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第11話 黒い靄
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「ルシア嬢、こんなところでどうしたんですか?」
セルディ殿下はキラキラを身に纏いながら爽やかな笑顔で声を掛けてきた。少女漫画ならきっと背後に薔薇の花がぶわっと咲き誇っているのだろう。眩しいわぁ……。
「セルディ殿下、ごきげんよう。少し道に迷ってしまいまして、ここが王族専用スペースとは知らずに足を踏み入れてしまいました。申し訳ございません」
恭しく頭を下げ、スススッと後退る。じりじりと距離を開けようと気付かれないように後ろに下がるのだが、そのたびにセルディ殿下が一歩近付く。ちょ、ちょっと! 来ないでよ!
「王族専用スペースといえど、ほとんど使われていない園なのです。どうかお気になさらず。もしよろしければ案内しましょう」
「いえ! 結構です!」
「「えっ」」
あ、しまった、思い切り拒否してしまった。ヤバい。セルディ殿下もラドルフもまさか断るとは思っていなかったのだろう。かなり驚いた顔をしている。
「す、すみません! アイリーン様と約束をしているのです。決して行きたくないからとかではありません!」
いえ、行きたくないんですけどね……。
「あぁ、アイリーンとですか。それでは私もご一緒しましょう」
「は!?」
なぜに!?
セルディ殿下は触れるか触れないかの距離で私の背中に手をやり、歩くように促して来た。
いやいやいやいや!! なんで一緒に行くのよ!! アイリーンと二人でランチをするのよ! いくら婚約者といえど、ここは遠慮するもんじゃないの!?
セルディ殿下と一緒に現れたらアイリーンに誤解されるじゃないのよー!!
断ろうかと声を出そうとした瞬間、背後に無言で見下ろすラドルフがいた。こ、怖い……。
結局断る隙もなくアイリーンが待つカフェテラスまで一緒に行くはめに。案の定、私たちを見付けたアイリーンはショックを受けたような何とも言えないような微妙な顔に……あぁぁあ。
「ア、アイリーン様!! 遅くなって申し訳ございません!! 学園内で迷ってしまって、セルディ殿下に案内していただきました!!」
カフェテラスにいる人たちみんなに聞こえるであろう大声でただ案内をしてもらったと主張! 大声で話すなんて令嬢らしくないと注意されるかもしれないけれど、そこは仕方ないと許して欲しい! 周りの人たちに誤解されたくないのよ!!
私は決してセルディ殿下と逢引きしていたわけではなーい!!
アイリーンの疑うような目付きにたじろぐがここは毅然とした態度で……と、キリッとしているとき、アイリーンの傍になにやら黒い靄のようなものが……ん? なんだあれ? アイリーンに纏わり付くように薄っすらと黒い靄が漂っている。
ま、まさか、闇堕ちの前兆!? あれがアイリーンを闇堕ちさせる悪しきもの!? ちょ、ちょっと!! 今回のことが始まりのきっかけになっちゃうわけ!? そんな!!
みんな気付いてないの!?
周りをそっと見回してみても、誰も気付いていないようだ。セルディ殿下もラドルフも特に気付いている様子はない。アイリーン本人も全く気付いていないどころか、私とセルディ殿下を凝視している。だ、駄目だ、アイリーンの負の感情をなんとかしないと! ど、どうしよう…………あの靄、蹴散らせないかしら。
咄嗟にアイリーンまで速足で近寄り抱き付いた。
「「「!?」」」
あ、なにやってんのよー!! いや、その、黒い靄を蹴散らせないかと思ったら、抱き付いてしまった。アホだ。
案の定、アイリーンもセルディ殿下もラドルフも、さらにはカフェテラスにいた人々みんなが唖然としていた。うぅぅ、これにはわけがあるのよ! と、大声で言いたい!
「な、な、な、なにをなさっているの!? ルシアさん!?」
あー……、なんて説明しよう……、悩む間もなく、アイリーンが私の身体を両手で押すものだから仕方なく身体を離す。いやまあ当然ですよね、アハハ。
「す、すみません……アイリーン様に会えた嬉しさで抱き付いてしまいました……」
なんつー下手な言い訳を!! 駄目だ、まともな言い訳が思い付かない。
恐る恐るアイリーンの顔を見ると、真っ赤な顔でプイッと横を向き、私にしか聞こえないような小さな声で「それなら仕方ありませんわね」と呟いた。
ぐはぁ! ツンデレ可愛いわ!!
思わずにやけそうな顔をなんとか抑え、アイリーンを見ると、先程の黒い靄は消えていた。
良かった! 私が蹴散らしたのか、アイリーンの負の感情がなくなったからかは定かじゃないけれど、とりあえずアイリーンも無事そうだし良かったわ。
背後ではセルディ殿下とラドルフが相変わらず唖然とした顔をしていた。うぅん、二人に私の謎行動を説明するのは面倒よね。今日はアイリーンとのお喋りは諦めるかぁ……。
「アイリーン様、セルディ殿下がいらっしゃることですし、今日のランチはまた後日にさせていただいても良いですか? どうぞお二人でお過ごしになってください」
「え!?」
アイリーンは再び真っ赤になり目を真ん丸にして固まった。フフ、可愛いわぁ。
「セルディ殿下とご一緒なんて私には恐れ多いですもの、では失礼しますね」
アイリーンの手をギュッと握り、にこやかに挨拶をするとセルディ殿下とラドルフにも挨拶をしその場を離れた。背後からはアイリーンの戸惑う声が聞こえ、セルディ殿下の私を引き留めようとする声も聞こえたが、聞こえていないフリをし、ささっと退場!
少し離れたところからチラッと振り向くと、真っ赤なアイリーンが照れながらもセルディ殿下と嬉しそうに話していた。良かった。
うふふ、良いことしたわ! と、喜んでルンルンになっていたら、急に腕を掴まれ建物の陰へと引きずり込まれた…………。
セルディ殿下はキラキラを身に纏いながら爽やかな笑顔で声を掛けてきた。少女漫画ならきっと背後に薔薇の花がぶわっと咲き誇っているのだろう。眩しいわぁ……。
「セルディ殿下、ごきげんよう。少し道に迷ってしまいまして、ここが王族専用スペースとは知らずに足を踏み入れてしまいました。申し訳ございません」
恭しく頭を下げ、スススッと後退る。じりじりと距離を開けようと気付かれないように後ろに下がるのだが、そのたびにセルディ殿下が一歩近付く。ちょ、ちょっと! 来ないでよ!
「王族専用スペースといえど、ほとんど使われていない園なのです。どうかお気になさらず。もしよろしければ案内しましょう」
「いえ! 結構です!」
「「えっ」」
あ、しまった、思い切り拒否してしまった。ヤバい。セルディ殿下もラドルフもまさか断るとは思っていなかったのだろう。かなり驚いた顔をしている。
「す、すみません! アイリーン様と約束をしているのです。決して行きたくないからとかではありません!」
いえ、行きたくないんですけどね……。
「あぁ、アイリーンとですか。それでは私もご一緒しましょう」
「は!?」
なぜに!?
セルディ殿下は触れるか触れないかの距離で私の背中に手をやり、歩くように促して来た。
いやいやいやいや!! なんで一緒に行くのよ!! アイリーンと二人でランチをするのよ! いくら婚約者といえど、ここは遠慮するもんじゃないの!?
セルディ殿下と一緒に現れたらアイリーンに誤解されるじゃないのよー!!
断ろうかと声を出そうとした瞬間、背後に無言で見下ろすラドルフがいた。こ、怖い……。
結局断る隙もなくアイリーンが待つカフェテラスまで一緒に行くはめに。案の定、私たちを見付けたアイリーンはショックを受けたような何とも言えないような微妙な顔に……あぁぁあ。
「ア、アイリーン様!! 遅くなって申し訳ございません!! 学園内で迷ってしまって、セルディ殿下に案内していただきました!!」
カフェテラスにいる人たちみんなに聞こえるであろう大声でただ案内をしてもらったと主張! 大声で話すなんて令嬢らしくないと注意されるかもしれないけれど、そこは仕方ないと許して欲しい! 周りの人たちに誤解されたくないのよ!!
私は決してセルディ殿下と逢引きしていたわけではなーい!!
アイリーンの疑うような目付きにたじろぐがここは毅然とした態度で……と、キリッとしているとき、アイリーンの傍になにやら黒い靄のようなものが……ん? なんだあれ? アイリーンに纏わり付くように薄っすらと黒い靄が漂っている。
ま、まさか、闇堕ちの前兆!? あれがアイリーンを闇堕ちさせる悪しきもの!? ちょ、ちょっと!! 今回のことが始まりのきっかけになっちゃうわけ!? そんな!!
みんな気付いてないの!?
周りをそっと見回してみても、誰も気付いていないようだ。セルディ殿下もラドルフも特に気付いている様子はない。アイリーン本人も全く気付いていないどころか、私とセルディ殿下を凝視している。だ、駄目だ、アイリーンの負の感情をなんとかしないと! ど、どうしよう…………あの靄、蹴散らせないかしら。
咄嗟にアイリーンまで速足で近寄り抱き付いた。
「「「!?」」」
あ、なにやってんのよー!! いや、その、黒い靄を蹴散らせないかと思ったら、抱き付いてしまった。アホだ。
案の定、アイリーンもセルディ殿下もラドルフも、さらにはカフェテラスにいた人々みんなが唖然としていた。うぅぅ、これにはわけがあるのよ! と、大声で言いたい!
「な、な、な、なにをなさっているの!? ルシアさん!?」
あー……、なんて説明しよう……、悩む間もなく、アイリーンが私の身体を両手で押すものだから仕方なく身体を離す。いやまあ当然ですよね、アハハ。
「す、すみません……アイリーン様に会えた嬉しさで抱き付いてしまいました……」
なんつー下手な言い訳を!! 駄目だ、まともな言い訳が思い付かない。
恐る恐るアイリーンの顔を見ると、真っ赤な顔でプイッと横を向き、私にしか聞こえないような小さな声で「それなら仕方ありませんわね」と呟いた。
ぐはぁ! ツンデレ可愛いわ!!
思わずにやけそうな顔をなんとか抑え、アイリーンを見ると、先程の黒い靄は消えていた。
良かった! 私が蹴散らしたのか、アイリーンの負の感情がなくなったからかは定かじゃないけれど、とりあえずアイリーンも無事そうだし良かったわ。
背後ではセルディ殿下とラドルフが相変わらず唖然とした顔をしていた。うぅん、二人に私の謎行動を説明するのは面倒よね。今日はアイリーンとのお喋りは諦めるかぁ……。
「アイリーン様、セルディ殿下がいらっしゃることですし、今日のランチはまた後日にさせていただいても良いですか? どうぞお二人でお過ごしになってください」
「え!?」
アイリーンは再び真っ赤になり目を真ん丸にして固まった。フフ、可愛いわぁ。
「セルディ殿下とご一緒なんて私には恐れ多いですもの、では失礼しますね」
アイリーンの手をギュッと握り、にこやかに挨拶をするとセルディ殿下とラドルフにも挨拶をしその場を離れた。背後からはアイリーンの戸惑う声が聞こえ、セルディ殿下の私を引き留めようとする声も聞こえたが、聞こえていないフリをし、ささっと退場!
少し離れたところからチラッと振り向くと、真っ赤なアイリーンが照れながらもセルディ殿下と嬉しそうに話していた。良かった。
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