上 下
133 / 136
カナデ編

第三十五話 行方

しおりを挟む
「白皇神社……」

 蒼汰さんは呆然とした。

 依然として鳴り続けるスマホの着信音……。

「そ、蒼汰さん、とりあえず電話に……」

「え、あ、あぁ、うん」

 蒼汰さんは鳴り続けている電話に出た。

「もしもし……、はい……はい……もう少しこの辺りを探します」

 電話を切ると再び蒼汰さんは呆然とし、白皇神社の鳥居を見上げた。

 同じように鳥居を見上げると、鳥居の向こう側には満月が煌々と輝いていた。

「な、なんで……なんでここに……」

 スマホを片手に階段を登ると、キラリと光るものが見えた。
 それは希実夏さんがいつも身に着けていたピアスの片割れだった。

「こ、これ……」

「あ、あ、あぁぁ!!!! なんで!? なんで佐伯が!? うわぁぁぁあ!!!!」

「蒼汰さん!!」

 蒼汰さんはスマホとピアスを握り締め泣き崩れた。

 なんてこと……、なんでこんなことに……、あぁ、どうしたら良いの!?
 蒼汰さん!! 蒼汰さん!!

 地面に蹲る蒼汰さんの頭を必死に抱き締めた。それしか出来なかった。どうすることも出来なかった。
 私はなんて無力なんだろう。

 泣いて泣いて縋るようにしがみついて来た蒼汰さんを必死で受け止め、力の限り抱き締めた。

 そんなことは無意味だ。気休めにしかならない。分かっていたがどうしようもなかった。


「僕のせいだ!! 僕が異世界なんか調べ出したから!! 佐伯をこの場所に連れて来たから!! 僕が佐伯を消してしまった……」

「違います!! 違います!! 蒼汰さんのせいじゃない!! 蒼汰さんのせいじゃないです!!」

 蒼汰さんが私に言ってくれた言葉よ。両親が亡くなったのは私のせいだと思った。それを否定してくれた。
 今度は私の番。希実夏さんが消えてしまったのは蒼汰さんのせいじゃない。絶対に違う。誰のせいでもない。何が原因か分からないのですもの。

 でもきっと私の言葉なんか今の蒼汰さんには届いていない。それでも私にはそれを繰り返すことしか出来なかった。


 しばらくすると洸樹さんも直之さんも一哉さんも集まって来た。
 皆が信じられないといった顔。それはそうよね。まさか希実夏さんが神隠しに遭うなんて。

「事件に巻き込まれたかもしれない、私はおばさんと警察に行くわ」

 洸樹さんはそう言うと蒼汰さんに手を差し伸べた。

「しっかりなさい、蒼ちゃん。もし本当に異世界が関係しているのだとしたら、それを調べられるのはあなただけでしょ」

 蒼汰さんの腕を掴み立たせた洸樹さんは自分をも奮い立たせるように言った。
 そして蒼汰さんをぎゅっと抱き締め、力強く言う。

「きっと希実夏ちゃんは大丈夫! きっとよ」

「洸ちゃん……」

 そう言うと洸樹さんは希実夏さんの実家へと向かった。


 皆、誰も話す気力もなく、このまま解散となった。この後も各々捜索は続ける、何か分かれば共有しようということになった。

 蒼汰さんは実家へと帰って行った。そうよね、きっと希実夏さんのご実家にも行くのでしょう。
 あぁ、私は何も出来ない。なんて無力なのかしら……。
 蒼汰さん……。

 私までもが泣いてしまいそうになる。でもここで泣いても意味がない! 私は泣いていては駄目よ。蒼汰さんを支えたい。希実夏さんを必ず見付けたい。私にはそれだけしかない。





 その日から時間のあるときは希実夏さんの足取りを探すことになった。毎日毎日皆で手分けして探していく。
 何も手掛かりがなかったとしても、毎日諦めなかった。
 何日も、何週間も、何ヶ月も……。

 蒼汰さんはあれからすっかり笑わなくなってしまった。
 いまだに自分のせいだと思っているのだと思う……。
 それが痛々しく、見ていて辛かった。

 洸樹さんも一哉さんも直之さんも、普段通りにはしているが、やはり時折辛そうな顔をする。皆、必死に耐えている。

 蒼汰さんと一緒に異世界について必死に探った。しかし何も出て来ない。
 警察からも何の連絡もない。手掛かりもなく、家出だとも疑われた。そんなはず絶対にない!と蒼汰さんは怒った。

 あんな蒼汰さんは見たことがない。辛い。あんなに辛そうな蒼汰さんを見るのが辛い。





 私はどうしたら良いの……。

 もうすぐ私の誕生日になってしまう……。

 そうなれば元の世界に戻ってしまう……。

 このまま蒼汰さんから離れてしまう……。


 こんなに辛い想いをするなら元の世界に戻ったほうが良いの?

 元の世界に戻ったら、「リディア」に戻ったら、この世界のことは忘れる?

 この辛い記憶も忘れる……?

 蒼汰さんのことも忘れるの……?


「……………………」


 嫌だ!!

 忘れたくない!!

 蒼汰さんを支えたい!!

 私が結ばれることはなくても…………側にいたい…………



 でも、「カナデ」は日本に戻りたいかもしれない。
 私が無理矢理入れ替わりをお願いした。だから戻りたいと思っていて当然よね……。
 きっと誕生日には元に戻ってしまう……。

 私にはどうすることも出来ない……。

 あぁ、私は蒼汰さんを支えることは出来ない……。





 希実夏さんの捜索を続けながらも、私はこのままこの世界にいることは出来ないものかと狡いことばかりを考えていた。
 自分がこんなに自分勝手な人間だったなんて。
「カナデ」に入れ替わりをお願いしたことも、自分勝手な願いだった。でもさらに私は狡くなってしまった。情けない。

 元の世界に戻らないと、と思う気持ち。
 離れたくない、と思う気持ち。

 その二つの想いの間で揺れ動く。

 そうやって悶々とした日々を過ごしている間に誕生日を迎えてしまった。

 この日は特に誰にも伝えていない。別れなければいけないことが分かっているのに、これ以上何かを伝えることが辛かった。

 私は一人でこの世界にやって来た。

 だから一人でこの世界を去らないといけないのよ。



 希実夏さんはいまだに見付からない。

 蒼汰さんは取り憑かれたかのように毎日捜索をしている。

 洸樹さんはお店をしながら時間のあるときに。

 一哉さんは研究の合間に。

 直之さんは大学とバイトがないときに。



 皆がいまだに希実夏さんを探し続けている。それなのに……

 ごめんなさい、私はいなくなります。

 蒼汰さんをずっと支えたかった。
 せめて希実夏さんが戻るまで。

 でももうそれも出来ない。



 自分の部屋で一人、卓上の鏡をテーブルに置き、そのときを待つ。
「カナデ」が魔術を発動させることを。



 あぁ、皆さんごめんなさい。



 そして蒼汰さん……さようなら……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

旦那様は転生者!

初瀬 叶
恋愛
「マイラ!お願いだ、俺を助けてくれ!」 いきなり私の部屋に現れた私の夫。フェルナンド・ジョルジュ王太子殿下。 「俺を助けてくれ!でなければ俺は殺される!」 今の今まで放っておいた名ばかりの妻に、今さら何のご用? それに殺されるって何の話? 大嫌いな夫を助ける義理などないのだけれど、話を聞けば驚く事ばかり。 へ?転生者?何それ? で、貴方、本当は誰なの? ※相変わらずのゆるふわ設定です ※中世ヨーロッパ風ではありますが作者の頭の中の異世界のお話となります ※R15は保険です

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

処理中です...