【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第1章《因果律》編

第7話 女神の神殿

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 聖女の像の足元に魔法陣。小さな部屋ほどの大きさがありそうな魔法陣が描かれていた。白い線で描かれた魔法陣の上へと促され、踏んで消してしまわないかしらと心配になる。
 恐る恐る足を踏み入れると、何で描かれているのかは分からないが、踏んだからといって消えるものでもなかった。

「フフ、この魔法陣は特殊なインクで描かれているので、踏んだからといって簡単には消えません。気にせずお進みください」

 おじいちゃんは少し微笑み、中心部まで促す。
 ゆっくりと進み魔法陣の中央で立ち止まると、お父様とお母様も私の両脇にと立った。

「それでは転移を行います」

「転移!?」

 お父様のほうをガバッと見上げると、ニコリと笑い私の頭に手を置いた。

「大丈夫だよ、ここでジッとしているだけだ。すぐ終わる」

 お母様も私の肩を抱き微笑んだ。

 おじいちゃんはお父様と目を合わせると頷き、一歩後ろに下がる。そして女性と二人で声を合わせ、なにかを呟き出した。
 聞きなれない言葉を二人で合わせながら呟いていく。その言葉に合わせるようになにやら辺りに風が吹いたかと思うと、ぼんやりと皆の顔が下からなにかに照らされていた。

 足元を見ると、先程まで白い線で描かれていた魔法陣が淡く光り出し、紫色の光を放ち輝き出した。魔法陣の周りでは風が巻き起こり、おじいちゃんと女性のローブが揺れている。

 私たちの服も風に揺られ、髪が踊る。お父様とお母様は私の身体をしっかりと抱き、小さな声で「大丈夫」と呟いた。

「女神アシェリアンのご加護がありますよう」

 おじいちゃんはこちらを見ると優し気な顔でニコリと笑った。
 その瞬間、魔法陣は眩い光を放ち、おじいちゃんと女性の姿は消えた。



 魔法陣の眩い光に包まれ、思わず目を閉じていたが、恐る恐る目を開ける。

 そこには先程の場所とは違い、目の前には巨大な空間が広がっていた。おじいちゃんと女性の姿はなく、壁や天井も真っ白なためか、大聖堂とは違いとても明るかった。壁は全てを覆っているのではなく、柱で支えられたところからは朝の光が差し込み、大聖堂とは違った神聖さを感じる。

「さて、女神アシェリアンの神殿に着いたよ」
「女神アシェリアンの神殿?」
「そう、ここが洗礼式と神託を行う場所」

 お父様は私の手を取り歩き出した。カツンと靴の音が響き渡る。とても広い空間なのだが何もない。ひたすら白い壁と白い柱と白い天井。しかし、その正面には巨大な像が。

「あの正面に見える像が女神アシェリアンだよ。この神殿は普通では来られない場所にある。各国の大聖堂から転移魔法でしか来られないんだ」
「普通では来られない場所?」

 お父様は女神アシェリアンの像から視線を離さず話し出した。


「女神アシェリアンの神殿は我々の国「アシェルーダ」、獣人の国「ガルヴィオ」、天空人の国「ラフィージア」、それらの三つの国の中心にあたる位置に存在する。
 海の上にあるとか言われているが、はっきりとした場所は皆知らない。結界が張られているんだ。だから各国の大聖堂にある転移魔法からでしか、この神殿に入ることは出来ない。
 皆、洗礼式と神託のときには大聖堂から転移魔法でこの神殿まで来る。そして、洗礼式と神託が終われば、また先程の転移魔法で大聖堂まで戻るんだ」

「へぇぇえ!! 凄いわね!! どうして神殿に結界が張ってあるの?」
「そうだなぁ、なぜかははっきりとは分からないらしいが、やはり女神と対話出来るこの場所を魔物から護るためじゃないかなぁ。初代の聖女が結界を張ったとされているな」
「ふーん、そうなんだ」

 女神と対話出来る……確かにそんな凄いことが出来るなら魔物に襲われないように護ろうとするわよね。
 それにしても初代聖女様って凄いのねぇ。魔王を封印し、魔界との大穴に結界を張り、さらには女神の神殿にまで結界かぁ。凄すぎない!?

 感心しつつ、お父様の話を聞きながら歩みを進めていると、女神アシェリアンの像の傍へとたどり着いた。

「大きい……」

 聖女の像とは比べ物にならないくらい大きい像。見上げると女神は私たちを見下ろしているかのようで、目が合ったかのような錯覚に陥る。優し気でありながら、やはり神というだけあって、凛とした神々しさを感じる。

「お待ちしておりました」

 横から現れたのはおじいちゃんたちと同じ白いローブを着た今度はおばあちゃん。同じ白いローブだけど、少し装飾の付いたローブだ。肩の辺りに金糸で細かい模様が入っている。さっきのおじいちゃんより偉い人だろうか。背後にはもう少し若そうな女性が付き従っている。

「私は洗礼式と女神アシェリアンのお声を届けるお手伝いをさせていただきます」

 優しそうなおばあちゃんだが、ニコリと笑うでもなく表情は崩さず静かに説明をする。

「今から洗礼式を行いますが、その後女神からの神託が下ると思います」

 そしておばあちゃんが女神アシェリアンの像の前に立つと、その前に跪くよう促された。お父様とお母様が少し後ろに下がったのと同時に両膝を付け跪く。
 おばあちゃんは女性から水の入った銀色の皿を受け取り、その水に触れると私の額に当てた。頭を少し下げ、手を胸の前で組み目を閉じる。

「女神アシェリアン、御前に立つ新たなるしもべの信仰をお聞き届けください。サラルーサ・ローグはこれからの人生を女神アシェリアンの忠実なるしもべとなり、御心に従います。聖なる光の輝きをもって貴女の忠実なるしもべに安寧の生をお与えください」

 最後になにか呪文のようなものを呟いたと同時に、おばあちゃんが触れた額から眩い光が放たれ、目の前が真っ白になった。

「「ルーサ!!」」

 なんだかお父様とお母様の私を呼ぶ声が聞こえたような気がする。しかし、その声は遠く、私はなぜかそのまま意識を手放してしまった。
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