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四章 王都

第三十三話

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「結局、新しい魔法の実験出来なかったなぁ」
『また様子を見て明日にでもしたら良い』
「うん……」

 二人を抱っこしながらトボトボ歩く。
 空間転移で一足飛びに帰って来たから、マリー亭にはお昼までに着いてしまった。

「ただいま」
「ユウ! おかえり!」

 厨房にいたマリーさんが慌てて出て来た。

「王都はどうだった? お昼食べるだろ? 荷物片付けといで」
「ユウか! おかえり!」

 厨房からオーグさんも顔を覗かせた。
 王都のお土産を二人に渡し、荷物を部屋に片付けた。

「やっぱりここが落ち着くなぁ」

 こちらの世界にやって来て、一番長く過ごしているマリー亭がやはり一番落ち着く。

 一階からマリーさんに呼ばれ降りて行くと、メルダさんとフィルさんも来てくれた。

「おかえり、ユウ。王都はどうだった?」

 みんな聞いてくることは同じだな、と笑った。
 お昼を食べながら、たくさんの魔導書が読めたことを話す。ルナが女性に揉みくちゃにされていたことは言うまい。

 翌日、出来なかった魔法を試しに再び外出。
 もちろんマリーさんにお手伝い出来ないのを謝ってね。

 索敵魔法を発動しつつ、人目に付かず広い場所を探す。
 二人を元の姿に戻し歩く。二人共久しぶりに元の姿に戻れたからか、身体のあちこちを伸ばしていた。ごめんね。

 ある程度広さを確保し、攻撃系の高位魔法を試す。
 二種類以上の魔法を組み合わせた複合魔法。
 炎と風を組み合わせた炎の竜巻や。巨大な氷を雷で砕き電気を帯びた無数の氷刃。
 結界もただ張るのではなく、何重にもしてみたり、広範囲の結界を張ってみたり。
 索敵もただ気配を感じるのではなく、対象が人間なのか動物なのかを探知したり。

 その時索敵に引っ掛かった。

 昨日の奴と同じだ。

「ルナ! オブ! 小型化!」

 二人が小型化したと同時に声が掛けられた。間に合わなかったか。

「凄いな! 銀狼と黒ドラゴンか!」

 聞き覚えのある声に振り向いた。
 確か……レン。ルナを人集りから助けてくれた青年。

「何であなたが……王都のときから私たちの後をずっとつけて来てたよね?」
「あ、やっぱりバレてた?」

 おちゃらけて笑うレンにムッとした。

「一瞬で小型化するんだなぁ。なあ元の姿をもっと見せてくれない? ちょっとしか見えなかったし」

 ルナとオブに近付きマジマジと見る。ルナもオブも警戒して唸り声を上げる。

「近付かないで」

 二人を抱き上げ後退る。

「そんな警戒しないでよ。じゃあ良いよ、その変わりあんたの魔法見せてよ! 凄いじゃん! あんな強力な魔法見たことないよ!」

 どうやら一部始終見られていたようだ。なんで? 索敵魔法も発動させていたのに。さらに警戒する。二人をぎゅっと抱き締めた。
 ルナはそのことでさらに唸る。

『ユウ、もう姿を見られているなら元の姿に戻ろう。今の姿ではお前を守れない』

 ルナは小さい声で言ったが、ルナやオブにも興味を持っている相手の前で姿を晒したくない。

「うん、でももうちょっと待って。様子を見る」
『分かった』

「あー、もしかして索敵に引っ掛からなかったことを警戒してる?」
「……」

 やはり索敵をしていたことに気付いていた。それを掻い潜り近寄って来たってことか。

「俺、簡単な索敵には引っ掛からない魔法使ったから。昨日、後をつけてたときあんた消えただろ! あれ、めちゃくちゃ驚いたんだからな! だから今度見付けたときはその魔法使って近付いてやる! って決めてたから」

 人の後をつけておきながら、どや顔で言われても……。
 それにしても索敵に引っ掛からない魔法か。気になる。

「お? 気になる? その魔法のこと気になってきただろ? 教えてやる変わりにさっきの魔法見せてよ」

 ニヤッとレンは笑った。
 うーん。

「帰ろう、ルナ、オブ」
「え! ちょっと! 気になるんじゃないのか!?」
「こそこそ後をつける奴のことは信用出来ない」

 ルナとオブを抱っこして足早にその場を離れた。
 レンが小走りに追いかけて来る。

「なぁ! 後をつけたのは謝るよ! ほんとに! ごめん! なぁ、許してよ!」

 溜め息を吐いて歩くスピードを緩める。

「何で私たちをつけたの? 王都にいる間もずっと様子伺ってたでしょ」
「あ、全部バレてる」

 レンは苦笑した。

「うーん、最初は黒ドラゴンが気になったんだけど、ずっと見てたら、銀色の毛皮の仔犬も気になるし、あの男前さんはいない割に銀髪は仔犬の毛皮と一緒だし……」

 レンはチラっと抱えているルナとオブを見た。

『仔犬ではない』

 プッと思わず吹き出してしまった。いや、それよりも、やっぱりルナの正体はバレてそうだな。
 この人を信用して良いものかどうか……。

「それからあんた! やたら高位魔法を調べてただろ。それが気になった」

 そこまで見てたんだな。もっと警戒しとけば良かった。悪意や殺気がないからって油断した。

「高位魔法を使える奴は滅多にいない。精々王宮の宮廷魔導士、しかも上官クラスだけじゃないか? それなのにあんたは高位魔法を調べてたから、どうするのか気になって後をつけた。そしたらとんでもない魔法を連発してるから!」
「ただ私の魔法が見たいだけ?」

 わざわざ隠れてつけてくるということは、それだけの理由とは思えない。

「あー、やっぱり隠せないか。仕方ない。実はそれだけの凄い魔法が使えるなら頼みたいことがあって」
「頼みたいこと?」
「そ、引き受けてくれるなら詳しく話す」
「内容も知らずに引き受けられるはずがない。じゃあそういうことで」

 キシュクに着いたため、そんな怪しい話はお断りだ、とレンの話は聞かないことにした。
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