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本編
第四十九話 ラズの秘密 その二
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師匠は俺に近付いて来たかと思うとスッと首を撫でた。
ぞわっとし、思わず後退る。
「せ、先生! それは!」
アルティスが驚愕の表情を浮かべる。
な、何だ? 何なんだ?
皆の視線が俺の首に集まる。何だ? 首?
恐る恐る首に触れると今までなかったものが指に触れる。ひんやりと冷たく固いもの。何だこれは。
金属のような触り心地のものが首にぴったりと付いている。あちこち撫でまわすと、どうやら首に装着されたようだ……。
「首輪……!?」
は!? 首輪って!? な、何で首輪!? しかもどうやって付けたんだ!?
「な、な、何で首輪……」
恐る恐る師匠の顔を見ると、にこやかに笑った師匠はある方向を指差した。
「?」
「あちらに行ってみなさい」
「??」
言われるがままに師匠が指差した方へとゆっくり向かう。
建物の陰になった薄暗い場所。そこへ入った途端……
「!?」
ゆるゆると視線が下がって行く。な、何だ!? 動きが止まったかと思うと、師匠やアルティスを見上げる位置に視線があった。
意味が分からずキョロキョロと周りを見回すと、何やら毛むくじゃらの脚が見えた。な、何だこれ!? 俺の身体か!? え!?
立ち上がろうとするも四つん這いにしかなれない。尻の方へ目をやると、ひょろりんと長い尻尾が見える。
呆然として言葉すら出なかった。
「これはアルティスと一緒に研究をしていた魔石を埋め込んでいる首輪です。女性や弱き者へ犯罪を犯した者に、刑罰を課すための研究していたとき、偶然出来たのですが、ちょうど良いでしょう」
にこやかに微笑む師匠が怖い……。
「この魔石には装着されたものを猫の姿に変える力を宿しています。そしてこの首輪はある方法でしか外せません」
「ある方法?」
アルティスが微妙な顔をしている。騎士たちは俺の猫姿に驚いているのだろう、目を見開きマジマジと見詰めている。
師匠が俺の前に膝を付いて近付いた。おもむろに鏡を取り出すと、そこに映るのは黒猫……がーん。
「違います、首を見なさい」
首? 鏡で猫になった姿を見せようとしたわけじゃないのか。鏡に映った黒猫(自分)の首を見た。そこには先程装着されたと思われる首輪が……。
「その首輪に金色の石があるでしょう? その石を赤くするのです」
「石を……赤く? どうやって?」
「その石は他人からの好意を受けると赤く変色します。そして赤く変色したあと、その同じ相手から愛を贈られ想いを通じ合わせると首輪が外れる仕組みになっています」
「は!?」
「つまりは愛する相手にその石へ口付けしてもらい、石が赤くなってから相手の方に愛情表現をしていただく、まあつまりは本人への口付けですね。そうすると首輪が自然と外れるはずです」
いやいやいや、ちょっと待ってくれ。どういうことだよ! それってエルフィーネ以外の女を好きになれってことか!?
「そ、そんなの無理……」
そう言いかけたときに師匠は思い出したかのように呟いた。
「まあ今まで試したことがないので、実際に上手く外れるかは分からないのですけどね」
え、何それ、怖っ! それ、もし失敗作なら俺はこのまま一生猫の姿!?
愕然としていると師匠がちょいちょいと手招きをした。
「先程のところまで戻って来なさい」
「?」
言われるがままに建物の陰から戻ると、月明かりに照らされる。すると再びゆるゆると人間の姿に戻ったのだった。
「戻った!!」
しかし首輪は首にあるままだ。
「この魔石には月の力を込めています。ですから、月の光を浴びると人間に戻れます。しかし完全に人間に戻ろうと思うのなら、先程の条件を満たさねばなりません。分かりましたか?」
『真実の愛を知りなさい』
先程師匠が口にした言葉はこういうことだったのか。
俺にエルフィーネ以外の相手を見付けろと。エルフィーネへの俺の想いは真実の愛じゃないと言いたいわけか。なんだよ。好きでいることすら許されないのか。
首輪を外すためにエルフィーネに頼む…………、そんなこと出来るわけないしな。はぁぁあ、俺は一生猫のままかもしれないな……。
「このことは内密に。分かりましたね?」
師匠はアルティスと騎士二人に念押しし、そして「頑張りなさい」と呟くと最後に優しい瞳になりこの場を後にした。
騎士もお辞儀をし去って行くと、アルティスと二人きり。アルティスは神妙な面持ちだった。
「ごめん、ラズ。まさか先生が研究していたその魔術具を使うとは思わなくて……止められなかった、ごめん」
「いやまあ、アルが悪いわけじゃないしな。そもそも忍び込もうとした俺が悪いんだし」
沈黙が流れる。
「まさかラズがエルのことを好きだなんて気付かなかった……」
「あー、いや、まあ、俺自身分かってなくて、でも好きなんだろうなと思って、確かめたくて…………、いや、言い訳だな」
このまま城にいたところで人間に戻れるわけでもなし、どうしたもんかな。
はぁぁ、相手が見付かるとも思えないが、とりあえず城を出るしかないか……。そのことをアルティスに伝えると悲痛な顔を浮かべた。
「どうしても出て行くのかい?」
「あぁ、だってここにいても何も変わらないだろう?」
エルフィーネに頼むわけにもいかないし……。
「…………、まあそうだけど……」
「アル、すまなかった…………。じゃあ行くよ。後はよろしく」
そうやって俺は城を出たわけだが、まさかあの後すぐにあんなことになるとは思わなかった。
ヒナタに出会い、不慮の事故でまさかのキスを首輪に受けるとは! うおぉぉい! 愛がないと石の色は変わらないんじゃなかったのかよ!!
ってことは、ヒナタにキ、キスしてもらわなきゃならないってことだろ!? いやいやいや! ありえないだろ!! 殺されるわ!!
しかもそのためにはヒナタに愛してもらわないといけないわけで……、いや、マジで無理!! 殺される自信しかない!
くっそー、どうすりゃ良いんだよ! 好きでもなんでもない相手に好かれなきゃならなくて、しかもキスしてもらわないといけないなんて……、絶望しかない……。
一緒に過ごしていくうちに情は移ったと思う……、ヒナタに男が近付くと心配になるし許せない。ヒナタは俺にとって必要な存在でもあるわけだし。
でもそれって俺の事情にヒナタを巻き込んでいるだけなんだよな……。
そう思うと……、俺は猫の姿のままでも仕方がないと思うようになってきていた。このまま……猫のままでヒナタの側に……。
そう思っていたのにまさかバレるとは……。城の部屋にまさか月明かりがあんなに入り込むとは! 前日が雨で気付かなかった! くそっ!
しかし、ヒナタを人間の姿で抱き締めて寝ていたのは気持ち良かったな…………、いや、待て、今のなし! こんなこと考えてたら殺される!
正座をしたまま、ヒナタに全てを話した。首輪解除の相手がヒナタであるということは上手く隠したままで……。適当に「愛し愛されないと解除されない」とかなんとか言って誤魔化した。
ぞわっとし、思わず後退る。
「せ、先生! それは!」
アルティスが驚愕の表情を浮かべる。
な、何だ? 何なんだ?
皆の視線が俺の首に集まる。何だ? 首?
恐る恐る首に触れると今までなかったものが指に触れる。ひんやりと冷たく固いもの。何だこれは。
金属のような触り心地のものが首にぴったりと付いている。あちこち撫でまわすと、どうやら首に装着されたようだ……。
「首輪……!?」
は!? 首輪って!? な、何で首輪!? しかもどうやって付けたんだ!?
「な、な、何で首輪……」
恐る恐る師匠の顔を見ると、にこやかに笑った師匠はある方向を指差した。
「?」
「あちらに行ってみなさい」
「??」
言われるがままに師匠が指差した方へとゆっくり向かう。
建物の陰になった薄暗い場所。そこへ入った途端……
「!?」
ゆるゆると視線が下がって行く。な、何だ!? 動きが止まったかと思うと、師匠やアルティスを見上げる位置に視線があった。
意味が分からずキョロキョロと周りを見回すと、何やら毛むくじゃらの脚が見えた。な、何だこれ!? 俺の身体か!? え!?
立ち上がろうとするも四つん這いにしかなれない。尻の方へ目をやると、ひょろりんと長い尻尾が見える。
呆然として言葉すら出なかった。
「これはアルティスと一緒に研究をしていた魔石を埋め込んでいる首輪です。女性や弱き者へ犯罪を犯した者に、刑罰を課すための研究していたとき、偶然出来たのですが、ちょうど良いでしょう」
にこやかに微笑む師匠が怖い……。
「この魔石には装着されたものを猫の姿に変える力を宿しています。そしてこの首輪はある方法でしか外せません」
「ある方法?」
アルティスが微妙な顔をしている。騎士たちは俺の猫姿に驚いているのだろう、目を見開きマジマジと見詰めている。
師匠が俺の前に膝を付いて近付いた。おもむろに鏡を取り出すと、そこに映るのは黒猫……がーん。
「違います、首を見なさい」
首? 鏡で猫になった姿を見せようとしたわけじゃないのか。鏡に映った黒猫(自分)の首を見た。そこには先程装着されたと思われる首輪が……。
「その首輪に金色の石があるでしょう? その石を赤くするのです」
「石を……赤く? どうやって?」
「その石は他人からの好意を受けると赤く変色します。そして赤く変色したあと、その同じ相手から愛を贈られ想いを通じ合わせると首輪が外れる仕組みになっています」
「は!?」
「つまりは愛する相手にその石へ口付けしてもらい、石が赤くなってから相手の方に愛情表現をしていただく、まあつまりは本人への口付けですね。そうすると首輪が自然と外れるはずです」
いやいやいや、ちょっと待ってくれ。どういうことだよ! それってエルフィーネ以外の女を好きになれってことか!?
「そ、そんなの無理……」
そう言いかけたときに師匠は思い出したかのように呟いた。
「まあ今まで試したことがないので、実際に上手く外れるかは分からないのですけどね」
え、何それ、怖っ! それ、もし失敗作なら俺はこのまま一生猫の姿!?
愕然としていると師匠がちょいちょいと手招きをした。
「先程のところまで戻って来なさい」
「?」
言われるがままに建物の陰から戻ると、月明かりに照らされる。すると再びゆるゆると人間の姿に戻ったのだった。
「戻った!!」
しかし首輪は首にあるままだ。
「この魔石には月の力を込めています。ですから、月の光を浴びると人間に戻れます。しかし完全に人間に戻ろうと思うのなら、先程の条件を満たさねばなりません。分かりましたか?」
『真実の愛を知りなさい』
先程師匠が口にした言葉はこういうことだったのか。
俺にエルフィーネ以外の相手を見付けろと。エルフィーネへの俺の想いは真実の愛じゃないと言いたいわけか。なんだよ。好きでいることすら許されないのか。
首輪を外すためにエルフィーネに頼む…………、そんなこと出来るわけないしな。はぁぁあ、俺は一生猫のままかもしれないな……。
「このことは内密に。分かりましたね?」
師匠はアルティスと騎士二人に念押しし、そして「頑張りなさい」と呟くと最後に優しい瞳になりこの場を後にした。
騎士もお辞儀をし去って行くと、アルティスと二人きり。アルティスは神妙な面持ちだった。
「ごめん、ラズ。まさか先生が研究していたその魔術具を使うとは思わなくて……止められなかった、ごめん」
「いやまあ、アルが悪いわけじゃないしな。そもそも忍び込もうとした俺が悪いんだし」
沈黙が流れる。
「まさかラズがエルのことを好きだなんて気付かなかった……」
「あー、いや、まあ、俺自身分かってなくて、でも好きなんだろうなと思って、確かめたくて…………、いや、言い訳だな」
このまま城にいたところで人間に戻れるわけでもなし、どうしたもんかな。
はぁぁ、相手が見付かるとも思えないが、とりあえず城を出るしかないか……。そのことをアルティスに伝えると悲痛な顔を浮かべた。
「どうしても出て行くのかい?」
「あぁ、だってここにいても何も変わらないだろう?」
エルフィーネに頼むわけにもいかないし……。
「…………、まあそうだけど……」
「アル、すまなかった…………。じゃあ行くよ。後はよろしく」
そうやって俺は城を出たわけだが、まさかあの後すぐにあんなことになるとは思わなかった。
ヒナタに出会い、不慮の事故でまさかのキスを首輪に受けるとは! うおぉぉい! 愛がないと石の色は変わらないんじゃなかったのかよ!!
ってことは、ヒナタにキ、キスしてもらわなきゃならないってことだろ!? いやいやいや! ありえないだろ!! 殺されるわ!!
しかもそのためにはヒナタに愛してもらわないといけないわけで……、いや、マジで無理!! 殺される自信しかない!
くっそー、どうすりゃ良いんだよ! 好きでもなんでもない相手に好かれなきゃならなくて、しかもキスしてもらわないといけないなんて……、絶望しかない……。
一緒に過ごしていくうちに情は移ったと思う……、ヒナタに男が近付くと心配になるし許せない。ヒナタは俺にとって必要な存在でもあるわけだし。
でもそれって俺の事情にヒナタを巻き込んでいるだけなんだよな……。
そう思うと……、俺は猫の姿のままでも仕方がないと思うようになってきていた。このまま……猫のままでヒナタの側に……。
そう思っていたのにまさかバレるとは……。城の部屋にまさか月明かりがあんなに入り込むとは! 前日が雨で気付かなかった! くそっ!
しかし、ヒナタを人間の姿で抱き締めて寝ていたのは気持ち良かったな…………、いや、待て、今のなし! こんなこと考えてたら殺される!
正座をしたまま、ヒナタに全てを話した。首輪解除の相手がヒナタであるということは上手く隠したままで……。適当に「愛し愛されないと解除されない」とかなんとか言って誤魔化した。
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