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一章 異世界召還

第九話

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 翌朝早めに目が覚めて一階に下りたが、すでにマリーさんは忙しそうに動き回っていた。

「おはようございます」
「あぁ、ユウおはよう! ゆっくり眠れたかい?」
「おかげさまで」

 マリーさんは朝から元気だ。厨房らしいところから声を掛けてくれた。

「朝食を準備するから手伝ってくれるかい?」
「はい」

 厨房に入ったら、マリーさんよりも少し歳が上そうな男性がいた。

「昨日は忙しくて紹介出来なかったけど、私の旦那のオーグだよ」
「あぁ、君がディルアスが連れてきたっていう女の子か」

 マリーさんと同じく人懐こそうな気さくな人だ。
 体格も物凄く大きい。決して太っている訳ではなく、筋肉隆々、筋肉マッチョ……、格闘家かな、と少し放心してしまった。

「ユウといいます、よろしくお願いします」
「ディルアスが女の子連れてくるとはなぁ!」

 と、少し誤解をしてそうな発言だったので、丁寧に否定しておいた。

「まあ自分の家だと思って過ごしてくれよ」

 オーグさんもマリーさんも満面の笑みでそう言ってくれた。

「ありがとうございます」
「そうそう、今日の買い出しで必要なものは全部買っておいで」

 朝食をテーブルに運びながらマリーさんはお金らしきものを渡してくれた。

「いや! そんな……、そこまでしてもらうには……」

 住む所を提供してもらえて、食事までさせてもらえて、これ以上お世話になるのは気が引ける。

「そこでだよ! お金は気にしなくて良いんだけど、あんたは気になるんだろ?」

 うんうん、と大きく頷いた。

「とりあえずうちで店員として働いてみないかい? ちゃんと給料も出すし。私と旦那だけじゃ手一杯なときもあってね。あんたが手伝ってくれたら助かるんだけど」

 気に病まないようにと気遣って提案してくれているのが分かった。
 何もせずダラダラ過ごしたところで、元の世界に帰れるでもないし、無意味に過ごしているよりは余程気持ちが楽になるだろう、と有り難くその話を受けることにした。

「ありがとうございます、お世話になります! 一生懸命働きます!」
「そんな頑張らなくて良いよ! のんびりしな。昼間は店も仕込みだけだし、買い出しとかは頼むかもしれないけど、それ以外は自由に過ごしてくれて良いよ」
「そうそう、気楽に、が一番だぞ」

 笑いながらオーグさんもそう言ってくれた。
 そうこう話している間にディルアスが二階から下りてきた。

「ディルアスおはよう」
「おはようございます」

 三人とも声を掛けたが、相変わらずディルアスは素っ気ない返事しかない。
 そんな様子を気にすることなくマリーさんは朝食にしようと席に促した。
 四人でテーブルを囲み朝食を取る。少し硬めのパンと野菜たっぷりのスープだった。
 味付けも違和感なく食べられる。それが一番有り難い。食事が合わないと毎日が辛すぎる。

「おはよう!」

 しばらくするとメルダさんが入って来た。
 今日も朝から色気ムンムンの美女だ。

「あぁ、メルダおはよう、ちょっと待ってくれるかい」

 マリーさんが食事の終わらない私に気遣って声を上げてくれた。

「良いよ良いよ、ゆっくり食べな。ディルアス、今日あんたも一緒に行くかい?」

 メルダさんはディルアスに声を掛けたが、そちらを見ようともせず断った。

「俺は用事がある」
「相変わらずだねぇ、ちょっとくらいユウを助けてあげたら良いのに。魔法なんかあんたのほうが得意じゃないか」
「いえ、見ず知らずの私をここまで連れて来てくれただけでも十分有り難いですから」

 責められるディルアスに申し訳なくなる。
 ただそんなやり取りもいつものことのようだった。
 メルダさんは良い子だねぇ、と頭を撫でて来た。
 いやいや、そんな子供でもないし、と少し恥ずかしくなった。

「俺は人に教えるのは苦手だから……」

 ぼそっとディルアスが呟く。今までの印象とあまりに違ってビックリした。
 それはメルダさんたちも同じだったようで、みんなで顔を見合わせると、三人は豪快に笑い出した。
 釣られてクスッと笑ってしまい、慌てて口元を隠した。

「あんたもそんなこと考えてたんだね」
「本当になぁ、意外な発言だ」

 メルダさんもオーグさんもからかうようにディルアスに言った。
 しかしやはりディルアスは無表情だった。

「ディルアスさんの魔法もいつか見せてもらえたら嬉しいです」

 ちょっぴり和んだ気分になり、気安く言ってしまった。
 慌てて謝ったが、気にするな、とメルダさんたちに笑いながら言われた。

 朝食が終わり片付けを手伝ってから、メルダさんと出かけようとしたとき、

「呼び捨てで良い。後、敬語もいらない」

 ぼそっとディルアスが耳元で囁いてから二階に消えた。
 急に耳元で囁かれドキっとしてしまい、メルダさんに心配された。

「顔が赤いけど大丈夫かい?」
「あ、はい! 大丈夫です!」
「そ? なら行こうか!」

 呼び捨てに敬語なし、か。少し距離感が縮まった気がして嬉しくなった。
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