすると、レインさんは心配そうな顔から一気に目を輝かせ、「パァァン!」と手を鳴り響かせた。
「もちろんよ! 私を頼ってくれて嬉しいわぁ!」
そう言いながらレインさんは砂漠地帯と言えば……と、考えながら次々に商品を引っ張り出して来る。
「そういえば護衛はもう決まっているの?」
レインさんは服を見立ててくれながら聞いた。
「はい、ディノとイーザンという人なんですが知ってますか?」
「あぁ、あの子たちね!」
「ご存じなんですね」
「もちろんよ! あの子たちも良い子たちよー! 私の助言もちゃんと聞いてくれてるし、まだ若いのにとんでもなく強いから頼りになるんじゃないかしらー」
そう言いながらもレインさんは手を止めずに次々と服や小物を引っ張り出して来る。いつものことながらこの止まらず、ひたすら動いているのが凄いわね。
「私、自慢じゃないけど、人を見る目はあるから安心して良いわよー! あの子たちは信頼出来るわよ! なにを根拠に、って思うかもしれないけど、こうやって助言とかしているとねー、色々相手の性格とか見えたりするのよね」
そう言ってフフッと笑うレインさん。
「あの子たちは最初から真面目に私の助言を聞いてくれていたわ。質問もたくさんしてくれていたし。真面目で向上心のある子は好きよー。ルーサちゃんもそうよねー」
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