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第二章《仕事》編

第七十七話 ロキさんのお料理教室

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「まずはこれをすり潰せ」

 そう言いながら渡されたのは大量の果物。それと少量の肉。それらを全てすり潰し混ぜ合わせるのだそうだ。

「えっとすり潰す道具は?」
「ん」

 渡されたものは包丁とまな板、そしてすり鉢と棒。

「果物は大まかに切ってからすり鉢ですり潰す。肉は細かく包丁で刻んでから叩く」

 見本を見せてくれるのだが……ロキさんの料理姿……なんというか……違和感。

「なんだ?」

 ボーッと見詰めていたら思い切り睨まれた。やべっ、変なこと考えてたらキレられそうだ。

「あ、す、すみません! 大丈夫です!」

 何が大丈夫なんだか! 訳分からん言い訳をしてしまった。
 ロキさんは怪訝な顔をしながらも説明を続けた。

「肉は包丁で叩いたあとにこっちのすり鉢でさらにすり潰す」

 果物のすり鉢とは別のすり鉢が出てきた。どうやら肉専用のようだ。少し荒いギザギザが見える。
 そこに肉を入れてゴリゴリとすり潰して行く。

 そして全部をすり潰し終えると果物と肉とを混ぜ合わせ哺乳瓶に詰める。いや、哺乳瓶ではないんだろうが……。でも哺乳瓶に見えるんだよなぁ。
 強面で抱える哺乳瓶……ブッ。あ、やべっ、気付かれてないかな。チラリとロキさんを見ると慎重に哺乳瓶に移し替えていた。良かった気付かれてない。

 それにしても和む。ロキさんの哺乳瓶。

 いや、ロキさんの哺乳瓶てなんだよ! 自分で突っ込んでしまった。

 さて、アホな考えばっかじゃ怒られるよな。仕事しないと。

 ロキさんに倣って果物と肉をゴリゴリとすり潰す。しかしまあ作る量が半端ない。作っても作っても、指示された量にたどり着かない。
 赤ちゃん竜といえど、やはり竜というべきか。食べる量がとんでもないらしい。しかも哺乳瓶一本分を作るのに、かなりの果物の量をすり潰さなければならない。

 ゴリゴリゴリゴリ……ゴリゴリゴリゴリ……ゴリゴリ…………ひたすら…………ゴリゴリゴリゴリ……ゴリゴリゴリゴリ…………

「うがー!! 終わらねー!!」

 これあの二人は毎日やってんだよなぁ、スゲー……。



「なに叫んでんだよ」

 笑いながら食糧庫に顔を出したのはディアンだった。

「お、ディアン! どうしたんだ?」

 ディアンは物珍しそうに食糧庫のなかをキョロキョロと見回す。

「今、番がいるんだろう? 俺も一緒に観察させてもらおうと思ってシーナさんに許可もらってきた」
「あぁ、なるほど、そういえば孵化率の研究をしたいって言ってたな」
「そうそう」

 ゴリゴリするのをディアンにも手伝ってもらい、無事指示された量を作り終えるとそれらを抱えて育成係の部屋へと戻る。
 歩きながらディアンと世間話。

「そういやヤナの街でのバレイラシュの件はなんか分かったんだっけ?」

 あの討伐が終わったあと、一人残ったシーナさん。結局シーナさんは一週間ほど帰って来なかったらしい。
 そしてようやく帰って来たかと思ったら、難しい顔をして王様に報告へ行ったそうだ。

「結局なんだったの?」
「それが俺たちにはなにも教えてくれないんだよ。異常な巨大化についても、あのとき街で聞いた噂についてもなにも」
「そうなんだ……」

 なんでだろうか、なぜ俺たちには教えてくれないんだろうか。でも確かにヤグワル団長もなにも教えてくれないよな。

「なんなんだろうなぁ……黙ってられると余計気になるのに」
「ハハ、まあなぁ。俺たちが知る必要がないのか、知られたくないのか……それとも、知らないほうがいいのか……」
「知らないほうがいい……」
「ま、分からんな、上の方たちの考えなんて」
「うん……」



『キュアァァァァァアア』

 耳を刺すようにけたたましい鳴き声が響き渡った。育成係の部屋に入った途端に響いた鳴き声。

「遅い」

 ロキさんの一睨み。おぉう、どうやら赤ちゃん竜が痺れを切らしていたようだ。

「す、すみません」

 慌ててロキさんとハナさんに哺乳瓶を渡す。いや、哺乳瓶じゃないんだけど。まあいっか哺乳瓶で。

「あ、ありがとうございます」

 ハナさんは物凄い恐縮しながら受け取る。ちなみにまだ俺は赤ちゃん竜たちに顔を覚えてもらえておらず、与えることは出来ない。がっくり。

 少し離れた場所でロキさんとハナさんが赤ちゃん竜に食事を与えて行くのを眺める。

「そういやアンニーナは元気?」
「ん? あぁ、元気そうだぞ」

 待っているあいだ、こそっと小声でディアンと話す。

 フェイとアンニーナとネヴィルは見習い期間を一年終え、俺が育成係に異動になる少し前に正竜騎士となった。
 そして正式に竜騎士となるとまず最初に地方で一年間の勤務にあたる。その一年間地方で過ごしたあと城に戻り、正式な配属が決まるそうだ。

 だから見習いを終えた三人は今城にはいない。一年間の勤務地、カカニア側の国境へと出向いていた。

 カカニアに行くことがあれば、俺の家族によろしく伝えてくれ、と三人を見送ったのだった。
 アンニーナは少し寂しそうだったが、俺とディアンで見送り、三人は竜とともに笑顔で国境へと向かって行った。

 たまに手紙のやり取りをしているらしいディアンに聞くと、三人とも元気そうだ。良かった。

「今度の休みにカカニアに行ってみるって言ってたぞ」
「え! そうなんだ!」

 思わず大きい声を上げてしまい、ロキさんに睨まれる。

「むぐっ。じゃあラナカにも連絡入れてみようかな」

 口を手で押さえ小さい声で言うとディアンは笑った。
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