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第三章《苦悩〜目覚め》編

第百九話 夢

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 いつも同じ部屋の夢を見る。あの薄暗く冷たい空気の部屋。俺は竜の姿で鎖に繋がれている。目の前には硝子で囲われ出られない。
 そして目の前にはあの白竜……。

 手が届く距離にいるのに硝子が邪魔で届かない。もどかしい。小さな白竜は蹲ったまま動かない。
 部屋のなかは薄暗くてよく見えないが、床になにかがたくさん落ちていた。黒い影としか見えずなにかは全く分からない。不快な気分にしかならない。一体この部屋はなんなんだ。

 何日か同じ夢を見るが少しずつ場面が変わっているのが分かった。
 白竜と俺以外に人間が出て来たからだ。

 俺たちを見ながらなにか喋っているがなにを話しているのかは分からない。時折、ニヤリと不気味な笑いを見せ、こちらを見る人間たち。ぞわりと肌が震えた。
 なんなんだ。この部屋は不快だし、人間たちに見られるとまるで魔法で動きを封じられたかのように、身体が強張り動けない。

 人間たちは白竜に近付き、硝子の囲いを取り除く。鎖から外され白竜は抱えられた。

『待て!! どこへ連れて行く!!』

 今の俺の声か!? 夢のなかで初めて自分の声を聞いた。自分が喋っているのに自分ではないようだ。口が勝手に動く。しかし竜の言葉は人間には届かない。

『フィー!!』



 自分の口から叫んだその言葉に目を覚ました。激しい吐き気で口を押える。

「うっ……」

『リュシュ、どうしたの~?』
『いい子いい子する~?』

 大きく深呼吸をし、呼吸を整える。額は汗でぐっしょりとしていた。
 あの不快感、恐怖心は一体なんなのか。白竜のことを「フィー」と呼んでいた。俺の前世なのだろうが、今まであんな記憶はなかった。一体なぜ今ごろあんな記憶が蘇るんだ。

 精霊たちが心配そうに俺の身体に乗り上げ見詰めている。

「心配してくれてありがとな。大丈夫」

『こわい夢見ないようにお花あげる~』

 そう言いながら精霊たちは花を降らせてくれた。

『スッキリするように冷たいのあげる~』

 冷たいの?
 そう思った瞬間、チラチラと頭上から雪が降った。

「おぉ、凄いな。綺麗だし、ひんやり気持ち良いよ」

 そう言うと調子に乗った精霊たちが延々と雪を降らせ続けるものだから、ベッドはぐっしょりとし、俺は風邪をひきかけた……。



 一人でも起き上がり歩けるようになってくると、食事はノグルさんたちと同じ部屋で食べるようになった。
 小さな調理場と目の前にはテーブルと椅子があり花が飾られていた。

「おはよう、リュシュ。お前もだいぶ体力が戻ったな」

「おはようございます。はい……」

 そろそろこの家から出て行く頃合いかもしれない……そう思い口に出そうとすると、遮るようにノグルさんが提案をしてきた。

「体力は戻ったがまだ本調子ではないだろう? 少しずつ慣らすためにも俺の仕事の手伝いでもしてみるか?」
「仕事の手伝い?」
「あぁ、俺の仕事は分かってるだろ?たまに往診も行くんだ。それに付いて来ないか?」

 歩くだけでも訓練になるから、という提案だった。俺はここから早くいなくなったほうが良い……俺は生きたいわけではないのだから……そう思いながらも、ここで過ごすうちに少しずつ癒されている自分を感じていた。心が少しずつ軽くなっているのを感じていた。

 しかしそれと同時にキーアに対する罪悪感もやはり消えなかった。俺は癒される資格などない。生きる資格などないのだ、と自分に言い聞かせていた。そうしないと俺はキーアを忘れてしまいそうだったから……最低だ。キーアを忘れて一人で幸せになるなんて自分で許せない。

 考え込んで黙ってしまった俺にノグルさんは強制的と言っても良いような勢いで、無理矢理往診に連れ出した。



 暖かな日差しのなかナティに見送られながら、ノグルさんに付いて行く。初めて村のなかを歩いて回る。

 この村へ来て初めて長距離を歩くことになり、体力が回復したとは言え、すぐにへばってしまうだろうと予想したが、思っている以上に元気だった。身体が丈夫なだけが取り柄だったが、今はそれが恨めしい。俺はこうして元気になってしまっている。

 しかもなにやら以前よりも筋肉質になっているような気がする……。あれだけ筋肉が付かずに悩んでいたのに、なぜ今になってこんな引き締まった身体になってくるんだよ。
 複雑な気持ちのまま自分自身に嫌気が差す。


 一つ目の往診の家に到着し、なかへと入ると、そこには熱で苦しむ子供がいた。
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