【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
上 下
18 / 247
第2章《修行》編

第17話 魔導具使用講座

しおりを挟む
「魔石精製師が創れば創るだけ魔石が出来る。それを手当たり次第に売ってみろ。飽和状態になって魔石の価値が下がる。魔石の価値が下がるということは魔導具の価値も下がる。魔導師は仕事自体は増えるが負担も増える。魔石が無駄に増えるというだけで市場が混乱するんだ。だから魔石を売るには国家魔石精製師の資格を持つものしか出来ない。国が店と魔石の数を管理しているんだ」

「へぇ……なるほど」

 必死に頭のなかで考えているとウィスさんがプッと吹き出した。

「ルーサちゃん、分かった?」

 ニッと笑ったウィスさん。あ、バレてる。

「あ、いえ、その……分かったような分からないような……」
「アハハ、正直! ようするに魔石がたくさんありすぎると他の仕事にまで影響が出るから制限されてるんだよね」

 ウィスさんは簡単に説明してくれた。やれやれと言った顔のダラスさんが溜め息を吐く。

「でもルーサちゃんは国家魔石精製師になるんだろう?」
「はい……出来ればなりたいです」

 なりたい、というよりならないといけない気がする。国家資格を取って、立派に魔石精製師にならないと皆の元に帰れない。

 神妙な面持ちになっていたのか、ウィスさんは私の頭を撫でた。

「ゆっくり頑張れば良いよ。皆、神託を受けてからそんなすぐに資格を得るわけじゃないし、試験を受けられる歳になるまでも時間はあることだしね」

「そうそう、ゆっくり一緒に頑張ろうよ」

 リラーナも私の肩をぎゅっと抱き締めた。

「ありがとう」

 フフ、とリラーナと顔を見合わせ笑う。

「さて、じゃあ僕は帰るとするよ。お二人さん、明日待っているからね」

 そう言ってウィンクしながらウィスさんは去って行った。



 その日はウィスさんが帰ったあとは、ひたすら精製魔石の練習だった。ゴリゴリゴリゴリと石を砕き、ひたすらろ過と蒸留を繰り返し、魔力を注ぐ練習。
 一度ろ過、蒸留したものはすぐに魔力を注がないと使い物にならない。だから一度失敗すると、結局一からやり直しとなる。
 ろ過や蒸留は何度もやるうちに慣れてはくるが、魔力で結晶化させていくのだけがどうしても上手くいかない。

 水のままだったり、粘りまでは出ても手に取ると流れ落ちてしまうほどだったり、スライム状になったとしてもそこから結晶化までがいかない。

「うぐぐ……難しい……なにが駄目なんだろ」

 そもそもまだ十歳、魔力量もそれほどない。従ってあっという間に私の魔力は尽きてしまった。がっくり。

「焦るな。そんなすぐに上手くいくはずがないだろう」

「…………」

 ダラスさんは自分の仕事をしながら、こちらを見ずに言った。

「今日はもうやめておけ。店番でもしていろ」
「はーい」

 悔しいけどどうしようもないしね。大人しく机の上を片付け、店に出た。
 リラーナが店に置かれた魔石を磨いている。

「ルーサ、お疲れ、こっちはもうすぐ店閉めるし、夕食の用意をしにいきましょ」
「うん」

 外へと店の看板を片付けに出ると、辺りはすでに日が沈みかけていた。夕陽が差し込み、あちこちから良い匂いが漂ってくる。

 店の看板を片付け、店を閉める。リラーナは夕食の準備に取り掛かるため、キッチンへと向かった。
 今日は私も料理を教えてもらおう! と、意気込んでリラーナの手伝いをした。

「まずは魔導具の使い方よね。魔導具の使い方はほぼどれも同じ、その魔導具に埋め込まれてある魔石に魔力を流すの。魔法じゃなくて魔力ね」

 あえて『魔法じゃない』と言ったのは、『魔力』と『魔法』は違うからだ。魔法は体外に放出するもの、魔力は体内に宿るもの。

「魔法を放出するんじゃなくて、魔石に魔力を流す。ほんの少しの魔力をね。だから体外に放出される訳でもないし、魔法が使えない人だって魔導具は使える。見てて」

 そう言ってリラーナはコンロに手を伸ばす。鍋に水を入れコンロに置くと、すぐ手前にある魔石に触れた。そのとき「カチッ」という音がし、徐々に鍋のなかの水が沸々と沸き出した。

「これってどうなってるの? 火がないよね?」

 見るからに火は見えない。魔石が埋め込まれてはいるが、コンロ自体は平たいただの机のようなものだ。鍋を置くための目印だろうか、円が描かれてはいるが。

「この魔石にね、魔力を送ると、この鍋の下にある円の周りに熱が籠るの。そしてそこから鍋と反応してさらに熱を上げていく。送る魔力の量で火力が決まっていくわ」

 そう言うとリラーナはもう一度魔石に魔力を込めた。すると鍋の水はぼこぼこと一気に噴き零れそうなほどになっていた。

「どの魔導具も埋め込まれた魔石に魔力を送って作動させるのは同じね。冷蔵庫みたいに常に作動させておくものは、最初に魔力を送った時点で、切らないようにするから常にずっと作動しているけど」
「へぇ」
「魔石によって付与されている魔力が違うし、使う人間は魔力を送って発動するきっかけを与えるだけ、って感じかな」

 顎に手をやり考えながら言葉にするリラーナ。

「なるほど」

 だから魔法は誰でもとはいかないが、魔導具は誰でも扱えるわけだ。

「さて、じゃあ魔導具の使い方も分かったなら、料理をしていきましょ!」
「うん!」

「本日のメニューはカボナン包みと野菜スープとパンになります!」

 リラーナが腰に手をあて胸を張って言った。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

処理中です...