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第2章《修行》編
第59話 ルギニアスと紫の魔石
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仲介屋へ向かう道中、久しぶりに一人での外出だったためか、これまた久しぶりにルギニアスの声がした。
『おい、気を付けろ、つけられているぞ』
「ルーちゃん、久しぶりだね。うん、分かってる」
いつも誰かと一緒にいても何者かにつけられている気配は感じていたから、もう慣れたものだ。ただ今日は本当に久しぶりに一人での外出。ダラスさんもリラーナもずっと警戒はしてくれていたが、長い年月特になにも起こらなかったため、もう大丈夫か、という判断で一人外出を許可してくれた。
今日もとりあえず今の時点では近寄って来る気配はない。本当にただ様子を伺っているだけのようだ。一体なんなのか。こんなに長く見張られる理由が分からない。
私もただ単にのんびり過ごしていた訳ではない。修行の合間や特殊魔石の採取の最中に、ゲイナーさんやシスバさんから護身術のようなものも教わったりした。魔獣や魔蟲と対峙しても、咄嗟に身体は動くようにもなったし、自分の身くらいはなんとか護れるようにはなっている。護身用に短剣も所持するようになった。
歳も十五となり、大人と同じくらいの体形となった。小さな子供のときのように簡単には捕まったりしないはず。貴族として生活していたときよりも、遥かに逞しくなっていると思うし、それなりには成長しているんですよ、私だって。
「それよりもさ、ルーちゃんが最近姿を見せてくれなかったのはなんで?」
どこにいるのか分からないルギニアス。だからキョロキョロしても無駄だということも、この何年もの間で学んだ。だから仲介屋へ向かう道中、周りの人に気付かれない程度の小声で、特にどこを見るでもなく話しかける。
本当はルギニアスがどこにいるのかはなんとなく分かってる。ルギニアスからは『あの魔石』の気配を感じるから。
それはあの『紫の石』。私が生まれたときから握り締めていたあの石。
魔石精製師として修行するようになって、魔石の内部、魔素や魔力を感知出来るようになって気付いた。あの石は魔石。
しかも強力な力を感じる魔石。今まで感じたことがないような不思議な力を感じる魔石。なぜ前世のお母さんがそんな魔石を持っていたのかは分からないけど……。
それと同じ気配をルギニアスから感じた。今までそれを感じてもなにか分からなかった。でも様々な魔石の感知が出来るようになってきて、ようやく気付いた。ルギニアスの周りに纏わり付くように漂う紫の魔石と同じ気配を。
きっと、ルギニアスは紫の魔石の力となにかしら関わっていて、そのせいで姿が見えなくなっているのか、それとも……魔石のなかにいるのか……?
そんなことを考えていると、ポンとルギニアスが飛び出し、私の肩に乗った。
「お前は俺の存在がバレるのは困るんだろ?」
「え?」
ルギニアスのほうを見ると、プイッと顔を背けた。
そういえばルギニアスが見付かるたびに、どうやって誤魔化そうか、どうやって逃れようかしか考えていなかった。でもそれはルギニアスの存在が、私にすらよく分かっていなかったし、どうやって説明をしたらいいのかが分からなかったし、魔王だなんて言えなかったし……と、色々理由はあるんだけれど……拗ねていたのか……。
「プッ」
「なんだ」
「い、いや、なんでも……」
笑いそうになるのを必死で堪えた。
「でもさ、本当にルーちゃんがずっと出ていられるなら、魔傀儡以外になにか説明を考えないと……」
「今はまだずっとは無理だ……」
「なんで?」
「…………」
だんまりかい。ずっとは出ていられないってなんだろうなぁ。どうせ今追求したところで教えてはくれないんだろうな。お父様やお母様だってそうだった。私の周りの人たちは皆、大事なことはいくら聞いても教えてはくれない。だから聞いても無駄だということは理解もしているし、悔しくとも私はまだ聞ける立場ではないのだと無理矢理納得もしている。
だからと言っていつまでも私も子供じゃないのよ! ルギニアスに問い詰めてみようかと思ったそのとき、ルギニアスが私の耳元で呟いた。
「急げ。なにかいつもより近付いてきている気がする」
「えっ……」
気配を探ると確かにいつもより近い。
気付かれないように歩く速度を上げる。しかし相手もそれに気付いたのか、同じように速度を上げたようだ。仲介屋へはもう少し先だ。
「やっぱり一人で歩いていたから?」
早足で歩きながらボソッと呟く。
「さあな」
「うーん、リラーナとの『あれ』を試してみようかしら……」
私は建物の角を曲がると意識を集中させ魔力を送った。
「お、おい。本当に大丈夫なんだろうな?」
「んー、多分……」
「た、多分て……」
心配そうなルギニアスを尻目に、私は魔導具を発動させた。
『おい、気を付けろ、つけられているぞ』
「ルーちゃん、久しぶりだね。うん、分かってる」
いつも誰かと一緒にいても何者かにつけられている気配は感じていたから、もう慣れたものだ。ただ今日は本当に久しぶりに一人での外出。ダラスさんもリラーナもずっと警戒はしてくれていたが、長い年月特になにも起こらなかったため、もう大丈夫か、という判断で一人外出を許可してくれた。
今日もとりあえず今の時点では近寄って来る気配はない。本当にただ様子を伺っているだけのようだ。一体なんなのか。こんなに長く見張られる理由が分からない。
私もただ単にのんびり過ごしていた訳ではない。修行の合間や特殊魔石の採取の最中に、ゲイナーさんやシスバさんから護身術のようなものも教わったりした。魔獣や魔蟲と対峙しても、咄嗟に身体は動くようにもなったし、自分の身くらいはなんとか護れるようにはなっている。護身用に短剣も所持するようになった。
歳も十五となり、大人と同じくらいの体形となった。小さな子供のときのように簡単には捕まったりしないはず。貴族として生活していたときよりも、遥かに逞しくなっていると思うし、それなりには成長しているんですよ、私だって。
「それよりもさ、ルーちゃんが最近姿を見せてくれなかったのはなんで?」
どこにいるのか分からないルギニアス。だからキョロキョロしても無駄だということも、この何年もの間で学んだ。だから仲介屋へ向かう道中、周りの人に気付かれない程度の小声で、特にどこを見るでもなく話しかける。
本当はルギニアスがどこにいるのかはなんとなく分かってる。ルギニアスからは『あの魔石』の気配を感じるから。
それはあの『紫の石』。私が生まれたときから握り締めていたあの石。
魔石精製師として修行するようになって、魔石の内部、魔素や魔力を感知出来るようになって気付いた。あの石は魔石。
しかも強力な力を感じる魔石。今まで感じたことがないような不思議な力を感じる魔石。なぜ前世のお母さんがそんな魔石を持っていたのかは分からないけど……。
それと同じ気配をルギニアスから感じた。今までそれを感じてもなにか分からなかった。でも様々な魔石の感知が出来るようになってきて、ようやく気付いた。ルギニアスの周りに纏わり付くように漂う紫の魔石と同じ気配を。
きっと、ルギニアスは紫の魔石の力となにかしら関わっていて、そのせいで姿が見えなくなっているのか、それとも……魔石のなかにいるのか……?
そんなことを考えていると、ポンとルギニアスが飛び出し、私の肩に乗った。
「お前は俺の存在がバレるのは困るんだろ?」
「え?」
ルギニアスのほうを見ると、プイッと顔を背けた。
そういえばルギニアスが見付かるたびに、どうやって誤魔化そうか、どうやって逃れようかしか考えていなかった。でもそれはルギニアスの存在が、私にすらよく分かっていなかったし、どうやって説明をしたらいいのかが分からなかったし、魔王だなんて言えなかったし……と、色々理由はあるんだけれど……拗ねていたのか……。
「プッ」
「なんだ」
「い、いや、なんでも……」
笑いそうになるのを必死で堪えた。
「でもさ、本当にルーちゃんがずっと出ていられるなら、魔傀儡以外になにか説明を考えないと……」
「今はまだずっとは無理だ……」
「なんで?」
「…………」
だんまりかい。ずっとは出ていられないってなんだろうなぁ。どうせ今追求したところで教えてはくれないんだろうな。お父様やお母様だってそうだった。私の周りの人たちは皆、大事なことはいくら聞いても教えてはくれない。だから聞いても無駄だということは理解もしているし、悔しくとも私はまだ聞ける立場ではないのだと無理矢理納得もしている。
だからと言っていつまでも私も子供じゃないのよ! ルギニアスに問い詰めてみようかと思ったそのとき、ルギニアスが私の耳元で呟いた。
「急げ。なにかいつもより近付いてきている気がする」
「えっ……」
気配を探ると確かにいつもより近い。
気付かれないように歩く速度を上げる。しかし相手もそれに気付いたのか、同じように速度を上げたようだ。仲介屋へはもう少し先だ。
「やっぱり一人で歩いていたから?」
早足で歩きながらボソッと呟く。
「さあな」
「うーん、リラーナとの『あれ』を試してみようかしら……」
私は建物の角を曲がると意識を集中させ魔力を送った。
「お、おい。本当に大丈夫なんだろうな?」
「んー、多分……」
「た、多分て……」
心配そうなルギニアスを尻目に、私は魔導具を発動させた。
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