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第四章《覚醒》編

第百十八話 帰還

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「ドラヴァルア……」


 逃げ出してしまった俺の生まれた国……みんなは俺のことをどう思っているだろうか……。

 キーアを殺して自分だけ逃げて来た。

 全てを放り投げて一人で逃げて来た。

 国すらも捨てて逃げて来てしまった……。

 怖い……。

 今さら国に帰って、城に帰って、受け入れてもらえるのだろうか。

 みんなはキーアを殺して逃げた俺を憎んでいないだろうか。

 もう、俺のことなど、忘れ去られていないだろうか……。

 ………………。

 怖い…………怖くて仕方がない…………でも…………。

 それでも俺は帰らないと…………。


 帰らないといけない…………もう逃げないと決めたのだから。





 風魔法を身に纏い走り出す。森を抜け、岩を飛び越え、街を通り過ぎ、国境まで向かう。
 一刻も早く国のみんなに伝えないといけない。
 もし俺を受け入れてもらえなくても、この情報だけはなんとしても伝えたい。知っていれば攻め入られたとしても対処が出来るはず。
 伝えたその足で再び戻り、俺一人でもナザンヴィア城に潜入し、あの怪しい術の魔導具を壊す方法を考えれば良い。

 きっと俺の力が蘇ったのはこのときのためだ!
 そう信じた。そう考えていないとドラヴァルアへと戻る足が怖くて止まってしまいそうだったから。



 国境までたどり着くと、見覚えのある砦に懐かしさを感じる。

「…………よし、行くぞ」

 大きく深呼吸し気合いを入れる。

 精霊たちに頼み、再び姿を消し国境を通り抜ける。ドラヴァルアの砦を守る竜騎士たち。見覚えのある顔に懐かしさがこみ上げる。

 しかし今は感傷に浸っている場合ではない。懐かしい顔ぶれを眺めると踵を返し、そして再び走り出した。

 カカニア…………絶対守るから。絶対ナザンヴィアに攻め込ませたりしないから。
 ノグルさん、ナティ……二人のことも絶対守るから!

 カカニアを横目で見ながら走り抜く。ひたすら走って走って走り抜く。途中の街で食事を取りつつ、ひたすら走った。

 俺の身体はそれだけ強くなっていた。以前ならばすぐにへばってしまっていたくせに、疲れを知らないかのようだ。ナザンヴィアから少しの休憩でひたすら走っていても、全く疲れることはなかった。
 風魔法で補助しているからというのもあるが、それでも以前とは明らかに体力が違った。

 腕や脚の筋力も、身体付きも明らかに以前とは違う。昔あれだけ訓練しても筋力が付かなかったこの身体が嘘のようだ。

 皮肉なものだ。しかし今はそれに悩んでいるときではない。



 ドラヴァルア……、ナザンヴィア城からひたすら走り続けたどり着いた王都。懐かしさがこみ上げると同時に身体が強張った。ギシッと身体が固まり地面に貼り付いたかのように、足が動かない。

 動け!!

 気合いを入れた。大きく深呼吸をし、重い脚を無理矢理動かす。心臓の音が耳にうるさかった。

 怖い……
 逃げるな!
 逃げたい……
 進め!

 まるで自分が二人いるかのように、頭の中が混乱していた。

 足取り重く、しかしそれでも城へと歩を進める。

 見覚えのある店に懐かしくなり、心が軽くなる。
 城が目に入ると脚が震える。

 止まるな!
 進め!
 逃げるな!

 自分のなかのもう一人の自分が必死に自分を鼓舞する。

 長い上り坂の大通り。以前ならば上るだけで息切れをしていた坂。今はもう息切れすることもない。

 何度もここをキーアと歩いた。
 試験に向かうために何度も通った大通りの道。
 ディアンやアンニーナやフェイたちとも歩いた。
 今はたった一人だ。

 あのときから四年も経った……あのときから全てが変わってしまった。

 もう戻れない……。



 懐かしい城。
 辛い記憶が残る城。

 でも……、楽しかった記憶もたくさんある城。



 キーア、俺は戻って来たよ。
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