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本編 リディア編

第六十七話 街デート その二

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 街に入るとシェスの容貌からだろうか、平民とは思えぬ雰囲気を醸し出すためか、やはりというか当然街の人々に注目されていた。

 若干居心地は悪いが気にしても仕方ない。楽しむと決めたのだから気にせず行こう!

「さあ、シェス、まずはどこに行きますか!?」

 気分を盛り上げて行くわよ!
 シェスと繋いでいた手を今度は私が先導して引っ張り聞いた。

「あぁ、そうだな……」

 シェスは焦るように考え込んだ。
 うーん、私がエスコートしたほうが良いのかしら? 差し出がましいかしら。どうしよう。

 じっと見詰めていると、その視線に気付いたシェスは余計に慌てた。
 あわあわしている姿も可愛いなぁ、とほっこり。

「えっと、ぶらぶらとお店を見て回りたいのですが、それでも良いですか?」
「え、あ、あぁ」
「じゃあ、行きましょう!」

 シェスを勢い良く引っ張り、そして手を繋いだまま、シェスの腕を捕まえる。シェスは驚きの表情で私の顔を見下ろしていた。

 私は何だかウキウキし出してきた! そんなシェスも可愛いし、たくさんシェスに触れて近付けて、幸せな気分を満喫。
 シェスがたじろいでいることはこの際気にしない!

 シェスを引っ張りつつあちこちのお店を意味もなく覗く。
 パン屋に野菜や果物の店、服屋に薬屋、文具屋やら雑貨屋に何でも屋なるものまである。
 店に入っては商品を物色し、気になるものは後でまた買いに来よう、とその場を後にし、また違う店へ。
 リディアとしては経験がないが、カナデのときにはこういう風に街をぶらぶら歩くのが好きだった。

 シェスは初めての経験なのか、何もかもが珍しいらしく、目を丸くしながら付いて来る。
 そんな姿すら可愛いと思えた。冷徹王子として怖がっていた自分が信じられない程、今はシェスがただただ可愛い人にしか見えない。

 こんな楽しい想い出を作れて幸せ者だなぁ、と寂しくもあるがそれよりも嬉しかった。

「たくさん歩いたので疲れましたね。どこかでお昼にしましょう!」
「あぁ」

 シェスも慣れてきたのか、大分と表情が柔らかくなってきた。それがまたほっこりする。

「あそこはどうですか?」

 指差したのは露店。

「あの露店か?」
「駄目ですか?」
「いや、行こう」

 シェスに露店は厳しいかな、と心配したが、意外にもすんなり了承してくれた。
 以前、一緒に街に来たときに外で食べたから慣れたのかしら?

 露店では揚げたパンが売っていた。以前食べたものとは少し違い、パンの中に何やら具が入っていて、所謂惣菜パン。
 露店に用意されていた椅子に座り食べた。

「揚げたてで美味しい~!」

 熱々をほふほふ言いながら食べるのが最高よね!
 そうやって喜んで食べていると横から小さく声が上がった。

「熱っ!」

 熱々のものを食べたことがないのか、シェスが食べられないでいた。

「フフ、大丈夫?」

 熱そうにしていた口にそっと触れた。

 あ、普通に話してしまった……、しかも唇に触れてしまった……。どうしよう……、この手をどうしたら良いか分からなくなり、固まってしまった。

 するとシェスはその手を掴み、指先をペロリと舐めた。

「!?」

 あ、あ、え? 何? 何が起こった!?

「あ、あ、あ、あの!! ごめんなさい!! 急に触れて!! しかも普通に話してしまいました!!」
「敬語は止めてくれと言った」
「そ、そうですね……」

 いや、今は敬語がどうとかではなく! て、手を! 手を離してー!!

「シェ、シェス!! 手を、手を離して!!」

 あまりにも恥ずかしく、まともにシェスの顔を見ることが出来ず顔を伏せ叫んだ。

 しかしシェスは再び指先をそっと舐めた。ビクッとなり、恐る恐る顔を上げた。

 シェスは掴んだ手を下ろし、おもむろにハンカチを取り出すと、丁寧に私の指先を拭いてくれた。

「私の口に触れたりするからだ、指先が汚れていた」
「え……そ、そうでしたか……、ありがとうございます……」

 真面目にそう言われ、ドキドキした自分が馬鹿みたいで恥ずかしくなり逃げ出したくなった。
 はぁぁあ、何だ……、焦った……。

「早く食べてくださいね!」

 恥ずかしさを誤魔化すために怒ったような口調になってしまった。シェスは何故怒っているんだ? といった疑問符が浮かんだ顔をしていた。

 熱いのを我慢して食べるシェスが、今までの冷徹王子からは想像も出来ない程、人間味を感じ微笑ましい。
 慌てて食べるシェスは途中何度もむせながら完食していた。

 再び歩き出すと一つのお店に目が行った。そこは宝飾店のようだった。
 店の中に入るとアクセサリーや髪止め、時計やら、他にも様々な宝飾品が置かれている。

 色々見ているとふと一つのブローチに目が行った。
 銀の楕円の台座に半透明の瑠璃色の宝石が大きく一つ乗り、しかしその宝石をよくよく見ると瑠璃色の中に金色の粒が星のようにちりばめられていた。夜空の星のようだ……。

「綺麗……」

 シェスの色。しかも金色は私の瞳の色……、いや! ちょっと何そんな恥ずかしいことを考えてるのよ! 違う! ただシェスに似合いそうだな、と……。そう、それだけ!

 今日の記念に買って行こうかしら……、そう、記念。
 決して私を忘れないで欲しいから、とか思ってない! …………、いや、思ってるか……、今日の記念に渡して、少しでも今日のことを思い出してくれた嬉しいな。
 元に戻ってもこの日の思い出を一緒に過ごしたのは「私」なのだから。

 どうしようか悩んだが、やはりシェスに何か渡したいという気持ちが強く買うことに決めた。
 そうだ、皆にも何か渡したいな。そう思い付き他の皆にも今日のお土産と称して、何か思い出になるものを、と探すことにした。

 いくつかのお土産と共にシェスへのブローチもこっそりと包装してもらう。
 シェスはというと……、きょろっと周りを見回すとシェスは一つのものをじっと見詰め、店の者と何やら話し込んでいた。
 包装し終わったものを受け取り、シェスの元へと行く。

「何か気になるものでもありましたか?」

 シェスはビクッとなり、慌ててこちらを向いた。そして何故か真剣に見ていた商品を背に隠し、私には見せてくれない。

「な、何でもない。ただ見ていただけだ」
「そうなんですか? 購入されないのですか?」
「今は良い!」
「? そうですか……、では、他のところへ参りましょうか」

 何だかよく分からないが、知られたくないのならこれ以上は聞かないほうが良いだろう。
 そのまま店を後にした。


「一つ行きたいところがあるのですが、良いでしょうか?」
「? どこだ?」

 店を出た後、そうお願いした。
 行きたい場所、それは……、

「以前、連れて行っていただいた国営病院に」
「国営病院? 何故?」
「えっと……、どこまで進んでいるのか見てみたいと思いまして」

 これは本当。きっと開院する頃には私はいないと思う。ならば現実味のある状態で最後に見ておきたい。

「今日は鍵を持っていない。中に入っては見れないぞ?」
「そうですか……、構いません。外からだけでも」
「……、分かった」

 シェスは了承してくれ、国営病院の場所まで向かう。そしてやはり手を繋いでね。
 一度離した手を再び繋ぐのは物凄く恥ずかしいのよね……。
 シェスからそっと差し出された手を取り、そろそろと握る。

 シェスは差し出した手を確かめるように少し親指でなぞると、慌てて踵を返し歩き出した。
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