上 下
9 / 96
一章 異世界召還

第九話

しおりを挟む
 翌朝早めに目が覚めて一階に下りたが、すでにマリーさんは忙しそうに動き回っていた。

「おはようございます」
「あぁ、ユウおはよう! ゆっくり眠れたかい?」
「おかげさまで」

 マリーさんは朝から元気だ。厨房らしいところから声を掛けてくれた。

「朝食を準備するから手伝ってくれるかい?」
「はい」

 厨房に入ったら、マリーさんよりも少し歳が上そうな男性がいた。

「昨日は忙しくて紹介出来なかったけど、私の旦那のオーグだよ」
「あぁ、君がディルアスが連れてきたっていう女の子か」

 マリーさんと同じく人懐こそうな気さくな人だ。
 体格も物凄く大きい。決して太っている訳ではなく、筋肉隆々、筋肉マッチョ……、格闘家かな、と少し放心してしまった。

「ユウといいます、よろしくお願いします」
「ディルアスが女の子連れてくるとはなぁ!」

 と、少し誤解をしてそうな発言だったので、丁寧に否定しておいた。

「まあ自分の家だと思って過ごしてくれよ」

 オーグさんもマリーさんも満面の笑みでそう言ってくれた。

「ありがとうございます」
「そうそう、今日の買い出しで必要なものは全部買っておいで」

 朝食をテーブルに運びながらマリーさんはお金らしきものを渡してくれた。

「いや! そんな……、そこまでしてもらうには……」

 住む所を提供してもらえて、食事までさせてもらえて、これ以上お世話になるのは気が引ける。

「そこでだよ! お金は気にしなくて良いんだけど、あんたは気になるんだろ?」

 うんうん、と大きく頷いた。

「とりあえずうちで店員として働いてみないかい? ちゃんと給料も出すし。私と旦那だけじゃ手一杯なときもあってね。あんたが手伝ってくれたら助かるんだけど」

 気に病まないようにと気遣って提案してくれているのが分かった。
 何もせずダラダラ過ごしたところで、元の世界に帰れるでもないし、無意味に過ごしているよりは余程気持ちが楽になるだろう、と有り難くその話を受けることにした。

「ありがとうございます、お世話になります! 一生懸命働きます!」
「そんな頑張らなくて良いよ! のんびりしな。昼間は店も仕込みだけだし、買い出しとかは頼むかもしれないけど、それ以外は自由に過ごしてくれて良いよ」
「そうそう、気楽に、が一番だぞ」

 笑いながらオーグさんもそう言ってくれた。
 そうこう話している間にディルアスが二階から下りてきた。

「ディルアスおはよう」
「おはようございます」

 三人とも声を掛けたが、相変わらずディルアスは素っ気ない返事しかない。
 そんな様子を気にすることなくマリーさんは朝食にしようと席に促した。
 四人でテーブルを囲み朝食を取る。少し硬めのパンと野菜たっぷりのスープだった。
 味付けも違和感なく食べられる。それが一番有り難い。食事が合わないと毎日が辛すぎる。

「おはよう!」

 しばらくするとメルダさんが入って来た。
 今日も朝から色気ムンムンの美女だ。

「あぁ、メルダおはよう、ちょっと待ってくれるかい」

 マリーさんが食事の終わらない私に気遣って声を上げてくれた。

「良いよ良いよ、ゆっくり食べな。ディルアス、今日あんたも一緒に行くかい?」

 メルダさんはディルアスに声を掛けたが、そちらを見ようともせず断った。

「俺は用事がある」
「相変わらずだねぇ、ちょっとくらいユウを助けてあげたら良いのに。魔法なんかあんたのほうが得意じゃないか」
「いえ、見ず知らずの私をここまで連れて来てくれただけでも十分有り難いですから」

 責められるディルアスに申し訳なくなる。
 ただそんなやり取りもいつものことのようだった。
 メルダさんは良い子だねぇ、と頭を撫でて来た。
 いやいや、そんな子供でもないし、と少し恥ずかしくなった。

「俺は人に教えるのは苦手だから……」

 ぼそっとディルアスが呟く。今までの印象とあまりに違ってビックリした。
 それはメルダさんたちも同じだったようで、みんなで顔を見合わせると、三人は豪快に笑い出した。
 釣られてクスッと笑ってしまい、慌てて口元を隠した。

「あんたもそんなこと考えてたんだね」
「本当になぁ、意外な発言だ」

 メルダさんもオーグさんもからかうようにディルアスに言った。
 しかしやはりディルアスは無表情だった。

「ディルアスさんの魔法もいつか見せてもらえたら嬉しいです」

 ちょっぴり和んだ気分になり、気安く言ってしまった。
 慌てて謝ったが、気にするな、とメルダさんたちに笑いながら言われた。

 朝食が終わり片付けを手伝ってから、メルダさんと出かけようとしたとき、

「呼び捨てで良い。後、敬語もいらない」

 ぼそっとディルアスが耳元で囁いてから二階に消えた。
 急に耳元で囁かれドキっとしてしまい、メルダさんに心配された。

「顔が赤いけど大丈夫かい?」
「あ、はい! 大丈夫です!」
「そ? なら行こうか!」

 呼び捨てに敬語なし、か。少し距離感が縮まった気がして嬉しくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

処理中です...