【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第2章《修行》編

第50話 仲介屋

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「さて、明後日には特殊魔石の採取に行く訳だが、お前の装備の準備と、後は護衛を頼むために仲介屋へ行く」
「仲介屋……」

 以前リラーナとウィスさんに教えてもらったわね。

「いずれはお前も自分で依頼しに行くことになるだろうから覚えておけ」
「はい!」

 仲介屋、どんなところかしら。初めて入るからワクワクしちゃう!


 今日はリラーナがお留守番してくれ、初めてダラスさんと共に出かける。なんだか変な感じ。いつもはリラーナと一緒だし、ダラスさんはほぼ店だし、たまに出かけてもダラスさんは一人で出かけている。連れ立って行くことなんてまずない。

 お父様と一緒に歩いたことを思い出すわね……。フフ、でもダラスさんはお父様のようにお喋りじゃないし、ずっと無言だわ。サクラのときには父親はいなかったし、こうやって無口な大人の男の人と一緒に歩いているのが不思議で仕方がない。

「なんだ?」

 チラチラと見過ぎていたのがバレた。

「い、いえ、なんでも……先に仲介屋ですか?」
「そうだな、装備を買いに行くと荷物になるしな」
「あぁ、そうですね」

 大通りを通り抜け商業区へと向かう。

「あ」
「どうした?」
「あ、いえ、なんでもありません」

 ダラスさんはじっと私の顔を見たが、特に気にすることもなかった。

 また例の気配を感じたのよね。なんだかよく分からない魔導具らしき気配。どうやら天然魔石のような気がする……。なんの魔導具なんだろうか。

 普段、街中には様々な魔導具がある。だから必然的に魔石の気配もそこら中に感じる。だから普段街中で感知などしない。情報量が多過ぎるからだ。
 でもいつも監視されているかのような気配には、なぜか気付いた。おそらくそれは生活用魔導具とは違うから。

 生活用魔導具や、武器屋や防具屋で売られているようなものに装着されている魔石は分かりやすい。もう慣れているから。でもあまり感じたことがない気配だと、違和感があるから感知をせずに気付いたりもする。
 この気配はきっと普段街中にはない魔導具。きっとダラスさんもなにか気配は感じているとは思うけれど、おそらく警戒はしていない。
 王都は基本的に人の出入りが多い街だし、他の街から来ている人もたくさんいる。だからよくある生活用魔導具以外の気配を感じたところで、旅の者だろうという判断にしかならないから。

 私も最初はそう思っていた。しかし、街へ外出するたびにその気配を感じると嫌でも違和感に気付く。

 だからと言ってなにかして来る訳でもないから、様子を伺っているだけなんだけどね。


 商業区へと入りしばらく歩くと、旗の絵が描かれた看板が見えて来た。

「ついたぞ」

 三階建ての大きな建物で、しかし他のお店のように店先に商品が並べられているでも、硝子張りの玄関で店のなかが見えるという訳でもない。
 窓は見えるが正面には大きな扉があるだけで、後は小さな看板が掲げられているだけだった。

 ダラスさんは重そうなその扉を開き、中へと入って行く。その後に続き中へと入る。

「よう、ダラスさんじゃねーか。護衛の依頼か?」

 中へと入ると、広いエントランスにいくつかカウンターが並び、女の人や男の人が受付をしている。
 ダラスさんに声を掛けてきたのは入って正面のカウンターにいた男の人。屈強な身体付きに無精髭、剥き出しの太い腕には傷がたくさん付いている……こ、怖い……。

「あぁ。それと今日は弟子のルーサも今後世話になると思うから紹介がてらにだな」
「弟子!! おぉ、それが噂のダラスさんの弟子か!!」

 大きな声で叫びながら私に視線を投げかけられビクッとなる。その声で中にいた人たち全員の注目の的! ひぃぃ!

 ダラスさんはそんな視線も関係ないとばかりに、カウンターに近付き、私にちょいちょいと手招きをした。
 おずおずとダラスさんの横に並び、カウンターの男の人と対面する。

「弟子のルーサだ。以後よろしく頼む」

 ダラスさんが紹介してくれると、カウンターの男の人はニッと笑い身体を乗り出した。

「ハハ、えらい可愛いお嬢ちゃんだな! 依頼担当のモルドだ、よろしくな!」

 いまだに「お嬢ちゃん」扱いかぁ……結構背は高くなってきたんだけどな……リラーナのスタイル抜群には負けるけど……シクシク。

「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
「ここでは護衛や手伝い、特殊依頼でもなんでも人手がいるものは相談次第で受けられる。人手が欲しいときはとりあえず相談に来いよ、俺がなんとかしてやるぞ!」
「はい、ありがとうございます」

 なんとかしてやる、頼もしいわね。

「依頼以外にはあっちに受付があるが、宿屋も一応併設されているからまた機会があれば利用してみてくれよな」
「宿屋もあるんですか……」

 なるほど、あっちの女性受付は宿屋なのか。

「で、今日は護衛だよな?」
「あぁ」
「いつもの奴等でいいか?」
「そうだな」
「了解、連絡しとくよ。そういやぁ、新しい若いのが入ったんだが、ちょうど今他の依頼を受けていてな、残念だ。紹介がてら担当させても良かったんだがな。相当強いからかなり役立つぞ」

 そう言ってモルドさんはニッと笑った。

「まあいずれ機会があればな。今回はルーサの初採取だからな。危険なところへは行かない」
「なるほどな、まあいずれルーサが採取に慣れたら紹介してやるよ」

 そうやって笑いながらモルドさんはダラスさんと依頼の支払いやり取りをしていた。

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