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第四章《覚醒》編
第百二十三話 ルドの記憶 その一
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ここはどこだ……薄暗い……寒い……
ゴポリと音を立て、水泡が空へと上がっていく。
なんだろう、ここはどこなんだ。
周りを確認すると、冷たい水の中に浮かんでいた。いや、水というよりは身体に纏わり付くような……粘液のように粘りがあるような液体。
小さく身動ぎをすると、自分の手が見えた。小さな小さな手。漆黒の鱗に覆われた手。爪はまだ鋭さはなくふにゃふにゃしてそうだ。
夢で見ていたときよりもさらに小さい手。これは一体いつの夢だ。
夢? 夢とはなんだ? 分からない……俺は……誰なんだ?
そんなことをぼんやり考えては眠りに就き、再び目覚めてはまた眠り、ということを繰り返していると、あるとき人間の姿が見えた。
酷く歪んで見える。なぜだろうか、そう思っていると、その原因は自分が硝子に覆われたもののなかにいることが分かった。
円柱のような硝子のなかにたっぷりの液体。そのなかで俺は眠っていたのか。
人間が現れると少し周囲が明るくなった。そのときすぐ隣に同じように円柱の硝子のなかに俺と同じくらいの大きさの竜がいることを知った。白い竜だ。小さく弱々しい竜。人間の掌に乗りそうなほど小さな竜。今の俺も同じだった。
人間たちはニヤニヤしながら会話をしている。なにを話しているのか聞いておかないと、と思うのに、眠くて仕方がない。
俺とその白い竜は何日も何ヶ月もその硝子のなかで育てられていた。
何ヶ月も経つ間に次第に意識がハッキリとしていった。隣の白い竜はぼんやりとしていたが、ある日なにかに気付くと怯えた顔をしていた。
俺たちは会話をすることは出来なかったが、その白い竜の視線の先を見て、怯えた顔の意味が分かった。
床には大量の竜の死骸があったのだ……。子供竜ばかりの死骸……。
俺たちの入る硝子とは別の硝子に子供竜たちは一匹ずつ閉じ込められ、そして人間たちがなにやら怪しい呪文を唱えると、俺たちの硝子とともに光り出す。
俺たちに纏わり付く粘液が光り出し、俺と白い竜は身体の軋みとともに身体が大きくなった。
しかし俺たちが成長するのと反対に、子供竜たちは硝子が光り出すとともに激しく苦しみだし、そして息絶えて行った。
こ、これは…………命を吸い上げている……?
俺たちは成長していっている…………ということは、俺たちの成長のために子供竜を犠牲にしているのか!?
白い竜は優しいからか心が弱いからなのか、耐え切れないといった表情で苦しんでいるようだった。
硝子のなかで暴れ回り、なんとか抜け出せないかともがいていた。
俺は…………どうでもいいというわけではないが、そこまで必死にはなれなかった。どうせここからは抜け出せない。そもそも俺たちは一体なんなのだ。人間たちに育てられている限り、抜け出すことは出来ない。どうしようもないことを必死になるほど、俺に感情はなかった。
結局白い竜も抜け出すことなど出来ないまま、さらに数ヶ月経つと、硝子のなかには収まりきらない身体の大きさとなってきた。
そこまで成長すると粘液から出され、檻のような硝子のなかに移された。脚にはしっかりと足枷をはめられて……。
外に出されてからも子供竜たちの生贄は続いていた。
ある日、そのことに耐え切れなくなった白い竜は初めて言葉を放った。
『もう耐えられない!! 私は一体なんなのだ!! 竜たちをなぜこんなに犠牲にする!!』
泣いているかのような叫びだった。
『どうしようもないだろう……俺たちは……造られた竜だ……』
『!?』
自分で言葉にして気付いた。
そう、俺たちは《造られた》んだ。
人間の手によって生み出された竜。
初めて目が覚めたとき、酷く小さかった。しかし俺たちの周りには卵の殻などはなかった。人間に造り出された硝子の牢獄があっただけだ。
そして子供竜たちの竜気や魔力、そして記憶や知識を吸い上げて、俺たちは成長していった。
恨み辛み、憎しみ悲しみ、そんな想いとともに親元にいた頃の記憶やこの世の知識、それら全てを引き継いで、俺たちの糧となっていった子供竜たち。
ここはナザンヴィアという人間の国。
そして人間たちは竜を支配していた…………。
ゴポリと音を立て、水泡が空へと上がっていく。
なんだろう、ここはどこなんだ。
周りを確認すると、冷たい水の中に浮かんでいた。いや、水というよりは身体に纏わり付くような……粘液のように粘りがあるような液体。
小さく身動ぎをすると、自分の手が見えた。小さな小さな手。漆黒の鱗に覆われた手。爪はまだ鋭さはなくふにゃふにゃしてそうだ。
夢で見ていたときよりもさらに小さい手。これは一体いつの夢だ。
夢? 夢とはなんだ? 分からない……俺は……誰なんだ?
そんなことをぼんやり考えては眠りに就き、再び目覚めてはまた眠り、ということを繰り返していると、あるとき人間の姿が見えた。
酷く歪んで見える。なぜだろうか、そう思っていると、その原因は自分が硝子に覆われたもののなかにいることが分かった。
円柱のような硝子のなかにたっぷりの液体。そのなかで俺は眠っていたのか。
人間が現れると少し周囲が明るくなった。そのときすぐ隣に同じように円柱の硝子のなかに俺と同じくらいの大きさの竜がいることを知った。白い竜だ。小さく弱々しい竜。人間の掌に乗りそうなほど小さな竜。今の俺も同じだった。
人間たちはニヤニヤしながら会話をしている。なにを話しているのか聞いておかないと、と思うのに、眠くて仕方がない。
俺とその白い竜は何日も何ヶ月もその硝子のなかで育てられていた。
何ヶ月も経つ間に次第に意識がハッキリとしていった。隣の白い竜はぼんやりとしていたが、ある日なにかに気付くと怯えた顔をしていた。
俺たちは会話をすることは出来なかったが、その白い竜の視線の先を見て、怯えた顔の意味が分かった。
床には大量の竜の死骸があったのだ……。子供竜ばかりの死骸……。
俺たちの入る硝子とは別の硝子に子供竜たちは一匹ずつ閉じ込められ、そして人間たちがなにやら怪しい呪文を唱えると、俺たちの硝子とともに光り出す。
俺たちに纏わり付く粘液が光り出し、俺と白い竜は身体の軋みとともに身体が大きくなった。
しかし俺たちが成長するのと反対に、子供竜たちは硝子が光り出すとともに激しく苦しみだし、そして息絶えて行った。
こ、これは…………命を吸い上げている……?
俺たちは成長していっている…………ということは、俺たちの成長のために子供竜を犠牲にしているのか!?
白い竜は優しいからか心が弱いからなのか、耐え切れないといった表情で苦しんでいるようだった。
硝子のなかで暴れ回り、なんとか抜け出せないかともがいていた。
俺は…………どうでもいいというわけではないが、そこまで必死にはなれなかった。どうせここからは抜け出せない。そもそも俺たちは一体なんなのだ。人間たちに育てられている限り、抜け出すことは出来ない。どうしようもないことを必死になるほど、俺に感情はなかった。
結局白い竜も抜け出すことなど出来ないまま、さらに数ヶ月経つと、硝子のなかには収まりきらない身体の大きさとなってきた。
そこまで成長すると粘液から出され、檻のような硝子のなかに移された。脚にはしっかりと足枷をはめられて……。
外に出されてからも子供竜たちの生贄は続いていた。
ある日、そのことに耐え切れなくなった白い竜は初めて言葉を放った。
『もう耐えられない!! 私は一体なんなのだ!! 竜たちをなぜこんなに犠牲にする!!』
泣いているかのような叫びだった。
『どうしようもないだろう……俺たちは……造られた竜だ……』
『!?』
自分で言葉にして気付いた。
そう、俺たちは《造られた》んだ。
人間の手によって生み出された竜。
初めて目が覚めたとき、酷く小さかった。しかし俺たちの周りには卵の殻などはなかった。人間に造り出された硝子の牢獄があっただけだ。
そして子供竜たちの竜気や魔力、そして記憶や知識を吸い上げて、俺たちは成長していった。
恨み辛み、憎しみ悲しみ、そんな想いとともに親元にいた頃の記憶やこの世の知識、それら全てを引き継いで、俺たちの糧となっていった子供竜たち。
ここはナザンヴィアという人間の国。
そして人間たちは竜を支配していた…………。
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