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第二章《仕事》編

第四十三話 育成係

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「まあ現にリュシュは他人の魔力は感じるんだもんな?」
「え? あ、あぁ、うん」

 ディアンが苦笑しながら聞いた。

「魔力を感じることが出来るということは、やはりシーナさんの言う通り、リュシュ自身も魔力を持っているのかもしれないってことだろ、きっと」
「うーん、そうなのかなぁ……」

「ん? 他人の魔力は感じるのか?」

 シーナさんは興味津々に聞いてきた。

「え、あぁ、はい」

 ふむ、とシーナさんは黙ったかと思うと再び口を開いた。

「では、私の魔力を感じるか?」

 俺の目をじっと見詰めながら右手を俺の前に差し出し掌を上に向けた。どうやら魔力を放出しようとしているらしい。
 集中してシーナさんの魔力を感じる。

 シーナさんの腹の辺りから少しずつ魔力らしきものがうごめいたかと思うと、もやもやと上半身へ移動し、シーナさんの胸、肩、腕、と移動していき、そして右手に集まってきた。

「腹の辺りから少しずつ大きくなった魔力が移動していき、今、右手に集まりました」
「「「!!」」」

 三人ともが驚いた顔をした。

「ディアンは試験前に知ってただろ?」
「あぁ、まあ、そうなんだが、そうやって具体的な魔力の移動を言葉で追われると、やっぱり驚くよ」

「凄いじゃないか!! やはり君は良い研究対象だ!!」

 な、なんか嬉しくない褒め方だな……。

「私は自分の魔力を感じることが出来る。だからこそ精密な魔力コントロールが可能なんだが、しかし、私は他人の魔力を感じ取ったことなどない!」

「はぁ」

 なにが言いたいのか分からない。

「私は自分の魔力を感じることが出来る、しかし、他人の魔力は感じない。リュシュは他人の魔力を感じることが出来る。しかし、自分の魔力を感じない」

「それならばお互い逆のことが出来る可能性があるわけだ! 私は自分の魔力コントロールが特別だとは思わない。これは皆がもっと魔力に集中することが出来るならば誰でも可能だと思っている。リュシュ、君もな。そして私も他人の魔力を感じることが出来るはずだ」

「これからは自分の中に眠る秘めた魔力に意識して集中してみろ。恐らく必ず何かを感じるはずだ」

 えぇぇ、本当に俺に秘めた魔力なんてあるのか? これで全く感じることが出来なかったら、やっぱり俺には魔力がないんだと、とどめを刺されるだけじゃ……。

「魔力を感じることが出来たなら、発現させるコントロールを覚えたら良いだけだ。もし万が一それでも魔力を感じないなら……」

「感じないなら?」

「それはもう諦めろ!」

 ガクッ。そ、そこはもうちょっと優しく言って欲しかった……。

「あー、はは、とりあえずじゃあ少しずつ自分の魔力にも意識してみますね」

 うんうん、と一人納得なシーナさん。めちゃくちゃ満足そうだ。

「あー、とりあえず育成課の話に戻って良いか?」
「「あ」」

 そうだった、シーナさん乱入ですっかり魔力の話になってしまったが、今は育成課の研修中なんだよ。

「と、とりあえずまあ魔力の件は置いといて、竜の鱗と瞳の色でその竜の特徴を覚えてくれ」

 背後でシーナさんが俺をさわさわと触っているのが気になって仕方がない。や、やめてもらいたい……。しかもなんかムフムフと気持ち悪い声が聞こえてくるし……勘弁してくれよ。

「あー、ハハハ……、と、とりあえず竜たちを見に行くか! 育成課のメンバーも紹介したいしな!」

 ログウェルさんが顔を引き攣らせながら言った。シーナさんの気配が怖い……。ディアンもそっと目線を逸らすし……おぉう。



 事務所から移動し、まず一番近いつがいの部屋へと向かった。今現在は卵を産んだ番がいないらしく、番部屋は空き部屋となっていた。
 中だけ確認すると、物凄い広さのある部屋の一番奥に枯草が大量に山積みになったところや、シーツのような布で覆われたところがある。皿のように窪みが出来ていたが、おそらくはあそこで卵を温めるのか?
 竜の卵の世話ってどんななんだろうな。早く見てみたいな。

「隣が育成係だ。今は少し大きくなったやつばかりだが五匹ほどいるな。たまにだが二組の番が同時期に産む場合もあってな。時期が重なると大変だ」

 そう言いながらログウェルさんが育成係の部屋へと入る。
 中には柵付きベッドのようなものが数台並んでいた。

 俺の背後にビタッと引っ付いて歩いていたシーナさんがひょこっと顔を出し、部屋を眺め再び鼻息を荒くする。こ、この人、研究馬鹿だな……。

「この前来たときよりデカくなったようだな!!」

 ウキウキとシーナさんがベッドを覗き込もうとする。

「触るな!!」

 背後から怒声が響き渡った。
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