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第一章《旅立ち~試験》編

第七話 自信

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「どうしたんだ?」

「え、あ、いや……なんかこの子供ドラゴンが俺と一緒に王都へ行きたいらしくて……」

「へぇ、凄いな、ドラゴンを連れ歩くなんて竜使いのようだな」

 竜使い……そんな良いものだろうか……

『キーア、一緒に行くー!! 連れてけー!!』

 子供ドラゴンは叫んだかと思うと口からボッと炎を噴き出した。

「うぉぉい!! 危ないわ!!」

 間一髪避けた自分に感心した。俺ってこんな素早い動き出来るのね……。

 そして避けたかと思ったところに顔面へ向かって子供ドラゴンが激突した。

「ぶふぅぅあ!!」

 激突された勢いでそのまま地面に倒れ込んだのだった。
 痛い……。

「ハハ、そんな熱烈なアプローチを受けたら断れないよなぁ」

「笑いごとじゃねー……」

 仰向けの俺の上にちょこんと乗っかった子供ドラゴンはさながら人間の子供のようにキャッキャと喜んでいるようにしか見えないのが不思議だった。

「はぁぁあ、分かったよ、一緒に来いよ」

『!! やったー!! 一緒に行くー!! リュシュと一緒に行くー!!』

「はぁぁあ」

 なんだかなぁ、こんなはずじゃ……。なんでこんなよく分からん人間とドラゴンと一緒に行くはめに…………、ま、いっか。

「さて、じゃあとりあえずザンザに向かうか~」

 子供ドラゴンを小脇に抱え立ち上がった。

『キーア飛べるよー! ほら』

 子供ドラゴン、キーアは身体に似合わずそこそこ大きな翼を広げ、バッサバッサと羽ばたかせて見せた。
 小脇で羽ばたくものだから、バシバシと身体に当たる。

「うぉい! い、痛い! 痛いからやめろ! 分かったから!」

 抱えていた腕から離すとキーアは翼を動かし宙に浮く。

『ではキーアはお前たちと行くのだな? ならば私は帰るとしよう』
「キーアを連れて行って良いのか? 寂しいんじゃ」
『寂しい? ハハ、そんな感情はないな。そもそもキーアは私の子ではない』
「そうなの?」
『あぁ、その子の母親は育てることを放棄したのか生まれる前からいなかった。私の番がそれを育てた』
「なら親みたいなもんじゃん、やっぱ寂しいんじゃないの?」

 ドラゴンにそんな感情があるのかは知らないが、他人の子を育ててたってことはそれなりに愛情がないと育てられない気がする。

『どうだろうな、いつかは巣立つものだ。喜びこそすれ、悲しむことはない』
「なるほど……な。巣立ちは喜びか」
『あぁ、ではな。キーアを頼んだ』
「分かったよ」

 そう言葉を残し大人ドラゴンは大きく羽ばたき、森の奥深くへと帰って行った。



「さて、キーアはじゃあ飛んで行くんだな?」

 そう言った途端またしても勢い良く頭に激突された。

「うぐっ!!」

 今度はなんとか耐えた!! 耐えたぞ!! 俺の腹筋背筋よく耐えた!! 今まで鍛えていたことは無駄じゃなかった!!

 キーアはびったりと俺の頭に張り付いた。あぁ、ぷにぷにの腹が温かくて気持ち良いな……、じゃねーよ! おい!

「キーア、なにしてんだよ」
『キーア、ここにいる!』
「お前飛べるんだろ!? 自分で飛べよ!!」
『ここがいいー!!』

「ブフッ、良いんじゃないか? 可愛いじゃないか」
「おい」

 後頭部に張り付いたドラゴン。いや、重いし、意味分からんし。
 一向に離れようとしないキーアに諦め、深い溜め息を吐いた。

「はぁぁあ、とりあえず出発しよう……夜になっちまう」

 ヴィリーはずっとクスクスと笑ってるし、ガルドのおっさんはなんか神妙な顔してるし、キーアは重いし……、なんだかよく分からんメンバーになったなぁ。

 そんなことを考えながらザンザへと向かう。

 道中少しだけ自己紹介も兼ねて話をしたが、あまり素性を知られたくないらしいヴィリー親子は年齢以外はよく分からなかった。
 ナザンヴィアから親子二人でドラヴァルアまで商売をしにやって来た。ヴィリーはニ十歳でガルドのおっさんは四十九歳。それだけだ。うーん、まあ根掘り葉掘り聞いてもな。なんか変な情報知っちゃうのも嫌だしな。ここはそっとしとくか。

「で、リュシュは許嫁に振られて竜騎士になろうと思ったわけだ」
「う、あぁ、まあ……ソウデスネ」
「なら、その許嫁を見返せるくらいの竜騎士になると良い!」
「いやまあそれはそうなんだけど、そんな簡単に行くならそもそも振られてないだろうし……」

 ヴィリーの話はあまり聞かなかったくせに、自分のことは根掘り葉掘り話してしまったことが馬鹿だな、と自分で呆れた。これからは気を付けよう……。

「なんでリュシュに力がないのかは分からないが、ナザンヴィアでは力がなくとも不思議ではないからなぁ。あまり気にしなくても良いのではないか?」

「んー、いやぁ、そういうわけにもいかないかな。だってドラヴァルアは力が全ての国だしな。だから弱いとそれだけで誰にも相手にされない」

「……そうか、すまない」
「いや! 別に謝ってもらうほどでは! もう俺はこれが当たり前だからさ」

 気にしたところで強くなれるわけでもないしな。この十年で嫌というほど分かった。

 俺は強くはなれないんだ……。

「ハハ、こんな俺が竜騎士とか笑っちゃうよな」

 なんだか居たたまれない気持ちになり、つい軽口を叩いてしまう。

「弱くとも上を目指すことは恥ではない。周りが馬鹿にしたとしても、それでお前の矜持に傷が付くことはない。口だけで行動を起こさない者より余程お前は立派だ。自信を持て」

 突然ガルドのおっさんがくそ真面目な顔付きで言葉にした。
 驚きガルドのおっさんの顔を見たが、おっさんは特に表情を変えるでもなく、その後は無言になった。

 ヴィリーはフッと笑うと俺の肩をポンと叩いた。

「だそうだ。俺の父さんは人を見る目は確かだぞ? 自信を持っていい。リュシュは偉いよ」

 なんだか泣きそうな気分になった。自分を認めてくれる人間がいるということがこれほど嬉しいことだとは……。

「ありがとう……」

「ハハ、なに泣いてんだよ」

「な、泣いてねー……」

 ぐすっと鼻をすすってしまい、しまった、と思いながらも今はただ温かい気持ちに酔いしれていた。
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