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カナデ編

第二十二話 新たなパワースポット

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「あ、あの……」
「ん?」

 蒼汰さんは優しげな顔をこちらに向ける。

「あのですね、もし、もしも蒼汰さんのお友達が喧嘩別れしてしまって、でも仲直りしたいという気持ちを知ったらどうされますか?」

「喧嘩別れ?」

「は、はい……」

 大丈夫かしら、洸樹さんと一哉さんのことだとバレてないわよね。ソワソワしながら蒼汰さんをチラリと見ると、特に気付いた様子もなく真剣に考えてくれているようだった。

「うーん、そうだなぁ、僕ならそっと見守っておくかなぁ。何か助けを求められたら手伝うけど、下手に第三者が関わるのは良くないかな、と思ったりするし」

「そ、そうですよね……」

 あぁ、やっぱりそうよね。どうしよう。やはり余計なことをしてしまったのだわ。
 今までこういった経験がないから、私のやることは的外ればかりになってしまう。

「どうしたの? 誰か友達が喧嘩でもしてて相談されたの?」

 蒼汰さんが心配そうにしてくれている。

「い、いえ、その、そうなんですが、私、余計なことをしてしまって」

 泣きそうな気分になってしまい、つい蒼汰さんに泣き言を言ってしまった。

「あ、いえ! 何でもありません! 忘れてください!」

「余計なことって喧嘩している二人を仲直りさせようとしたの?」

「は、はい。というか、仲直りしてもらいたくて、何かお手伝い出来ないかと聞いてしまったんです」

「それでその人は何て答えたの?」

「自分とその友達の問題だから大丈夫、と」

 それを聞いた蒼汰さんはフフッと微笑んだ。

「その人、そう言ったとき笑ってなかった?」
「え? えぇ」
「フフッ、やっぱり。じゃあそんなに思い詰めなくても大丈夫だよ」
「?」

 言っている意味が分からなかった。

「水嶌さんが心配してそう言ってくれた、っていうのはその人にも十分伝わってるよ。だから余計なことをしてしまった、じゃなくて、必要になったらいつでも呼んで! 必ず助けるから! ってくらい、ドンと構えてたら良いんじゃないかな」

 蒼汰さんは笑った。

「ドンと構える……」
「うん、悩んでるときとかに、いつでも何でも聞いてくれる誰かがいるって心強いもんだしね」
「そう、ですね……」

 確かに誰か聞いてくれる人がいるというだけで安心感がある。普段は何もなくて良い、側にいて欲しいとき、助けて欲しいとき、そういうときに頼ることの出来る誰かが欲しい。私自身もそうだ。

 洸樹さんはとても歳上でやはり大人。だから私にそんな相手が務まるわけもなく、でもそういった意識を持つと、先程まで落ち込んでいた気持ちが少し和らいだ。

「ありがとうございます、そうですね、いつでも相談してもらえるように、どっしりと構えておきます」

 蒼汰さんと話していると心が落ち着いてくるのが分かった。お礼を言って蒼汰さんと部屋の前で別れる。
 よし、余計なことはしない! とりあえず頼まれた伝言だけはしっかりとしよう!


 翌週、授業を終え、研究室まで足を運ぶ。今日は教授はいないようで、中には一哉さんしかいなかった。

「おう、奏」
「こんにちは、今日はお一人ですか?」
「お一人です。教授は今日出張でいなくてな。で、あれから何か話はまとまったのか?」
「あ、それは、蒼汰さんが白皇様をもう少し調べてみると言っていました」

 あのとき洸樹さんから聞いた噂話などを伝えると、「ほぉお!」と目を輝かせる一哉さん。

「なんだよ、そんな面白い話になってくるとはな!」

 蒼汰さんといい一哉さんといい、とても嬉しそうでこちらまで釣られてしまう。
 フフッと笑いながら、大事なことを思い出す。

「あ! あの!」

「ん? なんだ? いきなりどうした?」

 いきなり大声を出してしまい、少し恥ずかしかったが、そのままの勢いであの夜の洸樹さんの伝言を伝える。

「洸樹さんから伝言があるんです」
「洸樹から?」
「は、はい」

 一哉さんは少し怪訝な顔。その表情に少したじろぎましたが、ここは勢いでいきます!

「洸樹さんが会ってお話がしたい、と言っていました!」
「洸樹が? 会って話を?」
「はい」

 しばらく考え込んだ一哉さんは、おもむろにポンと私の頭に手を置くと微笑んだ。

「分かった」

 その言葉にホッとした瞬間、扉をノックする音が聞こえビクッとする。

 蒼汰さんだった。

「あ、真崎さんに水嶌さん、土曜日ぶり。ねえ! 真崎さん!」

 蒼汰さんが部屋に入ってくるなり勢いよく一哉さんに詰め寄った。一哉さんは苦笑しながら「落ち着け」と蒼汰さんの肩を掴む。

「白皇神社の話だろ? 何か色々噂があるらしいな」
「あぁ、水嶌さんから聞いた? ね! 凄くない!? なんだか怪しいものがいっぱい出てくるんだけど!」
「あぁ、そうだな、今まで分からなかったことがたくさん出てきた。もしかしたら他のパワースポットにも何かあるかもな」
「だよね!! これは調べる価値ありでしょ!」

 蒼汰さんの興奮が半端ないです。
 他のパワースポット。他にも何か怪しいものが見付かるのかしら。

「ね! 今度旅行がてらになるけど、『聖冠山せいかんざん』に行かない!?」
「聖冠山か……」

 聖冠山? 聞いたことがない山の名前……。きょとんとしていると、蒼汰さんが興奮冷めやらぬまま説明をしてくれた。

「水嶌さんは聞いたことないかもね、あまり有名な山ではないんだけど、その山頂にある大樹がパワースポットとして人気でね。ここからは少し離れているから日帰りではしんどいかな、と思うから一泊くらいでどうかな、と」
「い、一泊ですか……」
「あ! だ、大丈夫だよ、男女別の部屋が用意出来るから!」

 あわあわと焦りながら話す蒼汰さんが少し可愛い。クスッと笑うとホッとした蒼汰さんは話を続けた。

「山のコテージが借りられるからそこでいつも寝泊まりするんだ。普段、僕と真崎さんだけなら寝袋で済ますんだけど、そのコテージ、ベッドがある部屋もあるからそっちを借りたら大丈夫じゃないかな。佐伯にも声をかけるつもりだし、水嶌さん一人女子って訳じゃないはずだし……どうかな?」

「コテージだが、まあキャンプがてら行っても楽しいかもな」

「キャンプ! バ、バーベキューとかしちゃうあれですか!?」

 キャンプなどしたことがなく、思わず興奮気味に聞いたら二人に爆笑されてしまいました。は、恥ずかしい。

「ブフッ、奏はキャンプしたことないのか?」
「アハハ、バーベキューもしようか」

「うぅ、すいません……、キャンプもバーベキューもしたことがなくて、つい……」

 二人とも爆笑したまま、一哉さんにぐしゃぐしゃと頭を撫でられました。

「なら、やっぱり人数多いほうが楽しいよな。直之と希実夏も連れて行くぞ」
「だよね、またグループに連絡入れておくよ」

 ちょっと嬉しくなってしまったわ。どんななのかしら楽しみ。

 聖冠山へのキャンプは少し段取りが必要だからと、少し先の予定となった。それまでの間は白皇様のことを蒼汰さんと一緒に調べることに。

 聖冠山へ行くために、コテージの予約、レンタカーの予約、バーベキューの用意など、一通り必要になるであろうことを書き出し、直之さんと希実夏さんにも連絡を取り日程を決めよう、ということで話を終えた。

 話が終わったあとは、今日は蒼汰さんもバイトがあると出て行き、私もそのままバイトへ向かおうとすると一哉さんが「俺も行く」と言い、一緒に向かうことに。

「今日行くんですか?」
「あぁ、すぐ行かないと忘れる」

 真面目にそう言った一哉さんがおかしくてクスッと笑い、二人で話ながら洸樹さんのお店まで歩いた。

 扉を開けると少し驚いた顔をした洸樹さんだったが、すぐに真面目な顔になり「どうぞ」と席へと促す。

「まさか今日来るとは思わなかったわ」
「聞いてすぐ来ないと忘れるからな」
「フフ、なるほど。私は仕事があるから夜中まで無理なんだけど……」
「飲んで待ってるから良い」

 そう簡単に会話をした洸樹さんと一哉さんはそのまま離れ、洸樹さんは仕事に戻り、一哉さんは窓際の席でのんびりとスマホをいじりだした。


*************
※聖冠山は架空の山です。

※小説家になろうにて無事完結しましたので、毎日投稿に切り替えます。
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