【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第2章《修行》編

第21話 魔導具屋

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 昼食を終え、ロンさんの店へと向かう。カフェは大通りに面しているため、路地に入り奥へと進む。様々な店の並ぶ商業区。大通りとはまた違った雰囲気。大通りは基本的に食事処が多かったり、宿であったり、日用品が売っていたりと、日常必要な店が並んでいるが、路地に入った商業区はそれ以外のものが多い。

 魔導具屋、武器屋、防具屋、酒場、家具屋や服屋、食料品店や保存食専門店など様々な店が並ぶ。
 それらの店とは少し雰囲気の違う店らしき建物もあるが、特になにかを売っているような感じではない建物が看板だけを揚げている。

「あの店はなに?」

 隣を歩くリラーナに聞いた。看板にはなにやら旗のような絵が描いてある。

「あぁ、あれは仲介屋」
「仲介屋?」
「そ、言葉のまま、仕事の仲介をするところ。護衛を雇ったり、人手が欲しい、とかだったり、自分で人を探すのは大変でしょ?」
「うん」
「それをね、仲介屋に依頼すると、登録している人を紹介してくれるの」

 リラーナが店を見ながら説明をしてくれる。その話にウィスさんも続ける。

「そうそう、自分で探さなくて良いから楽ちんなんだよ。色々な仕事を依頼出来るしねぇ。それに見合った人を紹介してくれて、依頼金は仲介屋に支払い、依頼を受けた人も仲介屋から依頼完了後に支払われる仕組みでね。依頼失敗すると返金もしてもらえるし、トラブルが起きにくくて皆重宝しているよ」
「へぇぇ」
「ルーサもいずれ特殊系魔石を採りに行くなら護衛とか依頼することになるんじゃない?」
「特殊系……」

 ダラスさんが言っていた魔物や魔獣とかから採れる魔石のことね。ま、魔物……

「採りに行くのかなぁ……怖い」

 実際魔物を見たことがある訳ではないけれど、想像しただけでも怖い。

「そんな怖い思いをしてまで採りに行く必要あるのかな……」

「うーん、それはルーサ次第だろうけど、国家魔石精製師の資格を取るならいつかは特殊系魔石も必要になってくるんじゃない?」
「それはまあそうだよねぇ……国家魔石精製師になるにはやっぱり全ての魔石に精通しないといけないだろうし」

 リラーナもウィスさんも「国家魔石精製師」になるならば必要だと言う。それはそうか……そこは逃げてちゃ駄目だよね……怖いけど。

「ま、まあ、特殊系なんてもっと大人になってからでも良いんじゃない?」

 私の表情が暗かったからか、リラーナが慌てて宥めるように言った。その姿が少しおかしくて、心配をしてくれているのが嬉しくて、クスッと笑った。

「フフ、ごめん、心配かけて。うん、とりあえず特殊系魔石なんてまだまだ無理だから、今は初歩を頑張らないとね!」
「うんうん、頑張って! 私も修行頑張るし!」

 ホッとしたのかリラーナはニッと笑い、私の頭を撫でた。それを見ていたウィスさんも「二人の将来が楽しみだ」と笑った。



 商業区をしばらく歩くとロンさんの店にたどり着いた。硝子張りの正面入り口からは店のなかが覗き見えるが、多くの魔導具が並んでいた。店内は魔導ランプで明るく灯され、魔石なのか、魔導具そのものなのか、キラキラと煌めき合っているのが綺麗だった。

 扉を開けるとカランコロンとベルが鳴り、店内でなにやら作業をしていた男性がこちらに振り向いた。

「いらっしゃい……って、ウィスとリラーナか。それに……誰だ? その子供?」

 背も高く、がっしりとした体格の茶色い髪と瞳の男性。ダラスさんと同じくらいの歳だろうか、いわゆる中年と言われるくらいの歳であろう男性がウィスさんとリラーナを認識したあと、私を見て怪訝な顔をした。

「やあ、ロンさん。彼女はルーサちゃん。ダラスさんの弟子だそうだよ」

 ウィスさんがロンさんと呼んだその男性と握手をしながら言った。

「ダラスの弟子!?」

 ロンさんは目を見開き、ウィスさんから視線を外し、私を見た。そしてズカズカとこちらに歩み寄ると私を見下ろし、グイッと顔を近付け睨んだ。こ、怖い。

「こ、こんにちは……初めまして」

「こらこら、ロンさん、ルーサちゃんがビビッちゃってるじゃないか」
「そうよ、ロンさん、顔が怖い!」

 ウィスさんとリラーナが庇ってくれて、ロンさんはハッとした顔になった。

「あ、あぁぁ!! す、すまん!! 驚いてつい!」

 ロンさんは頭をガシガシと掻いて焦った顔。その顔は先程の怖い顔とは違い、なんだか可愛い顔で一気に緊張が解けた。

「フフ、いえ、大丈夫です」

 そう笑って答えると、ロンさんは少し照れたような顔をしながら、私の頭をワシワシと豪快に撫でた。

「まさかダラスが弟子なんか取るとはな! しかもこんなちびっこい女の子を! 驚いたよ! 何歳なんだ?」

「ルーサと申します。最近十歳になったばかりで洗礼式で『魔石精製師』の神託を受けたんです」

 年齢に驚いたのか、神託に驚いたのか、ロンさんはまたしても驚いた顔をした。

「十歳かい! ちびっこいが大人びた子だなぁ」

 ワハハと豪快に笑いながら、頭を撫で続けるロンさん。私はというと「大人びた」という言葉にドキリとした。
 元々貴族として教育は受けていたため、人と接するときは礼儀正しくはまあ普通なんだけれど、それに加え、前世の記憶が関係しているからかもしれない、と思ったからだ。

 前世で私は大人だったから。
 今は十歳でも大人の記憶がある。サラルーサとしての記憶がなくなった訳ではない。サラルーサとして生きてきた十歳までの記憶もちゃんとある。だから前世の記憶はあるが、それは所詮前世の記憶でしかない。私であって私ではない記憶。
 でもやはり影響は受けるもので、大人の記憶がある分、どこか落ち着いた雰囲気になるのかもしれない。

 貴族であったことも隠さなくてはいけない上に、前世の記憶がある、などとは口が裂けても言えないな、とゴクリと唾を飲み込んだ。
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