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第二章《仕事》編

第三十四話 白ドラゴンの行方

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 ルーサにキーアをお願いし、俺はというとログウェルさんとともに移動。

 事務所のような書類が山積みになった机がある部屋で契約書を交わした。

 契約内容はそれほど細かいものではなく、どこに所属するのか、寮へ入居希望か、給料について、休暇についてなど。あとは守秘義務、所謂ドラゴンについては情報持ち出し禁止。特にナザンヴィアには情報を漏らさないよう、それだけは厳しい処罰が科せられていた。

 それらを確認すると書類にサインをする。これで俺は正式に育成課の人間だ!
 あぁ、なんだかようやく一人前になれた気分だ!いや、まあまだなんにも働いていないんだけどさ。ここは少しくらいそう思わせてもらいたい。

 事務所から出て演習場を横に眺めながら歩く。演習場はひたすら広い。昨日までの試験でも何度も訪れたが、改めて見てみると、綺麗に整地された地面は土のところと一枚岩のような継ぎ目のない平らな石床とあった。

 遠目には竜騎士たちだろうか、数人の人間が固まって歩いている。

「また説明はするが、この演習場を取り囲んでいる建物に竜たちが生まれ年数によって別れて育てられている。それから竜騎士の相棒となった竜たちの竜舎とな」

 ログウェルさんは指を差し教えてくれた。あそこに竜騎士の騎竜たちがいるのか……。

「あ、そういえば白いドラゴンていますか?」

 あのときの白ドラゴンに会ってみたい。竜騎士にはなれなかったけど、育成課なら会っても怒られないのではないか、という期待だ。

「ん? 白い竜? そんなやついないぞ?」
「えっ!?」

 いない!? どういうことだ!? あのときあの白ドラゴンは確かに王都に行けばまた会えると言っていたのに……。
 王都のドラゴンじゃない……のか?

 あのドラゴンが嘘をつくようにも見えなかったのだが、でももしかしたら子供がヤイヤイとうるさくも憧れで目を輝かせていたもんだから、咄嗟に「王都にいる」と言ってしまっただけなんだろうか。

「白ドラゴンはいないんですか……」

 あからさまにガッカリしてしまった。

「その白竜がどうかしたのか?」

「え? あ、あぁ、昔一度だけ白竜に会ったことがあるんです」

 これくらいなら言っても大丈夫かな。なんせドラゴンの育成課なんだから。そもそもあのドラゴンが王都に来い、自分は王都にいるから、って言ったんだしな。

「ほほぉ」

 ログウェルさんに詳しい話は避けつつ説明した。

「うーん、白竜なぁ、いるにはいるが……違うと思うがなぁ……」
「え、いるんですか!?」
「うぅん」

 ログウェルさんは顎に手を当て首を捻りながら唸る。なんなんだ?いるにはいるが違うってどういうことだ?

「結局いるんですか? いないんですか?」
「いやぁ、いるんだけど……いやでもなぁ」

 なんなんだよ、一体!

「うーん、まあいないと思ってたほうが良いかもなぁ」
「なんですかそれ」

 なんじゃそら! 結局どっちなんだよ!

「まあ理由はすぐに分かるさ。それより育成課にいる間は竜のことをドラゴンと呼ぶのをやめたほうが良いぞ?」
「ん? ドラゴン?」

 なんか話を逸らされた気がするけど、竜をドラゴンと呼ぶな?またよく分からないことを言われた。そういえばヤグワル団長もログウェルさんも「竜」って言ってるな。

「竜たちはドラゴンて呼ばれることを嫌うんだ。だから会話が出来ない人間たちはたまにドラゴンて言ってるんだが、言葉の響きでバレて言うことを聞かなくなる」

 ログウェルさんは苦笑する。

「だから城にいるときに「ドラゴン」と口にしないほうが良いぞ~」
「えっ」

 ニヤッとイタズラっぽく笑うログウェルさん。どこまで本当なんだか分からないが、ま、まあとりあえず従っといたほうが無難そうだな。

 今まで散々ドラゴンて言ってたけど……良かった、会話らしい会話はヒューイだけで。ヒューイはドラゴン呼びとか関係なく不遜な態度だしな。うん。



 演習場を抜け、少し離れたところに窓らしきものがたくさん見える、三階建ての建物が二棟並んでいた。

「左側が男子寮、右側が女子寮だ」

 おぉ、女子寮と並んでる! い、いや、まあだからどうした、って感じだが。

「女子寮には出入り禁止だからなー、下手なことすると恐ろしいことが待ってるぞ」
「お、恐ろしいこと?」

 ログウェルさんは目を瞑り神妙な面持ち……、え、何があるんだ!?
 いやいや、入り込んだりするわけないじゃん! でもさ! 万が一! 万が一にもさ、もしかしたらさ! 彼女とか出来ちゃうかもしれないじゃないか! そのときもしかしたら部屋に呼ばれるかもしれないじゃん!
 そんなあるかどうかも分からないことで心配するな、って!? いや、それくらい夢見させてくれよ!

 脳内で物凄い速度で考えを巡らせてしまった。結局恐ろしいことってなんなんだよー!! 俺の叫びはしばらく頭のなかでこだまするのだった。
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