上 下
6 / 36

第6話 美形軍団を!

しおりを挟む
 婚約破棄されたアイリーンは嘆き悲しみ、闇にのまれていく……。
 あらゆる悪しきものを寄せ付けてしまい、それらを全て取り込んでいき、最後にはアイリーンの意識もなくなり、ただ愛するものに切り捨てられたという記憶のみが残った、悲しい化け物になってしまう。

 それがラスボスとなり、ヒロインはセルディ殿下や他の攻略対象たちと共に聖女として打ち倒す。そして悪を滅ぼしたヒロインは最終的に結ばれた相手とハッピーエンド……、なんだけど……ハッピーエンドなんだけど!! なんかモヤる!!

 ゲームをやってたときはひたすらイケメンたちとハッピーエンドになることを目的としていたけど……こんなのあんまりじゃない!! アイリーンが可哀想過ぎる……。

 婚約者を奪った挙句、闇堕ちさせてやっつけちゃうって、ヒロインあかんやん!!
 なんだこれ! 冷静になって考えてみるとかなり酷いストーリーよね……。

 だからこそ絶対断罪イベントは回避したいのよ……。
 散々このゲームを楽しんだ私が言うのもどうなのよ、って感じだけど、でもさぁ、実際この世界で過ごしてみたら、アイリーンは全く悪くないんだもの。

 なんとか回避出来るように頑張らないと……アイリーンを倒すなんて嫌だ。だって……、だって、アイリーンも超絶美人さん!! あんな美しい人を化け物になんてしたくなーい!! それを倒すなんてもってのほか!!

 この世界美形だらけなんだから、目の保養なんですよ、うふふ。そんな美形たちに囲まれているだけで癒されるんだから、みんな幸せで良いじゃない! 今の美形軍団を崩したくないのよ!
 そこにシュリフス殿下も加われば最高よ!!

 そう、ムフフ。頑張るわよ! アイリーンを闇堕ちさせず、攻略対象たちとは友達に! そしてイケオジとムフフな関係を!! ルシアが十六歳だということはちょっと引っかかるけど……シュリフス殿下がロリコンになっちゃう……? いや、いやいやいやいや、大丈夫よね、貴族ならとんでもない年上に嫁ぐこともあるし…………うん、それは一旦置いといて。忘れましょう。


「おい」

 あれこれごちゃごちゃと考えていたらアイザックに顔を覗き込まれた。ひいぃ。

「そんなに痛かったのか?」

「え?」

「なんだよ、痛くて変な顔をしてたんじゃないのかよ」

「へ、変な顔って!」

 どうやら色々考えている間、かなり百面相をしていたようだ。危ない、もっと顔に出さないようにしないとね……変な人だと思われる。

「チッ、心配して損した……」

 ボソッと呟き、アイザックはそっぽを向いた。
 おっと、ツンデレですか!! 可愛いじゃないのよ!! ダメだ、ニヤニヤしてしまう。我慢だ。ツンデレがヤンデレになってしまうとアイザックは怖過ぎるのよ。だから我慢よ。

「大丈夫そうなら、とりあえず叔父のところへ行ってみますか? 今からでも紹介しますよ」

「はい!!」

「フフ、では行きましょう」

 セルディ殿下がそう促すとおもむろに全員が動き出した。

「え? 全員で行くんですか?」

「え?」

「ん? 俺たちも行くよー!」
「そうだな」
「仕方ないから行ってやるよ」

「え? いやいや、大丈夫です!」

「「「「は?」」」」

 全員が驚いた顔になった。いや、こっちが驚くわ! なんで全員で行くのよ! 必要ないでしょ! こんなイケメン生徒会メンバーと一緒に行動なんかしたらどんな目で見られるか! アイリーンにも見付かったら最悪じゃないのよ!! 冗談じゃない!!

「私一人でも十分です!! 保健医ということは医務室におられるのですよね? それなら私にも場所は分かりますので!!」

「いや、しかし……」

「セルディ殿下がシュリフス殿下宛にお手紙でも書いてくださったら、自分で持参しお会いしに行きます!」

「おい、僕たちが一緒じゃなにか問題あるって言うのか?」

 アイザックが不敵な笑みを浮かべながら、私の肩を片手で掴むと見下ろしながら囁いた。耳元で囁かれぞわっとする。反射的にアイザックのほうに顔を向けたが、その目は笑っていなかった。

 い、いやいや、こんなことで負けないんだから! 怖くないわよ! 所詮十七の男の子なのよ! おばさんには通用しないわよ!! あ、自分でおばさんて言っちゃったじゃない!! 違うわよ、お姉さん!! お姉さんには通用しないんだから!!

 そう言いつつもちょっと腰が引ける。なんとか虚勢を張りつつ反論。

「問題ありですよ! 貴方たちは生徒会ではないですか! お仕事してください! みんなの代表なんですから!」

 そうよ! 私の付き合いなんかしてないでお仕事してください! 仕事は大事! 付いて来ないで! お願いだから!

 ちらりと四人の顔を見た。
 驚いたような四人は顔を見合わせていた。もう一押し!

「本当に大丈夫ですから。セルディ殿下、お手紙だけお願いします」

 ニコリと笑って見せた。

「うぅん……分かりました。では、叔父には伝書魔法を飛ばしておきますね」

 伝書魔法……。ルシアの記憶を掘り起こすのに手間取った!

「なんだお前、伝書魔法も知らないのか?」

 アイザックがニヤリと笑う。

「伝書魔法は少しくらいの文章ならば紙に書いて魔法で飛ばすことが出来る」

 ラドルフが怖い顔ながらも静かに説明してくれる。い、いやいや! 知ってましたから!! ちょっとばかり記憶を手繰り寄せるのに時間がかかっただけで! お手紙書いて持ち運べば良いと思っていたけど、この世界は魔法があるのですものね!

 伝書魔法はそこそこ高等魔法だったはず。だから普通程度の魔法使いには出来ないのよね。
 でも魔力が高い私は確か出来るはず。やったことないだけで。
 特殊な紙に書いた文字に魔力を送ると、その紙から文字が浮かび上がり、そのまま消え去ったかと思うと、宛先の人物の目の前に文字が浮き出てくる、という仕組みよね。確か。

「も、もちろん知ってますよ。セルディ殿下、お願いしますね。では、私は早速医務室に向かいますね」

 下手に突っ込まれるより先に退出してしまおう! 極めて冷静に、淑女のようにさらりと身を翻し、オホホホと微笑みを浮かべながら口を挟まれる余地を与えないまま退出!

 背後では「あ、ちょっと!」とロナルドの声が聞こえ、他のみんなも「おい!」やら「え」やら戸惑った声が聞こえたが無視よ! 無視! 聞こえなーい!

 華麗に扉の外へと出て恭しく扉を閉めた途端、一気にどっと疲れが……。

「つ、疲れた……なにもしてないんだけど、なんか疲れた……」

 ぐったりとしながらも、でも、シュリフス殿下よ!! ついに会えるのね!! うふ……うふふ……うふふふ……ダメだ、にやけてしまう。危ない危ない。

 周りをキョロキョロと見回したが誰もいない。よし! 生徒会室に入っていたことは誰にもバレてないわね!! 心置きなくシュリフス殿下を堪能しにいくわよー!!

 ルンルンでさあ行くわよ! となっていたら背後から聞き覚えのある声が……

「あら、ルシアさんではなくて? こんなところで何をしてらっしゃるのかしら?」

 ギクゥゥッ!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

私の妹…ではなく弟がいいんですか?!

しがついつか
恋愛
スアマシティで一番の大富豪であるマックス・ローズクラウンには娘が2人と息子が1人いる。 長女のラランナ・ローズクラウンは、ある日婚約者のロミオ・シーサイドから婚約解消についての相談を受けた。

申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!

甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。 その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。 その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。 前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。 父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。 そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。 組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。 この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。 その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。 ──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。 昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。 原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。 それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。 小説家になろうでも連載してます。 ※短編予定でしたが、長編に変更します。

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

剣の聖女はモブに乗っ取られました~婚約破棄されましたが・・・悪役令嬢ルートなんてありましたっけ?~

古芭白あきら
恋愛
 乙女ゲーム『剣の乙女のエンゲージ』のヒロインの座をモブに奪われてしまった!  しかもこの転生者はにわかプレイヤーらしく、後日談のファンディスクをプレイしていないみたい。このまま本物の剣の聖女が不在だと異形の王が復活して世界は大変なことになっちゃうのに!  悪役令嬢に転生した私は説得を試みたけど、ぜんぜん聞く耳を持ってくれないの。攻略された婚約者達までもが絡んでゲーム設定はめちゃくちゃだし! 「私はレイピア・ツヴァイハイダーとの婚約を破棄する!」  婚約破棄?  もう好きにすれば!  キレた私は全てを放り出した。  これからは真のヒロインを溺愛してイチャイチャ生活を謳歌してやるんだから!

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

婚約破棄の場で攫われました!?

志位斗 茂家波
恋愛
「ミディ公爵令嬢!!お前との婚約破棄し、このわたしは別の愛する者と改めて婚約をさせてもらう!!」  皆がワイワイと話し合いながら、最後の学生生活としての卒業記念式典に、突如として王子からいい渡された婚約破棄。  何やら身に覚えのないことで断罪されそうになり、兵士たちに取り押さえられそうになったとたん‥‥‥攫われました!?  R15かR18を入れようか検討中。とりあえず明るく楽しくやっていくミディの物語である。

【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました

Rohdea
恋愛
──たまたま落ちていた指輪を拾っただけなのに! かつて婚約破棄された過去やその後の縁談もことごとく上手くいかない事などから、 男運が無い伯爵令嬢のアイリーン。 痺れを切らした父親に自力で婚約者を見つけろと言われるも、なかなか上手くいかない日々を送っていた。 そんなある日、特殊な方法で嫡男の花嫁選びをするというアディルティス侯爵家のパーティーに参加したアイリーンは、そのパーティーで落ちていた指輪を拾う。 「見つけた! 僕の花嫁!」 「僕の運命の人はあなただ!」 ──その指輪こそがアディルティス侯爵家の嫡男、ヴィンセントの花嫁を選ぶ指輪だった。 こうして、落ちていた指輪を拾っただけなのに運命の人……花嫁に選ばれてしまったアイリーン。 すっかりアイリーンの生活は一変する。 しかし、運命は複雑。 ある日、アイリーンは自身の前世の記憶を思い出してしまう。 ここは小説の世界。自分は名も無きモブ。 そして、本来この指輪を拾いヴィンセントの“運命の人”になる相手…… 本当の花嫁となるべき小説の世界のヒロインが別にいる事を─── ※2021.12.18 小説のヒロインが出てきたのでタグ追加しました(念の為)

処理中です...