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第2章《修行》編
第17話 魔導具使用講座
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「魔石精製師が創れば創るだけ魔石が出来る。それを手当たり次第に売ってみろ。飽和状態になって魔石の価値が下がる。魔石の価値が下がるということは魔導具の価値も下がる。魔導師は仕事自体は増えるが負担も増える。魔石が無駄に増えるというだけで市場が混乱するんだ。だから魔石を売るには国家魔石精製師の資格を持つものしか出来ない。国が店と魔石の数を管理しているんだ」
「へぇ……なるほど」
必死に頭のなかで考えているとウィスさんがプッと吹き出した。
「ルーサちゃん、分かった?」
ニッと笑ったウィスさん。あ、バレてる。
「あ、いえ、その……分かったような分からないような……」
「アハハ、正直! ようするに魔石がたくさんありすぎると他の仕事にまで影響が出るから制限されてるんだよね」
ウィスさんは簡単に説明してくれた。やれやれと言った顔のダラスさんが溜め息を吐く。
「でもルーサちゃんは国家魔石精製師になるんだろう?」
「はい……出来ればなりたいです」
なりたい、というよりならないといけない気がする。国家資格を取って、立派に魔石精製師にならないと皆の元に帰れない。
神妙な面持ちになっていたのか、ウィスさんは私の頭を撫でた。
「ゆっくり頑張れば良いよ。皆、神託を受けてからそんなすぐに資格を得るわけじゃないし、試験を受けられる歳になるまでも時間はあることだしね」
「そうそう、ゆっくり一緒に頑張ろうよ」
リラーナも私の肩をぎゅっと抱き締めた。
「ありがとう」
フフ、とリラーナと顔を見合わせ笑う。
「さて、じゃあ僕は帰るとするよ。お二人さん、明日待っているからね」
そう言ってウィンクしながらウィスさんは去って行った。
その日はウィスさんが帰ったあとは、ひたすら精製魔石の練習だった。ゴリゴリゴリゴリと石を砕き、ひたすらろ過と蒸留を繰り返し、魔力を注ぐ練習。
一度ろ過、蒸留したものはすぐに魔力を注がないと使い物にならない。だから一度失敗すると、結局一からやり直しとなる。
ろ過や蒸留は何度もやるうちに慣れてはくるが、魔力で結晶化させていくのだけがどうしても上手くいかない。
水のままだったり、粘りまでは出ても手に取ると流れ落ちてしまうほどだったり、スライム状になったとしてもそこから結晶化までがいかない。
「うぐぐ……難しい……なにが駄目なんだろ」
そもそもまだ十歳、魔力量もそれほどない。従ってあっという間に私の魔力は尽きてしまった。がっくり。
「焦るな。そんなすぐに上手くいくはずがないだろう」
「…………」
ダラスさんは自分の仕事をしながら、こちらを見ずに言った。
「今日はもうやめておけ。店番でもしていろ」
「はーい」
悔しいけどどうしようもないしね。大人しく机の上を片付け、店に出た。
リラーナが店に置かれた魔石を磨いている。
「ルーサ、お疲れ、こっちはもうすぐ店閉めるし、夕食の用意をしにいきましょ」
「うん」
外へと店の看板を片付けに出ると、辺りはすでに日が沈みかけていた。夕陽が差し込み、あちこちから良い匂いが漂ってくる。
店の看板を片付け、店を閉める。リラーナは夕食の準備に取り掛かるため、キッチンへと向かった。
今日は私も料理を教えてもらおう! と、意気込んでリラーナの手伝いをした。
「まずは魔導具の使い方よね。魔導具の使い方はほぼどれも同じ、その魔導具に埋め込まれてある魔石に魔力を流すの。魔法じゃなくて魔力ね」
あえて『魔法じゃない』と言ったのは、『魔力』と『魔法』は違うからだ。魔法は体外に放出するもの、魔力は体内に宿るもの。
「魔法を放出するんじゃなくて、魔石に魔力を流す。ほんの少しの魔力をね。だから体外に放出される訳でもないし、魔法が使えない人だって魔導具は使える。見てて」
そう言ってリラーナはコンロに手を伸ばす。鍋に水を入れコンロに置くと、すぐ手前にある魔石に触れた。そのとき「カチッ」という音がし、徐々に鍋のなかの水が沸々と沸き出した。
「これってどうなってるの? 火がないよね?」
見るからに火は見えない。魔石が埋め込まれてはいるが、コンロ自体は平たいただの机のようなものだ。鍋を置くための目印だろうか、円が描かれてはいるが。
「この魔石にね、魔力を送ると、この鍋の下にある円の周りに熱が籠るの。そしてそこから鍋と反応してさらに熱を上げていく。送る魔力の量で火力が決まっていくわ」
そう言うとリラーナはもう一度魔石に魔力を込めた。すると鍋の水はぼこぼこと一気に噴き零れそうなほどになっていた。
「どの魔導具も埋め込まれた魔石に魔力を送って作動させるのは同じね。冷蔵庫みたいに常に作動させておくものは、最初に魔力を送った時点で、切らないようにするから常にずっと作動しているけど」
「へぇ」
「魔石によって付与されている魔力が違うし、使う人間は魔力を送って発動するきっかけを与えるだけ、って感じかな」
顎に手をやり考えながら言葉にするリラーナ。
「なるほど」
だから魔法は誰でもとはいかないが、魔導具は誰でも扱えるわけだ。
「さて、じゃあ魔導具の使い方も分かったなら、料理をしていきましょ!」
「うん!」
「本日のメニューはカボナン包みと野菜スープとパンになります!」
リラーナが腰に手をあて胸を張って言った。
「へぇ……なるほど」
必死に頭のなかで考えているとウィスさんがプッと吹き出した。
「ルーサちゃん、分かった?」
ニッと笑ったウィスさん。あ、バレてる。
「あ、いえ、その……分かったような分からないような……」
「アハハ、正直! ようするに魔石がたくさんありすぎると他の仕事にまで影響が出るから制限されてるんだよね」
ウィスさんは簡単に説明してくれた。やれやれと言った顔のダラスさんが溜め息を吐く。
「でもルーサちゃんは国家魔石精製師になるんだろう?」
「はい……出来ればなりたいです」
なりたい、というよりならないといけない気がする。国家資格を取って、立派に魔石精製師にならないと皆の元に帰れない。
神妙な面持ちになっていたのか、ウィスさんは私の頭を撫でた。
「ゆっくり頑張れば良いよ。皆、神託を受けてからそんなすぐに資格を得るわけじゃないし、試験を受けられる歳になるまでも時間はあることだしね」
「そうそう、ゆっくり一緒に頑張ろうよ」
リラーナも私の肩をぎゅっと抱き締めた。
「ありがとう」
フフ、とリラーナと顔を見合わせ笑う。
「さて、じゃあ僕は帰るとするよ。お二人さん、明日待っているからね」
そう言ってウィンクしながらウィスさんは去って行った。
その日はウィスさんが帰ったあとは、ひたすら精製魔石の練習だった。ゴリゴリゴリゴリと石を砕き、ひたすらろ過と蒸留を繰り返し、魔力を注ぐ練習。
一度ろ過、蒸留したものはすぐに魔力を注がないと使い物にならない。だから一度失敗すると、結局一からやり直しとなる。
ろ過や蒸留は何度もやるうちに慣れてはくるが、魔力で結晶化させていくのだけがどうしても上手くいかない。
水のままだったり、粘りまでは出ても手に取ると流れ落ちてしまうほどだったり、スライム状になったとしてもそこから結晶化までがいかない。
「うぐぐ……難しい……なにが駄目なんだろ」
そもそもまだ十歳、魔力量もそれほどない。従ってあっという間に私の魔力は尽きてしまった。がっくり。
「焦るな。そんなすぐに上手くいくはずがないだろう」
「…………」
ダラスさんは自分の仕事をしながら、こちらを見ずに言った。
「今日はもうやめておけ。店番でもしていろ」
「はーい」
悔しいけどどうしようもないしね。大人しく机の上を片付け、店に出た。
リラーナが店に置かれた魔石を磨いている。
「ルーサ、お疲れ、こっちはもうすぐ店閉めるし、夕食の用意をしにいきましょ」
「うん」
外へと店の看板を片付けに出ると、辺りはすでに日が沈みかけていた。夕陽が差し込み、あちこちから良い匂いが漂ってくる。
店の看板を片付け、店を閉める。リラーナは夕食の準備に取り掛かるため、キッチンへと向かった。
今日は私も料理を教えてもらおう! と、意気込んでリラーナの手伝いをした。
「まずは魔導具の使い方よね。魔導具の使い方はほぼどれも同じ、その魔導具に埋め込まれてある魔石に魔力を流すの。魔法じゃなくて魔力ね」
あえて『魔法じゃない』と言ったのは、『魔力』と『魔法』は違うからだ。魔法は体外に放出するもの、魔力は体内に宿るもの。
「魔法を放出するんじゃなくて、魔石に魔力を流す。ほんの少しの魔力をね。だから体外に放出される訳でもないし、魔法が使えない人だって魔導具は使える。見てて」
そう言ってリラーナはコンロに手を伸ばす。鍋に水を入れコンロに置くと、すぐ手前にある魔石に触れた。そのとき「カチッ」という音がし、徐々に鍋のなかの水が沸々と沸き出した。
「これってどうなってるの? 火がないよね?」
見るからに火は見えない。魔石が埋め込まれてはいるが、コンロ自体は平たいただの机のようなものだ。鍋を置くための目印だろうか、円が描かれてはいるが。
「この魔石にね、魔力を送ると、この鍋の下にある円の周りに熱が籠るの。そしてそこから鍋と反応してさらに熱を上げていく。送る魔力の量で火力が決まっていくわ」
そう言うとリラーナはもう一度魔石に魔力を込めた。すると鍋の水はぼこぼこと一気に噴き零れそうなほどになっていた。
「どの魔導具も埋め込まれた魔石に魔力を送って作動させるのは同じね。冷蔵庫みたいに常に作動させておくものは、最初に魔力を送った時点で、切らないようにするから常にずっと作動しているけど」
「へぇ」
「魔石によって付与されている魔力が違うし、使う人間は魔力を送って発動するきっかけを与えるだけ、って感じかな」
顎に手をやり考えながら言葉にするリラーナ。
「なるほど」
だから魔法は誰でもとはいかないが、魔導具は誰でも扱えるわけだ。
「さて、じゃあ魔導具の使い方も分かったなら、料理をしていきましょ!」
「うん!」
「本日のメニューはカボナン包みと野菜スープとパンになります!」
リラーナが腰に手をあて胸を張って言った。
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