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第二章《仕事》編
第四十七話 ヒューイ
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『竜騎士見習いのやつがいたからお前もいるのかと思ったらいねーじゃねーか! あぁ!? どういうつもりだ、こら!』
「そ、そんなこと言われても……仕方ないじゃないか……」
今さらながら試験を落ちたショックがぶり返してしまう。や、ヤバい。こんなところで泣いたら皆にドン引きされる!
「おい、お前、竜の言葉が分かるのか!?」
「え、あ、はい」
ヴァーナムさんが驚愕の顔で俺を見た。戻ろうとしていたリンさんまでその場に立ち止まりこちらを見る。無表情だと思っていたその顔に少しだけだが驚きの色が浮かぶ。
「そうなんだよ!! リュシュは竜と会話出来るんだよ! もうそれだけで最高だろ!?」
ログウェルさんが興奮気味に話す。ま、またか……この《会話が出来る》ということをあんまり大袈裟に言わないで欲しい。ほんと無理。だってさ、ただ会話出来るだけじゃん……全然凄くない……。
ちょっと引き気味になっていることにディアンが気付いたのか、そっと俺に声を掛けて来た。
「リュシュ、それは誇って良いと思うぞ? 俺たち人間には出来ないことなんだから、やはりお前の自慢すべきところだよ」
あぁ、ディアン! お前、なんて良い奴!! 俺が女なら惚れる! ……いや、アンニーナが怖いからどうかな。
「ありがと、こんな俺でも誇れることなんだな」
「あぁ」
ディアンは俺の肩をポンと叩いた。
ヒューイに近付き、首元をそっと撫でる。
「騎乗試験のとき頑張ってくれたのに、落ちてごめんな。でもさ、育成課に入ったからここで頑張ってまた竜騎士を目指すからな!!」
『お、おう……』
ヒューイは毒気を抜かれたかのような声を出した。
「お前ら、試験のときの相手だったのか。よくヒューイに乗れたな」
「は?」
ヴァーナムさんが苦笑しながら言った。
「ヒューイは訓練を始めてから少し経ってはいるんだが、いまだに人間を乗せることが出来なくてな」
「え?」
「試験のときなんかは本当に一度も乗せたことがなかった」
人間を乗せることが出来ない? 俺のことは乗せたよな? どういうこと?
わけが分からずヒューイの顔を見ると、ばつが悪そうに視線を逸らした。
「どうも相性が合わないらしくてな、どの人間を乗せようとしても無理なんだ。俺が辛うじて乗ったりはするが、相当我慢しているようだしな」
そう言いながら苦笑するヴァーナムさん。
「でも、俺はすんなりと……」
それ以上に相性抜群じゃないかというくらい気持ちの良い飛行だった。
「あー、お前と相棒になる運命なのかもな」
「相棒……」
『俺はそんな新人、しかも竜騎士でもないやつと相棒になんかならねー!』
ヒューイはそう叫ぶと再び大きく翼を羽ばたかせると遥か上空にまで昇ってしまった。
「反抗期か?」
シーナさんが笑いながら言った。反抗期って……。皆が苦笑する。でも確かに反抗期っぽいよな、と少しおかしかった。
「あいつなぁ、どうしたもんだか。めんどくさいやつだ」
ヴァーナムさんは頭をガシガシと掻きながら溜め息を吐く。
「リュシュとやらが乗ったら良いんじゃないのか?」
「「「「え?」」」」
シーナさん以外の全員が驚いてリンさんを見た。
「おい、そんな無茶な……」
「なぜだ、騎乗訓練をするだけだ、本当に相棒になるわけではないだろう」
「いや、まあ、そうだが、いや、でもなぁ」
ヴァーナムさんはログウェルさんを見た。な、なんだなんだ、俺がなんでヒューイの騎乗訓練をするとか言われてるんだよ。俺はまだ入ったばかりの新人だぞ?
どうしたら良いのかおろおろしてしまう。
「うぅぅん、いや、まあ、リュシュが大丈夫なら……いや、でも、教育係もあるしなぁ」
ログウェルさんは腕組みをし考え込む。
「リュシュはどうだ?」
「え!!」
いきなり話を振られ、全員に注目された。い、いや、ちょっとそんな見ないで!
「えぇ、あの、うーん、俺は許可してもらえるならヒューイに乗りたいですけど、でも教育係のほうが優先ですよね?」
「そうなんだよなぁ! なんせあっちは人手が足らないから」
めちゃくちゃ深い溜め息を吐くログウェルさん。
「それならたまに乗るのはどうですか?」
ディアンが痺れを切らしたのか意見をする。シーナさんはすでにそんな話に飽きたのか、ずっと竜を触っているだけだし。
「たまにリュシュが乗りに行って騎乗訓練を、それ以外のときは他の人間で。駄目なら基礎訓練をやらせておけば良いんじゃないですか? 人間が乗る楽しさを覚えさせつつ、徐々にリュシュじゃない他の人間が乗る環境を増やしていけば、リュシュでなくても乗せられるようになるんじゃ……」
「そうだなぁ……」
全員がうーん、と考え込んだ。
「よし、じゃあディアンが言った方向で行くか! とりあえずリュシュはたまにヒューイに乗りに行ってやってくれ」
「え、良いんですか!? やった!!」
やった! 教育係じゃ騎乗はないだろうから、かなり先になるだろうと思っていた騎乗訓練に参加出来るなんて!
いやまあ騎乗訓練だよ? 別に俺が乗りたいだけじゃないよ? ヒューイのためだしな! そうそう!
自分でうんうんと納得させてみた。ま、まあちょっとくらい楽しんでも良いんじゃないかな、うん。
「よし、じゃあヒューイはリュシュの担当だな」
「はい!」
「そ、そんなこと言われても……仕方ないじゃないか……」
今さらながら試験を落ちたショックがぶり返してしまう。や、ヤバい。こんなところで泣いたら皆にドン引きされる!
「おい、お前、竜の言葉が分かるのか!?」
「え、あ、はい」
ヴァーナムさんが驚愕の顔で俺を見た。戻ろうとしていたリンさんまでその場に立ち止まりこちらを見る。無表情だと思っていたその顔に少しだけだが驚きの色が浮かぶ。
「そうなんだよ!! リュシュは竜と会話出来るんだよ! もうそれだけで最高だろ!?」
ログウェルさんが興奮気味に話す。ま、またか……この《会話が出来る》ということをあんまり大袈裟に言わないで欲しい。ほんと無理。だってさ、ただ会話出来るだけじゃん……全然凄くない……。
ちょっと引き気味になっていることにディアンが気付いたのか、そっと俺に声を掛けて来た。
「リュシュ、それは誇って良いと思うぞ? 俺たち人間には出来ないことなんだから、やはりお前の自慢すべきところだよ」
あぁ、ディアン! お前、なんて良い奴!! 俺が女なら惚れる! ……いや、アンニーナが怖いからどうかな。
「ありがと、こんな俺でも誇れることなんだな」
「あぁ」
ディアンは俺の肩をポンと叩いた。
ヒューイに近付き、首元をそっと撫でる。
「騎乗試験のとき頑張ってくれたのに、落ちてごめんな。でもさ、育成課に入ったからここで頑張ってまた竜騎士を目指すからな!!」
『お、おう……』
ヒューイは毒気を抜かれたかのような声を出した。
「お前ら、試験のときの相手だったのか。よくヒューイに乗れたな」
「は?」
ヴァーナムさんが苦笑しながら言った。
「ヒューイは訓練を始めてから少し経ってはいるんだが、いまだに人間を乗せることが出来なくてな」
「え?」
「試験のときなんかは本当に一度も乗せたことがなかった」
人間を乗せることが出来ない? 俺のことは乗せたよな? どういうこと?
わけが分からずヒューイの顔を見ると、ばつが悪そうに視線を逸らした。
「どうも相性が合わないらしくてな、どの人間を乗せようとしても無理なんだ。俺が辛うじて乗ったりはするが、相当我慢しているようだしな」
そう言いながら苦笑するヴァーナムさん。
「でも、俺はすんなりと……」
それ以上に相性抜群じゃないかというくらい気持ちの良い飛行だった。
「あー、お前と相棒になる運命なのかもな」
「相棒……」
『俺はそんな新人、しかも竜騎士でもないやつと相棒になんかならねー!』
ヒューイはそう叫ぶと再び大きく翼を羽ばたかせると遥か上空にまで昇ってしまった。
「反抗期か?」
シーナさんが笑いながら言った。反抗期って……。皆が苦笑する。でも確かに反抗期っぽいよな、と少しおかしかった。
「あいつなぁ、どうしたもんだか。めんどくさいやつだ」
ヴァーナムさんは頭をガシガシと掻きながら溜め息を吐く。
「リュシュとやらが乗ったら良いんじゃないのか?」
「「「「え?」」」」
シーナさん以外の全員が驚いてリンさんを見た。
「おい、そんな無茶な……」
「なぜだ、騎乗訓練をするだけだ、本当に相棒になるわけではないだろう」
「いや、まあ、そうだが、いや、でもなぁ」
ヴァーナムさんはログウェルさんを見た。な、なんだなんだ、俺がなんでヒューイの騎乗訓練をするとか言われてるんだよ。俺はまだ入ったばかりの新人だぞ?
どうしたら良いのかおろおろしてしまう。
「うぅぅん、いや、まあ、リュシュが大丈夫なら……いや、でも、教育係もあるしなぁ」
ログウェルさんは腕組みをし考え込む。
「リュシュはどうだ?」
「え!!」
いきなり話を振られ、全員に注目された。い、いや、ちょっとそんな見ないで!
「えぇ、あの、うーん、俺は許可してもらえるならヒューイに乗りたいですけど、でも教育係のほうが優先ですよね?」
「そうなんだよなぁ! なんせあっちは人手が足らないから」
めちゃくちゃ深い溜め息を吐くログウェルさん。
「それならたまに乗るのはどうですか?」
ディアンが痺れを切らしたのか意見をする。シーナさんはすでにそんな話に飽きたのか、ずっと竜を触っているだけだし。
「たまにリュシュが乗りに行って騎乗訓練を、それ以外のときは他の人間で。駄目なら基礎訓練をやらせておけば良いんじゃないですか? 人間が乗る楽しさを覚えさせつつ、徐々にリュシュじゃない他の人間が乗る環境を増やしていけば、リュシュでなくても乗せられるようになるんじゃ……」
「そうだなぁ……」
全員がうーん、と考え込んだ。
「よし、じゃあディアンが言った方向で行くか! とりあえずリュシュはたまにヒューイに乗りに行ってやってくれ」
「え、良いんですか!? やった!!」
やった! 教育係じゃ騎乗はないだろうから、かなり先になるだろうと思っていた騎乗訓練に参加出来るなんて!
いやまあ騎乗訓練だよ? 別に俺が乗りたいだけじゃないよ? ヒューイのためだしな! そうそう!
自分でうんうんと納得させてみた。ま、まあちょっとくらい楽しんでも良いんじゃないかな、うん。
「よし、じゃあヒューイはリュシュの担当だな」
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