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カナデ編

第二十七話 御神木

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 とてつもなく大きな樹。私たち全員で両手を広げて囲ってもまだ囲えないほどの太い幹。そして見上げると屋根のように広がる太い枝に無数の葉。

 圧倒される。

 皆、言葉なく立ち尽くしていた。聞こえるのは風で揺れる葉のさざめきだけ。


「凄いでしょ、樹齢三千年以上らしいよ」

 蒼汰さんが呟いた。

 本当に凄い。圧倒されるだけでなく、なんだか不思議な感覚がする。辺りの空気が澄んでいるような。そんな神聖な空気。

「はぁあ、初めて見たけど凄いわね」

 希実夏さんが大樹を見上げながら呟いた。皆、見上げて頷く。

「でしょ? 来て良かったでしょ?」

 蒼汰さんも見上げながら自慢気な顔だ。

 本当に凄い。圧倒される。

 皆思い思いに身体を伸ばしたり、大樹の周りを歩いて眺めたり、周りの景色を見回したりしている。

「で、ここもパワースポットなんだよな?」

 直之さんが蒼汰さんに向かって聞く。

「ここでも数は少ないけれど、やっぱり行方不明事件があるね。さすがに山奥だから遭難と思われているのもあるけどね。パワースポットとしてはやはり不思議な気配を感じる気がするんだよね」
「不思議な気配?」
「うん。御神木を中心に何だか空気が変わるというか……」
「空気が変わる、ねぇ」

 直之さんはやはり怪訝な顔。うろうろと周りを探るように歩き回るが何も感じないのか、首を傾げている。

「水嶌さんは? 何も感じない?」

 蒼汰さんに話を振られ焦ったが、恐らく白皇神社のときのようなことを聞いているのかしら。

「大樹の周りだけ空気が澄んだようには感じます。それが蒼汰さんのおっしゃることと同じかは分からないのですが……」

 少し自信がないので控え目に言ってみた。白皇神社のときは明らかに何か纏わり付くような感覚があった。こちらはそれほどのものは感じない。ただ……、ただ空気が澄んでいるような……。

 そう思いながら大樹を見上げ近付いてみる。

 すると何やらぞわっと何かを感じ慌てて見上げていた顔を戻し周りを見る。

「?」

 何だろう。感じるような感じないような微妙な感じ。

「どうしたの? 水嶌さん?」

 隣に蒼汰さんが立っていた。

「蒼汰さんは何か感じるんですか?」

 隣に立つ蒼汰さんを見上げ見詰める。こちらに振り向いた蒼汰さんと目が合った。

「うーん、何となくなんだけどね。何となく何かを感じる。でも上手く言葉に出来ないんだよね」
「分かります、私も今何かを感じた気がしたのですが、すぐ分からなくなってしまい、何と言って良いのか分からないような感覚なんです」

「!! やっぱり!? やっぱり水嶌さんなら何かを感じてくれると思った!!」

 満面の笑みで蒼汰さんに両手を掴まれブンブンと激しく握手されます。
 あわわわ、ど、どうしたら……。

「こら、蒼汰」

 一哉さんから助っ人が入ります。直之さんのときと違って蒼汰さんの頭にポンと手を置き注意する。

「えー、真崎さん、俺のときと態度違いすぎ!」
「あ? 蒼汰はお前とは違うしなぁ」
「ちょっと! それどういう意味!?」

 直之さんがプンスカと怒っています。フフ。
 蒼汰さんが慌てて手を離し謝ってくれますが、蒼汰さんの異世界スイッチに段々と慣れてきました。

「ご、ごめんね、水嶌さん!」
「フフ、大丈夫です」

 蒼汰さんと顔を見合わせお互い笑った。そして再び大樹に目をやる。

「本当に不思議な感じですよね。何かがありそうな、そうでないような……」
「うん」


 周りを見渡しても平原が広がり特に何もなく、大樹の周りには何もないという異様な光景を不思議に思っても、何かが分かるでもなく、皆、首を捻りながらその場を後にした。

「何かよく分からんままだが、とりあえずバーベキューだな。用意するぞ」

 一哉さんがそう言いながら準備を始めます。

 私と希実夏さんとで野菜などを切り、洸樹さんが何やら別の料理を準備し、残りの男性陣で火起こしをしてくれている。

 何やら火起こしで叫び声が聞こえたりしますが。

「なーにやってんだか」

 希実夏さんが呆れたように言う。

「フフ、楽しそうよねぇ」
「洸ちゃんは何作ってるの?」
「奏ちゃんリクエストよ」
「えー、なになに?」

 洸樹さんがニコニコと「内緒」と言うと、希実夏さんが拗ねたように今度は私に聞いてきた。

「奏ちゃん教えてよ~」
「え、あ、洸樹さんから出来そうなものを聞いて、その中から選んだだけ……」
「奏ちゃん! 内緒よ! 内緒! 食べるときのお楽しみ!」
「えー」

 そんなことを言い合いながら、野菜も切り終わり男性陣の元へと戻る。
 どうやら無事に火起こしは出来たようだ。

「あんたたち何騒いでたわけ?」
「え、アハハ」

 希実夏さんが蒼汰さんに聞いている。

「直之がなかなか火が点かないからって、思い切り吹いたんだよ。そしたら灰が舞い上がってな」

 一哉さんが説明しながら直之さんの首に腕を絡ませ絞めた。

「うぐっ、だって火起こしって風吹きかけるイメージが……」
「だからってあんな勢いよく吹いたら舞うわ!」

 その様子に希実夏さんは「馬鹿ねぇ」と笑い、みんなやはり笑ったのだった。

 テーブルや椅子もセッティングされている。

「さて、焼いて行くぞー」

 一哉さんが肉を網に並べて行く。

 焼く係を変わろうかと一哉さんの側へ行くと、大丈夫だと断られてしまった。

 い、良いのかしら。手持ち無沙汰でどうしたら良いのかそわそわ。

「気にするな、俺は飲みながら食うから」

 一哉さんはコンロの横を陣取りすでにビールを開けていた。

「ちょっと一哉さん! 一人で先に飲まないでよ! みんなで乾杯しようよ!」
「あ? あー、そうだな、すまん」

 希実夏さんに言われ、一哉さんは素直に従った。

 希実夏さんはジュースをコップに入れてくれ、私に渡したかと思うと、他の皆さんにもビールを手早く渡して行った。

「じゃあ蒼汰から一言!」
「え!? 僕!?」
「当たり前じゃない! 蒼汰がリーダーなんだから」

 蒼汰さんは「えぇ!?」と言いながら、少し躊躇いがちに話し出す。

「えーっと、今回は聖冠山に来ましたが、さっき見た感じじゃ特に何も分からずだったので、また明日帰る前にでも……」

 と言った辺りで希実夏さんの突っ込みが入る。

「固い!!」
「え、だって佐伯が僕に喋れって言ったんじゃないか」
「普通に乾杯の音頭くらいで良かったのに」
「えぇ!?」

「ブッ、いや、蒼汰に任せたらそうなるだろ」

 一哉さんが笑ってます。

「とりあえず乾杯しよ」

 希実夏さんが蒼汰さんの背中をバシッと叩き、蒼汰さんから若干呻き声が聞こえた。

「ケホッ、あ、あー、じゃあ……お疲れ様! 乾杯!」

 半ば投げやりに乾杯の掛け声を上げた蒼汰さんに合わせ、皆さん「乾杯」と缶ビールを高く掲げた。私はジュースですけどね。


「洸ちゃん、結局何作ってるの?」

 コンロの上に何やら準備をしている洸樹さん。皆が興味津々で周りに集まる。

「今回奏ちゃんのリクエストでアヒージョとチーズフォンデュよ!」

 全員から「おぉ!!」という声が上がり、さらに一哉さんが声を上げる。

「ワインにピッタリじゃないか!」

 目に見えて嬉しそうに、いそいそとワインを取り出す一哉さんが何だか可愛らしいです。

「ちょっと一哉! 奏ちゃんのためなのよ?」
「分かってるって、ちょっと摘ませてもらうだけで良いから」

 二人がやいやいと言い合っているのが面白いのですが、その隙きに直之さんが食べようとしていますよ?

 直之さんはアヒージョを食べようと箸を伸ばし、フライパンの中からエビを取りパクリと食べた。

「あっつ!!」

「あ! お前一人で何先に食ってんだよ!」
「直之ズルい!」

 一哉さんにも希実夏さんにも突っ込まれ、直之さんは急いで飲み込み涙目になっていた。

「だ、大丈夫ですか!? 火傷とかは!?」

 咄嗟に持っていたジュースを直之さんに渡してしまい、直之さんがグビグビとジュースを飲み干す。

「プハーッ! 熱かったー! 奏ちゃん、ありがとう!」

「馬鹿ねぇ、アヒージョはたっぷりの油が付いてるから、気をつけて食べないと火傷するわよ?」
「そ、そういうことは早く言ってよ!」
「あんだが聞かずに食べるからでしょ」

 洸樹さんにたしなめられ、うぐっとなっている直之さん。

 呆れた顔をしながらも洸樹さんは説明をしてくれた。

 アヒージョ、たっぷりのオリーブオイルにニンニクやら唐辛子やらを入れて、好きな具材をグツグツ煮込むだけ。ニンニクの香りが良く、食欲が増す。

 チーズフォンデュはカマンベールチーズを使った簡単チーズフォンデュ。
 円柱型のカマンベールに切り目を入れ、火にかけるとどんどんチーズがとろけてくる。
 そこに好きなものをディップしていくだけ。

「どっちもめちゃくちゃ簡単だからオススメよー。アヒージョは残ったオリーブオイルにバケットを浸して食べたらめちゃくちゃ美味しいし!」

 洸樹さんが皿にアヒージョを取り渡してくれる。
 エビとタコがあり、さらにはバケットにオリーブオイルを付けて渡してくれた。

 ニンニクの香りがたまらない! 初めて食べましたがめちゃくちゃ美味しいです!
 チーズフォンデュも初めて! こんな簡単に出来るののだなぁ、と感心しっぱなし。とろとろチーズがとても美味しいです!
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