【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第2章《修行》編

第16話 国家魔石精製師

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「ルーサ、こいつはさっき言っていたウィスだ。いつもうちの魔石に魔力付与してもらう魔導師だ」

「やあ、お嬢さん。僕はウィス。二十六歳独身だよ」

 そう言って片手を取り、手の甲にキスをした。え、なにこの人、挨拶のキスをするって貴族なの?
 キョトンとしてしまい、固まっていたらダラスさんがウィスさんの頭を小突いた。

「ガキになにやってんだ」
「ガキだなんて失礼な。立派なレディじゃないか。ねぇ、ルーサちゃん」

 片手を握られたままウインクをされた。えぇっと、こ、こういった人は初めてでどうしたら良いのか分からない……。あわあわしながらリラーナに助けを求め見詰めた。

 その視線に気付いたのかリラーナがプッと吹き出した。

「アハハ、ウィスさん、ルーサが困ってるからその辺にしてあげてよ。ルーサも気にしないで良いよ。ウィスさんて誰にでもこうだから」
「リラーナちゃんも酷いなぁ。僕が軟派な男みたいじゃないか」
「え、違うの?」

 やれやれと言った顔で肩をすくめたウィスさんにリラーナは爆笑していた。フフ、なんだか二人のやり取りが面白い。悪い人じゃなさそうね。

「いやぁ、それにしても本当に急にどういう心境の変化だい? 今まで一度も弟子なんか取ったことないじゃないか」

 ウィスさんは私の手を離すと再びダラスさんに向き直った。

 ダラスさんて今まで弟子を取ったことないんだ……。じゃあなんで私を弟子にしてくれたのかしら……。

「理由なんてない。頼まれたから弟子にしただけだ」
「ふーん?」

 なんだか怪しいなぁ、と言いながらウィスさんは顎に手をあて、ダラスさんを見たが、おそらくダラスさんはなにも言う気はないのだろう。顔色一つ変える様子はない。

「まあ良いや。ルーサちゃん、これからうちにもお使いで来てくれるなら、明日おいでよ」
「明日?」
「うん、ちょうどダラスさんの魔石を買い取ったところだから、明日魔力付与してロンさんのところに持って行く予定なんだ。魔力付与や魔導具屋も見てみたくない?」

 見てみたい! 見てみたいけれど……行って良いのかしら……ちらりとダラスさんを見る。その視線に気付いたのだろう、ダラスさんは小さく溜め息を吐き頷いた。

「まあこれも勉強のうちだと思って行って来たら良い。リラーナも一緒に行って来い」
「はーい」

 やった!! と、リラーナと二人で笑い合った。

「よし、じゃあ、明日朝からおいでよ。うちの作業場はリラーナちゃんが知ってるから大丈夫だろ?」
「えぇ、大丈夫!」

 リラーナは元気よく返事をした。ウィスさんは魔導師ではあるが、魔導騎士とかではないらしい。主に生活魔法を中心とした魔力付与を担当しているため、王都内に魔力付与のための作業場があるそうだ。

「僕は騎士団に所属出来るほどの魔力はなかったからねぇ」

 私の素朴な疑問を感じ取ったのか、そう言いながらウィスさんは笑った。

「ダラスさんは魔導騎士団にも魔石を納めてるんだよね?」
「あぁ」
「凄いよね、魔導騎士団。どんな付与をしているのか見てみたいもんだよ」

 自分で言って自分でうんうん、と頷いている。

 魔導騎士団に納められている魔石には騎士団所属の魔導師が付与を行うらしい。それは強力な魔力を付与するのだろう、と皆が想像をする。実際騎士団以外の人間には見ることが叶わないのだから想像するしかないのだけれど。

「でもまあ僕からしたら魔石精製師が一番大変だと思うね」
「?」

 なぜ魔石精製師が一番大変なのかしら。意味が分からずキョトンとした。そんな私を見るとウィスさんは笑う。

「だってさ、魔石精製師だけが、国家資格を取らないといけないんだよ? 魔導師も魔導具師もわざわざ国家資格なんか取る必要はない。魔石精製師だけが国の試験を受けないといけないなんて大変じゃないか。僕なら絶対嫌だねぇ」

 アハハ、と笑いながらウィスさんは言った。

 こ、国家魔石精製師になるのってそんなに大変なの? 試験てそんなに難しいの? 安易に神託さえあれば簡単になれるものだと思っていた。どうやらそうではないらしい。
 ど、どうしよう……もしなれなかったら……。不安な顔になっていたのか、ダラスさんが溜め息を吐きながらウィスさんを小突いた。

「おい、余計なことを言って不安にさせるな」
「え、あ、ご、ごめんよ、ルーサちゃん!」

 ウィスさんは謝ってくれたが、いやでも本当のことなのよね……不安げにダラスさんを見た。

「国家魔石精製師は確かに国の試験を受けて合格しないとなれない。十六歳以上から誰でも受けることは出来るが、皆修行をしてからとなるから大体十八歳くらいで受けているな。俺もそうだった」

 ダラスさんも十八で試験を……。

「魔石精製師にだけ国家資格を求められるのは、魔石を精製する技術が特殊だということと、誰もが魔石を売買することがないように、だな」
「?」
「魔石の店を持つには国家魔石精製師の資格を持つ人間しか出来ない。魔石屋の数は国が管理している。それは魔石の価値を変動させないためだ」
「魔石の価値を変動させない……」
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