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第二章《仕事》編

第七十八話 番竜

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 ラナカへの手紙は以前ロナス商会から買った魔法陣で定期的にロナスさんに送ってもらっている。ラナカや両親からはロナス商会を通じて届き、寮へと届けてくれている。

 家族は皆元気そうだ。ラナカからの手紙では近況報告や街の噂話など面白おかしく書いてあり、毎回読むのが楽しみだった。
 両親から来る手紙は元気でいるか? とか、仕事は忙しいのか? とか俺を心配する内容ばかりで嬉しさや照れや恥ずかしさや何とも言えないむずがゆさを感じたり。

 そしてつい最近来た両親からの手紙には気になる内容が! ラナカになにやら良い人がいるのではないかという話!
 ラナカには許嫁はいなかった。元々許嫁が主流な訳ではない村で、なぜ俺に許嫁がいたのかというと、俺は村長の息子で後継ぎだったため、父親の補佐の男が提案をしてきただけだった。まあその男にはなにか思惑があったのかもしれないが。

 だからラナカには許嫁はいない。今まで俺を助けるために色々訓練に付き合ってくれていた。だからかラナカにそういった話や噂は一切聞いたことがなかった。
 言い寄られてもあの村で最強のラナカに勝てる者は一人もいなく、簡単にあしらわれて終わりだった。

 そのラナカに!! 良い人!? マジでか!! おぉ、ラナカに…………、いや、まあ嬉しいよ、ラナカには幸せになってもらいたいし。でもほんの少し寂しく感じてしまうのは……俺、痛いやつかな……キモい? ヤバい? …………いや! いやいや! うん、嬉しいよ! うん! やっぱいつも俺を心配してくれていたラナカだ! 幸せになってもらいたい!! これは本当に! うん!

 ぐるぐると考えていると赤ちゃん竜の食事が終わっていたようで、目の前にロキさんがいてビビった。

「なに百面相をしている。片付けだ」

 ビビったせいで顔が引き攣りながら、差し出された空の哺乳瓶を受け取った。
 ディアンが苦笑している。



 受け取った哺乳瓶を洗いに食糧庫へと戻る。ディアンは一足先に番部屋へ。
 洗い終えて番部屋へと行くと、ディアンが熱心に色々観察しながらメモを取っていた。

「おーい、ディアン、気を付けろよ?」

 今はまだ大人しいとは言え、いつ出産のタイミングになるか分からない。そのとき急に竜の機嫌が悪くなるとも限らない。

『失礼なやつだな。俺はそんないきなり襲ったりしないぞ』
『バル、あの子はそんな意味で言ったんじゃないと思うわよ?』

 ん? あぁ、番竜か。今まで俺がいるときに喋ってたことはなかったのにな。

「お前がバルで雌のお前がミント、だよな?」

『ん? お前……あぁ、あの噂のやつか』
「噂?」
『育成課に入った竜騎士落ちたやつ』
「!?」

 な、なんだそりゃ! 竜たちにそんな噂されてんの!?

『でもあのヒューイをその気にさせた子っていうのも聞いたわ』

 ミントが俺のほうに首を伸ばし、顔を近付けた。

「えぇ……、そんな噂になってんの? 俺……」

「どうかしたのか?」

 ディアンがメモを取っていた手を止め、こちらを見た。

 あ、そっか、ディアンは竜の声は聞こえないんだもんな。

「いやぁ、なんか竜たちのあいだで、俺、物凄い噂されてるみたいで……」
「ハハ、なるほど。ある意味リュシュは目立つもんなぁ」
「えぇ、そんな目立つ!?」

『『「目立つ」』』

 ディアンと竜は会話出来ないはずなのに、なぜだかハモッてくれちゃって。なんなんだよ、もう。

『ヒューイをその気にさせただけでも凄いわよ』
『あぁ、確かに。あいつ、本当にやる気なかったしな。いや、やる気というより、誰とも合わなくて嫌になってしまったって感じだがな』
「あぁ、そうかもね……」

 ヒューイは始め、誰とも合わず乗せることが出来ないから、たまたま相性が良かった俺と訓練するようになったんだもんな。
 ヒューイのことを思い出ししんみりしてしまう。あれからヒューイは真面目に訓練しているそうだ。俺以外の人間をなんとか乗せ、必死に頑張っているらしい。
 たまにヴァーナムさんが教えてくれる。

 そんなヒューイも今や強化係だ。俺がヒューイに乗ることを止めてから他の人間との訓練にも慣れ、順調に訓練係を終了し、強化係へ進んだらしい。
 寂しいけど仕方がない……。



 ある日、相変わらず番部屋を掃除していると、ミントが荒い息をしていた。

「どうした、ミント? 大丈夫か?」

『グルゥゥゥウウウ』

 ミントに近寄ろうとするとバルが唸り出した。そして牙を剥く。

『ガァァァァアアアア!!』

「!!」

 牙を剥き出しにしたまま頭を思い切り振り下ろしてきた! ヤバい! これ、もしかして産まれそうなのか!?
 辛うじてバルの牙を避け、身体を低くし転がる。素早く立ち上がるとバルたちのほうを見ながら後退りした。

 番部屋から出るとロキさんを呼びに育成係の部屋まで急ぐ。

「ロキさん! ミントが!!」
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