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第二章《仕事》編

第八十話 野生の卵

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「どうした?」

 今はハナさんが番たちを見ているため、ロキさんは俺たちと一緒に事務所で仮眠をしていた。

 寝起きだからか、それとも普段のままなのか、眉間に皺を寄せながらロキさんは駈け込んで来た竜騎士に聞いた。

「あ、あの! 野生の卵が見付かりました!」

「「「!?」」」

 俺やディアンは当然のように驚いたが、ロキさんも驚いた顔をしている。
 野生の卵!? キーアのときのようなやつか! ディアンは複雑そうな表情だ。確かディアンは昔、野生の卵を産まれた瞬間に死なせてしまったんだよな……そりゃ、複雑な気分にもなるか……。

「持って来い!」
「はい!」

 竜騎士は再び外へと飛び出し、俺たちもそれに続く。演習場では早朝だというのに人だかりが出来ていて、大騒ぎになっている。
 先程事務所に来た竜騎士が人だかりに声を掛けると、波が割れるように人だかりが割れた。そしてその中心には荷車に枯草を敷き詰め動かないよう固定された卵があった。

 荷車ごとこちらに運ばれ、ロキさんは卵に触れた。

「どんな状況で見付かったんだ?」

「はい! 夜の見回り部隊が森の中を探索中、野獣が騒いでいたため討伐したのです。そして討伐し終えると、その野獣たちがいた場所にこの卵が……」

「野獣に狙われていたのか、良かった。この卵はこのまま育成課が預かる。団長にもそう報告してくれ」
「はっ!」

 竜騎士たちは敬礼をすると戻って行った。

「ロキさん! 野生の卵って孵化出来るんですか!?」

 珍しくディアンがロキさんに詰め寄った。

「分からん。野生の卵は孵化率が低い。ただでさえ竜の卵は孵化率が低いからな。俺たちが預かったとしても、孵化出来ない確率のほうが高いと思う……残念だが……」

「そんな……」

 ディアンは明らかにがっくりとした。そりゃそうだよな、孵化率を上げたくて城で研究しているのに、孵化出来ない確率のほうが高いだなんて。

「とりあえず運ぶぞ」
「番部屋に運ぶんですか?」
「あぁ、あそこでバルとミントから少し離した場所で寝床を作る」

 荷車を三人で慎重に運びながら番部屋までやって来る。ハナさんは案の定驚いた顔になった。ついでに言うとバルとミントも。

「ロ、ロキさん! 野生の卵なんて育てられるんですか!?」
「分からんが、ほっとくわけにもいかんだろう」

『野生の卵!? 俺たちの横に置くのか!? 俺たちに世話しろってか!?』

 バルが叫んだ。

「いや、そんなことは頼まん。とりあえず場所だけここに置かせてくれ」

 ミントは出産したばかり。自分たちの卵の世話がある。雌が食事や狩りをしている間は雄が卵を温める。だから二匹で交代しながら卵を温めるのだ。
 ここでは狩りなどはないが、他の卵まで育てるとなると負担が大きい。そんなことはさせられない、とロキさんは二匹に説明をしていた。

 元々二組か三組の番が同時期に部屋へ入れるよう、番部屋はかなりの広さがある。だからバルやミントの場所からかなりの距離を取って卵のためのベッドを作る。枯草を敷き詰め上から大きなシーツで覆う。その真ん中にはふんわりと窪みを作り、その中へ卵をそっと置く。

「とりあえずこれから野生の卵のほうも様子見だな。いつ産まれた卵かが分からんから、孵化するタイミングも分からん。ひたすら毎日様子を見るだけだ」

「「「はい」」」

 ハナさんと俺だけでなく、ディアンも一緒になって卵の世話をすることになった。
 まあ世話といっても温めてやるだけなんだが。

 加熱式の魔導具を準備し、卵の周りに並べる。それだけでも足らないかと周りに大きな布で覆い被せる。
 ディアンは定期的に触ってなにやら確かめているようだ。

「なんか分かったか?」
「いやぁ、特になにも……あえて言うなら卵の温度が違うくらいかな」
「卵の温度?」

 一緒になって俺も卵を触ってみる。いまいち温度と言われてもよく分からない。

「あぁ、表面の温度が毎日微妙に違う気がする。バルとミントの卵は毎日触っても同じ温度っぽいんだよ。だから何か影響があるかな、とか思ったりもするが……でもそれだけくらいしか分からないんだよなぁ」

 たまにバルやミントの卵も触らせてもらう。すると二匹の卵はとても温かい。明らかに野生の卵の表面温度とは違う気がした。
 万が一温度のせいで孵化しない、となるのも嫌だからと、さらに加熱魔導具を増やす。

 そうやって毎日様子を見ながら世話をしていると、ある日予期せぬ人物が現れた。
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