126 / 163
第四章《覚醒》編
第百二十四話 ルドの記憶 その二
しおりを挟む
人間たちは怪しげな術を使い、竜を支配していた。力のある竜はほとんど殺され、残った竜は弱い者や子供竜たちだけだった。
そして次第に人間たちは自分たちの思い通りになる竜が出来ないものかと研究を始めた。
それが俺たちだった。
白い竜は癒しに特化した魔力を持ち、黒い竜は攻撃に特化した魔力を持たせた。
俺たちは竜が元々持つ力の強さ、魔力の強さを備え、さらにそれぞれに特化した魔力を持った竜として育てられていた。人間を守る剣と盾になるように。
しかし、人間たちの計画外だったのは、俺たちに自我が芽生えたことだろうか。
子供竜たちの記憶や知識までもが吸い上げられていることに気付かず、俺たちはそのまま大きくなっていった。
白い竜はだからこそ人間たちを憎み出した。竜を犠牲にして造り出された自分を呪っていた。
『私は生きる価値などない……』
いつもそう嘆いていた。どうしようも出来ない自分を憎んでいた。
俺はただそれを聞いていただけ……。
俺は…………こいつほど他の者に関心が向かない。なぜこいつはそれほどまでに見ず知らずの奴に心を砕くのだ。それが分からなかった。不思議だった。自分が生きることだけを考えていれば良いものを。
それからはこの白い竜のことがやたらと気になるようになった。
『なぜお前はそんなに嘆くのだ』
ある日、率直に疑問を投げかけてみた。白い竜は逆に不思議そうに俺を見る。
『逆に君はなぜ平気なんだ』
『おい、俺が聞いてるんだ。なんで質問に質問で返す』
『さあ、私には君の気持ちが分からなかったからかな。だから質問も意味が分からない』
『チッ』
そんな返しをされるとは思っていなかった。真面目そうなこいつなら、俺の質問にも丁寧に答えるのではないかと思っていた自分が馬鹿みたいだ。ついムッとしてしまう。
『フッ』
白い竜は少しだけ笑った。
『お、笑いやがったな?』
『笑ってない』
『いや、笑っただろ』
『笑ってない』
『頑固なやつだな』
そんなやり取りをしているのがなんだか可笑しくなり、俺も釣られて笑ってしまった。長い長い間、ずっとこの部屋に閉じ込められている俺たちが初めて笑い合った。
『なあ、いつまでもお前とか呼ぶのもどうかと思うんだが、名前…………はないよなぁ』
『名は……ないな…………人間たちには白と黒と呼ばれているしな』
『…………だよな』
『君が私の名を付けてくれないか?』
『俺が?』
『あぁ、そして私は君の名を付けても良いだろうか』
『…………あぁ』
『ルド…………』
『ん?』
白い竜は呟くように言った。
『ルドはどうだろうか? 竜たちの古い言葉で《癒す者》というようだ』
『癒す者って……それはお前じゃないのか?』
『私は何も癒せていない……竜たちを苦しめているだけだ……こんな力欲しくはなかった……』
『…………じゃあお前の名は《クフィアナ》だな』
『クフィアナ……それは……』
『あぁ、確か《強き者》だったか?』
『私は強くなどない……』
『強いよ、お前は』
白い竜は意味が分からないといった感じだった。
『強さとはなにも力の強さだけではないからな…………お前は強いよ』
他の者を思いやれる心がある。俺のように他者に興味がないやつより余程心が強い。
どうにか出来ないかと行動しようとする想いの強さがある。俺にはない強さだよ。
『ありがとう、ルド』
『クフィアナ、お前は自分の信じる道を行け。俺が守ってやる』
それからはお互いが特別な存在となった。
俺とクフィアナしか分からない、俺たちの秘密。
人間に造られたという事実。
そしてお互いが名を与え合うという行為によって生まれた特別な意識。
家族のような……
番のような……
仲間のような……
同志のような……
俺にとって唯一無二の片割れ…………クフィアナ…………俺が必ず守ってやる。
そして次第に人間たちは自分たちの思い通りになる竜が出来ないものかと研究を始めた。
それが俺たちだった。
白い竜は癒しに特化した魔力を持ち、黒い竜は攻撃に特化した魔力を持たせた。
俺たちは竜が元々持つ力の強さ、魔力の強さを備え、さらにそれぞれに特化した魔力を持った竜として育てられていた。人間を守る剣と盾になるように。
しかし、人間たちの計画外だったのは、俺たちに自我が芽生えたことだろうか。
子供竜たちの記憶や知識までもが吸い上げられていることに気付かず、俺たちはそのまま大きくなっていった。
白い竜はだからこそ人間たちを憎み出した。竜を犠牲にして造り出された自分を呪っていた。
『私は生きる価値などない……』
いつもそう嘆いていた。どうしようも出来ない自分を憎んでいた。
俺はただそれを聞いていただけ……。
俺は…………こいつほど他の者に関心が向かない。なぜこいつはそれほどまでに見ず知らずの奴に心を砕くのだ。それが分からなかった。不思議だった。自分が生きることだけを考えていれば良いものを。
それからはこの白い竜のことがやたらと気になるようになった。
『なぜお前はそんなに嘆くのだ』
ある日、率直に疑問を投げかけてみた。白い竜は逆に不思議そうに俺を見る。
『逆に君はなぜ平気なんだ』
『おい、俺が聞いてるんだ。なんで質問に質問で返す』
『さあ、私には君の気持ちが分からなかったからかな。だから質問も意味が分からない』
『チッ』
そんな返しをされるとは思っていなかった。真面目そうなこいつなら、俺の質問にも丁寧に答えるのではないかと思っていた自分が馬鹿みたいだ。ついムッとしてしまう。
『フッ』
白い竜は少しだけ笑った。
『お、笑いやがったな?』
『笑ってない』
『いや、笑っただろ』
『笑ってない』
『頑固なやつだな』
そんなやり取りをしているのがなんだか可笑しくなり、俺も釣られて笑ってしまった。長い長い間、ずっとこの部屋に閉じ込められている俺たちが初めて笑い合った。
『なあ、いつまでもお前とか呼ぶのもどうかと思うんだが、名前…………はないよなぁ』
『名は……ないな…………人間たちには白と黒と呼ばれているしな』
『…………だよな』
『君が私の名を付けてくれないか?』
『俺が?』
『あぁ、そして私は君の名を付けても良いだろうか』
『…………あぁ』
『ルド…………』
『ん?』
白い竜は呟くように言った。
『ルドはどうだろうか? 竜たちの古い言葉で《癒す者》というようだ』
『癒す者って……それはお前じゃないのか?』
『私は何も癒せていない……竜たちを苦しめているだけだ……こんな力欲しくはなかった……』
『…………じゃあお前の名は《クフィアナ》だな』
『クフィアナ……それは……』
『あぁ、確か《強き者》だったか?』
『私は強くなどない……』
『強いよ、お前は』
白い竜は意味が分からないといった感じだった。
『強さとはなにも力の強さだけではないからな…………お前は強いよ』
他の者を思いやれる心がある。俺のように他者に興味がないやつより余程心が強い。
どうにか出来ないかと行動しようとする想いの強さがある。俺にはない強さだよ。
『ありがとう、ルド』
『クフィアナ、お前は自分の信じる道を行け。俺が守ってやる』
それからはお互いが特別な存在となった。
俺とクフィアナしか分からない、俺たちの秘密。
人間に造られたという事実。
そしてお互いが名を与え合うという行為によって生まれた特別な意識。
家族のような……
番のような……
仲間のような……
同志のような……
俺にとって唯一無二の片割れ…………クフィアナ…………俺が必ず守ってやる。
10
お気に入りに追加
547
あなたにおすすめの小説
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜
I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。
レベル、ステータス、その他もろもろ
最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。
彼の役目は異世界の危機を救うこと。
異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。
彼はそんな人生で何よりも
人との別れの連続が辛かった。
だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。
しかし、彼は自分の強さを強すぎる
が故に、隠しきることができない。
そしてまた、この異世界でも、
服部隼人の強さが人々にばれていく
のだった。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる