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第二章《仕事》編
第七十五話 決別
しおりを挟む「あ~美味しかったな~」
「はい、私も美味しかったです」
久しぶりのカレーは最高だった。
ヴァレンシュタイン家でも出してくれないかな……。
でも欲を言えばここに福神漬けも添えてもらいたかった。でも恐らくこの世界にはそんなものは無いのだろうな。
少し寂しい気持ちを感じながら食後の紅茶を飲んでいるエディットを見つめていた時、僕は肝心なことを尋ねなければならないことを思い出した。
「ところでエディットに聞きたいことがあるんだけど……ちょっといいかな?」
「はい、何でしょうか?」
「今日、エディットのクラスに男子学生の転校生が来たよね?」
「はい、来ました。他にもう1名入ってきたので2名になります」
「2名?1名じゃなかったの?」
そんな!ラモンの話では1人だったはずなのに……。
するとエディトも困惑気味で頷いた。
「ええ、そうなんです。本当は1名だけの転校生だったはずなのですが、どうやらもう1人はその方の侍女らしく、突然2名転校してくることになったらしいのです」
「侍女……?ということは女子学生が1名余分に入ってきたってことだね」
「はい、そうなんです。でも侍女の方を連れて転校してくるなんて、余程身分の高い方なのかもしれないですね」
「うん、確かにそうだね」
僕らが通う『エステル学院』は基本、貴族しか入学出来なかったはず。それにどう見てもクラスメイト達の中に侍女や従者がいるような学生たちは見当たらなかった。
大体、王子は原作では自分の身分を隠して1人で入学してきた気がする。
それなのに侍女が転校生としてくっついてきた……?
これでは自分の身分が高いことをあからさまにしているようなものだ。
何だか随分原作の流れとは違う展開だな……。
第一、転校してくる時期も原作よりも早いし。
あ…ひょっとして……!
僕は密かな期待を持ちながら尋ねた。
「ねぇ、その侍女と転校生の男子学生……ひょっとして恋人同士に見えたりした?」
原作とは流れが違うなら、王子と侍女だって恋人関係かもしれない。
それなら当然エディットと王子は結ばれる設定は無いはずだから、僕だって追放される理由も無くなるかもしれない。
けれど、エディットの答えは僕の期待を裏切るものだった。
「え?い、いえ。それは無いと思いますけど…」
「そうなんだ‥‥…」
何だ、違ったのか。それは残念だ。
けれど何故かエディットの歯切れが悪い。何かあったのだろうか?
「エディット、ひょっとして何かあったの?」
じっとエディットの目を見つめて尋ねた。するとエディットは躊躇うことなく、すぐに頷いた。
「はい、実は私Aクラスの委員長をしているのですが‥‥」
「ええっ?!エディットが?!委員長っ?!」
こんなに気が弱いエディットが委員長を務めているなんて!
「はい、そうですけど?」
不思議そうに首を傾げるエディット。
「そ、そうなんだ」
あ、でも原作でもそうだったかもしれない。確かこの学院はクラスで一番成績が優秀な学生にクラス委員長を任せていた気がする。
だけどエディットには荷が重すぎるんじゃないだろうか……?
余計な考えごとをしている最中、エディットの話は続く。
「それで担任の先生から転校生のお世話をするように言われて、男子学生は私の隣に座ったのですけど、侍女の方は少し離れた席に着席したからです。……何だか侍女の方がわざと距離を空けているように見えました」
「え……?」
一体どういうことなのだろう?侍女なら普通は自分の傍に置いておくべきじゃないだろうか?
しかも一緒に転校してきたのに?
「そうなんだ。それで2人は恋人同士じゃないと思ったんだね?」
「いえ‥‥でも、それだけでは無くて……」
「え?まだ何かあるの?」
「はい、その……転校生の方が……授業中でも時々話しかけてきたりするので、少し困りました」
「え?だって、エディットのクラスは全員優秀な学生ばかりで私語なんてする人は誰もいないんじゃないの?」
何だろう?何か様子がおかしい気がする。
「ええ、そうなんです。流石に1時限目の歴史の試験の時は話しかけてくることはありませんでしたけど……」
「それで?彼は何と言ってきてるの?」
「はい、『ランタンフェスティバル』以来だねと言われたのですが、何のことでしょうかと答えてから様子がおかしくなって……本当に自分のことを見覚えないか何度も尋ねられたんです。どんな出会いだったのか尋ねても答えてはくれませんでした」
「『ランタンフェスティバル』?」
そうか……やっぱり間違いない。
エディットの話から一瞬別人では無いかと思ったけど、『ランタンフェスティバル』で出会ったというならこの世界のヒーローで間違いないはずだ。
それにしても原作をうろ覚えの自分が言うのも何だけど……。
エディットの話しぶりから推測すると、こちらの世界の王子は漫画の世界の王子とは何だか性格が違うように感じてしまった。
原作の世界では王子が自らエディットに話しかけるのはパーティーの時だったはずなのに。
するとまたしてもエディットの口から驚きの発言が飛び出してきた。
「あの…それだけでは無くて……」
「え?!まだあるのっ?!」
一体今度は何を言われたのだろう?
「はい、転校してきたばかりで不慣れだから昼休みは学生食堂で一緒に食事をしようと休み時間に誘われたんです。そこへ侍女の方が学生食堂の場所なら知っていますと言われたので、私は用事があるのでお2人だけで行かれて下さいと断ったのです。記憶が混濁しているアドルフ様のことが心配で、お昼をご一緒したかったからです……」
そしてエディットは僕をじっと見つめて来た。
「エディット……」
この時の僕はまだ何も気づいていなかった。
王子と侍女の、ある秘密な関係について‥‥。
僕が2人の関係に気付くのは、もう少し先の話になる――。
「はい、私も美味しかったです」
久しぶりのカレーは最高だった。
ヴァレンシュタイン家でも出してくれないかな……。
でも欲を言えばここに福神漬けも添えてもらいたかった。でも恐らくこの世界にはそんなものは無いのだろうな。
少し寂しい気持ちを感じながら食後の紅茶を飲んでいるエディットを見つめていた時、僕は肝心なことを尋ねなければならないことを思い出した。
「ところでエディットに聞きたいことがあるんだけど……ちょっといいかな?」
「はい、何でしょうか?」
「今日、エディットのクラスに男子学生の転校生が来たよね?」
「はい、来ました。他にもう1名入ってきたので2名になります」
「2名?1名じゃなかったの?」
そんな!ラモンの話では1人だったはずなのに……。
するとエディトも困惑気味で頷いた。
「ええ、そうなんです。本当は1名だけの転校生だったはずなのですが、どうやらもう1人はその方の侍女らしく、突然2名転校してくることになったらしいのです」
「侍女……?ということは女子学生が1名余分に入ってきたってことだね」
「はい、そうなんです。でも侍女の方を連れて転校してくるなんて、余程身分の高い方なのかもしれないですね」
「うん、確かにそうだね」
僕らが通う『エステル学院』は基本、貴族しか入学出来なかったはず。それにどう見てもクラスメイト達の中に侍女や従者がいるような学生たちは見当たらなかった。
大体、王子は原作では自分の身分を隠して1人で入学してきた気がする。
それなのに侍女が転校生としてくっついてきた……?
これでは自分の身分が高いことをあからさまにしているようなものだ。
何だか随分原作の流れとは違う展開だな……。
第一、転校してくる時期も原作よりも早いし。
あ…ひょっとして……!
僕は密かな期待を持ちながら尋ねた。
「ねぇ、その侍女と転校生の男子学生……ひょっとして恋人同士に見えたりした?」
原作とは流れが違うなら、王子と侍女だって恋人関係かもしれない。
それなら当然エディットと王子は結ばれる設定は無いはずだから、僕だって追放される理由も無くなるかもしれない。
けれど、エディットの答えは僕の期待を裏切るものだった。
「え?い、いえ。それは無いと思いますけど…」
「そうなんだ‥‥…」
何だ、違ったのか。それは残念だ。
けれど何故かエディットの歯切れが悪い。何かあったのだろうか?
「エディット、ひょっとして何かあったの?」
じっとエディットの目を見つめて尋ねた。するとエディットは躊躇うことなく、すぐに頷いた。
「はい、実は私Aクラスの委員長をしているのですが‥‥」
「ええっ?!エディットが?!委員長っ?!」
こんなに気が弱いエディットが委員長を務めているなんて!
「はい、そうですけど?」
不思議そうに首を傾げるエディット。
「そ、そうなんだ」
あ、でも原作でもそうだったかもしれない。確かこの学院はクラスで一番成績が優秀な学生にクラス委員長を任せていた気がする。
だけどエディットには荷が重すぎるんじゃないだろうか……?
余計な考えごとをしている最中、エディットの話は続く。
「それで担任の先生から転校生のお世話をするように言われて、男子学生は私の隣に座ったのですけど、侍女の方は少し離れた席に着席したからです。……何だか侍女の方がわざと距離を空けているように見えました」
「え……?」
一体どういうことなのだろう?侍女なら普通は自分の傍に置いておくべきじゃないだろうか?
しかも一緒に転校してきたのに?
「そうなんだ。それで2人は恋人同士じゃないと思ったんだね?」
「いえ‥‥でも、それだけでは無くて……」
「え?まだ何かあるの?」
「はい、その……転校生の方が……授業中でも時々話しかけてきたりするので、少し困りました」
「え?だって、エディットのクラスは全員優秀な学生ばかりで私語なんてする人は誰もいないんじゃないの?」
何だろう?何か様子がおかしい気がする。
「ええ、そうなんです。流石に1時限目の歴史の試験の時は話しかけてくることはありませんでしたけど……」
「それで?彼は何と言ってきてるの?」
「はい、『ランタンフェスティバル』以来だねと言われたのですが、何のことでしょうかと答えてから様子がおかしくなって……本当に自分のことを見覚えないか何度も尋ねられたんです。どんな出会いだったのか尋ねても答えてはくれませんでした」
「『ランタンフェスティバル』?」
そうか……やっぱり間違いない。
エディットの話から一瞬別人では無いかと思ったけど、『ランタンフェスティバル』で出会ったというならこの世界のヒーローで間違いないはずだ。
それにしても原作をうろ覚えの自分が言うのも何だけど……。
エディットの話しぶりから推測すると、こちらの世界の王子は漫画の世界の王子とは何だか性格が違うように感じてしまった。
原作の世界では王子が自らエディットに話しかけるのはパーティーの時だったはずなのに。
するとまたしてもエディットの口から驚きの発言が飛び出してきた。
「あの…それだけでは無くて……」
「え?!まだあるのっ?!」
一体今度は何を言われたのだろう?
「はい、転校してきたばかりで不慣れだから昼休みは学生食堂で一緒に食事をしようと休み時間に誘われたんです。そこへ侍女の方が学生食堂の場所なら知っていますと言われたので、私は用事があるのでお2人だけで行かれて下さいと断ったのです。記憶が混濁しているアドルフ様のことが心配で、お昼をご一緒したかったからです……」
そしてエディットは僕をじっと見つめて来た。
「エディット……」
この時の僕はまだ何も気づいていなかった。
王子と侍女の、ある秘密な関係について‥‥。
僕が2人の関係に気付くのは、もう少し先の話になる――。
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