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九章 遭遇
第七十八話
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しばらくお互いに動けなかった。
ディルアスの震える肩を抱き締めるだけだった。
静寂の中にディルアスの必死に声を殺そうとする吐息の音だけが響く。
どれくらいの時間が経ったのか分からなかったが、落ち着いてきたディルアスが顔を上げた。
「すまない、情けない姿を見せた」
ディルアスは目を合わさず言った。
「ううん、全然情けなくなんかないよ!」
ディルアスの手を強く握って、真っ直ぐ目を合わせた。
「私は鈍感だから人の心の機微に気付けない。だから思ったことは言って欲しい。辛いときは辛いって言って欲しい。悲しいときは悲しいって言って欲しい」
もっと早くに気付きたかった。
あの時戦わないことを選んだことに後悔はなかったが、こんなに苦しんでいるディルアスにはもっと早く気付きたかった。
「ありがとう」
縋るようにじゃなく、今度は真正面から抱き締めてきた。
そして離れるとそっと手を引いて立ち上がった。
「戻ろう」
演習場まで戻りルナートさんにノートを返し、お礼を言った。
そしてしばらく何日か演習場での見学をお願いした。
あれからあの日のことに触れることはお互いなかった。
恥ずかしいのもあるが、お互いに触れてはいけないような気がした。
アレンとリシュレルさんの魔力に慣れてからは、とにかくたくさんの人の魔力を感じる練習をした。
そんなある日アレンに呼ばれた。
「勇者があらわれた」
「!?」
「最近魔物が増えている。それをほとんど一人で討伐しているらしくてな。褒賞されることになった」
「そ、そっか」
「どうする? 隠れて見とくか?」
「う、うん、そうだね」
陰に隠れて勇者を見てみることにした。
謁見の間で勇者が現れるのを待つ。扉が開かれて入ってきたのは、やはりサクヤだった……。
サクヤはアレンの前まで来ると跪いた。
「この度幾度となく魔物討伐に功績を残されているそなたに褒賞を与えようかと思う。そなた名は?」
「サクヤと申します」
顔を上げたサクヤは真面目な顔をしていたが、それ以上に何か雰囲気が少し違った。
何だか怖い雰囲気というか……。
二度しか会ってない人間の何が分かるんだ、と言われたら自信はないけど、何か違う気がする。
アレンとのやり取りを一通り見てから、ディルアスと確認し合った。
「何だか雰囲気違う感じしなかった?」
「あぁ、何というか暗いというか……」
あれだけテンションの高かった人が、王の前だからと言って、あんなにも態度が変わるだろうか。
何か嫌な感じがした。
ディルアスの震える肩を抱き締めるだけだった。
静寂の中にディルアスの必死に声を殺そうとする吐息の音だけが響く。
どれくらいの時間が経ったのか分からなかったが、落ち着いてきたディルアスが顔を上げた。
「すまない、情けない姿を見せた」
ディルアスは目を合わさず言った。
「ううん、全然情けなくなんかないよ!」
ディルアスの手を強く握って、真っ直ぐ目を合わせた。
「私は鈍感だから人の心の機微に気付けない。だから思ったことは言って欲しい。辛いときは辛いって言って欲しい。悲しいときは悲しいって言って欲しい」
もっと早くに気付きたかった。
あの時戦わないことを選んだことに後悔はなかったが、こんなに苦しんでいるディルアスにはもっと早く気付きたかった。
「ありがとう」
縋るようにじゃなく、今度は真正面から抱き締めてきた。
そして離れるとそっと手を引いて立ち上がった。
「戻ろう」
演習場まで戻りルナートさんにノートを返し、お礼を言った。
そしてしばらく何日か演習場での見学をお願いした。
あれからあの日のことに触れることはお互いなかった。
恥ずかしいのもあるが、お互いに触れてはいけないような気がした。
アレンとリシュレルさんの魔力に慣れてからは、とにかくたくさんの人の魔力を感じる練習をした。
そんなある日アレンに呼ばれた。
「勇者があらわれた」
「!?」
「最近魔物が増えている。それをほとんど一人で討伐しているらしくてな。褒賞されることになった」
「そ、そっか」
「どうする? 隠れて見とくか?」
「う、うん、そうだね」
陰に隠れて勇者を見てみることにした。
謁見の間で勇者が現れるのを待つ。扉が開かれて入ってきたのは、やはりサクヤだった……。
サクヤはアレンの前まで来ると跪いた。
「この度幾度となく魔物討伐に功績を残されているそなたに褒賞を与えようかと思う。そなた名は?」
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「何だか雰囲気違う感じしなかった?」
「あぁ、何というか暗いというか……」
あれだけテンションの高かった人が、王の前だからと言って、あんなにも態度が変わるだろうか。
何か嫌な感じがした。
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