【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
上 下
49 / 247
第2章《修行》編

第47話 小さな約束

しおりを挟む
「おい、今こいつ喋ったよな!?」

 少年は私の顔とルギニアスを何度も交互に見ながら訴える。

「あぁ、あ、あ、え、えっと……」

 ウルバさんのときといい、なんでルギニアスは隠れてくれないのよ! あ、ウルバさんといえば魔傀儡疑惑! あれを使わせてもらおう!

「えっと、この子魔傀儡なの……」

 ルギニアスがじろりとこちらを見た気がしたけれど、お願いだから空気を読んで!

「魔傀儡?」
「そう、魔傀儡」

 フフフ、と笑顔で冷静に……魔傀儡なのよ、それ以外のなにものでもないのよ。ルギニアスは魔傀儡! 脳内で自分に言い聞かせる。

「魔傀儡ってなに?」
「えっとね、ガルヴィオで造られている魔石で動く人形!」
「へぇぇ、そんなものがあるんだな。スゲーな!」

 感心した顔になった少年はルギニアスを覗き込み、じっくりと観察をしている。あ、あんまりじっくりと見ないでぇ! ルギニアスが滅茶苦茶不機嫌になっている気がする……。

「そ、それよりもあなたのお名前は? さっきの体術凄かったわね!」

 このままだとまたルギニアスを握り締めてしまいそうなので、なんとか話題を変えてみた。少年はルギニアスから視線を外すと、私のほうへ向き直り、ニッと笑った。

「俺はディノ。剣闘士の神託を受けたおかげかな。今はまだ修行中だけど、結構な腕前だろ?お前は?」
「私はルーサ。私は魔石精製師で、魔石屋のダラスさんのところで修行中なの」
「へー、魔石精製師か、珍しいな」
「剣闘士というのは、剣術体術に優れているんだっけ? 将来は騎士団に入るの?」

 剣士の神託を受けた人は当然のように国や他の領主の元での騎士団などに所属している人が多いと聞く。剣闘士というものはそれほど聞く機会はないが、確か剣術と体術が優れていると聞くので、やはり騎士団に入るのだろうか、という素朴な疑問だった。

「フッ、よくぞ聞いてくれた! 俺はあんな堅苦しいものには入らない!」

 ベンチから立ち上がったディノは腕を組み、仁王立ち。そしてニッと自信満々な顔で声を上げた。

「え? 騎士団には入らないの?」
「あぁ! あんなものに入るより、俺は世界が見たいんだ!」
「世界?」
「あぁ! 俺は今、この王都しか知らない。でもこの国にも色々な街や砂漠や森や海があるだろう?」
「うん」
「そこには知らないもの、見たことがないものもきっといっぱいある! さらにはガルヴィオやラフィージアにも行ってみたい! ガルヴィオは獣人の国というだけでなく、物づくりが得意らしいし、どんな凄いものがあるのかと思うじゃないか! ラフィージアも天空に浮いた国だろ!? どうやって浮いてんのか見てみたくないか!?」

 目を輝かせながら興奮気味に話すディノ。呆気に取られつつも、その姿を見ていると、私もなんだかワクワクしてきちゃった。

「本当だね、そっかこの世界にはまだまだ知らないものがたくさんあるのね……私も見てみたいな……」

 この前の研究所の見学も楽しかった。それを世界中見て回るなんて、考えただけでもワクワクするわね。しかも、色んなところを旅すれば、お父様とお母様の行方も分かるかもしれない……。

「ハハ、ルーサも気になってきたか?」
「うん! ガルヴィオやラフィージアの魔石も見てみたいし!」

 もしかしたら魔石の種類が違ったり、使われ方が違ったりするかもしれないしね! リラーナと店を出す、という約束も、もっとたくさんの経験を積んでからのほうがきっと役に立つはず!

「ハハハ、お前変わってるな」
「え? なんで?」

 変わってるって失礼な。

「大抵の奴は馬鹿なことを、と鼻で笑いやがる。騎士団に入るほうが安定した給料に生活にと保障されるのに、って」

 確かにそれは一理ある。でもそれよりもディノと同じように、私もワクワクが勝ってしまった。

「でもルーサは笑わずに俺の話を聞いてくれたな!」

 そう言って私の頭をワシワシと撫でたディノ。歳が近い男の子に頭を撫でられるとか、なんだかなんだかムズムズする……。

「それならさ、お互い大人になったら一緒に旅でもしようぜ!」
「一緒に旅?」
「あぁ! 俺は必ず強くなる。俺と一緒に旅をするのはお得だと思うぞ。護衛を雇う必要がないからな! アハハ!」
「フフ、本当だね。大人になったら一緒に世界を見に行こう!」
「あぁ、約束だぞ!」

 そう言ってディノは拳を突き出した。キョトンとした私に苦笑し、ディノは私の手を取り自分の拳の前へと持ち上げた。ハッとし理解した私はディノと同じように拳を突き出し、ディノの拳と合わせた。

「「約束!」」

 そうやってお互いアハハと笑い合ったのだった。
 子供である私たちの小さな約束。大人になったときにこの約束を覚えているかは分からない。でも、きっとこの約束は守られる。そう思えた。そう、きっと……。



「あ、いけね、そろそろ帰らないと怒られる!」
「あ、私も!」

 辺りはすっかり夕暮れになり、陽が沈みかけていた。私はというとお使いの途中だったことを思い出す。
 あぁ、しまった! すっかり遅くなっちゃった。きっとダラスさんもリラーナも心配してるはず!

「きょ、今日は助けてくれて本当にありがとう!! またね!!」

「あぁ、気を付けて帰れよ!」

 そうお互い手を振りつつ別れを告げた。

 早く帰らないと、と急ぎ足で街を抜ける間、私は初めて出来たリラーナ以外の友達に嬉しくなり、ふわふわドキドキとなんだか不思議な気分になっていた。

「うふふ」

「気持ち悪い笑い方をするな」

 そんな幸せな気分だったのに、ルギニアスの容赦ない一言でスンとなったのでした……。

しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...