上 下
97 / 126
第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成

5-25.とりあえず海賊団になりました!

しおりを挟む

「それは違うわ」と、言ったのはエマリーだった。
「そう、そうなのか……」

「何が違うのか」というと、海賊団の名前と船長のことだ。
 私は、船の経験からして、エマリーが船長を務めるのが適任だと思っていたのだが、彼女は「違う」と言ったのだよ。

「どういうことなの」と、私は尋ねることにした。
「それは、ミ、いや、キーナちゃん。貴方がやるべきよ」とエマリーが言うと、皆が頷いている。
 私には、さっぱり分からなかった。

「ここにいるメンバーは、私に付いてきたのではないわ。貴女に付いてきたの。だから、船長は貴女がやるべきだわ」と、エマリーはきっぱり言ってのけた。

 すると、港湾事務所の職員が、「えぇ、船長と団の名前を記載してください」と、言っている。

「わかった。皆、私で良いのだね」と、言っても海兵を売ったら終わりの海賊団だ。
 気軽に引き受けることにした。
 まあ、キーナ・コスペルがヴィルヘルミーナとはわからんだろうさ!

 わはは!

「では、船長は『キーナ・コスペル』、副船長は『エマ・ホルン』。船医は……」
「おぉ、私じゃ」と、先ほどの小柄な中年女性が前に出てきた。
「エンペラトリースと申す」
 エンペラトリース!
 そんな名前だったのか。

「エンペラトリース……なんか聞いたことのある名前ですね……」と、職員が考えている様子だ。
――まさか、指名手配者なのか? ヤバい奴を入れてしまったのか?

「まあ、良いでしょう。契約期間ですが、4年契約が多いです。それでよろしいですか?」と、聞かれたが、正直、4年も必要がない。
「とりあえず、お試しなので、ダメなら故郷に帰る」と、如何にもやる気のない連中だと思われただろう。
「一番短いので頼みたい」
「では、1年契約で処理します」

「あと、団の名前は、どうされますか」
「『キーナ・コスペル海賊団』で」
「分かりました」

 そして、契約書が発行された。
「なんか、フェリペ2世の署名が入っているわ」
「顎の王様か?」と、エンペラトリースが言っている。まあ、そうなんだけど。

 もちろん、この署名は、あらかじめ用意されていたものだろう。マドリードまで署名をもらいに行ったのではないのは、当然のこと。

 さて、海軍大佐たちの売買は、グラーニャの部下に任せた。
 あまり良い値ではなかった様だが、来週には中米に開拓に行くようだ。

 もう、用事もないのでクレア島に帰還することにしたが……
「この旗を掲げるの?」
「う~ん、なんかねぇ」と、イリーゼがヤスミンに愚痴っている。その理由はスペイン国旗を掲げる必要があったからだ。


***

 その頃、ラインラントでは。
「ご領主様、ガレオン船が完成したと連絡がありました」
「おぉ、ついに完成したか。では、早速、見に行かせてもらおう」
 そう、アインス商会が手に入れたガレオン船の設計図から試作品が完成したのだ。
 しかも、ライン川の下流は帝国から独立したので、海が使えない。
 そこで、逆に上流にある巨大な湖、オーバー湖で完成させて試運転を行うという計画だ。

 今、父のフォルカーは、来るべき戦争に備えているのだ。

 そして、あの事以来、アンは、しばらくの間、謹慎処分となっていたのだった。


 そんなことは知らない私たちは、エマリーの紹介で、海賊衣装を購入していた。
「船長服だ!」
「カットラスも必要かしら」
「後で鍛え治してあげるよ。より強くなるように」
「ありがとうございます。ヤスミンさん」
と、調子の良いことをしていたのでしたが、皆に聞こえない声で、エマリーが、「毎度ありぃ」と言ったのには気が付かなかったのでしたわ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

信濃の大空

ypaaaaaaa
歴史・時代
空母信濃、それは大和型3番艦として建造されたものの戦術の変化により空母に改装され、一度も戦わず沈んだ巨艦である。 そんな信濃がもし、マリアナ沖海戦に間に合っていたらその後はどうなっていただろう。 この小説はそんな妄想を書き綴ったものです! 前作同じく、こんなことがあったらいいなと思いながら読んでいただけると幸いです!

紅花の煙

戸沢一平
歴史・時代
 江戸期、紅花の商いで大儲けした、実在の紅花商人の豪快な逸話を元にした物語である。  出羽尾花沢で「島田屋」の看板を掲げて紅花商をしている鈴木七右衛門は、地元で紅花を仕入れて江戸や京で売り利益を得ていた。七右衛門には心を寄せる女がいた。吉原の遊女で、高尾太夫を襲名したたかである。  花を仕入れて江戸に来た七右衛門は、競を行ったが問屋は一人も来なかった。  七右衛門が吉原で遊ぶことを快く思わない問屋達が嫌がらせをして、示し合わせて行かなかったのだ。  事情を知った七右衛門は怒り、持って来た紅花を品川の海岸で燃やすと宣言する。  

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

魔斬

夢酔藤山
歴史・時代
深淵なる江戸の闇には、怨霊や妖魔の類が巣食い、昼と対なす穢土があった。 その魔を斬り払う闇の稼業、魔斬。 坊主や神主の手に負えぬ退魔を金銭で請け負う江戸の元締は関東長吏頭・浅草弾左衛門。忌むべき身分を統べる弾左衛門が最後に頼るのが、武家で唯一の魔斬人・山田浅右衛門である。昼は罪人の首を斬り、夜は怨霊を斬る因果の男。 幕末。 深い闇の奥に、今日もあやかしを斬る男がいる。 2023年オール讀物中間発表止まりの作品。その先の連作を含めて、いよいよ御開帳。

幕府海軍戦艦大和

みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。 ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。 「大和に迎撃させよ!」と命令した。 戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...