上 下
30 / 36

第30話 そんなことさせない!

しおりを挟む
「この声はお父様ですわ」

 アイリーンがセルディ殿下に確認すると、セルディ殿下は頷いた。アイリーンは扉に近付き、そっと扉を少しだけ開き、外を確認した。

 外の人物と少し会話をし、その人物がなかへと入る。

 現れたのはアイリーンと同じブロンドの髪に紫色の瞳、キリッとしたこれまたイケオジ。シュリフス殿下には負けるけどね! いや、でもシュリフス殿下とはまた違う渋くてダンディなイケオジだわ。どことなくアイリーンと似ている。さすが親子ね。

「ボルデン公爵、お邪魔しています」
「殿下、ようこそおいでくださいました。ちょうどお話したいことがあったのです」
「?」

 ボルデン公爵は私たちのいる傍までやってくると、セルディ殿下に向かって一礼した。そして最初のにこやかな顔とは違い、スッと目を細め極めて冷静に言った。

「本日王宮へ出向いていたのですが、そのときにクラウド公爵と会ったのです」
「!!」

 クラウド公爵の名が出ると、皆の空気が一瞬にして張り詰めた。

「クラウド公爵は私に向かって『アイリーン嬢はセルディ殿下と婚約破棄をなさるのですね、驚きましたよ。一体なにがあったのですか? お二人は仲が良いと聞いていたので残念ですねぇ』と、そう言ってきたのです。まだ卒業パーティが終了している時間でもないのにです。そして明らかに侮蔑を込めたような目で二人のことをあれやこれやと……」

 ボルデン公爵は不快感をあらわにし、眉間に皺を寄せながら拳を握り締めていた。その場にいたわけではないのだから詳細は分からないにしても、聞いているだけでも不快になりそうだ。なぜわざわざそんなことを言う必要がある。婚約破棄が事実だったとしても、それを根掘り葉掘り聞き出したり、あることないこと吹聴する必要などない。
 そんなやつには鉄拳制裁を食らわしてやりたい!! イッラーとしていたら、皆もそうだったようだ。明らかに皆が不機嫌な顔になった。

「早々に動き出すとは分かりやすいやつだな」

 アイザックがそれこそ侮蔑を込めたような表情で言い捨てた。

「これは少し警戒をする必要があるかもしれませんね。早々になにか行動を起こすかもしれない」

 セルディ殿下は顎に手をやり考え込んだ。

「そもそもクラウド公爵はなにがしたいんですかね……」
「?」

 少し疑問になったことを聞いてみたら、皆が不思議そうに私を見た。

「なにがしたいっていうのは?」
「えっと、だって王家転覆を狙っているのだとしても、黒い影の言い伝えが本当なら、そんな力を放ってしまったら、下手をすると国家滅亡ですよ? 自分が王家に成り代わりたいのなら国が滅んでしまっては元も子もないですよね? 力を放ったとしてもそれを抑えるなにか力を持っているんですかね?」

「確かに……」
「本当だ……」

 皆が考え込んでしまった。

 実際はルシアの浄化魔法でなんとかなるんだろうけど、ゲームのエンディングでもクラウド家が王家を滅ぼして自分が取って代わったとかなんてなかったし。ボルデン公爵家が没落してしまうために、クラウド公爵家が国一番の公爵家になった、ってくらいだった。

 そう考えると、結局クラウド公爵はただ単にボルデン公爵家を没落させたかっただけなのかしら……。ボルデン公爵家を没落させてその後権力を握って王家転覆を企てるつもりだった……?
 でもゲームとは違いアイリーンが闇堕ちすることはきっともうない。ということはそれ以外にボルデン公爵家を没落させようとするはず……それには一体どうするつもり……?

「私を陥れようとしているのかもしれませんな」

 ボルデン公爵が呟いた。

「公爵?」

 皆がボルデン公爵を見た。ボルデン公爵は溜め息を吐き言葉を続ける。

「私は軍務大臣です」

「そうか!!」

 セルディ殿下はハッとしたように顔を上げた。その言葉に釣られるように生徒会メンバーもシュリフス殿下も気付いたような顔だ。え、どういうこと?

「今から思えば狩り大会の魔物もそうだったのかもしれませんな。クラウド公爵は魔石の力で、おそらく魔物をけしかけるつもりなのでしょう」

 ボルデン公爵が冷静に言葉を発し、それにセルディ殿下が言葉を続ける。

「そして魔物を国にぶつけ、あわよくば国王を殺し、それが叶わなくとも、魔物を殲滅出来ず混乱を抑えきれないとなると、軍務大臣であるボルデン公爵が責任に問われる……それを狙っているのだな……」

「なんてことを……」

 アイリーンが口に手を当てショックを受けている。

「そんなことになれば下手をすると城も王都も大打撃じゃないか!」

 ロナルドが叫ぶ。ラドルフもアイザックも眉間に皺を寄せる。シュリフス殿下も考え込んでいるようだ。

 私が婚約破棄を回避させようとしたことで、アイリーンの闇堕ちがなくなった代わりに魔物が……。

「そんなことさせない……」

 呟いた言葉は皆に届いた。皆が「え?」とこちらに向く。

「私が絶対そんなことさせない!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?

ラララキヲ
恋愛
 乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。  学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。  でも、ねぇ……?  何故それをわたくしが待たなきゃいけないの? ※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。 ◇テンプレ乙女ゲームモノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...