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第1話 なんでどうしてそうなった!

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「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」

 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。


 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
 私の必死の努力を返してー!!



 事の始まりは今から一年前。王国立学園への入学式の日のことだった。



 私はローズ侯爵家の一人娘ルシア・ローズ。貴族の者なら皆十六歳になれば王国立学園に入学する。能力さえあれば平民でも通うことの出来る学園だ。

 私も何の疑問もなく、十六になる年に入学を迎えた。

「お嬢様、ご入学おめでとうございます! 制服がとてもお似合いです」

「ありがとう、アナ」

 身支度を整えてくれているのは、侍女のアナ。同い年で姉妹同然のような仲のアナはいつも私のことを一番に考えてくれている大事な家族だ。

 お互い顔を見合わせ笑顔で話す。

 今日の装いはドレスではない。
 学園に入学するための制服、紺色を基調とし白のラインが入った清楚な印象の制服。

 膝丈のふんわりとしたスカートが、普段のドレスと違い落ち着かないが、とても動きやすく効率的だ。
 女性は胸元に大きな白いリボンをあしらい、男性は白いネクタイを着用している。

 ドレスとは違った可愛らしさにウキウキとする。
 お母様似のハニーピンクの艶やかな長い髪はまとめあげてもらい、歩く度にふわふわと揺れる。

 食堂で朝食をいただくと、馬車を用意してもらい学園まで!

 学園では寮生活となる。全生徒が身分関係なく、クラスメイトとなり、共に寮生活を送るのだ。

 案の定、お父様とお母様はとても心配をしていたが、私はというと楽しみで仕方がなかった。
 初めて屋敷とは違うところで生活をするのよ! どんな生活かしら! お友達も出来るかしら、楽しみだわ!

 貴族も平民も関係なく通う学園だが、しかしながらやはり寮自体は分けられていた。貴族は従者の付き添いが許可されており、身の回りの世話はアナが付いて来てくれた。
 寮の部屋自体は平民のものと大差なかったが、従者のための部屋も隣接されている、ということが少しばかり違うところか。


 学園まで馬車で揺られている間、アナとウキウキしながらお喋りをする。
 そう遠くない学園の門に差し掛かると、門番と御者が話をするのが聞こえた。

 そして馬車の扉が叩かれ開かれる。

「お嬢様、学園の門まで到着しました。ここからはご自身で歩きだそうですよ」

「分かりました」

 御者に声をかけられ馬車を降りる。
 目の前には巨大な学園の門が。見上げるとアーチで学園の名前が掲げられている。


『ラベルシア王国立学園』


 我が家の屋敷よりも圧倒的に大きい建物に広大な敷地。

「広いわねぇ」
「ですねぇ」

 アナと二人で唖然と見渡す。

「さて、お嬢様! 呆然としている場合じゃありませんよ! 入学式に遅れてしまいます!」
「そ、そうね、呆然としている場合じゃなかったわ」

 さあ、これからワクワクの学園生活よ! と、意気込み、いざ、学園の中へ!


 意気揚々と学園の門を潜った瞬間、門の横から現れた何かと思い切りぶつかってしまい尻餅をついてしまった!

「きゃっ」

「お嬢様! 大丈夫ですか!?」

 アナが慌てて駆け寄り手を差し伸べる。

 そこに同じく慌てて駆け寄り跪く影が。

「申し訳ない!! 大丈夫ですか!? お怪我は!?」

 見上げるとそこには心配そうな顔でこちらを見詰めるプラチナブロンドの髪に翡翠のような綺麗な瞳の男性がいた。

 その瞬間、雷に撃たれたかのような衝撃が!

「いやぁぁぁあああ!!」

 激しい衝撃で卒倒!! 遠のく意識の中、アナとその男性が声を張り上げ私を呼ぶ……


 気付いたときには見知らぬ部屋でベッドに寝かされていた。

「こ、ここは……」

「あぁ、お嬢様! お気付きになられましたか!」

 アナが駆け寄り私の顔を覗き込む。そしてその背後から再び先程の男性が……

「あぁ、良かっ……」

「ぎゃぁぁぁあああ!!」

 令嬢らしからぬ叫び声を上げてしまった! いや、でも、仕方ないのよ!!

「お、お嬢様!? どうされたのですか!? 大丈夫ですか!?」

「レディ、どうされましたか!? 私のせいで怪我をされて混乱しておいでですか!?」

 二人とも心配そうにしてくれているのは分かる。分かるけど今は一人にしてー!!

「す、すみません、ちょっと一人にしていただけませんか?」

「お嬢様?」

「アナもごめんなさい、ちょっとだけで良いの、一人にして?」

 アナは戸惑いながらも頷き、男性は困った顔ながらも頷いてくれた。

 そして二人が部屋から出て行くと、身体を起こし部屋を見渡す。

 ここは……寮の私の部屋ね。
 ベッドから降りて、鏡を探す。隣の衣装部屋に鏡があり自分の顔を見詰めた。

 再び卒倒しそうになり、なんとか耐える。

「これが私……私……なの? いやいや、ちょっと……ありえないんだけど……」

 顔をペタペタと触り確かめる。スベスベのお肌に艶やかなハニーピンクの髪、キラキラと煌めく琥珀色の瞳。

 マジマジと見詰め、血の気が引く。

「ありえない……意味分からない……私、ヒロインじゃないのよ……」

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