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四章 王都

第三十四話

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「お、おい! 待ってくれ! 頼むよ!」
「信用出来ない人の話は聞きません。それに……」

 ルナをチラッと見た。ルナもそれに気付きこちらを見て頷いた。

「あなたは誰?」
「誰? レンだよ、王都で名乗ったでしょ?」
「そうじゃない。あなた今の姿、本当の姿じゃないでしょ?」
「!!」

 レンは驚いた顔をした。気付かれるとは思っていなかったのだろう。
 彼の身体の周りからは少量だが魔力が使われている気配がある。魔力が身体を覆っていると言うべきか。
 ルナとは違い魔導具で小型化しているオブと似ている。オブは私の魔力が身体を覆って姿を変えている。
 同じような気配を感じるということは、今のレンの姿が、本来の姿とは異なる可能性がある。
 だから鎌をかけてみた。どうやら当たりだったようだ。

「はぁぁあ、あー、そこまでバレるか」

 レンが物凄い深い溜め息を吐いた。

「あんたやっぱり凄いな」

 レンは頭をガシガシと搔き苦笑した。

「あんた、じゃなくてユウ」
「ん? あぁ、ユウか!」

 名前教えてくれてありがとな、とレンは笑った。

「あー、じゃあユウ、本当のこと話したら頼みたいことも聞いてくれる?」
「内容によるけど」
「はは、まあそうだよな」

 力なく笑い、レンはここでは話せないから、と、再び街の外に連れ出した。人目のない森の中に。

「まずは、と」

 そう言うとレンは魔導具らしきものを取り出し念じた。するとレンの髪の色、瞳の色が変わった。

 茶色の髪と瞳だった姿が白金色の髪と菫色の瞳に。
 短髪だった髪も襟足が肩くらいにまで伸びた。
 服装は変わらないが明らかに美しい外見に変わった。これは確かに人目につくな、と妙に納得した。
 元々イケメンだったが、白金色の髪、菫色の瞳でなおさら美形度が上がったというか……。もう美形は見慣れたけどね。これだけ美形ばっかり……ルナなんか神懸かってるし。ふふふ。
 白金色に菫色も何にせよ綺麗だね。王子様みたい。……、ん? まさか?

「まさか行方不明の王子様……?」
「ん? よく分かったな。名はアレン・ロード・エルザイアだ」

 えー!! あの王都で聞いた行方不明の王子!? 何でこんなところに!? しかも一人!? お供とかいないの!?

「あー、そっか、こんなところに一人でいるってのが行方不明騒動になってる原因だね」

 苦笑した。

「まあな、巷で俺が行方不明になってる、とかの噂話は俺も聞いた」
「笑ってる場合ですか。殿下? は何でこんなことを……」
「話は長くなるかもな。敬称はいらんぞ。呼び捨てで良い、敬語もなしだ。普段はレンで過ごすしな。態度を変えられると俺が困る」

 まあ座れ、とレン改めアレンは適当な岩に腰を下ろした。

「姿を変えていたのは、まあ想像通りだろうが、秘密裏に動きたかったからだ。王家に伝わる魔導具で姿を変え、同じく王家に伝わる魔法、隠形の魔法で追跡を躱す。どちらも王家存続のための古くから伝わる魔法だ」
「そんな大変なもの、聞いてしまって良いの?」
「ユウが見破るからだろ」

 ジトッとした目で見られた。そんなことを言われても。王子だなんて知らないし。

「まあそれはいい。俺が王宮を出た理由だが……王宮の不穏な噂も聞いたか?」
「うん。王子行方不明と一緒に。他国に攻め入ろうとする過激派が現れて王と対立しているらしいって」

 アレンは頷いた。

「あぁ、以前からそういった声も少しは出ていたんだ。だがここまでじゃなかった。近頃は公に口に出すようになってきてな。派閥もどんどん大きくなっていって、王である父も手に負えなくなってきている。さらに城下にまであんなに早く話が広がり出している。急激に変わりすぎている気がするんだ」
「何か異変が起きている?」
「あぁ、俺はそう思っている。だから原因を探るため俺は王宮を出た」

 ふむ、何か引っ掛かる。何だろう。

『ユウ、王宮の前を通ったとき』
「あ!」
「何だ?」

 ルナの言葉で思い出した。

「以前王宮の前を通ったときに、僅かだけど、魔物の気配を感じたんだ」
「何っ!?」
「いや、ほんとに微かにというか、だからよく分からなくてそのまま忘れてた」
「そうか……」

 しばらくアレンは考え込んでしまった。

「やはり何かしらの力が働いているようだな。以前のような王反対派ならば、父も俺も抑えられる自信はあったが、見えない力とやらに動かされているとなるとな……。俺はそれを何とかしたい。ユウ、手を貸してくれないか?」
「手を貸すと言っても何を?」

 アレンは真っ直ぐこちらを見た。

「竜の谷に行きたいんだ」

 ルナとオブがピクッと反応した。

「竜の谷……何をしに?」
「竜の谷にはいにしえのドラゴンがいると聞く。そのドラゴンは魔を打ち払う力があるとか。ドラゴンの力を借りたいんだ」

 少しホッとした。ドラゴンを狩りに行く訳ではなかった。
 ルナとオブも身体を強張らせていたが、緊張を解いたようだ。

「そのドラゴンに会うために護衛をしろ、ってこと?」
「そうだ。竜の谷には人間は近付けないと聞く。だから行った者もいない。何が起こるか分からない。ユウのように強力な魔導士がいたら安心だ。しかもドラゴンを連れてるしな!」

 ドラゴン同士は仲間意識が強いと言う。だからそのことを言っているのだろう。ドラゴンを連れている私たちならば竜の谷でも受け入れてもらえると。

「そんなに上手く行くとは思えないけど……」
「まあそれはな、上手く行くと信じるしかないな!」

 ニッとアレンは笑った。うーん、能天気な感じ。
 大丈夫だろうか。
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