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カナデ編

第二十六話 聖冠山

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 全員を乗せて走り出した車は高速道路に乗りひたすら走る。
 途中パーキングエリアで休憩を挟み、希実夏さんと一緒にソフトクリームを買って食べたり、男性陣は小腹が空いたからと何やら揚げ物を買って食べたり、と道中も満喫。

 車中でも希実夏さんと買い物に出かけた日に買ったお菓子をみんなでつまんだり、後ろから直之さんにしがみつかれそうになり、希実夏さんが直之さんを思い切りデコピンしていたり……デコピンて初めて見ました……。

 運転席と助手席に座る洸樹さんと一哉さんも、とても和やかに会話をしている。その姿に心から嬉しくなり、少し涙ぐみそうになってしまいました。

 景色を眺めどんどんと田舎の風景になっていき、田畑が広がり山の緑も綺麗で癒される。

「そろそろどこかのスーパーでバーベキューの材料を買って行きましょ」

 洸樹さんがそう言うと皆が「おー!」と声を上げる。

 今回のキャンプはコテージとキャンプ用品を借りただけで、食料は含まれていないらしい。だから行く前に買い出しをしてから行こうということになった。

 コテージの場所はまだ少し走るが、今いる場所を過ぎてしまうとスーパーなどのお店がなくなってくるらしい。

 私と希実夏さんを中心にお肉や野菜をカゴに入れていく。その隙に男性陣は大量のお酒を……。

「ちょっと! そんなお酒ばっかり入れないでよ!」
「良いじゃん! バーベキューといえばビールでしょ! ね、真崎さん!」

 直之さんが自信ありげに希実夏さんに反論した。

「ん? あー、まあそうだな、ついでにこれも」
「ちょっと! 一哉さんまで!」

 一哉さんが便乗してワインのボトルをカゴに入れていた。希実夏さんがプンプンしている。フフ、可愛い。

「ちょっと洸ちゃん、何とか言ってよ! 奏ちゃんは未成年だから飲めないのよ!?」
「え? あぁ、それもそうね」

 皆が忘れてたとばかりに一斉に私の顔を見た。え、ちょっと、そんなに見られると恥ずかしいです。

「そういや、忘れてたな。奏はまだ十八か」
「は、はい」
「悪い悪い、じゃあジュースも入れとかないとな」

 お酒を減らすつもりは全くなく新たに炭酸ジュースをカゴに入れた一哉さん。呆れたように溜め息を吐く希実夏さん。その対照的な二人がおかしくて笑ってしまった。

「僕もそんなに飲めないから大丈夫だよ」
「お酒飲めなくても奏ちゃんには美味しいものを私が作ってあげるから安心して」

 蒼汰さんと洸樹さんが気を遣ってそう言ってくれているのが分かるので、気にしていないと笑った。

「大丈夫ですよ、皆さん気にせず飲んでください。私は食べるの専門でいきますから!」

 何気に小さくガッツポーズをし、気合いを入れて言ってしまった。皆、声を上げて笑い出す。
 は、恥ずかしい……。

「洸樹がなんか色々作ってくれるんだろ? 奏もリクエストしとけ」

 笑いながら一哉さんがそう言い、洸樹さんは「もう!」と言いながらも、嬉しそうに「何が良い?」と聞いてくれた。

 洸樹さんに食べたいものをリクエストしながら、順調に買い物を終わらせ、再び聖冠山に向けて出発。


 道はどんどん山道となっていき、くねくねとした細い道路を走って行く。コテージまでは車で入れるらしく、そのままどんどんと山奥に。

 そして小一時間山道を走り続けると、少し開けた場所へと抜ける。その先には四棟だけあるコテージが見えた。

「「着いたー!!」」

 希実夏さんと直之さんが声をハモらせて叫んだ。

 駐車スペースに車を停め、荷物を下ろしている間に、蒼汰さんが管理棟らしきところへ入って行った。

 コテージと同じくらいの大きさの管理棟、その奥には炊事場が見える。さらに奥にトイレと水場。そして一番奥にコテージが四棟。私たち以外には誰もいないようだ。

 蒼汰さんが管理棟から出てくると鍵を手に、一番奥のコテージだと言った。

「今日は僕らだけらしいから自由に使って良いって」

 荷物を持ち一番奥のコテージへ。蒼汰さんが鍵を開け中へと入ると、とても広い部屋でちょっと感動してしまった。

 蒼汰さんがちょっと奮発したから! と言っていただけあって、中はとても広く、入ってすぐのリビングのような部屋にはダイニングテーブルがあり、簡易キッチンまでがあった。鍵付きの隣の部屋は少し狭いがそれでも一人暮らしの部屋よりも広い気がする。反対側の扉にはなんとシャワールームまでがあった。それにトイレ。
 そしてさらにロフトがあった。梯子を昇り大人一人は寝られるだろうほどの広さがある。

「うわぁ、すっげー! 俺、ロフトで寝る!」
「「言うと思った」」

 直之さんがそう発言すると、蒼汰さんと希実夏さんがハモりました。そのやり取りに洸樹さんも一哉さんも笑っている。うん、私も直之さんがそう言うと思いました。

「さて、じゃあ女性陣は扉の向こうの部屋使ってね。荷物を片付けたら早速聖冠山御神木に行こう!」

 蒼汰さんがそう言い、皆荷物を運び身軽になると目当ての場所に出発。

「御神木? だいぶ高いところまで登るの?」

 希実夏さんが蒼汰さんの横に並んで聞いた。蒼汰さんはスマホを確認しながら説明する。

「いや、そんなに高い山じゃないよ。所謂ハイキングコースだね。だからよく家族連れで小さい子とかも登ってるよ」

 比較的に軽装で、登山をするような恰好ではないな、と思っていたが、特に蒼汰さんから指定がなかったため普段着で来た。ハイキングコースということなら納得だ。

「山の下から登ればだいぶしっかりとした距離のあるハイキングコースなんだけど、コテージからはかなり近いんだ。あそこの細い階段があるでしょ? あそこを上がればすぐだよ」

 コテージのある広場から少し離れた場所に小川が流れている。そこを越えると木で出来た少し古い階段があった。人一人が通れるほどの狭い階段だ。

 そこを蒼汰さんを先頭に登って行く。

 小川のせせらぎも聞こえ、鳥のさえずりも聞こえる。風で木々がさわさわと揺れ、土の草の匂いを感じる。あぁ、気持ち良いな。細い階段の脇には野草が生え、小さな花も見える。そんな景色を楽しみながら、少し恐々と階段を登る。

「大丈夫か?」

 後ろから一哉さんに声を掛けられる。一哉さんが最後尾だ。余程頼りなさげに登っていたかしら、とちょっと恥ずかしい。

「はい、大丈夫です」

 後ろに振り向くと高さが怖くなりそうだったので、少し顔を横に向けただけで返事をした。かなりの高さをこの細い階段で登っている。

「奏が落ちて来ても受け止めてやるから安心しろ」

 一哉さんの本気なのか冗談なのか分からない発言で、少し緊張感が解れた。

「フフ、ありがとうございます、重いですよ?」
「ハ! 奏くらいなら余裕だ」

 そんな会話をしながら二人で笑った。
 一哉さんが気を紛らわせてくれている間に先頭の蒼汰さんが頂上に到着したようだ。

 蒼汰さん、洸樹さん、直之さん、希実夏さんと続き、そして私と一哉さんも階段を登りきる。


 そして登り切った先は…………凄い…………とてつもなく太く大きな樹。

 そこだけが切り取られたような不思議な空間。突然開けた場所に出たかと思うと、大樹がたった一本だけそこに根付いていた。
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