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本編 リディア編
第十七話 予期せぬ試食会!? その二
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うーん、まずかったかしら。だって、シェスレイト殿下のせいで、皆がクッキー食べられなくなったんだもの!
きっとマニカは頭を抱えているんでしょうね。ごめんね、心配かけてばかりで。
周りの皆が青ざめているわ。シェスレイト殿下の顔を見るのが怖いけど……、逃げる訳にも行かないしね……。恐る恐るシェスレイト殿下の顔を見る。
シェスレイト殿下は……、目を見開いて驚愕の表情を浮かべたかと思うと、こちらに目をやり、今までにないくらいの冷たい目で睨み付けた。
あぁ、やっぱりこうなるよね……。
口にはクッキーが……、まずい、笑い出しそうになった。
冷たい目に口にはクッキー……、ダメだ、笑ってしまう……、どうしよう……。誤魔化すために咄嗟に出た行動が、またやらかした。
うん、皆きっとこういうやらかし展開を想像してたんじゃない?
まだはみ出していたクッキーを人差し指でクイッと押し込み、シェスレイト殿下の唇に触れ、さらには頬を両手で包み込んだ。
「はい! もぐもぐしてください!」
シェスレイト殿下は睨んでいた表情が再び驚愕の表情に戻り、そして真っ赤になった。両手を払いのけ、横を向き片腕を上げ顔を隠した。
顔を隠しながらきっともぐもぐしてくれていたのだろう、ボソッと呟く声がした。
「美味い……」
「えっ?」
ハッキリと聞き取れずに聞き直すと、シェスレイト殿下はハッとし、慌てて控えの間から出て行った。
ディベルゼさんは慌てて、シェスレイト殿下を追いかけ、ギル兄はというと、ちゃっかりクッキーを口にした。
「おぉ、美味いな! リディが作ったんだろ?」
「え、う、うん」
「今度作ったときにはシェスレイト殿下に差し入れしてみたらどうだ?」
ニコリとギル兄が笑った。
「え? 差し入れ?」
「あぁ、きっと殿下も喜ぶよ」
「えぇ!? そうかなぁ」
シェスレイト殿下がクッキーを差し入れたところで喜ぶとは思えない。
逆に怒りを買いそうなんだけど。
「そうだよ! 絶対喜ぶ!」
「うーん、分かったよ。また作ったときにね」
「あぁ、よろしくな!」
何でギル兄がよろしく何だろうか。
何だかよく分からないまま、ギル兄はポンと頭を撫でて去って行った。
「お嬢様……」
マニカが泣きそうな顔で近付いて来た。
「何をなさってるんですかー!!」
いや、少し泣いていた。
「ハハ……、ごめんなさい」
涙目で睨まれ、さすがに反省した。しゅん、としていると周りの騎士たちがどっと笑い出した。
「リディア様、凄いですね!」
「本当に!」
「シェスレイト殿下にあんなこと出来る人を見たことがありませんよ!」
口々に興奮気味に話し、笑う。
ラニールさんも声を上げて笑った。
「アッハッハ!! 本当に変わったお嬢様だな!」
「ラニールさんまで……」
皆して笑うものだから、ちょっぴり拗ねてみた。
「いやぁ、リディア様は大物ですね」
キース団長も笑いを堪えながら話す。
「もう! そんなに笑わなくても良いじゃないですか!」
言えば言うだけ笑われた。笑われている内にシェスレイト殿下に働いた無礼を忘れそうになり、一緒になって笑った。
「さあ、皆さんクッキーをどうぞ。普通にお砂糖を使ったクッキーもありますからそちらもどうぞ。私は薬物研究所に差し入れてきますね。後で、普通のクッキーと比べてどうだったか聞きますからね! しっかり味見してくださいよ!」
笑われた仕返しとばかりに、宿題を出した。しかしそれすらも笑われる始末……、小さい子を相手にするようにハイハイ、とラニールさんに頭を撫でられた。
「もう!」
結果的に何だか笑顔の多い試食会になったから、これはこれで良かったのかしら。
マニカは泣いてるけど……。オルガはクッキーを食べながらご満悦だ。
作ったクッキーを材料を運んだ籠に入れ、薬物研究所まで差し入れに!
薬物研究所の扉を叩き中へ入ると、丁度研究員たちが休憩中なのか、お茶をしていた。
遠目にフィリルさんを発見し思わず大きな声で呼んだ。
「リディア様!?」
フィリルさんが気付くと同時に研究所内にいる人、全員がこちらを向いた。
いやぁ、それはそうなるよね。貴族令嬢が大声はダメよね。
フィリルさんが慌てて駆け寄って来た。
「リディア様、今日はどうされたんですか?」
「この前分けてもらったコランでクッキーを作ったんです。皆さんで試食してください」
そう言いながら、近くにあった机にクッキーを広げた。
包みを広げるとコランクッキーの良い香りが漂い、他の研究員たちも何事かと近寄って来た。
「本当にコランでクッキーが作れたんですね! 凄い!」
フィリルさんは驚きと喜びの表情を浮かべ、クッキーに手を伸ばした。
いただきます、と一口食べると目を見開き驚いた。
「美味しいです! 上品な甘さにコランの良い香り! 凄い!」
他の研究員たちも次々に手に取り味見をする。
皆、一口食べると「おぉ」と感嘆の声を上げた。
「リディア様、素晴らしいです! コランをこの様に使えるなんて!」
「ね、美味しいですよね! もっと色々ハーブのお菓子を作れないかな、と思っているのだけど、ハーブを分けてもらうのってやはり難しいですよね……」
以前に王宮のものだから分けてもらうのは難しいと聞いたし、あまり期待せずに聞いた。無理ならば自分で調達すれば良い!
「そうですねぇ。中々難しいかと思いますが、せっかくの活用方法を無くしてしまうのも勿体ないですし……」
フィリルさんは考え込んでしまった。
その時、後ろにいた一人の研究員が提案した。
「シェスレイト殿下にお願いしてみるのはどうでしょう?」
「えっ、シェスレイト殿下ですか!?」
「えぇ、シェスレイト殿下は薬物研究所を統括されておられますし、研究にも参加されておられるので」
「そうです! そうです! シェスレイト殿下にお願いしてみるのは良い案かもしれません!」
フィリルさんの目が輝き出した。
「えぇ!? シェスレイト殿下にお菓子を作りたいからハーブを分けて欲しいとお願いするのですか? 絶対無理なような……」
あの殿下がお菓子のためにハーブを分けてくれるとは到底思えない。
「大丈夫ですよ、何かしら益になることがある場合、シェスレイト殿下は手を貸してくださいます」
ニコリと笑ったフィリルさんはその笑顔のまま続けた。
「何かあるのでしょう? ただお菓子が作りたいだけではないですよね?」
さすがだね、バレたか。
「バレましたか。貴族以外の方々にも気軽にお菓子を食べてもらいたいな、と。お金持ちしか美味しいお菓子が食べられないなんて、そんなのは嫌なので……」
一般庶民だって美味しいお菓子は食べたいだろう。もしリディアではなく、一般庶民に入れ替わり人生をお願いされていて、その時美味しいものが食べられないなんて嫌だ!
高いことが理由で美味しいお菓子が出回らないのならば、安くて美味しいお菓子を作れば良い!
「ただコランは栽培が難しいのですよね? ならば希少価値が上がってしまいお高くなってしまいます。簡単に栽培が出来るハーブや野菜や果物等で、お菓子として甘味料に出来るものがあれば……」
「なるほど……面白そうですね!」
フィリルさんがニヤリとした。
「ならば、やはりまずはシェスレイト殿下の許可を!」
「うぅ、やはりそれしかないですか……」
皆、大きく頷いた。
溜め息を吐き諦めた。
「分かりました。では、私はシェスレイト殿下へのお願いと厨房をお借りしたい旨をラニールさんに伝えます。シェスレイト殿下の許可は未知ですが、とりあえずこちらではお暇なときで結構ですので、お菓子に合いそうな、ハーブや野菜や果物を見繕ってくださいませんか?」
「分かりました」
フィリルさんや他の研究員たちはワクワクした顔で返事をしてくれた。
薬物研究所から騎士団の控えの間へ戻ると、皆がすっかりご機嫌で、ほぼクッキーは完食だった。
「あ、リディア様! お帰りなさい!」
「皆さん、普通のクッキーとコランクッキーとで比べてどうでしたか?」
普通に砂糖で作ったクッキーは美味しいはずだ。普通にね。コランクッキーがそれに負けないくらい美味しかったなら、今回のハーブクッキーは成功と言えるだろう。
「どちらもとても美味しかったです! コランクッキーは香りも豊かでなおさら良かったです!」
大体聞いていると好き嫌いは別れるものの、八割くらいの騎士たちがコランクッキーが好きだと言ってくれた。
「ラニールさんとキース団長はどうですか?」
「私はコランクッキーが気に入りましたよ!」
キース団長はニコニコしながら言った。ラニールさんは料理人の顔で厳しい顔をしている。
「俺は……、コランクッキーは好きだが、まだ改良の余地はあるかと思う」
「そうか?とても美味しかったが」
キース団長が不思議そうな顔をした。
「どういったところをですか!?」
ラニールさんに詰め寄って聞いた。
「あのな、一つ言っておくが……、その、近過ぎだ……」
両肩を抑えながら言われた。
「す、すいません!」
「お嬢様なんだから気を付けろ」
「そのお嬢様ってやめてくれませんか?」
「?」
「名前で呼んでください」
ラニールさんはたじろいだ。
「リ、リディア様?」
顔を真っ赤にしながら名前で呼んでくれたラニールさんは何だか可愛かった。
キース団長をチラッと見るとやはりニヤニヤしているし。
「うーん、ラニールさんに様付けされると変な感じですね。呼び捨てでも良いです」
「いや!! それは!!」
「確かにラニールが様付けして女性を呼んでいるのは見たことがないな」
「それは、そんな人間と関わらないからだ!」
完全にキース団長に遊ばれてるな。
「あー、分かったよ!リディア!これで良いか!?」
真っ赤な顔で大声で名前を呼んでくれた。
「フフ、ありがとうございます」
キース団長はニヤニヤ。周りの騎士たちも生暖かい目。
ラニールさんはキース団長を睨んでいるが、赤い顔では怖さは全くないよ、と突っ込みたくなった。
「それで、少しご相談が」
薬物研究所で話した内容をそのままラニールさんに話した。
「なるほど。確かに面白いかもな」
「厨房をお借りすることが増えそうですが良いですか?」
「あぁ、というより、俺にも手伝わせてくれ」
「え、良いんですか?」
「あぁ、コランクッキーも改良してみたいしな」
「あ、それ!それが聞きたかったんですよ!どういったところですか!?」
話が逸れて聞きそびれていた。
「煮出したコランが原因かとは思うが少しだけ苦味を感じた」
「えー、そうかぁ?」
キース団長は分からなかったようだ。ラニールさんだからこそ、気付いたのだろう。
「なるほど……、では、ラニールさんにもお手伝いいただいて良いですか?」
「あぁ」
「ありがとうございます!」
何だか楽しくなってきた!
「後は、シェスレイト殿下の許可だな」
「うっ」
ラニールさんに言われ思い出す。あぁ、気が重い。
「すいません、明日もまた厨房をお借りして良いですか?」
「ん?あぁ、別に構わないが」
「明日シェスレイト殿下への差し入れ用にもう一度クッキーを焼きに来ます……」
「あぁ、なるほど」
ラニールさんは苦笑しながら了承してくれた。
ラニールさんたちに挨拶をし、部屋へと帰った。
さあ明日はシェスレイト殿下と勝負だ!
と、その前に数々の無礼を謝ろう……。
きっとマニカは頭を抱えているんでしょうね。ごめんね、心配かけてばかりで。
周りの皆が青ざめているわ。シェスレイト殿下の顔を見るのが怖いけど……、逃げる訳にも行かないしね……。恐る恐るシェスレイト殿下の顔を見る。
シェスレイト殿下は……、目を見開いて驚愕の表情を浮かべたかと思うと、こちらに目をやり、今までにないくらいの冷たい目で睨み付けた。
あぁ、やっぱりこうなるよね……。
口にはクッキーが……、まずい、笑い出しそうになった。
冷たい目に口にはクッキー……、ダメだ、笑ってしまう……、どうしよう……。誤魔化すために咄嗟に出た行動が、またやらかした。
うん、皆きっとこういうやらかし展開を想像してたんじゃない?
まだはみ出していたクッキーを人差し指でクイッと押し込み、シェスレイト殿下の唇に触れ、さらには頬を両手で包み込んだ。
「はい! もぐもぐしてください!」
シェスレイト殿下は睨んでいた表情が再び驚愕の表情に戻り、そして真っ赤になった。両手を払いのけ、横を向き片腕を上げ顔を隠した。
顔を隠しながらきっともぐもぐしてくれていたのだろう、ボソッと呟く声がした。
「美味い……」
「えっ?」
ハッキリと聞き取れずに聞き直すと、シェスレイト殿下はハッとし、慌てて控えの間から出て行った。
ディベルゼさんは慌てて、シェスレイト殿下を追いかけ、ギル兄はというと、ちゃっかりクッキーを口にした。
「おぉ、美味いな! リディが作ったんだろ?」
「え、う、うん」
「今度作ったときにはシェスレイト殿下に差し入れしてみたらどうだ?」
ニコリとギル兄が笑った。
「え? 差し入れ?」
「あぁ、きっと殿下も喜ぶよ」
「えぇ!? そうかなぁ」
シェスレイト殿下がクッキーを差し入れたところで喜ぶとは思えない。
逆に怒りを買いそうなんだけど。
「そうだよ! 絶対喜ぶ!」
「うーん、分かったよ。また作ったときにね」
「あぁ、よろしくな!」
何でギル兄がよろしく何だろうか。
何だかよく分からないまま、ギル兄はポンと頭を撫でて去って行った。
「お嬢様……」
マニカが泣きそうな顔で近付いて来た。
「何をなさってるんですかー!!」
いや、少し泣いていた。
「ハハ……、ごめんなさい」
涙目で睨まれ、さすがに反省した。しゅん、としていると周りの騎士たちがどっと笑い出した。
「リディア様、凄いですね!」
「本当に!」
「シェスレイト殿下にあんなこと出来る人を見たことがありませんよ!」
口々に興奮気味に話し、笑う。
ラニールさんも声を上げて笑った。
「アッハッハ!! 本当に変わったお嬢様だな!」
「ラニールさんまで……」
皆して笑うものだから、ちょっぴり拗ねてみた。
「いやぁ、リディア様は大物ですね」
キース団長も笑いを堪えながら話す。
「もう! そんなに笑わなくても良いじゃないですか!」
言えば言うだけ笑われた。笑われている内にシェスレイト殿下に働いた無礼を忘れそうになり、一緒になって笑った。
「さあ、皆さんクッキーをどうぞ。普通にお砂糖を使ったクッキーもありますからそちらもどうぞ。私は薬物研究所に差し入れてきますね。後で、普通のクッキーと比べてどうだったか聞きますからね! しっかり味見してくださいよ!」
笑われた仕返しとばかりに、宿題を出した。しかしそれすらも笑われる始末……、小さい子を相手にするようにハイハイ、とラニールさんに頭を撫でられた。
「もう!」
結果的に何だか笑顔の多い試食会になったから、これはこれで良かったのかしら。
マニカは泣いてるけど……。オルガはクッキーを食べながらご満悦だ。
作ったクッキーを材料を運んだ籠に入れ、薬物研究所まで差し入れに!
薬物研究所の扉を叩き中へ入ると、丁度研究員たちが休憩中なのか、お茶をしていた。
遠目にフィリルさんを発見し思わず大きな声で呼んだ。
「リディア様!?」
フィリルさんが気付くと同時に研究所内にいる人、全員がこちらを向いた。
いやぁ、それはそうなるよね。貴族令嬢が大声はダメよね。
フィリルさんが慌てて駆け寄って来た。
「リディア様、今日はどうされたんですか?」
「この前分けてもらったコランでクッキーを作ったんです。皆さんで試食してください」
そう言いながら、近くにあった机にクッキーを広げた。
包みを広げるとコランクッキーの良い香りが漂い、他の研究員たちも何事かと近寄って来た。
「本当にコランでクッキーが作れたんですね! 凄い!」
フィリルさんは驚きと喜びの表情を浮かべ、クッキーに手を伸ばした。
いただきます、と一口食べると目を見開き驚いた。
「美味しいです! 上品な甘さにコランの良い香り! 凄い!」
他の研究員たちも次々に手に取り味見をする。
皆、一口食べると「おぉ」と感嘆の声を上げた。
「リディア様、素晴らしいです! コランをこの様に使えるなんて!」
「ね、美味しいですよね! もっと色々ハーブのお菓子を作れないかな、と思っているのだけど、ハーブを分けてもらうのってやはり難しいですよね……」
以前に王宮のものだから分けてもらうのは難しいと聞いたし、あまり期待せずに聞いた。無理ならば自分で調達すれば良い!
「そうですねぇ。中々難しいかと思いますが、せっかくの活用方法を無くしてしまうのも勿体ないですし……」
フィリルさんは考え込んでしまった。
その時、後ろにいた一人の研究員が提案した。
「シェスレイト殿下にお願いしてみるのはどうでしょう?」
「えっ、シェスレイト殿下ですか!?」
「えぇ、シェスレイト殿下は薬物研究所を統括されておられますし、研究にも参加されておられるので」
「そうです! そうです! シェスレイト殿下にお願いしてみるのは良い案かもしれません!」
フィリルさんの目が輝き出した。
「えぇ!? シェスレイト殿下にお菓子を作りたいからハーブを分けて欲しいとお願いするのですか? 絶対無理なような……」
あの殿下がお菓子のためにハーブを分けてくれるとは到底思えない。
「大丈夫ですよ、何かしら益になることがある場合、シェスレイト殿下は手を貸してくださいます」
ニコリと笑ったフィリルさんはその笑顔のまま続けた。
「何かあるのでしょう? ただお菓子が作りたいだけではないですよね?」
さすがだね、バレたか。
「バレましたか。貴族以外の方々にも気軽にお菓子を食べてもらいたいな、と。お金持ちしか美味しいお菓子が食べられないなんて、そんなのは嫌なので……」
一般庶民だって美味しいお菓子は食べたいだろう。もしリディアではなく、一般庶民に入れ替わり人生をお願いされていて、その時美味しいものが食べられないなんて嫌だ!
高いことが理由で美味しいお菓子が出回らないのならば、安くて美味しいお菓子を作れば良い!
「ただコランは栽培が難しいのですよね? ならば希少価値が上がってしまいお高くなってしまいます。簡単に栽培が出来るハーブや野菜や果物等で、お菓子として甘味料に出来るものがあれば……」
「なるほど……面白そうですね!」
フィリルさんがニヤリとした。
「ならば、やはりまずはシェスレイト殿下の許可を!」
「うぅ、やはりそれしかないですか……」
皆、大きく頷いた。
溜め息を吐き諦めた。
「分かりました。では、私はシェスレイト殿下へのお願いと厨房をお借りしたい旨をラニールさんに伝えます。シェスレイト殿下の許可は未知ですが、とりあえずこちらではお暇なときで結構ですので、お菓子に合いそうな、ハーブや野菜や果物を見繕ってくださいませんか?」
「分かりました」
フィリルさんや他の研究員たちはワクワクした顔で返事をしてくれた。
薬物研究所から騎士団の控えの間へ戻ると、皆がすっかりご機嫌で、ほぼクッキーは完食だった。
「あ、リディア様! お帰りなさい!」
「皆さん、普通のクッキーとコランクッキーとで比べてどうでしたか?」
普通に砂糖で作ったクッキーは美味しいはずだ。普通にね。コランクッキーがそれに負けないくらい美味しかったなら、今回のハーブクッキーは成功と言えるだろう。
「どちらもとても美味しかったです! コランクッキーは香りも豊かでなおさら良かったです!」
大体聞いていると好き嫌いは別れるものの、八割くらいの騎士たちがコランクッキーが好きだと言ってくれた。
「ラニールさんとキース団長はどうですか?」
「私はコランクッキーが気に入りましたよ!」
キース団長はニコニコしながら言った。ラニールさんは料理人の顔で厳しい顔をしている。
「俺は……、コランクッキーは好きだが、まだ改良の余地はあるかと思う」
「そうか?とても美味しかったが」
キース団長が不思議そうな顔をした。
「どういったところをですか!?」
ラニールさんに詰め寄って聞いた。
「あのな、一つ言っておくが……、その、近過ぎだ……」
両肩を抑えながら言われた。
「す、すいません!」
「お嬢様なんだから気を付けろ」
「そのお嬢様ってやめてくれませんか?」
「?」
「名前で呼んでください」
ラニールさんはたじろいだ。
「リ、リディア様?」
顔を真っ赤にしながら名前で呼んでくれたラニールさんは何だか可愛かった。
キース団長をチラッと見るとやはりニヤニヤしているし。
「うーん、ラニールさんに様付けされると変な感じですね。呼び捨てでも良いです」
「いや!! それは!!」
「確かにラニールが様付けして女性を呼んでいるのは見たことがないな」
「それは、そんな人間と関わらないからだ!」
完全にキース団長に遊ばれてるな。
「あー、分かったよ!リディア!これで良いか!?」
真っ赤な顔で大声で名前を呼んでくれた。
「フフ、ありがとうございます」
キース団長はニヤニヤ。周りの騎士たちも生暖かい目。
ラニールさんはキース団長を睨んでいるが、赤い顔では怖さは全くないよ、と突っ込みたくなった。
「それで、少しご相談が」
薬物研究所で話した内容をそのままラニールさんに話した。
「なるほど。確かに面白いかもな」
「厨房をお借りすることが増えそうですが良いですか?」
「あぁ、というより、俺にも手伝わせてくれ」
「え、良いんですか?」
「あぁ、コランクッキーも改良してみたいしな」
「あ、それ!それが聞きたかったんですよ!どういったところですか!?」
話が逸れて聞きそびれていた。
「煮出したコランが原因かとは思うが少しだけ苦味を感じた」
「えー、そうかぁ?」
キース団長は分からなかったようだ。ラニールさんだからこそ、気付いたのだろう。
「なるほど……、では、ラニールさんにもお手伝いいただいて良いですか?」
「あぁ」
「ありがとうございます!」
何だか楽しくなってきた!
「後は、シェスレイト殿下の許可だな」
「うっ」
ラニールさんに言われ思い出す。あぁ、気が重い。
「すいません、明日もまた厨房をお借りして良いですか?」
「ん?あぁ、別に構わないが」
「明日シェスレイト殿下への差し入れ用にもう一度クッキーを焼きに来ます……」
「あぁ、なるほど」
ラニールさんは苦笑しながら了承してくれた。
ラニールさんたちに挨拶をし、部屋へと帰った。
さあ明日はシェスレイト殿下と勝負だ!
と、その前に数々の無礼を謝ろう……。
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