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第二章《仕事》編

第八十九話 キーア

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 城へと戻った俺たちは早速育成係に向かった。

「ロキさん! 戻りました!」
「静かにしろ」
「あ、すみません……」

 いつになったら覚えるんだ、みたいな顔で睨まれた。
 赤ちゃん竜たちがスヤスヤと眠っている。

「それで? なんか分かったのか?」

 ロキさんは赤ちゃん竜から離れ、部屋の片隅で話す。

「分かったような……分からないような……」
「はぁ!?」

 物凄い怪訝な顔をされた。

 ディアンと二人でレグアさんから聞いた話、キーアの話を伝える。



「なるほどな」

 ロキさんは顎に手を当て考え込んだ。

「それでこの前産まれた竜と、亡くなってしまった竜、それと、もし今後番が新たに卵を産んだときに色々調べさせてもらいたいんです」

 ディアンはロキさんを真っ直ぐ見詰め訴えた。ロキさんは驚くでもなく、そう言うだろうと予想していたのか、特に何も言わなかった。

「分かった」



 それからディアンは亡くなった竜を再び調べていた。

 そして約束の三日後。

 城外にある竜の墓所。広大な敷地に、城で働き亡くなった竜たちを埋葬している。竜は巨大なためそのまま埋葬することが出来ず、魔法で火葬してから地中に埋めるのだそうだ。

 野生竜の亡骸は小さすぎるため、そのまま埋葬することになった。

 このときばかりはハナさんもともに、四人で埋葬する。
 小さな墓石を据え、小さな花を添え、祈りを捧げる。

 本当は無事に産まれて欲しかった……。

 そんな皆の願いが聞こえてくるようだった。





 ディアンはそれからも赤ちゃん竜たちを調べていた。しかし新たに番から卵が産まれるということもなく、月日だけが過ぎ去っていた。
 ずっと育成係にいるわけにもいかず、ディアンはある程度赤ちゃん竜たちを調べ終わると、治療師の仕事に戻った。

 しかし暇さえあれば図書館へ行って調べたり、番を調べたり、赤ちゃん竜たちを調べたりとせわしなく動き回っているようだった。



 俺はというとなぜかまた訓練係にいた。

「なぜだ」

「は?」

 あ、いかん、思わず心の声が!

「い、いえ、なんでもないです!」

 目の前にいるのはヴァーナムさん。
 なぜ俺が訓練係にいるのかというと、再びヴァーナムさんに呼ばれたからだ。その理由。

「えっと、なんでしたっけ……」

「はぁぁあ、あー、キーアがな……」

「キーア……」

「お前を乗せたいって言い出してな」

 ヒューイとはまた違うパターンだな。ヒューイは俺なんかを乗せたくねー! って叫んでたしな。思い出すと思わずクスッと吹き出した。

 そうやって思い出すとヒューイのことが気になってしまうのは仕方がないことで、チラッと強化係に目をやると、ヒューイの姿があった。

 目があったような気がしたが気のせいか。

 ヒューイは見知らぬ人間を乗せていた。
 やはりまだ違和感が拭えないのか、少し心地悪そうには見えたが、しかしなんとか頑張っている様子が見て取れた。

 良かったな、強化係で訓練出来るようになって……

 寂しくもなるが仕方ない。ヒューイが頑張っているのは応援したい。そうやって自分に言い聞かせた。


『リュシュ!』

 ドーンッと体当たりしそうな勢いでキーアが目の前まで飛んで来た。

 今現在体当たりされたら確実に死ぬ。

 物凄い風圧を受け、吹き飛ばされそうになるのを踏ん張り、キーアは俺の目の前に降り立った。
 すっかり身体も大きくなり、今や立派な大人竜……ではないが、見た目は大人と同じだ。

 真紅の鱗も大きくなり艶やかに光り、逞しい身体に少し色が薄くなった緑色の瞳。

「お前、かっこよくなったよな」

『あたし、かっこよくなった?』

「あぁ」

『やった!』

 そんなやり取りはまだまだ子供っぽいが、それでも成長は確実に感じる。

「お前、俺を乗せてくれようとしてるのか?」
『うん! リュシュと飛びたい!』
「ハハ、ありがとな」

 キーアの場合はヒューイと違って、他の人間を乗せることが出来ない、というわけではないらしい。ただ単に本当に俺を乗せたいと思ってくれているだけのようだ。

「ヒューイと違ってキーアは他の人間を乗せることが出来るだろ、って何度も言ってるんだが、お前を乗せたいってうるさくてな」

 ヴァーナムさんが苦笑しながら言う。

『だってヒューイも相棒じゃないのにリュシュを乗せてたんでしょ!? あたしだって良いじゃない!』
「だからヒューイは仕方がなかったんだ、って言っただろうが」
『だって今はヒューイも違う人乗せてるのに』

 ぶーぶー、という声が聞こえて来そうだな。そういうところはまだ子供なんだよな、と少し可笑しかった。

「はぁぁあ」

 ヴァーナムさんの深い溜め息が響き渡る。
 ハハハ……、ヴァーナムさん、毎回苦労するよな。苦笑するしかなかった。

「リュシュ乗ってやれ」
「アハハ……良いんですかね」
「仕方ない……」
「なんか、すみません」

 俺が悪いわけじゃないんだけど、なんか申し訳ない気分になり思わず謝ってしまった。
 ヴァーナムさんは苦笑。そして再び深い溜め息……。
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