上 下
146 / 163
最終章 唯一無二

第百四十四話 隠し通路

しおりを挟む
 クラッと貧血のようなものを感じたが、なんとか耐えアルギュロスを見た。見た目は何も変わっていない。しかし確実に何かを感じる。身体のなかになにか今までになかったもの。それが縛りというものなのか?

『契約は済んだ。手を離せ』

「あ! す、すみません!」

 慌てて手を離すと、左手の甲になにやら薄っすらと魔法陣のような紋様が浮かんでいた。

「? なんだこれ?」

『契約の証だ』

 そう言ったアルギュロスの左手の甲にも同じ紋様がある。

『その紋がある限り、お前がどこにいてもすぐに分かる。名を呼びさえすれば、そこに移動出来る。それを忘れるな』


 それだけ言い残し、アルギュロスは精霊たちを連れて一瞬にして消え去ってしまった。



 緊張からか、魔力切れなのか、一気に力が抜けて座り込んでしまった。

「リュシュ! 大丈夫か!?」

 皆が心配して覗き込んで来る。

「うん、アハハ……ちょっと気が抜けた」

 アンニーナが魔力回復薬をくれた。それを一気に飲み干し回復を待つ。

「まさかリュシュが精霊王と契約をしちゃうなんてね。あんた、どんだけ凄いのよ」

 呆れたようにアンニーナが苦笑する。

「本当に凄いよね。確かに精霊が見えるんだからあり得るのかもしれないけど、まさか精霊王なんかが実在するなんて」

 いつも冷静なフェイまでもが驚いた顔だ。

「精霊に力を借りただけでも魔力増幅になるんだから、きっと精霊王の力ならとんでもないんだろうな!」

 ネヴィルは興奮気味だ。
 ヴィリーやロドルガさんも驚きの顔を隠し切れないようだった。

「んなことより、城に突入するんだろが!」

 ヒューイが突然竜人化し叫んだ。

「精霊王とやらの力も借りられたんだろ!? 後は突入するだけじゃねーか! ちんたらしてると術を発動されちまうぞ!」

「だな」

 皆、顔を見合わせ頷き合った。

 フェイの手を借り、立ち上がる。よし、もう魔力は回復した!

「ヒューイの言う通りだな。とにかく早く潜入してあれを探さないと!」



 ドラヴァルアで計画を立てていたように、二ヶ所の隠し通路を探索することになった。
 二手に分かれ、調べたのち再びこの場所で合流という計画。そこから方針を立てる。

 俺とヴィリーとロドルガさん。フェイとアンニーナとネヴィル。それぞれ地図にあった隠し通路を別れて探る。竜たちはこの集合場所で待機。ヒューイはもちろん俺に付いて来たけど……。



 森のなかを探索しつつ歩く。城に近付くにつれ、どんどん不快さが増していく。不穏な気配を肌で感じる。

「あぁ、なんてことなんだ。なぜここまで……止められなかった自分が悔しい……」

 ヴィリーは悔しさを滲ませている。ロドルガさんも眉間に皺を寄せている。

「ヴィリーのせいじゃない」

 そんな言葉気休めにすらならないのは分かっていたが、言わずにはいられなかった。

「ハハ、ありがとう、リュシュ」

「今そんなことどうでもいいんだよ、これからどうするかだろうが」

 ヒューイがそんな微妙な空気を吹き飛ばす。

「アハハ、ヒューイらしいな。潔い」
「あ!? 馬鹿にしてんのか!?」
「ち、違うよ! 褒めてんだよ!」

 胸ぐらを掴まれそうな勢いだったため、思わず小走りに。そのときなにかに躓き転びそうになる。

「うおっ」

「なにやってんだよ」

 馬鹿にしたような表情で見るヒューイ。イラッ。お前のせいじゃないか。
 足元を見るとなにやら違和感が。

「ここだな」

 ロドルガさんがしゃがみ込み、足元の枯れ葉を手で払う。するとそこには小さな扉らしきものが地面にあった。

「これだ、私が抜け出したやつだな。一番使える可能性は高いが……」

 皆が見詰めるなか、ロドルガさんが扉の小さな突起に手を掛けた。その突起を引っ張るとさらに棒が飛び出し、それを掴んで扉を持ち上げるように開いた。

 ギギギィィと音を立てながら開いた扉は砂埃をパラパラと落とし完全に開かれた。中は真っ暗闇だ。

「これ、大丈夫なやつか?」
「分からない、ここから見た限りでは特に見張りや、いじられた形跡はないが……」

 小さな炎を掌の上に浮かべ、中を覗き込んでみると、細い階段が続き、その先に道が見えたが、手元の灯りだけではその先は見えなかった。

「とりあえず降りてみるか……」

 ヴィリーがそう呟き、皆が了承の頷きで顔を合わせた。
しおりを挟む
感想 106

あなたにおすすめの小説

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

処理中です...