上 下
65 / 73
本編

最終話 これからも二人で…

しおりを挟む
「わ、私も……その……ラズが好き……だよ」

 あまりの恥ずかしさに呟くように小さな声にしかならなかった。

「聞こえない。もう一回言って?」

「え、だから、好き、だよ」

「聞こえない」

「もう! ラズが好き!! 大好きだよ!! ずっと好きだったの!! だから辛かったの…………」

 何度も聞かれ、イラッとしてしまい、思わず大声で「ラズが好きだ」と宣言してしまった。
 は、恥ずかしい!

 チラリとラズを見ると顔面を両手で押さえながら、何やら天を仰いでいる。

「あー……」

 声を上げたラズは顔から両手を離し、真面目な顔でこちらを見た。その顔は真っ赤だった。

「ヒナタ、好きだ」

「わ、分かったから!」

「キスして? ヒナタ」

「え?」

 いきなり言われた言葉に思考が追い付かず固まった。
 そんなことにもお構いなしに、ラズは再び抱き締めると顔を近付けて来る。

 私はというと固まったまま、ただひたすらラズのスカイブルーの瞳に釘付けになってしまっていた。
 ラズはゆっくりと顔を近付けると鼻先をちょんと合わせ、確かめるように一度止まった。

 え、これ、私からしろと? ギシッと身体がぎこちなく動く。
 ラズは何も言わず、鼻先を合わせたままじっと見詰めてきた。

 うぅ、逃げられない……。心臓が口から出そうなんですけど!

 ラズの吐息が唇にかかり余計に緊張するが、意を決してそっと唇を近付けた。
 触れるか触れないかの微かな唇の感触。それだけで精一杯だった。

 ラズはクスッと笑うとそのまま瞳を閉じ、そっと優しく唇を合わせて来たのだった。

 なんか余裕で腹が立つ! とか考えたりもしたが、それよりも柔らかい感触をしっかりと唇に感じ、緊張と恥ずかしさとでどうにかなりそうだった。

 唇をしっかりと合わせられたまま……なかなか終わらない。これ、いつまで!? いつまでするの!? とか考え焦っていると、ラズはそっと唇を離した。

 あ、終わった……と、ホッとしていると、ペロリと唇を舐められる。

「!! ラズ!!」

「アハハ」

 顔が思い切り熱くなるのが分かった。きぃい! なんか悔しい~! ラズのくせにー! なんでそんなに余裕な顔なのよー!

 ラズをチラリと見上げると、ラズの首輪が……

「ラズ! 首輪が!!」

「えっ!?」

 ラズの首にあったそれは赤い石が色を無くしたかと思うと、首輪ごと粉々になった。まるで砂のように細かくさらさらと消え去った。

 ラズは首を恐る恐る触る。今までそこにあったものがなくなっている。そのことを確認するように、さわさわと信じられないといった顔で撫で続けた。

「あぁ、本当に首輪が外れた……人間に戻れた……」

 またラズはずびっと鼻をすすった。
 ラズってかなりの泣き虫なんだな。

「良かったね、ラズ」

「あぁ、ありがとう、ヒナタ」

「私は何もしてないけどね」

 アハハ、と笑ったが、ラズは少しはにかみながら、また抱き締めてきた。

「その……元からヒナタが相手だったんだ……」
「?」

 おずおずと話し出すラズ。

「初めて会ったとき、ヒナタの口が首輪に当たって……、好意を持ってくれている相手が石にキスすると色が赤くなるって言われてたんだけど、なんでかヒナタで色が変わっちゃって……多分試作品て言ってたから何かおかしかったんだろ」

 それって……アハハ、そのときラズの猫バージョンが可愛くて……それを好意だと感知したんじゃ……ラズには言わなかったが、なるほどそういうことか、と一人で納得。

「ん? ということは私に付いてきた理由は人間に戻るため?」

 私が他の相手を作っちゃうと元には戻れなくなる、だから見張るため? そして自分を好きになるように仕向けた?

 私がそんな風に考えたことに気付いたのか、ラズは慌てて全力で否定した。

「ち、違う!! いや、まあ最初は確かにヒナタと離れたら俺が人間に戻る可能性がなくなる、と思って付いていったんだけど……」

「やっぱり……」

「い、いや!! 待て待て!! 違う!! 最初はそうだったけど、ずっと側にいて一緒に過ごすうちにそんなこと忘れてた」

「…………」

「氷の切り出しのときのことは、本当に悩んだし、自分でヒナタを守れないのが悔しかったし……今から思えばあのときすでに俺はヒナタが好きだったんだな」

 ラズは思い出すように話す。私の頭にコツンと額を合わせると、真っ直ぐに見詰めた。

「ヒナタに近付く男に嫉妬した。ジークは特にな」

 ラズは苦笑する。

「いつの間にか人間に戻ることよりも、ただヒナタのことが好きなだけになってた」

「ラズ……」

 クスッと笑ったラズは再び唇を合わせてきた。

「好きだ、ヒナタ」

 唇を離しては吐息がかかる距離で「好きだ」と囁き、そしてまた唇を合わせる……。

 な、なんだこれ!! 何この甘々!! ラズってこんなデレデレキャラだったの!?
 ちゅっちゅっ、と繰り返され、恥ずかしさでどうにかなりそう!!

「も、もう分かったから!! もう良いでしょ!?」

 ラズの身体をググッと押したが、体格差もある男性の力に勝てる訳もなく、抵抗も虚しく再び力強く抱き締められ、ラズは顔を埋めた。

「あぁ、ヒナタ……」

 私の首に顔を埋めたラズは首にもちゅっと唇を這わせた。

「ひゃっ、ちょ、ちょっとラズ!! いい加減に……」

 そう文句を言おうとした瞬間、空が一気に明るくなった。

「あ、朝陽が……」

 ラズも顔を上げ、朝陽を眺める。

「俺、人間のままだ……」

「うん」

 ラズにしっかりと抱き締められたまま、二人で朝陽を眺めた。

 すると朝陽に照らされた木々が…………

「こ、これ…………綺麗!!」

「あぁ、そういえば雨上がりだったな」

 辺り一面キラキラと紫に輝く雫。なんて美しい。
 朝陽の輝きと紫の雫の輝き、さらにそれらが混ざり合い、まるで星空の中にいるような輝きに囲まれていた。

「嬉しい、見てみたかったの!」

「俺もヒナタと見られて嬉しい」

 猫の姿がもう見られないのは残念だが、人間の姿のラズに背中からしっかりと抱き締められ、なんて幸せなんだろう、そう思った。



 ラズを諦めようと苦しかった日々が嘘のようだ、とクスッと笑う。あぁ、幸せ。後はラノベの続きが…………

「あっ!!」

「な、なんだ!?」

 突然叫んだものだから、ラズがあからさまにビクッとした。

「ラノベの続き!!」

「はぁ!?」

「私はラノベの続きが読みたかったのよー!!」

「そ、それはもう良いだろ?」

「よくなーい!! アルティス殿下に次の月食聞いて来る!!」

「えぇ!? お、おい!!」



 ラズの腕からすり抜けて街へと向かう道を歩く。慌ててラズは追い掛けてくるけれど、以前この道を歩いたときとは違う。

 ラズは猫ではないし、私ももうこの世界に不安はない。帰りたいと思う気持ちはない……、ということもない。

 いや、だってね、本当にラノベの続きが気になるんだもん。王子と主人公がどうなったか気になるじゃない! ねぇ?

 え? 私たちのその後も気になるって? うん、まあそうだよね!

 でも、それはまた別のお話……、ってね!



「さってと! ラズ、帰って朝ごはん食べよ」

「ん? あ、あぁ、うん」

 ラズに振り向き手を差し出した。
 その手をラズはしっかりと握り締め、紫の煌めきの中、二人で並んで歩く。

 これからも二人で……



 完

***************
後書きです

※週末にその後編を投稿します。

最後までお読みいただきありがとうございました!
これにて「生意気な黒猫と異世界観察がてら便利屋はじめました。大好きなラノベを読むため必ず帰ってみせます!」完結です!

全編にわたってほぼずっと猫のままのラズとカップルというのもどうなんだ!とちょっと思いましたが、今回作者的にはその方が面白かったのでこのようなラストになりました!

しかもラズは書いているうちに、どんどん勝手にヘタレを突っ走りだし(^_^;)
まさかあれほどヘタレになるとは思っておらず…、馬鹿な子ほど可愛いと思ってもらえたら…(^_^;)

ラズも一緒に日本へ、というエンドも少し考えましたが、ラズがヒモ男になる未来しか想像出来ず却下に( ̄▽ ̄;)
色々ありました(苦笑)

今回この作品を書いているうえで、色々思うところがあり書き続けることに苦労した作品でもありましたが、こうやって何とか完結まで行けたのは読んでくださっている皆様のおかげです。
本当にありがとうございました!

それと作中出て来ます、リディア、シェスレイト、イルグストは作者別作品「異世界で婚約者生活!冷徹王子の婚約者に入れ替わり人生をお願いされました」の本編主人公たちです。

さらに「キミカさん」はその「異世界で婚約者生活!」の「カナデ編」に登場します。
キミカさんのその後やリディアが気になる方はぜひそちらもご覧いただけると嬉しいです。

それでは改めまして、皆様、多くの作品のなかからこの作品を選んでいただき、長い間のお付き合い、本当にありがとうございました!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

処理中です...