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第二章《仕事》編

第五十話 食糧庫

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「ルーサ、ただいま」

 ログウェルさんが教育係の部屋へ入りながら声を掛けた。部屋の中はというと……まあ一言で言ってぐちゃぐちゃだな。ハハハ……はぁぁあ。

「あぁ! リュシュ! ログウェルさん! やっと帰って来た!!」

 若干涙目になったルーサがこちらに駆け寄って来た。まだ昼過ぎだというのにすでに疲れ切っている……。

『リュシュ!』
『リュシュ、帰ってきたー!』

 キーアだけでなく、他の子供竜たちも声を上げたかと思うと俺に向かって突進してきた。うげっ。
 慌てて避ける! 避ける! 避ける! 子供竜たちを見事に躱していく俺! 自分で感心! フフフ、いつまでも同じ俺ではない! 体当たりくらい避けてみせる!

 そう自信満々に避けていたら、後ろから激突されました。

「ぐはっ!!」

 バターンと前に倒れ込み案の定上に次から次へと乗っかられる始末……ちーん。

「ブフ、リュシュがいると和むわぁ、ありがとう」

 いや、和ませているわけではない!
 なんとか自力で抜け出そうとするが、子供竜だとしてもそれなりに重い。数匹上に乗られると身動きが取れん。こうなりゃ…………思い付かんから死んだふり…………。

 バタリと倒れ込んだまま身動き一つせず顔を伏せた。

『リュシュ~?』

 そうするとキーアや他の子供竜たちは反応がないことがつまらんのか心配をしてくれているのか、まあ前者だろうが、そろそろと俺の背から降り顔を覗き込もうとする。
 身軽になった俺は勢い良く起き上がり背後を取られないよう身構えた。

「フハハハ!! 俺の勝ちだな!!」
『リュシュ起きたー!!』

 そう叫んだそばからキーアに激突されて同じことを繰り返す羽目になるのだった。

「ちょっとリュシュ、遊んでばかりいないで手伝ってよ」

 ルーサに苦笑されながら言われる。あ、遊んでるわけじゃ……。

「じゃあ俺は事務所に戻るからな。あとはルーサ、頼んだぞ」
「はーい」

 そう言ってログウェルさんは爆笑しながら部屋から出て行った。



「さってと、とりあえず教育係はこの子たちのご飯とか健康チェック、あとは部屋の掃除とかが主な仕事かな」
「うん」

「ククッ、えーっと、それじゃあ、とりあえずまずは掃除しといてもらおうかな、フフ」
「あのさ、笑わないでよ……」
「フフ、ごめんごめん」

 なぜルーサが笑っているかというと、それはもちろん…………俺が子供竜に群がられているからですね、はい。
 肩に乗られ髪の毛を引っ張られ、腕や脚にぶら下がられ、足の上に座られ…………なんだこれ。

「があぁぁ!! 鬱陶しい!!」

 頭に腕に足を振り回し、子供竜たちを散らすが……まあ喜ぶだけだよな。すでに疲れてるんだけど……。



 食糧庫の隣の部屋にある用具室に掃除道具を取りに行き、箒で掃いたり散らばったものを片付けたりしていく。
 その間も子供竜たちに群がられるんだがなんとか無視をし続ける。

「よし! 片付け終わったぞ!」

 そう言って振り向いた部屋の中はというと……すでにまた散らかっていた。

「うがぁぁぁあ!! なんでまたこんな散らかってんだよー!!」

 片付け終わったと思ったところにはすでにまた様々なものが飛び散っていた。子供竜の遊び道具やら恐らく眠るための場所にあるシーツらしきものや、朝食べたものだろうか、果物の残骸やら、うっ、なんかよく分からん残骸もあるな……まあ色々……。

「リュシュ、怒っちゃ駄目……怒ると余計疲れるよ? フフフ」

 ルーサが遠い目をしてにこりと微笑んだ。
 こ、これ、今まで毎日一人でこなしていたのか……ルーサ、スゲーよ。尊敬するわ。

「じゃあ、とりあえず掃除は置いといて、今度はこの子たちに食事あげてくれる?」
「うん、食事って?」
「えっとね、付いて来て」

 ルーサに付いて食糧庫へ向かう。食糧庫には大量のものが置かれていた。

「えっとね、この食糧庫は基本的に育成係と教育係専用かな。もう一つ食糧庫があるんだけど、そっちは訓練係と強化係の竜たち用」
「なんで分けられてんの?」
「幼獣のあいだは果物とかをよく食べるから、こっちの食糧庫には果物が多いの。教育係の子たちは肉も食べるんだけどね、やっぱり大人の竜に比べると食べる量は少ないからメインの食事は果物が多いかな。あとは育成係の子たちのために加工したり出来るように調理場が付いてるのがこっちの食糧庫だね」
「へぇぇ、なるほど」

 ルーサは果物が山積みにされたところまで行くと、なんの果物かを説明してくれた。
 様々な色とりどりの果物。栄養価の高いもの、甘いもの、酸味のあるもの、中には変な匂いのするものまで。

「うぇ、なんだこの匂い……」
「ハハ、人間には嫌な匂いらしいね~」
「ルーサは嫌な匂いじゃないの?」
「うん、私たちや竜にとっては良い匂い! 大好物なの!」
「そ、そうなんだ……」

 見た目も結構派手な色でイボイボしていて気持ち悪いのにな……。

「そういやキーアは俺たちと同じもの食べてたけど良かったのかな」

 竜の食べるものなんて気にしたことがなかったから、キーアが食べたいものをそのままあげていた。

「うーん、まああまり気にする必要はないと思うよ。ずっと人間のものばかり子供竜のうちから食べてたら問題かもしれないけどキーアと知り合ったのって最近なんでしょ? いずれ竜人になったとしたら、ほぼ人間と同じものを食べるんだしね。好みはだいぶ違うだろうけど、アハハ」

 好みな、確かにこの匂いが好きなら人間とはかなり好みが違いそうだ。

「まあここでは人間の食べるものは与えないからキーアの食生活も改善されるでしょ!」

 な、なんか、キーアには申し訳ないな。まあ仕方ないか。

 その後大量の果物を荷車に山積みに乗せ、教育係の部屋まで運ぶ作業を昼の分、夜の分、と何十回も繰り返すはめになろうとは……今まで一人でやっていたルーサにただただ感心した一日目だった。
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