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第二章《仕事》編

第七十三話 獣人

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 フェイ、ネヴィル、アンニーナ、ディアンと五人でヤナの街を散策してみることに。

「アンニーナ、腕はもう大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫よ! 打撲もあったけど、全部ディアンが治してくれたし」

 アンニーナはディアンに笑顔を向ける。

「しかし驚いたよ、思っていた以上に皆負傷していたから」

 真面目な顔でディアンは言う。確かに予想外の大きさだったため、何もかもが想定外だったんだろうな。だからこそヤグワル団長は治療師を派遣していたんだろうし。

 この街にも治療師はいるだろうに、わざわざ城の治療師を呼んだのはそういうことだろう。不測の事態に陥る可能性があったということだ。現に予想外の負傷者数だった。
 まさかフェイたちも自分たちが攻撃をしかけることになるとは思っていなかったようだし。

 フェイたちの竜はまだ騎乗しながらの魔法を放つ訓練はしていない。本来騎乗した人間が剣や魔法を振るう訓練をしてからじゃないと、竜は魔法を放つことは許されていない。
 人間が危険だからだ。竜の魔法は人間よりも規模が大きい。そのため放つときに竜自身に負担がかかる。そしてその放つ圧力を踏ん張るだけの力と、竜と呼吸を合わせなければならない。

 だから順を追って訓練していくのだそうだ。
 フェイたちはまだそこまで訓練が至っていなかった。だから今回戦いに参加したのは想定外で本来見学をしているだけだったのだ。しかしそうやって見習いまで参加しないと討伐出来なかったかもしれない相手なんだよな。

 ん? 俺は…………あがっ!!

「ん? どうしたの? リュシュ、変な顔して」
「え、あ、いや、なんでもない!」

 フェイに怪訝な顔をされた。

 やっべ、俺……俺こそ、まだそんな訓練してねーじゃん!! ヒューイとは騎乗訓練に慣れ、少し剣を振るう訓練をしているくらいだったのに……、まあそもそも俺が魔法を使えないから、その訓練は出来ないんだが。しかも短剣だしな……なんの役にも立たねー……。

 バレたら怒られそうな……まあやっちゃったもんは仕方ないよな、うん。よく無事だったな、俺。
 それにしてもヒューイのやつ、あんな凄い魔法放てるんだったら、もっと頑張れば良いのにな。相変わらず俺としか騎乗訓練しないし……。

 ぼんやりそんなことを考えながら街を歩いた。


 港には活気が戻りつつあった。

 バレイラシュを運び終えたあとから船乗りたちが船の整備に取り掛かっていた。

「おぉ!?」

「どうした?」

 ネヴィルが聞いた。

「獣人だ!!」
「え、どこに!?」

 思わず指を差そうとしていまい慌てて手を下ろす。ネヴィルには口頭で説明すると、俺の目線の先を探した。

「お、ほんとだ!」

 目線のさきには頭にピコピコと動く耳が付いた人間がいた。船の整備をしているところを見ると船乗りか。ということは……、この船はワシェヌの船?

 ネヴィルと一緒になって背伸びしたり姿勢を変えたりしながら甲板を覗こうと必死。

「ちょっと! あんたたちみっともないわね、やめなさいよ!」

 アンニーナにバシッと背中を叩かれる。うぐっ。いや、だってさ、気になるじゃないか。

「あ!」

 ネヴィルが声を上げた弾みで全員がネヴィルの視線のさきを追った。

「わ、凄い」

 先ほどまで止める側だったアンニーナですら、甲板に目が釘付けになっていた。

 その視線のさきには獣の姿があったからだ。

 明らかな獣。服を着てはいるが、半袖から見えるたくましい腕も、荷物を持ちあげる大きな手も、首から上の頭も顔もが……大きな猫のような姿だった。

 下半身は見えないが、船の甲板を歩く姿はまさしく獣。しかし普通の獣と違うのは、服を着て、しかも二足歩行……。

 さきほどの耳をピコピコさせた獣人となにやらにこやかに話している。

「あれが獣人か……凄いな」

「へぇ、一言に獣人って言っても、あんな感じで半分だけ獣姿だったり、完全に獣だったりと、色んな獣人がいるんだなぁ」

 ディアンは研究目線で話している。おいおい、シーナさんに似て来たんじゃないか? と思ったがめちゃくちゃ嫌がられそうだからやめておこう……。

 あまりに眺めていると失礼だし、ということで後ろ髪を引かれながらも、街の中心部へと向かった。


 昼時だからか大勢の人々が行き交い、あちらこちらから良い匂いが漂ってくる。
 それほど広くもない石畳の道、白い石壁の建物が並ぶ。所々で小さな可愛らしい店もあり、アンニーナがそのたびに歓声を上げ、ディアンを引っ張って行く。

 釣られて俺たちも覗いてみると、小さな小物がたくさん置かれていて、どうやらヤナの街での土産物屋のようだった。
 海にまつわるようなものばかりが売られている。これは確かに女が好みそうだな……いや、まあ女の子にそんなもの渡したことないんだけどさ……シクシク。

「なあ、あっちの店、食い物屋みたいだぞ。昼飯食おうぜ」

 土産物屋は早々に飽きたネヴィルが向かいの店を指差した。確かに食事処のようで、多くの人で賑わっている。

「ほんとだね、外にも席があるようだし今ならまだ座れそうだ」
「よし、じゃあ行こう! おーい! ディアン! 俺たち向かいの店に入っとくから、あとから来いよ」

 ディアンとアンニーナに向かって声を掛けたが気付いたのはディアンだけだった。アンニーナは小物に夢中だ。ハハ。
 ディアンは了承の手を振り、フェイとネヴィルとで先に食事処へと向かった。
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