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第1章《因果律》編
第10話 王都散策
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「お疲れ様でございました。無事、洗礼式と神託は終わられましたか?」
魔法陣は紫色の輝きを徐々に小さくすると落ち着いた。目の前には先程の女神の神殿に送ってくれたおじいちゃんと女性がいた。
「はい、ありがとうございました」
お父様はおじいちゃんと少し会話しお礼を言うと、おじいちゃんは私の目の前に立ち、祈りを捧げてくれた。
「これからの貴女の人生がより良きものでありますように」
「ありがとうございます」
神殿にいたおばあちゃんよりも優し気な表情で祈りを捧げてくれた。嬉しい。
ニコリと笑ったおじいちゃんは、女性とともに頭を下げ、私たちが大聖堂を後にするのを見守ってくれていた。
大聖堂の外へと出るともう太陽は天へと昇りきっていた。朝のひんやりとした空気はなくなり、すっかり暖かい。街からも賑やかな声が聞こえて来る。
「さて、もう昼過ぎになってしまったからお昼を食べに行こうか」
「うん、お腹ペコペコ!」
行きと同じく馬車に乗り込み街へと戻る。
朝はまだ人がまばらだったが、今は大勢の人で賑わっている。
せっかく天気が良いのだからと、露店で軽食を買って食べようということになった。運河沿いは馬車道とは別に遊歩道があり、ベンチも設置されている。お父様が自ら露店で購入し、持って来てくれる。これまたお気に入りなのだそう。
見た目はただのパン? しかし一口齧るとなかには具がたっぷりと入っていて、なにやら濃い味付けの肉と野菜を炒めたようなものが詰まっている。
「うん、美味しい!」
「そうだろう? ピスパといってな、具材揚げパンだ」
「具材揚げパン……揚げパンなんかあるんだね」
前世の記憶にも揚げパンってあったなぁ、なんて思い出した。
「あー、屋敷では揚げパンは出たことがないからな。街では露店でよく作られているよ」
「へ~」
お父様は私が珍しいものを見た、と思ったんだろうな。どんなふうに作られて売られているのかを意気揚々と説明してくれた。いや、そこは別に気にならなかったんだけどね……アハハ。
「さて、腹ごしらえも終わったし、ミラ、ルーサと散策でもしておいで」
「…………えぇ、そうね」
お父様はお母様にそう声を掛けた。お母様は少しだけ心配そうにお父様を見詰めたが、すぐさま私のほうに向きなおり、ニコリと笑った。
「ルーサ、お母様と遊びに行きましょうか」
「お父様は?」
「お父様はちょっとお仕事があるのよ」
「えぇ~」
不貞腐れた顔をして見せると、お父様は笑いながら私の頭を豪快に撫でた。
「アハハ、そう拗ねるな。用事が終わればすぐに合流するよ。それまではお母様と楽しんでおいで」
「はぁい」
こういうときはいくら拗ねようが無駄だということは分かっているので、無駄な努力は致しません。
お父様は手を振り出かけて行った。
「さあ、ルーサ、なにを見てまわりたい?」
「魔石屋!」
「えぇ、魔石屋さんは昨日も見たじゃないの」
「だってリラーナになんの神託だったのか教える約束だし、本を借りる約束もしてるし!」
「あぁ、そうだったわね。うーん、でも魔石屋さんに行くと、貴女ずっとそのままになっちゃうでしょ? 魔石屋さんは最後にしましょう」
「えぇ~」
拗ねてみたものの、確かにお母様の言う通り! きっとまた夜まで魔石屋にいてしまうことだろう。それだと全く王都観光は出来ない。さすがに自分でも分かった。
「うーんと、じゃあ、今まで行ったことがないお店とか行ってみたいわ!」
「そうね、じゃあ行きましょう」
お母様と手を繋ぎ、護衛一人と侍女一人と共に王都散策へ!
王都の広さは他の街とは比べ物にならないくらいに大きい。
ローグ伯爵領にある街、元々田舎街だがそれでも小さいというほどの街ではない。それなりに店もあるし、小さな教会もある。街の人々も多い。
王都の広さはそんなローグ伯爵領にある街をすっぽりと飲み込んでしまうほどの大きさがあるのは当然だが、ローグ伯爵領の街を十倍ほど大きくしたのではないかと思えるほど大きかった。
王都、この国の王が住んでいる街なのだ。そりゃ当然か。
他の街を見たことはないけれど、王都はとても整備が整っていると思う。街中の道路は全て石畳で舗装されている。馬車が往来出来る道幅を確保し、左側通行を徹底しているようで馬車同士がぶつかることはない。
人が往来する道は柵のようなもので区切られ、馬車道とは区別されている。その歩道沿いに商業の建物が並んでいるのだ。
商業区、居住区、貴族街と別れていて、商業区を抜けると居住区が広がる。
貴族街には平民が簡単には入られないようになっていた。
城を取り囲むように運河が広がり、城へは王都から大通り正面の橋を渡らないと入ることは出来ない。しかし城を挟み真反対側に同様の橋が架かっている。そこから貴族街へと繋がる。
貴族街へ行くには城の裏門を抜けて行くか、運河沿いにある橋を渡るか、そのどちらも通るときには門のところで許可をもらわねば通れないらしい。会ったこともないお貴族様にはなんの興味もないんだけどね。
街並みは石造りの建物で、ローグ伯爵領では精々二階建てまでしかないのだが、王都は三階建て、四階建ては当たり前だった。
居住区となるとさらに五階建ても普通に並ぶ。凄いわねぇ。
店も飲食、食材、日用品、魔導具、魔石、宝飾、酒場、服の仕立て、武器・防具、など様々な店がある。変わりどころでは護衛、さらには諜報や暗殺といったことを請け負う店もあるとか……話で聞いたことがあるだけなんだけどね……。
あちこち面白そうな店を見付けてはお母様と一緒に入り、色々見たり買ったりと楽しんだ。お父様はなかなか合流してこない。どうしたんだろう、と思っていたが、夕方に差し掛かっていたため、そろそろ魔石屋に行こうとなった。
店までたどり着き扉を開けると、店の奥からダラスさんと話しながら出て来るお父様が見えた。
魔法陣は紫色の輝きを徐々に小さくすると落ち着いた。目の前には先程の女神の神殿に送ってくれたおじいちゃんと女性がいた。
「はい、ありがとうございました」
お父様はおじいちゃんと少し会話しお礼を言うと、おじいちゃんは私の目の前に立ち、祈りを捧げてくれた。
「これからの貴女の人生がより良きものでありますように」
「ありがとうございます」
神殿にいたおばあちゃんよりも優し気な表情で祈りを捧げてくれた。嬉しい。
ニコリと笑ったおじいちゃんは、女性とともに頭を下げ、私たちが大聖堂を後にするのを見守ってくれていた。
大聖堂の外へと出るともう太陽は天へと昇りきっていた。朝のひんやりとした空気はなくなり、すっかり暖かい。街からも賑やかな声が聞こえて来る。
「さて、もう昼過ぎになってしまったからお昼を食べに行こうか」
「うん、お腹ペコペコ!」
行きと同じく馬車に乗り込み街へと戻る。
朝はまだ人がまばらだったが、今は大勢の人で賑わっている。
せっかく天気が良いのだからと、露店で軽食を買って食べようということになった。運河沿いは馬車道とは別に遊歩道があり、ベンチも設置されている。お父様が自ら露店で購入し、持って来てくれる。これまたお気に入りなのだそう。
見た目はただのパン? しかし一口齧るとなかには具がたっぷりと入っていて、なにやら濃い味付けの肉と野菜を炒めたようなものが詰まっている。
「うん、美味しい!」
「そうだろう? ピスパといってな、具材揚げパンだ」
「具材揚げパン……揚げパンなんかあるんだね」
前世の記憶にも揚げパンってあったなぁ、なんて思い出した。
「あー、屋敷では揚げパンは出たことがないからな。街では露店でよく作られているよ」
「へ~」
お父様は私が珍しいものを見た、と思ったんだろうな。どんなふうに作られて売られているのかを意気揚々と説明してくれた。いや、そこは別に気にならなかったんだけどね……アハハ。
「さて、腹ごしらえも終わったし、ミラ、ルーサと散策でもしておいで」
「…………えぇ、そうね」
お父様はお母様にそう声を掛けた。お母様は少しだけ心配そうにお父様を見詰めたが、すぐさま私のほうに向きなおり、ニコリと笑った。
「ルーサ、お母様と遊びに行きましょうか」
「お父様は?」
「お父様はちょっとお仕事があるのよ」
「えぇ~」
不貞腐れた顔をして見せると、お父様は笑いながら私の頭を豪快に撫でた。
「アハハ、そう拗ねるな。用事が終わればすぐに合流するよ。それまではお母様と楽しんでおいで」
「はぁい」
こういうときはいくら拗ねようが無駄だということは分かっているので、無駄な努力は致しません。
お父様は手を振り出かけて行った。
「さあ、ルーサ、なにを見てまわりたい?」
「魔石屋!」
「えぇ、魔石屋さんは昨日も見たじゃないの」
「だってリラーナになんの神託だったのか教える約束だし、本を借りる約束もしてるし!」
「あぁ、そうだったわね。うーん、でも魔石屋さんに行くと、貴女ずっとそのままになっちゃうでしょ? 魔石屋さんは最後にしましょう」
「えぇ~」
拗ねてみたものの、確かにお母様の言う通り! きっとまた夜まで魔石屋にいてしまうことだろう。それだと全く王都観光は出来ない。さすがに自分でも分かった。
「うーんと、じゃあ、今まで行ったことがないお店とか行ってみたいわ!」
「そうね、じゃあ行きましょう」
お母様と手を繋ぎ、護衛一人と侍女一人と共に王都散策へ!
王都の広さは他の街とは比べ物にならないくらいに大きい。
ローグ伯爵領にある街、元々田舎街だがそれでも小さいというほどの街ではない。それなりに店もあるし、小さな教会もある。街の人々も多い。
王都の広さはそんなローグ伯爵領にある街をすっぽりと飲み込んでしまうほどの大きさがあるのは当然だが、ローグ伯爵領の街を十倍ほど大きくしたのではないかと思えるほど大きかった。
王都、この国の王が住んでいる街なのだ。そりゃ当然か。
他の街を見たことはないけれど、王都はとても整備が整っていると思う。街中の道路は全て石畳で舗装されている。馬車が往来出来る道幅を確保し、左側通行を徹底しているようで馬車同士がぶつかることはない。
人が往来する道は柵のようなもので区切られ、馬車道とは区別されている。その歩道沿いに商業の建物が並んでいるのだ。
商業区、居住区、貴族街と別れていて、商業区を抜けると居住区が広がる。
貴族街には平民が簡単には入られないようになっていた。
城を取り囲むように運河が広がり、城へは王都から大通り正面の橋を渡らないと入ることは出来ない。しかし城を挟み真反対側に同様の橋が架かっている。そこから貴族街へと繋がる。
貴族街へ行くには城の裏門を抜けて行くか、運河沿いにある橋を渡るか、そのどちらも通るときには門のところで許可をもらわねば通れないらしい。会ったこともないお貴族様にはなんの興味もないんだけどね。
街並みは石造りの建物で、ローグ伯爵領では精々二階建てまでしかないのだが、王都は三階建て、四階建ては当たり前だった。
居住区となるとさらに五階建ても普通に並ぶ。凄いわねぇ。
店も飲食、食材、日用品、魔導具、魔石、宝飾、酒場、服の仕立て、武器・防具、など様々な店がある。変わりどころでは護衛、さらには諜報や暗殺といったことを請け負う店もあるとか……話で聞いたことがあるだけなんだけどね……。
あちこち面白そうな店を見付けてはお母様と一緒に入り、色々見たり買ったりと楽しんだ。お父様はなかなか合流してこない。どうしたんだろう、と思っていたが、夕方に差し掛かっていたため、そろそろ魔石屋に行こうとなった。
店までたどり着き扉を開けると、店の奥からダラスさんと話しながら出て来るお父様が見えた。
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