上 下
119 / 136
カナデ編

第二十一話 洸樹さんと一哉さん

しおりを挟む
「変な噂って?」
「何か白い妙な生き物を見る、とか、その生き物を見ると神隠しに遭う、とか、夜でも煌々と灯りが灯されているのはその生き物が夜な夜な徘徊してるからだ、とか……かしら?」

 洸樹さんは顎に手を当て思い出しながら話す。

「そんな噂あったんだ、知らなかった」

 蒼汰さんは少しショックを受けたような顔。

「まあ昔聞いただけよ。最近は知らないわ」

「でもさぁ、そんな噂まである割に、あまり知られていない神社なんだよねぇ?」

 珍しく直之さんが話に加わる。食べながらですが。

「そうねぇ、なぜかその神社、みんなすぐに忘れちゃうのか話題にもならず、噂がしばらく流行っても、すぐその噂自体が忘れ去られてる感じね。だから私もすっかり忘れてたわ」

「うーん」

 皆、不思議なそうな怪訝そうな顔。

 ますます異世界の生き物のような気がしてしまう。そんないわくつきの白皇様。異世界の生き物で魔法でも使っているのでは、と疑ってしまう。
 でも今生きている訳でもないのよね、不思議だわ。

「うーん、やっぱりもう少し白皇様を調べてみようかな。望みは薄くてもまだ何か少しくらい情報があるかもしれないし」
「蒼汰はこんなことだけはやたら熱心よね」

 希実夏さんが呆れた顔で言った。蒼汰さんは何やらやる気満々です。

「だってこんな不可思議なこと調べないほうが可笑しいじゃないか!」
「余計謎が深まるだけだったりして~」

 茶化すように直之さんが言うものだから、蒼汰さんがムッとしているわ。

「どうせ直之も佐伯も調べるのには付き合わないだろ!? ならほっといてよ」
「はいはい」

「水嶌さんは!?」
「えっ!?」
「水嶌さんは一緒に調べてくれる!?」

 目を輝かせた蒼汰さんに見詰められる。前のめりで問われ、固まってしまう。

「え、あ、あの……えっと……」

「蒼汰! 無理強いしないのよ! 奏ちゃん、困ってるじゃない!」
「あ、ごめん」
「いえ! あの、えっと、私も調べるの手伝います……」
「え! 良いの!?」

 気になるのは事実ですし、もし万が一本当に異世界と関わりがあるのなら、知っていたほうが良いような気がした。

「奏ちゃん無理してない? 無理に合わせなくて良いのよ?」

 希実夏さんが心配そうに聞いてくれる。

「いえ、大丈夫です。私も気になりますし」
「ありがとう! 水嶌さん!」

 思わず蒼汰さんが私の手を取ろうとしたところで、希実夏さんにペチッと叩かれていた。
 蒼汰さんは慌てて「ごめん!」と言って、あわあわしている。その姿が何だか可愛く見えてクスッと笑った。


 それから皆、食事を終え、私はそのままバイトに。
 直之さんは一人で、希実夏さんは蒼汰さんが送って行くと言う話をしていた。

「別に良いわよ、まだ時間早いし」
「でもあの辺り暗いし、ついでに実家寄って行くし」
「んー、じゃあお願いしようかな」

「お熱いねぇ、お二人さん」

 直之さんが茶化しています。それ……言わないほうが良いのでは……。

「はぁあ!? ばっかじゃないの!? あんたそんなこと言ってるからモテないのよ!」
「ひ、酷い!」

 案の定希実夏さんが思い切り直之さんを叱って? います。アハハ……、賑やか……、蒼汰さんは苦笑している。

「あぁ、じゃあ蒼ちゃん、後で帰りにまた店に寄りなさい。奏ちゃんを送って行って」
「え、いえ! 大丈夫ですよ!」

 そんな二度手間申し訳ない! とんでもないです!

「あぁ、良いよ、どうせ帰り道だし。水嶌さん何時上がりなの?」
「え、あ、あの今日は九時までです……」
「うん、了解、じゃあそれに合わせてまた来るね」

 ニコリと蒼汰さんは笑った。あぁ、優しい。申し訳ない。嬉しいやら申し訳ないやら複雑な気分。

「じゃあ後でね」と言った蒼汰さんは「俺も送る!」と騒いでいた直之さんを引っ張り店を出て行った。


「賑やかな子ねぇ」

 直之さんのことかしら。片手を頬に当てながら洸樹さんが呆れたように笑う。

 私がバイトに入る準備をしている間に洸樹さんは店の片付けをしていた。戻って来ると食器を洗っている。

「それにしても本当に異世界絡みかもしれないなんて話を聞けるとは思わなかったわぁ」
「そうですね、私もびっくりしました」

 白皇様に関することは、いくら「私」が異世界人でも普通に驚く内容だった。

 でも今はそれどころではなく! それよりも!

「洸樹さん!」
「ん? どうしたの? 奏ちゃん」

「あ、あの……、一哉さんのことなのですが……」
「あ、あぁ、今日はいなかったわね。もしかして私、避けられちゃった?」

 洸樹さんは少し寂しそうな顔で微笑んだ。

「ち、違います!」

 そんな洸樹さんが切なく、神社での一哉さんの台詞を伝えた。
 洸樹さんは驚き、そしてまた寂しそうに笑う。

「やっぱり一度ちゃんと話さないとね」

「洸樹さん……、私に何か出来ることありますか?」

 お節介かもしれないが、何か手伝えないか気になった。

「うーん、でもこれは私と一哉の問題だから大丈夫よ、ありがとうね」

 あぁ、間違えてしまった。やはりお節介よ、人と人との話し合いの中に余計な首は突っ込んじゃ駄目なのよ。私は本当にこういうことは駄目ね。情けないわ。

 しゅんとしていると洸樹さんは焦ったように言う。

「ち、違うのよ? 奏ちゃんが迷惑とかじゃないのよ? 奏ちゃんにお願いしてしまうと、もし私が嫌われていたのなら、お願いした奏ちゃんにも迷惑がかかるでしょ? だから巻き込みたくなくてね?」

 あわあわとしている洸樹さんは何だか可愛かった。

「いえ、分かってます、大丈夫です。そもそもお手伝い出来ることなんてないですしね! 精々連絡を取るとかくらいしか……」

 私が心配をかけてどうするのよ。しっかりしなさい。自分を叱るつもりで発破をかける。

「あぁ! そうね、私じゃ連絡取れないし、奏ちゃん、一哉に伝言だけお願い出来る?」
「伝言?」
「えぇ、『会って話したい』とだけ……」

 洸樹さんは少し辛そうな悲しそうな顔をし、手を握り締めていた。

「分かりました……」
「フフ、ありがとう、奏ちゃん」

 それからは夜のバーが開いたこともあり、何を話すでもなかった。チラリと見る洸樹さんはいつも通り元気にお客様と話している。表向きはそう見える。でも心では何を思っているだろうか。余計なことをしてしまったのかしら。

 洸樹さんと一哉さんに仲直りをしてもらいたくて、洸樹さんに一哉さんの様子を伝えたが、良かったのだろうか、と不安になる。これも余計なことだったのではないかと心配になってしまう。
 私はどうしてこう上手く立ち回れないのかしら。私のしたことによって洸樹さんや一哉さんが傷ついてしまったらどうしよう。

 不安でモヤモヤしている間にバイト終わりの時間になってしまい、何の進歩もない自分に情けない気分のまま蒼汰さんが迎えに来てくれ帰ることになった。

「じゃあよろしくね、奏ちゃん」

 洸樹さんはそんな私に気付いてか、優しい笑顔で頭を撫でた。そして蒼汰さんに「お願いね」と言って、店の外に押し出されてしまった。

「? よろしくって、どうかしたの?」
「え、いえ、何でも……」

 蒼汰さんならこういうときどうするかしら……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

嫌われ聖女は魔獣が跋扈する辺境伯領に押し付けられる

kae
恋愛
 魔獣の森と国境の境目の辺境領地の領主、シリウス・レングナーの元に、ある日結婚を断ったはずの聖女サラが、隣の領からやってきた。  これまでの縁談で紹介されたのは、魔獣から国家を守る事でもらえる報奨金だけが目当ての女ばかりだった。  ましてや長年仲が悪いザカリアス伯爵が紹介する女なんて、スパイに決まっている。  しかし豪華な馬車でやってきたのだろうという予想を裏切り、聖女サラは魔物の跋扈する領地を、ただ一人で歩いてきた様子。  「チッ。お前のようなヤツは、嫌いだ。見ていてイライラする」  追い出そうとするシリウスに、サラは必死になって頭を下げる「私をレングナー伯爵様のところで、兵士として雇っていただけないでしょうか!?」  ザカリアス領に戻れないと言うサラを仕方なく雇って一月ほどしたある日、シリウスは休暇のはずのサラが、たった一人で、肩で息をしながら魔獣の浄化をしている姿を見てしまう。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました

吉高 花
恋愛
◆転生&ループの中華風ファンタジー◆ 第15回恋愛小説大賞「中華・後宮ラブ賞」受賞しました!ありがとうございます! かつて散々腐れ縁だったあいつが「俺たち、もし三十になってもお互いに独身だったら、結婚するか」 なんてことを言ったから、私は密かに三十になるのを待っていた。でもそんな私たちは、仲良く一緒にトラックに轢かれてしまった。 そして転生しても奴を忘れられなかった私は、ある日奴が綺麗なお嫁さんと仲良く微笑み合っている場面を見てしまう。 なにあれ! 許せん! 私も別の男と幸せになってやる!  しかしそんな決意もむなしく私はまた、今度は馬車に轢かれて逝ってしまう。 そして二度目。なんと今度は最後の人生をループした。ならば今度は前の記憶をフルに使って今度こそ幸せになってやる! しかし私は気づいてしまった。このままでは、また奴の幸せな姿を見ることになるのでは? それは嫌だ絶対に嫌だ。そうだ! 後宮に行ってしまえば、奴とは会わずにすむじゃない!  そうして私は意気揚々と、女官として後宮に潜り込んだのだった。 奴が、今世では皇帝になっているとも知らずに。 ※タイトル試行錯誤中なのでたまに変わります。最初のタイトルは「ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~」 ※設定は架空なので史実には基づいて「おりません」

旦那様は転生者!

初瀬 叶
恋愛
「マイラ!お願いだ、俺を助けてくれ!」 いきなり私の部屋に現れた私の夫。フェルナンド・ジョルジュ王太子殿下。 「俺を助けてくれ!でなければ俺は殺される!」 今の今まで放っておいた名ばかりの妻に、今さら何のご用? それに殺されるって何の話? 大嫌いな夫を助ける義理などないのだけれど、話を聞けば驚く事ばかり。 へ?転生者?何それ? で、貴方、本当は誰なの? ※相変わらずのゆるふわ設定です ※中世ヨーロッパ風ではありますが作者の頭の中の異世界のお話となります ※R15は保険です

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

処理中です...