【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第2章《修行》編

第39話 魔石付与部

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 熱々そうな湯気と共にチーズの良い香りが漂ってくる。スプーンですくうとなかからはなにやら白っぽいパンのようなものが出てきた。しかしパンではないような。もちもちとした食感。それに茶色いスープのようなものが絡められていた。大きく切った野菜もほくほくと美味しいし、少し甘めの茶色いスープとパンのようなものがよく絡み合っていて、とても美味しい。
 それらの上からこれでもかというくらいのたっぷりチーズが覆っている。なかにある具と一緒にスプーンですくうととろりとチーズがよく伸び、スープの甘味とチーズの塩気とが良く合った。

「お、美味しいぃぃ!!」
「うんうん! めちゃくちゃ美味しいぃ!!」

「ハハ、良かった。クスフカは人気があるので本当におススメなんですよね」

 ウルバさんも嬉しそうにサンドウィッチを頬張っている。そっちも美味しそう……。


 大満足でお腹も満たされ、いざ、魔石付与部へ!

「では、魔石付与部へ行きますか」
「「はーい」」
「ハハ、ではお二人が魔石付与部へ行っている間に、僕は薬物研究所へ許可を確認しに行ってきますね」
「「ありがとうございます」」

 研究棟まで戻り、一階にある魔石付与部の部屋へと案内してもらう。魔導研究所と同じ扉だが、『魔導師団魔石付与部』のプレートが貼られていた。ウルバさんが扉を叩く。

 その扉を叩く音に反応するようになかから声がした。

「どうぞ」

 部屋のなかからは男性の声がした。扉を開けるとウルバさんたちと似ているが色の違うローブを着ている男性が出迎えてくれた。

「あぁ、貴女方ですか、見学したいと言っているのは」

 ウルバさんよりも背は低く、幼そうで可愛い顔をした男の子。しかし無表情……なんだか怖い雰囲気が……もしかしてめちゃくちゃ嫌がられてるのかしら……。

「クリスさん、すみませんが今日はよろしくお願いしますね。ミスティア部長はどちらに?」

 ブスッとしたままクリスさんはくるりと踵を返し、スタスタと部屋のなかへと戻って行った。扉に入ってすぐのところでそれを待つ。

 魔石付与部は魔導研究所とは大きく違い、めちゃくちゃ綺麗! 整理整頓完璧! なにも散らかっていないどころか、壁際にびっしりと並ぶ棚には、全ての引き出しにラベルが貼られていて、机の上も現在作業しているものだけのようだ。
 何人もの魔導師さんらしき人が机に向かい魔石付与をしているようだった。

「魔導研究所と全然違うわね」

 リラーナが小声で言った。それに頷き二人して苦笑した。魔導研究所のあの汚さはなんとかしたほうが良いと思う。うん。

「やあ、君たちが魔石付与を見学したいという子たちか! ようこそ魔石付与部へ!」

 クリスさんと共に戻ってきた人は他の人たちのローブとは全く違う、なんだか身体のラインを強調するような服装の……迫力ある女性だった。
 綺麗な青い長髪を一つに括り、大きな胸の前に垂らしている。とても迫力のある美人で金色の瞳がキラキラと綺麗だが、はっきりとした大きな瞳は目力が凄い……。

「確か魔石精製師見習いと魔導具師見習いだったか?」

「「は、はい」」

 カツカツと高いヒールを鳴らし近付いてきたミスティアさんは、腰に手を当てぐいっと顔を近付けた。

「うむ、可愛い子たちじゃないか! 可愛い子は大歓迎だ!」

「え、あ、はい、ありがとうございます」

 な、なんだか凄い人だわ……リラーナと二人でたじたじに……。

「ミスティアさん、僕は少し席を外しますが、すみませんが二人をよろしくお願いしますね」
「うむ、いくらでも相手をしてやるから、ウルバくんは気にしなくてもいいぞ。ゆっくりして来い」
「アハハ、ありがとうございます」

 え、ウルバさん、平然としているけれど、これが普通なの!? だ、大丈夫かしら。思わずリラーナと手を繋ぐ。

 ウルバさんは「では薬物研究所に行ってきますね」と言葉を残し部屋を出た。

 ウ、ウルバさぁぁん!!

「アハハハ! そんな怯えなくても大丈夫だ! 取って食いやしない!」

 豪快に笑うミスティアさん。

「貴女方失礼ですよ、ミスティア部長は魔導師として最強といってもおかしくないほどの実力者なんですよ!?」
「え、そ、そうなんですか?」

 魔導師として最強なら、なんで魔石付与部に? それだけ凄い魔導師なら普通に戦い専門の魔導師団のほうに所属でもおかしくないんじゃ……。

「ハハ、クリス、私はもうそんな地位じゃない」
「でも!!」

 ミスティアさんはクリスさんの頭をワシワシと撫でたかと思うと優しい顔になった。

「あー、ハハ、クリスがすまないね。この子は私が魔導師団で戦っていたことを凄く気に入ってくれているんだ」
「ミスティアさんは魔導師団だったんですか?」

「あぁ。まあ一応、ね」

 ミスティアさんは話したくないのか、困った顔で微笑んだ。

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