【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第2章《修行》編

第13話 新たな生活

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「さてと、じゃあとりあえずルーサの部屋に案内するね。昨日慌てて片付けたからちょっとごちゃごちゃしてるけど」

 リラーナが私の荷物を持ち店の裏へと促す。ダラスさんは私の頭をポンと撫でると、店のカウンターへと戻った。

 カウンターを通り抜け、奥の部屋へと入るとそこは作業部屋のような、今まで見たこともないようなものがたくさんある部屋だった。

「ここは父さんと私の作業場。まあほとんど父さんのだけど」

 アハハ、と笑いながら説明してくれる。店と同じくらいの広さはあるだろうか、大きな机の上には色々な器材や本、それにまだ店に並ぶ前の魔石や原石だろうか、輝きのない石も置いてある。棚にも色々なものが置いてあり、なにもかもが見るもの全て新鮮で言葉にならなかった。

「フフ、ルーサ、口が開きっぱなしよ」
「あ! う、うん」

 明らかにソワソワしながら周りをキョロキョロ見回しているのがリラーナには面白かったのだろう、クスクスと笑われる。

「作業場を見られるなんて嬉しい! リラーナの魔導具もここで作るの?」
「えぇ。まだまだ私は見習いだけどね。週に一度、私も魔導具屋のロンさんのところで修行してるの。フフ、だからルーサと一緒」

 そう言いながらリラーナは私の背中をバシッと叩いた。

「いつか私が魔導具師になって、ルーサも魔石精製師になったら、一緒にお店を出さない?」
「お店!?」
「えぇ! 貴女の魔石を私の魔導具に埋め込むの! それを売り出すお店!!」
「二人のお店……素敵!!」
「でしょ?」

 ニッと笑うリラーナ。きっと私を元気付けようとしてくれているんだろうなぁ。その気持ちが嬉しかった。

「あ、でも魔石に魔法を付与してくれる魔導師も募集しないとね」
「魔導師……」
「うん、基本的に《魔石精製師》《魔導具師》《魔導師》は協力関係にあるからねぇ」

 リラーナが簡単に説明をしてくれた。
 基本的に《魔石精製師》《魔導具師》は個々に仕事をすることはあまりないそうだ。《魔石のみ》《魔導具のみ》で売ることもあるにはあるが、基本的には魔石には魔力を付与しないとただの石。魔導具には魔石を埋め込まないとただのガラクタ。どちらもそれだけでは使えない。

 だから魔石精製師が魔石を作り、魔導師がその魔石に魔力を付与する。魔力の付与された魔石を魔導具師が魔導具に埋め込んで完成させる。それが基本だ。

「魔導師は魔法が使えるから国の騎士団に所属したり、治癒師になったり、生活魔法程度ならそれで商売をしたり、魔導具師になったりとかしてるわね。ちなみに私は魔導具師としての神託だったから、魔力はあっても魔法は使えないし魔導具一本だけどね!」

 ニカッと笑うリラーナ。本当に魔導具が好きなんだな、と、こちらまでなんだか楽しくなる笑顔。

 基本的にこの世界の人は、皆魔力自体は持っているらしいが、それを魔法として発動させることが出来るかどうかは能力次第らしい。だからリラーナも魔導具を作るために必要な魔力コントロールは出来るらしいが、魔導師のような魔法を発動することは出来ない。もちろん私も。

 リラーナと一緒にお店かぁ……両親との別れで落ち込んでいた気持ちもおかげで前向きになれた。

「ありがとう、リラーナ。いつかお店出そうね!」
「フフ、これからよろしくね」

 リラーナは私の頭を撫でると、作業場から続く扉に向かった。

「こっちの扉から居住の部屋に繋がってるから」

 そう言って扉を開け進むと、廊下が見えた。廊下にはいくつか扉があり、ひとつずつ説明をしてくれた。
 作業場に一番近いところにある扉はトイレや風呂などの水回り。手洗いや洗濯するための桶もあった。

「ルーサって今までお屋敷に住んでたのよね? 洗濯とか料理とかしないといけないけど大丈夫?」
「…………」

 今まで屋敷に住んでいたときは全て侍女がやってくれていた。これからは自分でしないといけない……出来るかしら……ちょっと心配になるけれど……頑張るしかないわよね……。
 これからは全て自分でするのよ。着替えも乳母のエナが手伝ってくれていた。食事もなにもかも全て用意されていた。それがどれだけ恵まれていたのか。

 少し心配そうな顔のリラーナ。

「だ、大丈夫! 頑張る! でも……あの……最初は教えて欲しい……」

 こんなことも分からないのか、ということがきっと多々出てくる。そんなときリラーナに愛想を尽かされてしまう、なんてことになりたくない。

「ハハ! そんなこと、もちろん! ルーサならすぐ出来るよ」

 リラーナは笑った。きっとリラーナなら出来ない私を笑ったりしない。見限ったりしない。そう思えた。良かった、リラーナがいてくれて。


 水回りの扉の反対側にはキッチンと食卓のある部屋だった。

「食事は大体私が用意してるけど、ルーサも料理覚えてみる?」
「うん!」
「フフ、じゃあ一緒に作ろう! ちなみに父さんはたまに作るけど……とんでもないものが出来上がるからあまり作らせない……ハハ」

 とんでもないもの……どんななんだろう……逆に気になる。

 アハハ、と笑いながらリラーナは次に向かった。
 一階は作業場と水回りと食事場。二階が各々の部屋らしい。廊下の突き当りに二階へと階段が伸びる。少し薄暗い階段を昇りきると、再び廊下が現れ、扉が四つあった。
 一つはダラスさんの部屋、一つはリラーナの部屋、そして残り二つは物置き部屋と……

「母さんの仕事部屋だったの。そこを片付けたからルーサが使って」
「え!! お母様の部屋!? そ、そんな大事な部屋使えない!!」

 確か、リラーナのお母様はリラーナが小さい頃に病気で亡くなったと聞いた。そんなお母様の想い出の部屋だなんて……。

「大丈夫よ、今は物置部屋みたいになっちゃってるし。母さんだって物置部屋になっているより使われたほうが嬉しいでしょ!」

 そう言ってリラーナは躊躇なく部屋の扉を開けた。
 部屋の中は大きなクローゼットと机、そして綺麗に整えられたベッドがあった。

「使い古しで悪いけど我慢してね。ベッドのシーツは新しいから!」
「ううん、ありがとう。十分よ」
「周りに置いてあるガラクタはまた片付けるからごめんね」

 部屋の隅に寄せられた箱の山。

「中身は大事なものじゃないの?」
「ううん、私が作った魔導具失敗作」

 アハハ、と笑うリラーナ。どうやら物置にしていたというのは本当だったようだ。

「じゃあ荷物を置いたらキッチンやお風呂の使い方を教えるわね」

 荷物自体はそんなにはない。元々持って来ていた服はとても平民が着るような服ではない。何着か王都の店で買い直したものを持って来た。それらをクローゼットに片付け、リラーナと一緒にキッチンまで戻った。
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