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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-25.とりあえず海賊団になりました!
しおりを挟む「それは違うわ」と、言ったのはエマリーだった。
「そう、そうなのか……」
「何が違うのか」というと、海賊団の名前と船長のことだ。
私は、船の経験からして、エマリーが船長を務めるのが適任だと思っていたのだが、彼女は「違う」と言ったのだよ。
「どういうことなの」と、私は尋ねることにした。
「それは、ミ、いや、キーナちゃん。貴方がやるべきよ」とエマリーが言うと、皆が頷いている。
私には、さっぱり分からなかった。
「ここにいるメンバーは、私に付いてきたのではないわ。貴女に付いてきたの。だから、船長は貴女がやるべきだわ」と、エマリーはきっぱり言ってのけた。
すると、港湾事務所の職員が、「えぇ、船長と団の名前を記載してください」と、言っている。
「わかった。皆、私で良いのだね」と、言っても海兵を売ったら終わりの海賊団だ。
気軽に引き受けることにした。
まあ、キーナ・コスペルがヴィルヘルミーナとはわからんだろうさ!
わはは!
「では、船長は『キーナ・コスペル』、副船長は『エマ・ホルン』。船医は……」
「おぉ、私じゃ」と、先ほどの小柄な中年女性が前に出てきた。
「エンペラトリースと申す」
エンペラトリース!
そんな名前だったのか。
「エンペラトリース……なんか聞いたことのある名前ですね……」と、職員が考えている様子だ。
――まさか、指名手配者なのか? ヤバい奴を入れてしまったのか?
「まあ、良いでしょう。契約期間ですが、4年契約が多いです。それでよろしいですか?」と、聞かれたが、正直、4年も必要がない。
「とりあえず、お試しなので、ダメなら故郷に帰る」と、如何にもやる気のない連中だと思われただろう。
「一番短いので頼みたい」
「では、1年契約で処理します」
「あと、団の名前は、どうされますか」
「『キーナ・コスペル海賊団』で」
「分かりました」
そして、契約書が発行された。
「なんか、フェリペ2世の署名が入っているわ」
「顎の王様か?」と、エンペラトリースが言っている。まあ、そうなんだけど。
もちろん、この署名は、あらかじめ用意されていたものだろう。マドリードまで署名をもらいに行ったのではないのは、当然のこと。
さて、海軍大佐たちの売買は、グラーニャの部下に任せた。
あまり良い値ではなかった様だが、来週には中米に開拓に行くようだ。
もう、用事もないのでクレア島に帰還することにしたが……
「この旗を掲げるの?」
「う~ん、なんかねぇ」と、イリーゼがヤスミンに愚痴っている。その理由はスペイン国旗を掲げる必要があったからだ。
***
その頃、ラインラントでは。
「ご領主様、ガレオン船が完成したと連絡がありました」
「おぉ、ついに完成したか。では、早速、見に行かせてもらおう」
そう、アインス商会が手に入れたガレオン船の設計図から試作品が完成したのだ。
しかも、ライン川の下流は帝国から独立したので、海が使えない。
そこで、逆に上流にある巨大な湖、オーバー湖で完成させて試運転を行うという計画だ。
今、父のフォルカーは、来るべき戦争に備えているのだ。
そして、あの事以来、アンは、しばらくの間、謹慎処分となっていたのだった。
そんなことは知らない私たちは、エマリーの紹介で、海賊衣装を購入していた。
「船長服だ!」
「カットラスも必要かしら」
「後で鍛え治してあげるよ。より強くなるように」
「ありがとうございます。ヤスミンさん」
と、調子の良いことをしていたのでしたが、皆に聞こえない声で、エマリーが、「毎度ありぃ」と言ったのには気が付かなかったのでしたわ。
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