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本編 リディア編
第五十話 冷徹王子の事情!? ⑪
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リディアは戸惑ったような表情で迷惑ではないのかと聞いた。
迷惑な訳がない。シェスレイトはリディアと時間を共にしたいのだ。
リディアが少し考えていると、背後にいたイルグストがリディアに顔を寄せ耳打ちする。
小声だったがリディアを愛称で呼んでいるのが聞こえ、シェスレイトは耳を疑う。
シェスレイトはカッとなり、イルグストの肩を掴みリディアから放した。
「イルグスト、君は何をしている?」
シェスレイトはイルグストを問い詰める。イルグストはしどろもどろだ。
「え? 僕? ぼ、僕は、その……」
「あ、あの! イルはたまたま会ってお話をしていたのです! 陛下にもお願いされていますし」
答えられないイルグストを庇い、リディアが発言をする。
「イル?」
何故イルグストと愛称で呼び合っているのだ!? ルシエスと愛称で呼び合っていたのにも複雑な心境だったが、気持ちを自覚した今、目の前で他の男と愛称で呼び合っていることに激しい嫉妬を覚えた。
自分でも気付かぬ内にシェスレイトはまたリディアを、というよりも後ろのイルグストを睨んでいた。
リディアはシェスレイトの表情の変化に気付き、慌てて話題を戻した。
シェスレイトに乗馬を教わっても良いか、と。
シェスレイトはハッとし、嫉妬もあるが、それよりもリディアと共に過ごせることを喜んだ。
ディベルゼに時間がないことを指摘され、また後日連絡をするとだけリディアに伝え、シェスレイトは面会室に向かった。
リディアと共に過ごす約束をした、そのことがシェスレイトの心を躍らせた。
そして翌日からの予定を必死にこなし、時間のある限り目一杯の仕事を終らせ必死に時間を作る。
ディベルゼが少し心配をする程に、夜遅くまで仕事をこなしていた。
何日もリディアに会えない日々を過ごしながらも、ある程度の仕事が片付き、翌日からしばらく時間が取れそうだとリディアに連絡を入れた。
やっとだ。やっとリディアに会える、とシェスレイトは素直に喜んだ。
好きだと自覚すると、リディアに会えるというだけでこんなにも嬉しくなるものか、と不思議な心境だった。
「明日の練習では馬に相乗りし、二人きりでデートに行きましょう!」
「!?」
ディベルゼが仕事の落ち着きを見計らって提案する。
「相乗りに二人きりでデート!?」
「えぇ、白の門から出た先の森の奥に最適な場所があります」
ディベルゼはその場所がどんなところか、どう行くのかを説明し、そこで素直な気持ちでリディアと話すのだ、と言った。
シェスレイトは一瞬弱気になるが、やはりリディアとの距離をもう少し縮めたい。
ディベルゼは前もってマニカに連絡を入れる。マニカは嬉しそうな顔で了承した。
翌日午後に騎士団馬場でリディアを待つ。
少し遅れたことを気にしたのか、リディアは小走りにやって来た。
その慌てる姿も可愛いと思い、シェスレイトは自分が気持ち悪くなった。人を好きになるとこんなにも愚かになるのかと思ったが、初めての感情に楽しくもあった。
さらにリディアの服装に目をやり緊張する。
おそらくゼロに騎乗したときの騎士団の制服なのだろうが、上着を着ていなかったため、身体のラインがよく分かったのだ。
乗馬をする女性が身体に沿う服装を着ているのは見たことがある。だから珍しくはない。ないのだが、リディアがその格好をしていると、酷く緊張をした。
目のやり場に困り、顔を背けてしまう。
緊張しながらも意を決してリディアに二人きりで相乗りすることを伝える。
リディアは予想通りに戸惑っていたが、ここは勢いで乗り切るのだ、とシェスレイトは馬を連れて来る。
馬に乗り上がり、リディアを引っ張り上げる。
ふわりと甘い香りが鼻をくすぐった。
目の前にリディアがいる。身体が触れ緊張する。一つに束ねられた髪が頬に当たり触りたい衝動に駆られる。
ディベルゼたちに見送られ、二人きりで遠乗りに出た。
華奢な肩に細い腰、揺らぐ髪に甘い香り。頭がクラクラとしそうだ。シェスレイトは必死に理性を保ちながら馬を進ませる。
途中疲れていないか心配し耳打ちしたが、頬が触れそうになり焦る。
楽しい話題も思い付かず必死に考えを巡らせるが、自分の会話力のなさに辟易するのだった。
そうだ、と一つ思い付いた話題。
愛称で呼んでもらいたい。
他の男とばかり愛称で呼び合っているのが気に入らない。嫉妬心が再びモヤモヤと燻る。
名を呼ぶとリディアは驚いたようで、急に振り向き顔が目の前に。
シェスレイトは口付けてしまいそうなリディアとの距離に、頭が真っ白になり顔を背けた。
リディアが謝って来たため、お互い謝り合うことに。
あぁ、何をしているのだ、と情けない気分になるシェスレイトだった。
心を落ち着け再び話しかける。
「リディア、その、頼みがあるのだが…………」
「何ですか??」
中々口に出来ない。言おうとしても口から出ない。
何故だ。何故言えない。ますます緊張して言えなくなる。
言えないままの内に目的の場所までたどり着いてしまった。
リディアは綺麗と呟いた。
良かった、気に入ってくれたようだ。シェスレイトはホッとする。
ディベルゼに聞いたのだと伝え、ここを行き先にと考えてくれたディベルゼに感謝した。いつも皮肉ばかりなのだが。
湖の美しさに見惚れるリディアに見惚れ、来て良かったと心から思った。
馬から降りリディアを降ろすときには、リディアの柔らかさを感じ恥ずかしくなる。
遠慮がちに自分の肩に身を任せるリディアの柔らかさ、甘い香り、耳元で感じる吐息に、理性を保てる自信がなくなりそうだ。
シェスレイトは必死に冷静を保ち、馬を繋ぎ終わるとリディアと共に腰を降ろした。
そしてリディアは先程の頼みとは何かと聞いて来る。
それでも恥ずかしさが邪魔をし、中々口に出せない。
シェスレイトは自分にうんざりした。
リディアは中々言い出さないシェスレイトに向かって無理に言わなくても良いと言った。
無理な訳ではないのだ! シェスレイトは必死に口に出そうとした。顔が火照る。
そして…………、
「私の名を…………、愛称で呼んでくれないか!?」
やっと言えた。言えたんだ。口に出してしまえば、心が軽くなった。
「シェスと呼んで欲しい。君のこともリディと呼びたい……」
今まで言えなかったのが嘘のように素直に言えた。
リディアは唖然とした顔だった。
緊張した面持ちでリディアの答えを待つが、しばらく唖然としていたリディアがクスクスと笑い出した。
しかも笑いが止まらなくなったようだ。
「も、申し訳ありません。フフ、どんな頼み事なのかと緊張していたら、可愛らしい頼み事だったもので、フフ、緊張の糸が切れてしまい……フフフ」
その姿に最初は唖然としたが、あまりに可愛らしい顔で笑うものだから、シェスレイトは釣られて自分も笑ってしまう。
そしてリディアの了承をもらい、
「リディ」
初めてリディアを愛称で呼べた。そしてシェスレイトも愛称で呼んで欲しいと伝える。
リディアは真っ赤になりながら小さく「シェス様」と呼んだ。
ルシエスやイルグストには敬称も敬語も使っていない。自分もそうでなくては嫌だ、と素直に伝えると、リディアは戸惑うように無理だと言った。
気にしないと伝えてもリディアはやはり敬語を使わないことだけには同意出来ないと言った。
そのことに少し寂しい感情が沸き上がる。
「ごめんなさい、シェ、シェス……」
「!!」
寂しい感情がどこかへ吹き飛ぶ。
リディアが初めて「シェス」と呼んでくれた。しかもとても可愛らしく恥じらいながら。
シェスレイトは嬉しさが込み上げる。
勝手に顔が綻ぶ。こんなにも嬉しく思うとは。あぁ、幸せだ。シェスレイトは噛み締めていた。
その余韻に浸っていると、リディアがそろそろ帰ろうと言い出した。
せっかく良い雰囲気になってきたのだが、仕方ないな、とシェスレイトは頷き帰る準備をした。
行きと同じようにリディアを前に座らせる。
馬の揺れと共に腕がリディアに触れる。その度に緊張をするが、今はそれが心地いい。
ディベルゼたちが待つ騎士団馬場まで帰り着くと、リディアはマニカやオルガに。シェスレイトはディベルゼにどうだったかと問われ、お互いに楽しかったと話した。
リディアも楽しかったようでシェスレイトは満足した気分だった。
そして明日から午後に練習をするとお互い確認をすると、
「はい、よろしくお願いいたします。シェス」
不意打ちの愛称呼びにドキリとし、思わず顔を逸らしてしまった。
やはり皆の前だと恥ずかしさが勝ってしまう。
しまった、まただ、と後悔してももう遅い。
仕方がないので、横を向いたままシェスレイトも、また明日と伝えリディと呼んだ。
皆の前でシェス、リディと呼び合うのは思った以上に恥ずかしく、シェスレイトはやはり逃げるように、足早にその場を後にしてしまうのだった。
「殿下……、最後にまたやらかしましたね……」
ディベルゼの溜め息が聞こえる。
「せっかく二人きりは良い雰囲気だったようで喜んでいたのですがねぇ」
「わ、分かっている!」
シェスレイト自身も逃げ出したくはないと思っているのに、足が勝手に逃げてしまう。
「まあ終わったことは仕方ありません。せっかく良い雰囲気になられたのです! 明日からが大事ですよ!」
「あぁ、分かっている。しっかりと教えてやらないとな」
「ん? いや、殿下?」
ディベルゼは何か間違えてそうなシェスレイトに確認しようとしたが、シェスレイトは乗馬教師として使命に燃えているようだった。
案の定ディベルゼが恐れていた通り、シェスレイトは大きな勘違いで乗馬特訓を行い、リディアは遠い目をしていたが、シェスレイトはそれに気付くことはなかった。
「はぁぁあ」
「ハハハ……」
ディベルゼは頭を抱え、ギルアディスは苦笑するのだった。
迷惑な訳がない。シェスレイトはリディアと時間を共にしたいのだ。
リディアが少し考えていると、背後にいたイルグストがリディアに顔を寄せ耳打ちする。
小声だったがリディアを愛称で呼んでいるのが聞こえ、シェスレイトは耳を疑う。
シェスレイトはカッとなり、イルグストの肩を掴みリディアから放した。
「イルグスト、君は何をしている?」
シェスレイトはイルグストを問い詰める。イルグストはしどろもどろだ。
「え? 僕? ぼ、僕は、その……」
「あ、あの! イルはたまたま会ってお話をしていたのです! 陛下にもお願いされていますし」
答えられないイルグストを庇い、リディアが発言をする。
「イル?」
何故イルグストと愛称で呼び合っているのだ!? ルシエスと愛称で呼び合っていたのにも複雑な心境だったが、気持ちを自覚した今、目の前で他の男と愛称で呼び合っていることに激しい嫉妬を覚えた。
自分でも気付かぬ内にシェスレイトはまたリディアを、というよりも後ろのイルグストを睨んでいた。
リディアはシェスレイトの表情の変化に気付き、慌てて話題を戻した。
シェスレイトに乗馬を教わっても良いか、と。
シェスレイトはハッとし、嫉妬もあるが、それよりもリディアと共に過ごせることを喜んだ。
ディベルゼに時間がないことを指摘され、また後日連絡をするとだけリディアに伝え、シェスレイトは面会室に向かった。
リディアと共に過ごす約束をした、そのことがシェスレイトの心を躍らせた。
そして翌日からの予定を必死にこなし、時間のある限り目一杯の仕事を終らせ必死に時間を作る。
ディベルゼが少し心配をする程に、夜遅くまで仕事をこなしていた。
何日もリディアに会えない日々を過ごしながらも、ある程度の仕事が片付き、翌日からしばらく時間が取れそうだとリディアに連絡を入れた。
やっとだ。やっとリディアに会える、とシェスレイトは素直に喜んだ。
好きだと自覚すると、リディアに会えるというだけでこんなにも嬉しくなるものか、と不思議な心境だった。
「明日の練習では馬に相乗りし、二人きりでデートに行きましょう!」
「!?」
ディベルゼが仕事の落ち着きを見計らって提案する。
「相乗りに二人きりでデート!?」
「えぇ、白の門から出た先の森の奥に最適な場所があります」
ディベルゼはその場所がどんなところか、どう行くのかを説明し、そこで素直な気持ちでリディアと話すのだ、と言った。
シェスレイトは一瞬弱気になるが、やはりリディアとの距離をもう少し縮めたい。
ディベルゼは前もってマニカに連絡を入れる。マニカは嬉しそうな顔で了承した。
翌日午後に騎士団馬場でリディアを待つ。
少し遅れたことを気にしたのか、リディアは小走りにやって来た。
その慌てる姿も可愛いと思い、シェスレイトは自分が気持ち悪くなった。人を好きになるとこんなにも愚かになるのかと思ったが、初めての感情に楽しくもあった。
さらにリディアの服装に目をやり緊張する。
おそらくゼロに騎乗したときの騎士団の制服なのだろうが、上着を着ていなかったため、身体のラインがよく分かったのだ。
乗馬をする女性が身体に沿う服装を着ているのは見たことがある。だから珍しくはない。ないのだが、リディアがその格好をしていると、酷く緊張をした。
目のやり場に困り、顔を背けてしまう。
緊張しながらも意を決してリディアに二人きりで相乗りすることを伝える。
リディアは予想通りに戸惑っていたが、ここは勢いで乗り切るのだ、とシェスレイトは馬を連れて来る。
馬に乗り上がり、リディアを引っ張り上げる。
ふわりと甘い香りが鼻をくすぐった。
目の前にリディアがいる。身体が触れ緊張する。一つに束ねられた髪が頬に当たり触りたい衝動に駆られる。
ディベルゼたちに見送られ、二人きりで遠乗りに出た。
華奢な肩に細い腰、揺らぐ髪に甘い香り。頭がクラクラとしそうだ。シェスレイトは必死に理性を保ちながら馬を進ませる。
途中疲れていないか心配し耳打ちしたが、頬が触れそうになり焦る。
楽しい話題も思い付かず必死に考えを巡らせるが、自分の会話力のなさに辟易するのだった。
そうだ、と一つ思い付いた話題。
愛称で呼んでもらいたい。
他の男とばかり愛称で呼び合っているのが気に入らない。嫉妬心が再びモヤモヤと燻る。
名を呼ぶとリディアは驚いたようで、急に振り向き顔が目の前に。
シェスレイトは口付けてしまいそうなリディアとの距離に、頭が真っ白になり顔を背けた。
リディアが謝って来たため、お互い謝り合うことに。
あぁ、何をしているのだ、と情けない気分になるシェスレイトだった。
心を落ち着け再び話しかける。
「リディア、その、頼みがあるのだが…………」
「何ですか??」
中々口に出来ない。言おうとしても口から出ない。
何故だ。何故言えない。ますます緊張して言えなくなる。
言えないままの内に目的の場所までたどり着いてしまった。
リディアは綺麗と呟いた。
良かった、気に入ってくれたようだ。シェスレイトはホッとする。
ディベルゼに聞いたのだと伝え、ここを行き先にと考えてくれたディベルゼに感謝した。いつも皮肉ばかりなのだが。
湖の美しさに見惚れるリディアに見惚れ、来て良かったと心から思った。
馬から降りリディアを降ろすときには、リディアの柔らかさを感じ恥ずかしくなる。
遠慮がちに自分の肩に身を任せるリディアの柔らかさ、甘い香り、耳元で感じる吐息に、理性を保てる自信がなくなりそうだ。
シェスレイトは必死に冷静を保ち、馬を繋ぎ終わるとリディアと共に腰を降ろした。
そしてリディアは先程の頼みとは何かと聞いて来る。
それでも恥ずかしさが邪魔をし、中々口に出せない。
シェスレイトは自分にうんざりした。
リディアは中々言い出さないシェスレイトに向かって無理に言わなくても良いと言った。
無理な訳ではないのだ! シェスレイトは必死に口に出そうとした。顔が火照る。
そして…………、
「私の名を…………、愛称で呼んでくれないか!?」
やっと言えた。言えたんだ。口に出してしまえば、心が軽くなった。
「シェスと呼んで欲しい。君のこともリディと呼びたい……」
今まで言えなかったのが嘘のように素直に言えた。
リディアは唖然とした顔だった。
緊張した面持ちでリディアの答えを待つが、しばらく唖然としていたリディアがクスクスと笑い出した。
しかも笑いが止まらなくなったようだ。
「も、申し訳ありません。フフ、どんな頼み事なのかと緊張していたら、可愛らしい頼み事だったもので、フフ、緊張の糸が切れてしまい……フフフ」
その姿に最初は唖然としたが、あまりに可愛らしい顔で笑うものだから、シェスレイトは釣られて自分も笑ってしまう。
そしてリディアの了承をもらい、
「リディ」
初めてリディアを愛称で呼べた。そしてシェスレイトも愛称で呼んで欲しいと伝える。
リディアは真っ赤になりながら小さく「シェス様」と呼んだ。
ルシエスやイルグストには敬称も敬語も使っていない。自分もそうでなくては嫌だ、と素直に伝えると、リディアは戸惑うように無理だと言った。
気にしないと伝えてもリディアはやはり敬語を使わないことだけには同意出来ないと言った。
そのことに少し寂しい感情が沸き上がる。
「ごめんなさい、シェ、シェス……」
「!!」
寂しい感情がどこかへ吹き飛ぶ。
リディアが初めて「シェス」と呼んでくれた。しかもとても可愛らしく恥じらいながら。
シェスレイトは嬉しさが込み上げる。
勝手に顔が綻ぶ。こんなにも嬉しく思うとは。あぁ、幸せだ。シェスレイトは噛み締めていた。
その余韻に浸っていると、リディアがそろそろ帰ろうと言い出した。
せっかく良い雰囲気になってきたのだが、仕方ないな、とシェスレイトは頷き帰る準備をした。
行きと同じようにリディアを前に座らせる。
馬の揺れと共に腕がリディアに触れる。その度に緊張をするが、今はそれが心地いい。
ディベルゼたちが待つ騎士団馬場まで帰り着くと、リディアはマニカやオルガに。シェスレイトはディベルゼにどうだったかと問われ、お互いに楽しかったと話した。
リディアも楽しかったようでシェスレイトは満足した気分だった。
そして明日から午後に練習をするとお互い確認をすると、
「はい、よろしくお願いいたします。シェス」
不意打ちの愛称呼びにドキリとし、思わず顔を逸らしてしまった。
やはり皆の前だと恥ずかしさが勝ってしまう。
しまった、まただ、と後悔してももう遅い。
仕方がないので、横を向いたままシェスレイトも、また明日と伝えリディと呼んだ。
皆の前でシェス、リディと呼び合うのは思った以上に恥ずかしく、シェスレイトはやはり逃げるように、足早にその場を後にしてしまうのだった。
「殿下……、最後にまたやらかしましたね……」
ディベルゼの溜め息が聞こえる。
「せっかく二人きりは良い雰囲気だったようで喜んでいたのですがねぇ」
「わ、分かっている!」
シェスレイト自身も逃げ出したくはないと思っているのに、足が勝手に逃げてしまう。
「まあ終わったことは仕方ありません。せっかく良い雰囲気になられたのです! 明日からが大事ですよ!」
「あぁ、分かっている。しっかりと教えてやらないとな」
「ん? いや、殿下?」
ディベルゼは何か間違えてそうなシェスレイトに確認しようとしたが、シェスレイトは乗馬教師として使命に燃えているようだった。
案の定ディベルゼが恐れていた通り、シェスレイトは大きな勘違いで乗馬特訓を行い、リディアは遠い目をしていたが、シェスレイトはそれに気付くことはなかった。
「はぁぁあ」
「ハハハ……」
ディベルゼは頭を抱え、ギルアディスは苦笑するのだった。
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