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最終章 唯一無二

第百五十七話 同盟

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 ヤグワル団長やフェイたちも降りて来る。皆、疲労困憊のようだが無事そうだ。良かった。

 俺も全ての魔力を放出し、その場にへたり込んだ。

「リュシュ!!」

 フィーが心配そうに顔を覗き込む。ヒューイも傍に膝を付いた。フィーは慌てて魔力回復薬を飲ませてくれる。しかし、一瓶だけでは回復しきれなかったのか、疲労感はまだまだ抜けることがなく、立ち上がることは出来なかった。

『ようやく終わったか……』

「アルギュロス……力を貸してくれてありがとう」

 アルギュロスの周りにポンポンと精霊たちが飛び出して来た。

『リュシュ、凄いね~』
『やっつけたね~』

「あぁ、お前たち、出て来られるようになったのか、良かった……」

 あの魔石とシルヴィウスが消えてから、この辺りに漂う不快な気配はすっかりなくなっていた。

「あの森も元に戻るかな?」

 アルギュロスを見上げ聞いた。

『一度死んだ森はもう戻らない』
「そんな!!」

『しかし、再び新たな命は芽生える』
「新たな命?」

『森にはね~、きっと新芽がまた生えてくるよ~』
『ぼくたちが頑張るよ~』

 精霊たちは俺やアルギュロスの周りをふわふわと飛び、クスクスと笑った。
 そうか、精霊たちの力で森も生き返るかもしれない。元に戻すことは出来なくとも、新たな命が生まれることは出来る。それならば大丈夫なはずだ。きっと大丈夫。

『私はもう行く。もう二度と巻き込むな』

 そう言ってくるりと後ろを向いたアルギュロスは姿を消した。

「ありがとう!! ありがとう!! アルギュロス!!」

 消えるアルギュロスに向かって叫んだ。少し振り向いたアルギュロスの顔は笑っていたような気がする。

 そしてアルギュロスが消えたと同時に、俺の手の甲にあった紋が消え去った。アルギュロスと契約を交わしたときに現れた紋。役目を終えて消え去ったのか……。





 シルヴィウスが消え去り、周りを見渡すと城はほとんど崩れ落ち、見るも無残な姿となっていた。跡形もなく崩れ落ちている。

 皆は魔力回復薬を補給したからか、もうすでに後処理に向かってくれていた。瓦礫の下敷きになっていたナザンヴィア兵の救助、王都の人々の確認、瓦礫の除去。
 フェイとアンニーナ、ネヴィルも俺の様子が大丈夫そうなことを確認すると、他の竜騎士たちと同様に、後処理を手伝いに行った。


「ヴィリー…………」


 なんとかヒューイに支えられ立ち上がると、ヴィリーの元まで近付いた。

 シルヴィウスも出来る事なら助けたかった。でも…………助けられなかった。魔石と完全に同化してしまっていたシルヴィウスは俺たちの魔力で、魔石と一緒に浄化されてしまった。抹殺ではない。浄化だ。最期には光り輝き消え去った。だから良かったじゃないか…………、とは言えない。
 ヴィリーの気持ちは分かる。いくら酷い兄貴でも、いくら命を狙うような兄貴でも、やはり血の繋がった兄弟だ。たった一人きりの肉親だ。そんな肉親を俺は殺してしまった。浄化だとしても殺したのと同じだ……。

 こうなることは分かっていた…………それでも俺はあの魔力を発動させた。シルヴィウスを救うにはこれしかないと思ったから……。同化してしまった人間は浄化しか救う道はないと思ったから。

 でもそんなことは言い訳なんだよな。ヴィリーからしてみれば殺したも同然なんだ。だから俺は逃げない。

 キーアを殺した俺は逃げ出した。自分にたくさんの言い訳をして逃げ出した。もう逃げたくない。逃げないって決めたから。


「ヴィリー……ごめん。シルヴィウスを救えなくてごめん……」


 その言葉が聞こえたのか、ヴィリーはようやく顔を上げた。その顔は涙でボロボロになっていたが、しかし俺を見て微笑んだ。

「違う。リュシュは謝るな。リュシュのせいじゃない。兄上がもう助からないことくらい私にも分かっていたよ」

「ヴィリー……」

「それをリュシュが救ってくれたんじゃないか。浄化という形で……」

 笑顔でそう言葉にしたヴィリー。

「ありがとう、リュシュ……」

 立ち上がったヴィリーは俺の背に腕を回し、力強く抱き締めた。そして再び小さく「ありがとう」と呟いた。

 俺はなにも言葉を返すことが出来なかった……。



 しばらくしてそっと俺から離れたヴィリーの顔にはもう涙はなかった。晴れやかな顔で俺を真っ直ぐ見詰め、ニッと笑った。

「さて、俺はナザンヴィアを立て直さないとな!!」

 そしてフィーのほうを向いたかと思うと、恭しく頭を下げた。

「クフィアナ様、貴国のお力を貸していただき、本当にありがとうございました。おかげであの恐ろしい魔石を浄化することが出来た。これからは二度とあのようなことが起こらないと誓います」

 そして顔を上げたかと思うと、フィーに向かって手を差し出した。

「これからも同盟国としてお願いしたい……勝手な言い分だとは分かっております。しかし、私はこの国をこれから必ず平和な国へと導く。お約束致します。ですので、どうか私を信じていただきたい!」

 フィーは俺の顔を見詰めた。俺の意見などで国のことを左右するわけにはいかないだろう。マクイニスさんが知れば激怒しそうだ……そうは思ったが、しかし、俺はヴィリーを信じたい。ナザンヴィアの人々を信じたい。それをフィーにも理解してもらいたい、そう思ってしまった。

 俺はフィーを見詰め返し頷いた。フィーはそれを見て安心したのか、フッと笑った。そしてヴィリーに向き直り、ヴィリーの手を取った。

 固く握手を交わした二人は晴れやかな笑顔だった。
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