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本編 リディア編

第七十八話 取り合い!?

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 魔獣研究所にたどり着くと、案の定イルがいた。
 レニードさんと一緒になりフィンと何やらしている。

「イル! レニードさんも何をしているんですか?」
「あぁ、リディア様ようこそ」

 レニードさんがこちらに振り向きニコリとした。

「今日はルシエス殿下もご一緒なのですね」
「あぁ、リディアを送るついでにな」

 ルーはちらりとイルを見た。イルは視線に気付きビクッとし俯く。

「ルー、イルを怯えさせないでよ」
「は? 別に俺は何も……」

 ルーは心外だ、とばかりに大きな声で否定したが、明らかにイルは怯えている。まあでもイルももう少し慣れてくれてもね、と苦笑した。

「イル、フィンに騎乗するの?」

 そう声を掛けるとイルはパッと顔を上げ、嬉しそうな顔で頷いた。

「まだまだ上手くはいかないんだけど、フィンと一緒に練習してるの」

 満面の笑みで答えるイルは可愛い! 思わず口に出そうになりうぐっと変な音が出た。

「お前、何か変な顔になってるぞ」

 ルーに突っ込まれた。

「そ、そうだ、イルにもお土産!」

 慌てて話題を変える。

「お土産?」
「そう、昨日街に出かけてね、そのお土産」

 ルーに渡したときのようにイルにも包みを渡す。イルはその包みを開けると中身を見て不思議そうな顔をした。

「これは?」
「えっとね、これはお守り」
「お守り?」
「うん」

 小さな金色の袋。その中には願いを込めた宝石が入っている。街の店で見付けた、まじないの石。魔術とは違い、もっと身近な簡易的なものらしいが、皆叶えたい願いを込めて身近に置くそうだ。
 その石にイルが幸せになれるよう願いを込めた。

「中にね、願いを込めた石が入っているから、身近に持っていてね」
「リディが願ってくれたお守り?」
「そう」

 ニコリと微笑むと、イルは嬉しそうにお守りを握り締めたまま、抱き付いて来た。

「「!?」」

 ルーとオルガが声にならない悲鳴を上げたような……。

「イ、イル!?」
「ありがとう、リディ。僕、大切にする! リディ大好き」

 力いっぱい抱き締められ、どうしたら良いのか分からずにいると、ルーとオルガに思い切り引き剝がされた。
 ルーに襟を掴まれ、後ろに引き摺られるように引き剥がされたイルはムッとした顔でルーを睨んだ。

「お前な! 何やってんだ!」
「ルシエスに言われたくない」
「な、何だ!? お前!」

 先程まで怯えていたとは思えない反抗っぷりだ。いや、どうしちゃったのイル。ルーにあんなこと言うなんて、と驚いて呆然としていたらマニカに小声で言われた。

「お嬢様、お止めしたほうが……」

 見ると襟首を掴んだままのルーと睨むイルがぎゃーぎゃーと言い合い、それをおろおろとレニードさんがどうしたら良いのかと怯えていた。

「ハハハ……、何やってるんだか……」

「ルシエスだってリディにデレデレしてるじゃないか!」
「はぁ!?」

 い、いやいや、何の話!? あらぬ方向へ話が進んでる! これはまずい! 下手をすると巻き込み事故……いや、私にもとばっちりが……じゃなくて! 早く止めないとイルがますます変なことを口走りそう!

「イ、イル! イル! ちょっと待って!」

 ルーとイルの間に割って入ると、イルが再び抱き付こうとする。
 それをルーは忌々しいといった顔でさらに襟を引っ張り上げた。あぁ、何よこれ! 収拾つかないじゃない!


 その時激しい風が吹きすさんだ。髪とワンピースの裾が風に煽られ、慌てて押さえつける。
 風が吹いた方を見るとゼロがいた。

「ゼロ!」

 ゼロが翼で風を巻き起こしていた。その場にいた全員が呆気に取られゼロを見上げていると、ゼロはゆっくりと地上に降り立った。

『リディア』
「ゼロ!」

 ゼロに駆け寄り首元にしがみついた。ルーとイルはそれを呆然と眺めている。

『何をしていたのか知らんが、うるさいから止めに来た』
「フフ、ありがとうゼロ」

 おかげですっかりルーとイルの喧嘩は収まったようだ。ゼロはルーとイルを一瞥した。

「な、何か分からんが腹が立つのは何故だ」
「僕も……」

 ルーとイルがゼロを見て呟いた。腹が立つと言われても理由は分からないが、何でだか意見が合ったルーとイルが可笑しくて笑った。

「アハハ、何か仲良くなった?」

 ゼロに寄り添ったままルーとイルに向かって言うと、二人は驚いたように顔を見合わせ、

「「こんなやつと仲良くない!」」

 二人同時に叫んだ。

「アハハハ! やっぱり仲良いじゃない!」
「くっ」
「えぇ!?」

 ルーは苦虫を嚙み潰したような顔になり、イルは嫌がりながらも諦めた様子だった。

「そうだ、ゼロにもお土産」
『お土産?』
「そう!」

 ゼロには銀の台座に金色の宝石が付いたペンダントトップ。それをゼロに付けられるように、黒く長いリボンを付けた。
 それをゼロの首元に付け結ぶ。

「リボンだからね、丈夫じゃないんだよ。だからね、失くさないでね?」
『リディア……、あぁ、失くすことはない。絶対に……』

 そう言うとゼロは顔を近付け、鼻先をスリとこすり合わせた。

「おい! リディ! そろそろラニールのところに行くんだろ!?」

 ルーが不貞腐れた顔のまま叫ぶ。

「あぁ、そうだね。ゼロ、またね」
『あぁ』

 ゼロにもう一度抱き付いてから離れた。

「イルはまだここにいるの?」
「うん、僕、フィンと練習するから」
「そっか。じゃあレニードさん、また魔獣研究所にも差し入れが届くと思いますのでよろしくお願いしますね」
「え? 差し入れですか?」
「えぇ」

 そう言い、フフッと笑い魔獣研究所を後にした。レニードさんは呆然としてたけど。

「差し入れって何を送ったんだ?」
「え? 内緒!」
「はぁ!? 何だよそれ!」

 ルーが教えろ、とばかりに手首を掴み引き戻されると、肩を抱き締め捕まえられた。
 あまりに力強く引き戻されたものだから、ルーの胸にすっぽりと収まり、背中から抱き締められる形になる。
 今度はオルガが慌てふためきルーに詰め寄った。さっきと何か似てる……。

「ルシエス殿下! お嬢を離してください!」

 しかし先程のイルと違って、ルーは自分でも予想外だったのか、抱き締めてしまったことに恥ずかしくなったのか、真っ赤になり慌てて降参のポーズのように両手を上げた。

「す、すまん!」
「フフフ、アハハ」

 何だかそれが可笑しくて笑いが止まらなくなった。イルにしてもルーにしても何だか可愛いな。

「笑うな!」

 顔を真っ赤にしたままルーは怒鳴った。マニカもさすがにオルガも苦笑している。

「ご、ごめん、フフ」
「くそっ」

 真っ赤になったルーはふん、と踵を返し素早く馬に乗った。まだ顔は赤いままだったが、こちらに手を差し出し、行きと同じように馬に乗せてくれる。

 そろそろラニールさんの忙しい時間も過ぎたかしら、と考えながら騎士団控えの間まで向かった。


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