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第7話 真実の愛

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 ひと月後には結婚式を行うことが決まっていた。ダルヴァン辺境伯領で、私の家族ナジェスト公爵家だけを呼び、ダルヴァン辺境伯領の優しい人々に囲まれての式を予定していた。
 それは良かったのだけれど、ここに来て胃の痛くなる手紙がやって来た。

「行きたくないなら行かなくていい。私は行きたくもないし」

「フフ、そういうわけにもいかないですわ」

 国王陛下から直々に王城へ来るようにと手紙が届いたのだ。結婚の祝いもしたいからと書いてはいたが、おそらく実際目にして我々が本当に結婚する意志があるのか確認したいのだろう。
 なんせ始まりがあれだから。

「仕方がありません。旅行だと思って行きましょう。私のことはラキシスが護ってくださるでしょう?」

「!! もちろんだ!!」

 目を見開いたかと思うと、ガバッと私を抱き締めたラキシス。そう、初めて「様」を付けずに呼んでみた。ドキドキしたけれど、嬉しそうで良かったわ。



 そうして我々は王都へと向かった。
 王都へ到着するとナジェスト公爵邸にも向かい、私の両親にも挨拶をしてくれるラキシス。すっかり前髪がなくなり美丈夫になっていたラキシスに、お父様は驚愕の表情となり笑ってしまったわ。

 そして呼ばれた王城では……夜会が開催された。


 私とラキシスはドレスアップし、エスコートしてもらいながら夜会の大広間へと入った。
 するとその場にいた全員が驚愕の顔でこちらを見る。私の姿を確認しそれに驚いたのもあるのだろうが、その横に立つラキシス。私と一緒にいることで『悪魔閣下』だということは皆分かったのだろうが、それがまさかの美丈夫。しかもとてつもなく美しい瞳。
 皆、茫然とラキシスを見詰めていた。

 女性陣は陰で頬を赤らめながらなにかを話している者もいたが、すっかりとその姿に魅了された猛者は婚約者である私がいるにも関わらず、ラキシスにしなだれかかるように話しかけてきた。

 しかしラキシスはあからさまな侮蔑を込めた目で女性を見下ろし睨んだ。これがあの『悪魔閣下』と呼ばれた眼光なのね! とか呑気なことを考えてしまっていた。
 睨まれた女性たちは真っ青になりそそくさと逃げ帰る。フフ、私たちの仲を裂こうとしたって無駄なんですから。

「ロザリア?」

 振り向くとロベルト様がいた。その横には見たことのない女性が……この方が男爵令嬢かしら。
 可愛らしい見た目とは裏腹に強気な表情でこちらを見詰める男爵令嬢の横で、呑気にこちらに歩み寄るロベルト様。

「ロザリア、久しぶりだね。元気だったかい?」

「ごきげんよう、ロベルト殿下。私はもう貴方様の婚約者ではありません。呼び捨てはおやめになってくださいませ。それにもう私はあとひと月ほどで『ロザリア・ダルヴァン』となります」

「あ、あぁ、そうだったね」

 そう言い膝を折り、頭を下げると、ラキシスが私の横へと付き、腰に手を回した。

「我々は顔を出したことでご命令には従ったかと思いますので、このまま失礼いたします。行こうロザリア」

「えぇ、ラキシス」

 にこりと微笑み合った私たちはラキシスのエスコートで踵を返した。

「あぁ、そうだ。ひとつだけ」

 そう言って立ち止まると、振り返りロベルト様と男爵令嬢様に微笑んだ。

「ロベルト様、ありがとうございました。貴方が『真実の愛』を見付けてくださったおかげで、私も『真実の愛』を見付けることが出来ました。私たちはとても幸せですわ。お二人もどうかお幸せに」

 そう言ってラキシスに寄り添った。ラキシスは嬉しそうに私の頬を撫でる。そのラキシスの顔を見て、男爵令嬢がポーッとなっているのは見なかったことにしましょう。精々見捨てられないように頑張ってくださいね、ロベルト様。フフ。



 夜の王城庭園を二人でゆっくりと歩く。灯された明かりが神秘的な美しさだ。空には星が広がりロマンチックだわ。

 うっとりとしていると、突然ラキシスが星を見上げる私の唇に唇を重ねた。

「な、なんですか、突然!?」

 不意を突かれ、一気に顔が火照った。

 ラキシスはニコニコとしながら言った。

「だって嬉しくて」

「なにがですか?」

「君は私とのことを『真実の愛』だと思ってくれていたんだね」

 あ……、さらに一層顔が火照る。

「フフ、夜だというのに、君の顔が赤いのが分かるよ」

「か、からかわないで!」

「可愛いよ、ロザリア」

 どんどんと顔が熱くなる。顔を近付けてきたラキシスはチュッと軽く唇を合わせると、今度は腰に手を回し抱き寄せた。
 そして金色の美しく煌めく瞳で、熱い眼差しを向けられたかと思うと深く口付けられたのだった……。


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