17 / 136
本編 リディア編
第十七話 予期せぬ試食会!? その二
しおりを挟む
うーん、まずかったかしら。だって、シェスレイト殿下のせいで、皆がクッキー食べられなくなったんだもの!
きっとマニカは頭を抱えているんでしょうね。ごめんね、心配かけてばかりで。
周りの皆が青ざめているわ。シェスレイト殿下の顔を見るのが怖いけど……、逃げる訳にも行かないしね……。恐る恐るシェスレイト殿下の顔を見る。
シェスレイト殿下は……、目を見開いて驚愕の表情を浮かべたかと思うと、こちらに目をやり、今までにないくらいの冷たい目で睨み付けた。
あぁ、やっぱりこうなるよね……。
口にはクッキーが……、まずい、笑い出しそうになった。
冷たい目に口にはクッキー……、ダメだ、笑ってしまう……、どうしよう……。誤魔化すために咄嗟に出た行動が、またやらかした。
うん、皆きっとこういうやらかし展開を想像してたんじゃない?
まだはみ出していたクッキーを人差し指でクイッと押し込み、シェスレイト殿下の唇に触れ、さらには頬を両手で包み込んだ。
「はい! もぐもぐしてください!」
シェスレイト殿下は睨んでいた表情が再び驚愕の表情に戻り、そして真っ赤になった。両手を払いのけ、横を向き片腕を上げ顔を隠した。
顔を隠しながらきっともぐもぐしてくれていたのだろう、ボソッと呟く声がした。
「美味い……」
「えっ?」
ハッキリと聞き取れずに聞き直すと、シェスレイト殿下はハッとし、慌てて控えの間から出て行った。
ディベルゼさんは慌てて、シェスレイト殿下を追いかけ、ギル兄はというと、ちゃっかりクッキーを口にした。
「おぉ、美味いな! リディが作ったんだろ?」
「え、う、うん」
「今度作ったときにはシェスレイト殿下に差し入れしてみたらどうだ?」
ニコリとギル兄が笑った。
「え? 差し入れ?」
「あぁ、きっと殿下も喜ぶよ」
「えぇ!? そうかなぁ」
シェスレイト殿下がクッキーを差し入れたところで喜ぶとは思えない。
逆に怒りを買いそうなんだけど。
「そうだよ! 絶対喜ぶ!」
「うーん、分かったよ。また作ったときにね」
「あぁ、よろしくな!」
何でギル兄がよろしく何だろうか。
何だかよく分からないまま、ギル兄はポンと頭を撫でて去って行った。
「お嬢様……」
マニカが泣きそうな顔で近付いて来た。
「何をなさってるんですかー!!」
いや、少し泣いていた。
「ハハ……、ごめんなさい」
涙目で睨まれ、さすがに反省した。しゅん、としていると周りの騎士たちがどっと笑い出した。
「リディア様、凄いですね!」
「本当に!」
「シェスレイト殿下にあんなこと出来る人を見たことがありませんよ!」
口々に興奮気味に話し、笑う。
ラニールさんも声を上げて笑った。
「アッハッハ!! 本当に変わったお嬢様だな!」
「ラニールさんまで……」
皆して笑うものだから、ちょっぴり拗ねてみた。
「いやぁ、リディア様は大物ですね」
キース団長も笑いを堪えながら話す。
「もう! そんなに笑わなくても良いじゃないですか!」
言えば言うだけ笑われた。笑われている内にシェスレイト殿下に働いた無礼を忘れそうになり、一緒になって笑った。
「さあ、皆さんクッキーをどうぞ。普通にお砂糖を使ったクッキーもありますからそちらもどうぞ。私は薬物研究所に差し入れてきますね。後で、普通のクッキーと比べてどうだったか聞きますからね! しっかり味見してくださいよ!」
笑われた仕返しとばかりに、宿題を出した。しかしそれすらも笑われる始末……、小さい子を相手にするようにハイハイ、とラニールさんに頭を撫でられた。
「もう!」
結果的に何だか笑顔の多い試食会になったから、これはこれで良かったのかしら。
マニカは泣いてるけど……。オルガはクッキーを食べながらご満悦だ。
作ったクッキーを材料を運んだ籠に入れ、薬物研究所まで差し入れに!
薬物研究所の扉を叩き中へ入ると、丁度研究員たちが休憩中なのか、お茶をしていた。
遠目にフィリルさんを発見し思わず大きな声で呼んだ。
「リディア様!?」
フィリルさんが気付くと同時に研究所内にいる人、全員がこちらを向いた。
いやぁ、それはそうなるよね。貴族令嬢が大声はダメよね。
フィリルさんが慌てて駆け寄って来た。
「リディア様、今日はどうされたんですか?」
「この前分けてもらったコランでクッキーを作ったんです。皆さんで試食してください」
そう言いながら、近くにあった机にクッキーを広げた。
包みを広げるとコランクッキーの良い香りが漂い、他の研究員たちも何事かと近寄って来た。
「本当にコランでクッキーが作れたんですね! 凄い!」
フィリルさんは驚きと喜びの表情を浮かべ、クッキーに手を伸ばした。
いただきます、と一口食べると目を見開き驚いた。
「美味しいです! 上品な甘さにコランの良い香り! 凄い!」
他の研究員たちも次々に手に取り味見をする。
皆、一口食べると「おぉ」と感嘆の声を上げた。
「リディア様、素晴らしいです! コランをこの様に使えるなんて!」
「ね、美味しいですよね! もっと色々ハーブのお菓子を作れないかな、と思っているのだけど、ハーブを分けてもらうのってやはり難しいですよね……」
以前に王宮のものだから分けてもらうのは難しいと聞いたし、あまり期待せずに聞いた。無理ならば自分で調達すれば良い!
「そうですねぇ。中々難しいかと思いますが、せっかくの活用方法を無くしてしまうのも勿体ないですし……」
フィリルさんは考え込んでしまった。
その時、後ろにいた一人の研究員が提案した。
「シェスレイト殿下にお願いしてみるのはどうでしょう?」
「えっ、シェスレイト殿下ですか!?」
「えぇ、シェスレイト殿下は薬物研究所を統括されておられますし、研究にも参加されておられるので」
「そうです! そうです! シェスレイト殿下にお願いしてみるのは良い案かもしれません!」
フィリルさんの目が輝き出した。
「えぇ!? シェスレイト殿下にお菓子を作りたいからハーブを分けて欲しいとお願いするのですか? 絶対無理なような……」
あの殿下がお菓子のためにハーブを分けてくれるとは到底思えない。
「大丈夫ですよ、何かしら益になることがある場合、シェスレイト殿下は手を貸してくださいます」
ニコリと笑ったフィリルさんはその笑顔のまま続けた。
「何かあるのでしょう? ただお菓子が作りたいだけではないですよね?」
さすがだね、バレたか。
「バレましたか。貴族以外の方々にも気軽にお菓子を食べてもらいたいな、と。お金持ちしか美味しいお菓子が食べられないなんて、そんなのは嫌なので……」
一般庶民だって美味しいお菓子は食べたいだろう。もしリディアではなく、一般庶民に入れ替わり人生をお願いされていて、その時美味しいものが食べられないなんて嫌だ!
高いことが理由で美味しいお菓子が出回らないのならば、安くて美味しいお菓子を作れば良い!
「ただコランは栽培が難しいのですよね? ならば希少価値が上がってしまいお高くなってしまいます。簡単に栽培が出来るハーブや野菜や果物等で、お菓子として甘味料に出来るものがあれば……」
「なるほど……面白そうですね!」
フィリルさんがニヤリとした。
「ならば、やはりまずはシェスレイト殿下の許可を!」
「うぅ、やはりそれしかないですか……」
皆、大きく頷いた。
溜め息を吐き諦めた。
「分かりました。では、私はシェスレイト殿下へのお願いと厨房をお借りしたい旨をラニールさんに伝えます。シェスレイト殿下の許可は未知ですが、とりあえずこちらではお暇なときで結構ですので、お菓子に合いそうな、ハーブや野菜や果物を見繕ってくださいませんか?」
「分かりました」
フィリルさんや他の研究員たちはワクワクした顔で返事をしてくれた。
薬物研究所から騎士団の控えの間へ戻ると、皆がすっかりご機嫌で、ほぼクッキーは完食だった。
「あ、リディア様! お帰りなさい!」
「皆さん、普通のクッキーとコランクッキーとで比べてどうでしたか?」
普通に砂糖で作ったクッキーは美味しいはずだ。普通にね。コランクッキーがそれに負けないくらい美味しかったなら、今回のハーブクッキーは成功と言えるだろう。
「どちらもとても美味しかったです! コランクッキーは香りも豊かでなおさら良かったです!」
大体聞いていると好き嫌いは別れるものの、八割くらいの騎士たちがコランクッキーが好きだと言ってくれた。
「ラニールさんとキース団長はどうですか?」
「私はコランクッキーが気に入りましたよ!」
キース団長はニコニコしながら言った。ラニールさんは料理人の顔で厳しい顔をしている。
「俺は……、コランクッキーは好きだが、まだ改良の余地はあるかと思う」
「そうか?とても美味しかったが」
キース団長が不思議そうな顔をした。
「どういったところをですか!?」
ラニールさんに詰め寄って聞いた。
「あのな、一つ言っておくが……、その、近過ぎだ……」
両肩を抑えながら言われた。
「す、すいません!」
「お嬢様なんだから気を付けろ」
「そのお嬢様ってやめてくれませんか?」
「?」
「名前で呼んでください」
ラニールさんはたじろいだ。
「リ、リディア様?」
顔を真っ赤にしながら名前で呼んでくれたラニールさんは何だか可愛かった。
キース団長をチラッと見るとやはりニヤニヤしているし。
「うーん、ラニールさんに様付けされると変な感じですね。呼び捨てでも良いです」
「いや!! それは!!」
「確かにラニールが様付けして女性を呼んでいるのは見たことがないな」
「それは、そんな人間と関わらないからだ!」
完全にキース団長に遊ばれてるな。
「あー、分かったよ!リディア!これで良いか!?」
真っ赤な顔で大声で名前を呼んでくれた。
「フフ、ありがとうございます」
キース団長はニヤニヤ。周りの騎士たちも生暖かい目。
ラニールさんはキース団長を睨んでいるが、赤い顔では怖さは全くないよ、と突っ込みたくなった。
「それで、少しご相談が」
薬物研究所で話した内容をそのままラニールさんに話した。
「なるほど。確かに面白いかもな」
「厨房をお借りすることが増えそうですが良いですか?」
「あぁ、というより、俺にも手伝わせてくれ」
「え、良いんですか?」
「あぁ、コランクッキーも改良してみたいしな」
「あ、それ!それが聞きたかったんですよ!どういったところですか!?」
話が逸れて聞きそびれていた。
「煮出したコランが原因かとは思うが少しだけ苦味を感じた」
「えー、そうかぁ?」
キース団長は分からなかったようだ。ラニールさんだからこそ、気付いたのだろう。
「なるほど……、では、ラニールさんにもお手伝いいただいて良いですか?」
「あぁ」
「ありがとうございます!」
何だか楽しくなってきた!
「後は、シェスレイト殿下の許可だな」
「うっ」
ラニールさんに言われ思い出す。あぁ、気が重い。
「すいません、明日もまた厨房をお借りして良いですか?」
「ん?あぁ、別に構わないが」
「明日シェスレイト殿下への差し入れ用にもう一度クッキーを焼きに来ます……」
「あぁ、なるほど」
ラニールさんは苦笑しながら了承してくれた。
ラニールさんたちに挨拶をし、部屋へと帰った。
さあ明日はシェスレイト殿下と勝負だ!
と、その前に数々の無礼を謝ろう……。
きっとマニカは頭を抱えているんでしょうね。ごめんね、心配かけてばかりで。
周りの皆が青ざめているわ。シェスレイト殿下の顔を見るのが怖いけど……、逃げる訳にも行かないしね……。恐る恐るシェスレイト殿下の顔を見る。
シェスレイト殿下は……、目を見開いて驚愕の表情を浮かべたかと思うと、こちらに目をやり、今までにないくらいの冷たい目で睨み付けた。
あぁ、やっぱりこうなるよね……。
口にはクッキーが……、まずい、笑い出しそうになった。
冷たい目に口にはクッキー……、ダメだ、笑ってしまう……、どうしよう……。誤魔化すために咄嗟に出た行動が、またやらかした。
うん、皆きっとこういうやらかし展開を想像してたんじゃない?
まだはみ出していたクッキーを人差し指でクイッと押し込み、シェスレイト殿下の唇に触れ、さらには頬を両手で包み込んだ。
「はい! もぐもぐしてください!」
シェスレイト殿下は睨んでいた表情が再び驚愕の表情に戻り、そして真っ赤になった。両手を払いのけ、横を向き片腕を上げ顔を隠した。
顔を隠しながらきっともぐもぐしてくれていたのだろう、ボソッと呟く声がした。
「美味い……」
「えっ?」
ハッキリと聞き取れずに聞き直すと、シェスレイト殿下はハッとし、慌てて控えの間から出て行った。
ディベルゼさんは慌てて、シェスレイト殿下を追いかけ、ギル兄はというと、ちゃっかりクッキーを口にした。
「おぉ、美味いな! リディが作ったんだろ?」
「え、う、うん」
「今度作ったときにはシェスレイト殿下に差し入れしてみたらどうだ?」
ニコリとギル兄が笑った。
「え? 差し入れ?」
「あぁ、きっと殿下も喜ぶよ」
「えぇ!? そうかなぁ」
シェスレイト殿下がクッキーを差し入れたところで喜ぶとは思えない。
逆に怒りを買いそうなんだけど。
「そうだよ! 絶対喜ぶ!」
「うーん、分かったよ。また作ったときにね」
「あぁ、よろしくな!」
何でギル兄がよろしく何だろうか。
何だかよく分からないまま、ギル兄はポンと頭を撫でて去って行った。
「お嬢様……」
マニカが泣きそうな顔で近付いて来た。
「何をなさってるんですかー!!」
いや、少し泣いていた。
「ハハ……、ごめんなさい」
涙目で睨まれ、さすがに反省した。しゅん、としていると周りの騎士たちがどっと笑い出した。
「リディア様、凄いですね!」
「本当に!」
「シェスレイト殿下にあんなこと出来る人を見たことがありませんよ!」
口々に興奮気味に話し、笑う。
ラニールさんも声を上げて笑った。
「アッハッハ!! 本当に変わったお嬢様だな!」
「ラニールさんまで……」
皆して笑うものだから、ちょっぴり拗ねてみた。
「いやぁ、リディア様は大物ですね」
キース団長も笑いを堪えながら話す。
「もう! そんなに笑わなくても良いじゃないですか!」
言えば言うだけ笑われた。笑われている内にシェスレイト殿下に働いた無礼を忘れそうになり、一緒になって笑った。
「さあ、皆さんクッキーをどうぞ。普通にお砂糖を使ったクッキーもありますからそちらもどうぞ。私は薬物研究所に差し入れてきますね。後で、普通のクッキーと比べてどうだったか聞きますからね! しっかり味見してくださいよ!」
笑われた仕返しとばかりに、宿題を出した。しかしそれすらも笑われる始末……、小さい子を相手にするようにハイハイ、とラニールさんに頭を撫でられた。
「もう!」
結果的に何だか笑顔の多い試食会になったから、これはこれで良かったのかしら。
マニカは泣いてるけど……。オルガはクッキーを食べながらご満悦だ。
作ったクッキーを材料を運んだ籠に入れ、薬物研究所まで差し入れに!
薬物研究所の扉を叩き中へ入ると、丁度研究員たちが休憩中なのか、お茶をしていた。
遠目にフィリルさんを発見し思わず大きな声で呼んだ。
「リディア様!?」
フィリルさんが気付くと同時に研究所内にいる人、全員がこちらを向いた。
いやぁ、それはそうなるよね。貴族令嬢が大声はダメよね。
フィリルさんが慌てて駆け寄って来た。
「リディア様、今日はどうされたんですか?」
「この前分けてもらったコランでクッキーを作ったんです。皆さんで試食してください」
そう言いながら、近くにあった机にクッキーを広げた。
包みを広げるとコランクッキーの良い香りが漂い、他の研究員たちも何事かと近寄って来た。
「本当にコランでクッキーが作れたんですね! 凄い!」
フィリルさんは驚きと喜びの表情を浮かべ、クッキーに手を伸ばした。
いただきます、と一口食べると目を見開き驚いた。
「美味しいです! 上品な甘さにコランの良い香り! 凄い!」
他の研究員たちも次々に手に取り味見をする。
皆、一口食べると「おぉ」と感嘆の声を上げた。
「リディア様、素晴らしいです! コランをこの様に使えるなんて!」
「ね、美味しいですよね! もっと色々ハーブのお菓子を作れないかな、と思っているのだけど、ハーブを分けてもらうのってやはり難しいですよね……」
以前に王宮のものだから分けてもらうのは難しいと聞いたし、あまり期待せずに聞いた。無理ならば自分で調達すれば良い!
「そうですねぇ。中々難しいかと思いますが、せっかくの活用方法を無くしてしまうのも勿体ないですし……」
フィリルさんは考え込んでしまった。
その時、後ろにいた一人の研究員が提案した。
「シェスレイト殿下にお願いしてみるのはどうでしょう?」
「えっ、シェスレイト殿下ですか!?」
「えぇ、シェスレイト殿下は薬物研究所を統括されておられますし、研究にも参加されておられるので」
「そうです! そうです! シェスレイト殿下にお願いしてみるのは良い案かもしれません!」
フィリルさんの目が輝き出した。
「えぇ!? シェスレイト殿下にお菓子を作りたいからハーブを分けて欲しいとお願いするのですか? 絶対無理なような……」
あの殿下がお菓子のためにハーブを分けてくれるとは到底思えない。
「大丈夫ですよ、何かしら益になることがある場合、シェスレイト殿下は手を貸してくださいます」
ニコリと笑ったフィリルさんはその笑顔のまま続けた。
「何かあるのでしょう? ただお菓子が作りたいだけではないですよね?」
さすがだね、バレたか。
「バレましたか。貴族以外の方々にも気軽にお菓子を食べてもらいたいな、と。お金持ちしか美味しいお菓子が食べられないなんて、そんなのは嫌なので……」
一般庶民だって美味しいお菓子は食べたいだろう。もしリディアではなく、一般庶民に入れ替わり人生をお願いされていて、その時美味しいものが食べられないなんて嫌だ!
高いことが理由で美味しいお菓子が出回らないのならば、安くて美味しいお菓子を作れば良い!
「ただコランは栽培が難しいのですよね? ならば希少価値が上がってしまいお高くなってしまいます。簡単に栽培が出来るハーブや野菜や果物等で、お菓子として甘味料に出来るものがあれば……」
「なるほど……面白そうですね!」
フィリルさんがニヤリとした。
「ならば、やはりまずはシェスレイト殿下の許可を!」
「うぅ、やはりそれしかないですか……」
皆、大きく頷いた。
溜め息を吐き諦めた。
「分かりました。では、私はシェスレイト殿下へのお願いと厨房をお借りしたい旨をラニールさんに伝えます。シェスレイト殿下の許可は未知ですが、とりあえずこちらではお暇なときで結構ですので、お菓子に合いそうな、ハーブや野菜や果物を見繕ってくださいませんか?」
「分かりました」
フィリルさんや他の研究員たちはワクワクした顔で返事をしてくれた。
薬物研究所から騎士団の控えの間へ戻ると、皆がすっかりご機嫌で、ほぼクッキーは完食だった。
「あ、リディア様! お帰りなさい!」
「皆さん、普通のクッキーとコランクッキーとで比べてどうでしたか?」
普通に砂糖で作ったクッキーは美味しいはずだ。普通にね。コランクッキーがそれに負けないくらい美味しかったなら、今回のハーブクッキーは成功と言えるだろう。
「どちらもとても美味しかったです! コランクッキーは香りも豊かでなおさら良かったです!」
大体聞いていると好き嫌いは別れるものの、八割くらいの騎士たちがコランクッキーが好きだと言ってくれた。
「ラニールさんとキース団長はどうですか?」
「私はコランクッキーが気に入りましたよ!」
キース団長はニコニコしながら言った。ラニールさんは料理人の顔で厳しい顔をしている。
「俺は……、コランクッキーは好きだが、まだ改良の余地はあるかと思う」
「そうか?とても美味しかったが」
キース団長が不思議そうな顔をした。
「どういったところをですか!?」
ラニールさんに詰め寄って聞いた。
「あのな、一つ言っておくが……、その、近過ぎだ……」
両肩を抑えながら言われた。
「す、すいません!」
「お嬢様なんだから気を付けろ」
「そのお嬢様ってやめてくれませんか?」
「?」
「名前で呼んでください」
ラニールさんはたじろいだ。
「リ、リディア様?」
顔を真っ赤にしながら名前で呼んでくれたラニールさんは何だか可愛かった。
キース団長をチラッと見るとやはりニヤニヤしているし。
「うーん、ラニールさんに様付けされると変な感じですね。呼び捨てでも良いです」
「いや!! それは!!」
「確かにラニールが様付けして女性を呼んでいるのは見たことがないな」
「それは、そんな人間と関わらないからだ!」
完全にキース団長に遊ばれてるな。
「あー、分かったよ!リディア!これで良いか!?」
真っ赤な顔で大声で名前を呼んでくれた。
「フフ、ありがとうございます」
キース団長はニヤニヤ。周りの騎士たちも生暖かい目。
ラニールさんはキース団長を睨んでいるが、赤い顔では怖さは全くないよ、と突っ込みたくなった。
「それで、少しご相談が」
薬物研究所で話した内容をそのままラニールさんに話した。
「なるほど。確かに面白いかもな」
「厨房をお借りすることが増えそうですが良いですか?」
「あぁ、というより、俺にも手伝わせてくれ」
「え、良いんですか?」
「あぁ、コランクッキーも改良してみたいしな」
「あ、それ!それが聞きたかったんですよ!どういったところですか!?」
話が逸れて聞きそびれていた。
「煮出したコランが原因かとは思うが少しだけ苦味を感じた」
「えー、そうかぁ?」
キース団長は分からなかったようだ。ラニールさんだからこそ、気付いたのだろう。
「なるほど……、では、ラニールさんにもお手伝いいただいて良いですか?」
「あぁ」
「ありがとうございます!」
何だか楽しくなってきた!
「後は、シェスレイト殿下の許可だな」
「うっ」
ラニールさんに言われ思い出す。あぁ、気が重い。
「すいません、明日もまた厨房をお借りして良いですか?」
「ん?あぁ、別に構わないが」
「明日シェスレイト殿下への差し入れ用にもう一度クッキーを焼きに来ます……」
「あぁ、なるほど」
ラニールさんは苦笑しながら了承してくれた。
ラニールさんたちに挨拶をし、部屋へと帰った。
さあ明日はシェスレイト殿下と勝負だ!
と、その前に数々の無礼を謝ろう……。
35
お気に入りに追加
442
あなたにおすすめの小説
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜
雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。
しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。
英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。
顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。
ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。
誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。
ルークに会いたくて会いたくて。
その願いは。。。。。
とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。
他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。
本編完結しました!
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです
gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる